食堂のチャコティがパリスに話しかける。「一緒にいいかな?」
「もちろんです、副長。」
「チャコティでいいよ、トム。今日はやけに礼儀正しいな。君のエンジニアレポートについてだが、艦長はステスの技術をこのヴォイジャーで応用できないかと考えている。」
「ほんとですか。」
「シャトルで試してみてくれないか。君にできるか。」
「もちろんできます。」
「よし、では医療任務が終わり次第始めろ。」
「医療任務?」
「ドクターは助手が必要だ。君を行かせると言っておいた。」
「もちろんです。」 食堂を出ていくパリス。
廊下で「こんばんは」とクルーに挨拶するパリス。「やあ」と返すクルー。その反応に満足するパリス。パッドを持ち、ドアの表示を確認しながら歩いている。ため息をつく。別方向からセブンが歩いてくるのに気づき、「おっと」といって来た道を引き返すパリス。壁にヴォイジャーの構造図があることに気づいた。操作し、詳細な地図を呼び出す。キムがやってきた。「ドクターが苦手で医療室の場所まで忘れちゃったなんて言うなよ。」
笑うパリス。「まさかそんな。俺はただ、自分の部屋から医療室への近道がほかにないか、探していたんだ。」
「そんなにドクターに会いたいのか。ところで、準備は進んでる?」
「ああ、まだだけど、もうすぐ準備できるよ。」
「よおし。何かあればいってくれよ。ポリデュリナイド※16をレプリケートするのは大変だ。」
「ああ、心配ないさ。」
「早くそのクラブを使ってみたいよ。カプラン少尉※17が驚くだろうなあ。」
「何?」
「彼女とゴルフ※18する話さ。この前日時を決めただろ。」
「ああ、そうだった。待ちきれないよ。」
「パットの練習してる? 今度はもう外すなよ。」
「あんなドジはもうしない。」
「それじゃ、ドクターによろしく。」 ターボリフトに乗るキム。
「ああ、わかった。」
パリスはつぶやいた。「彼に会えればな。」
パリスが医療室に入り、ドクターが話す。「これはこれは、ミスター・パリス。チャコティ副長への報告は効果てきめんだな。では挨拶抜きで早速仕事だ。今日はバイオベッド診断から始めようか。各フィジオセンサー※19を調整してくれ。代謝に関する情報を正確に入力したか確認してな。」
「OK。」
「それが済んだらプロテイン構造分析。そして引き続き、心肺組織改造※20の 37の方法をじっくり復習してくれたまえ。独りで大丈夫だな。」
トリコーダーを使おうとするパリスだが、異常な音を発する。
ドクター:「スキャンエミッターの使い方を忘れたのかね。」
パリス:「すいません。」
またもエラー音。
「ミスター・パリス!」
「お、俺、どうしちゃったのかな。」
「複雑なのはわかるが、もう一度試してくれ。」
「あ、何だか…ちょっと気分が悪くて。」
「ここが医療室で良かったな。すぐ調べてみよう。」
「あ、いやー、ドクター。大丈夫ですよ。実は正直言うと……イライラしているだけなんです。いつもはこんなトロくはないですからね。」
「ここは学習の場だ、パリス。そのうち徐々に慣れるさ。」
「おい、軽く言うなよ。」
「何だって?」
「ああ、すいませんドクター。ドクターは医学的天才としてプログラムされているから、何でも楽々。俺はただのパイロットで、カーマニアに過ぎない。ドクターの助手して一生懸命がんばるほど、あなたの足元にも及ばないって、実感するんですよ。」
「それじゃ君は、私の規範に従って行動していたというのか。」
「実はそうなんです。」
「それでわかったぞ。突発的攻撃性、責任回避の行動、全て典型的劣等感に起因している。私の高い知性が、これほど強く君の精神に影響を与えていたとはな。今日はもう休みたまえ。自分の能力について、実行し気づくんだ。君の価値に。」
「そうします、ドクター。ありがとう。」 肩に置かれたドクターの手を叩き、パリスは医療室を出ていった。
トレスは自室に戻った。そこではパリスがゴルフのパットの練習をしていた。「ああ、ベラナ。」
「ここで何してるの?」
「パットだ。」
「私の部屋で?」
「ここじゃまずいかい?」
「まずいわ。」
「いつから。」
「トム、これ何なの。」
「それは、サンド…ウェッジだ。それでバンカーから球を打ち上げる。
「なぜここにあるの?」
「君のためにレプリケートした。ディナーの前に一緒にプレイしようと思ってね。」
「これがあなたの言う、『大人の会話』ってやつ? いきなりこんなことして、私にはあなたの気持ちがさっぱりわからないわ。はっきり言っておくけど、こんなことしても無駄よ。ステスがいなくなって退屈なのはわかるけど、私はだまされない。ご機嫌とってこれまでのことをチャラにしようってたってだめよ。」
「ステスはなかなかいい奴だったよ。あいつが助言してくれなかったら、ここには来なかった。」
「あら、そう。」
「君ともめてると話したら、こう助言されたんだ。『相手と、じっくり話をすることだ。そのためにはまず、自分の非を認めることだ』って。心からね。ベラナ、俺が悪かったよ。許してくれ。」 パリスはトレスの手にキスし、言葉を続けた。「もう約束をすっぽかしたりしない。今日はね、君のために、ドクターに頼んで任務を外してもらったんだよ。たっぷり時間があるとはいえないけれど、ぜひ君と一緒に過ごしたいんだ。」
パリスはトレスに口付けをした。トレスは言う。「ステスって、なかなかいい人ね。いい影響を受けて良かった。」 再びキスに戻る 2人。
ステスの船。自動で操縦されている。船の揺れに、実際はパリスであるステスは目を覚ました。顔や手を確認する。「コンピューター。」 自分の声に驚くステス。「コ、コンピューター、現在位置は。」
『航行マトリックス、1-7-1-1。コトバ広域※21。多重リンク完了。』
「ヴォイジャーとの距離は。」 返答がない。ステスは席を立ち、パネルの前に行く。「コンピューター、ヴォイジャーを最後に確認した位置にロックイン。作動誘導ドライブを稼動。」
『指令を実行できません。』
「なぜだ。」
『作動誘導ドライブが、ロックされています。多重リンクを実行するには、セキュリティ・アクセスコードが必要です。』
船が揺れた。巨大な 2隻の船が取り囲む。通信が入った。『こちらはベンサン・ガード※22のアヴィック司令官※23。お前を収監する。直ちに船を明け渡す準備を。』
「ベンサン? 司令官、どういうことか説明して下さい。あなたは何か誤解して…」
『我々は泥棒とは交渉しない。』
再び船が揺れる。「何? ああ、そう言われても困ります。俺はこの船でヴォイジャーに戻らなければ。」
『おとなしく船を明け渡さなければ、攻撃するぞ。』 船はトラクタービームで拘束されていた。
|
※16: polyduranide 構造物質。TNG第105話 "Disaster" 「エンタープライズ・パニック」など
※17: Ensign Kaplan VOY第59話 "Unity" 「ボーグ・キューブ」に登場した女性少尉とは当然別人です。彼女は殉死しました
※18: golf ホロデッキ・プログラム
※19: physiosensor
※20: cardiopulmonary reconstruction
※21: Kotaba Expanse
※22: Benthan Guard
※23: Commander Avik 「アヴィック副長」と訳されていますが、この状況では明らかに「司令官」もしくは「中佐」でしょう。「チャコティ副長」と混同したものと思われます。声:北川勝博
|