Sunday, February 1, 1998
今回は少しもタイムリーな話題でない。どちらかというと、そろそろタイムリーになってくれないかな、という個人的願望が多分に混ざっている。先日、突然何を思ったか、 MAX のアルバム「MAXIMUM II」 を買ってしまったが、最近の流行歌 (というと古めかしい) は、私には少々物足りない。そう思うと彼女のことを思い出してしまった。
本田美奈子は不思議な人物である。埼玉県生まれ、原宿で遊んでいるところをスカウトされ、小柄な身体にヘソ出し衣装で人気を博し、各種の音楽祭の新人賞を総なめ、デビュー1年目にして武道館でコンサートを開催し、一世を風靡したアイドル歌手‥‥‥というのが定説だ。歌手としてはかなり実力があると思う。実に器用に何でも歌う。だが「器用貧乏」という言葉があるように、実はそれほど売れていなかったのだ、という話も聞く。
噂のように若干虚飾があるかも知れないが、最初は人気アイドル歌手だったはずだ。しかし突然、女性ロックグループ 「WILD CATS」 を率い、ロックシンガーに変身している。私が彼女に興味を持ったのはちょうどその頃であった。聞いてみたら良かったので、アルバムを中心に集め出した。が、そうこうするうちに、レコード会社とトラブルでも起こしたのか、ある日突然、テレビなどの表舞台から消えてしまった。「トラブルを起こした」 というのは私の推測だが、ソロシンガーとして復帰した時、「今アルバムを制作中です」 と言明していたのが、一年近く経って発売されたものが、最後のシングル盤を含むベストアルバムになってしまったのは事実である。
姿を消した時に何をしていたのか。どこかで演歌を歌っていた、という噂もあったが、この時期一度だけ、中野サンプラザで 「Free Style Concert」 という名で、ライブを行っている。私は、たまたま東横線の中目黒駅で見つけた 「本田美奈子の店 5555」 というカラオケ喫茶 (この店はじきに消えてしまった) の入口に貼られていたポスターを見つけて聞きに行ったが、実に良かった。アンコールで歌った、当時流行っていたバブル・ガム・ブラザーズの「WON'T BE LONG」の楽しさは、今も覚えている。そして、「歌を歌っていて良かった。これからも歌っていきたい。」という言葉を残し、またまた姿を消してしまった。
だが、単に消えた訳ではなかった。突然、Vシネマに主役で登場して、レンタル店で見つけた私を驚かせたりもしている。それより驚いたのは 「ミス・サイゴン」 のキム役 (ダブルキャスト) での登場だ。恐らく事務所にも内緒で、一人でオーディションを受けていたようだ。 「ミス・サイゴン」 は非常に好評でロングランとなり、彼女自身もミュージカルで新人賞を受賞したと聞く。私も一度くらいは行かなければ、と思いつつも、高額のチケットに躊躇しているうちに機会を失ってしまった。
興味を持ったのがかなり遅かったので、彼女のCD作品はほとんど中古で揃えたが、活躍を始めた初期は、アナログレコードからCDへの過渡期であり、CDで発売されていないものもあるようだ。 流通量はそれほど多くない。現在は市場にほとんど出回っていないと思う。 「M'シンドローム」 (『エムダッシュ』と発音する)のオリジナル盤は一度も見たことがない。私が入手しているものは、「LiPS」 との2枚組のツインベストと称する廉価盤のものである。
No. | Title | Disk # | Rel. | Comments |
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1 | M'シンドローム | CT22-5137 | 1985 | あどけない容姿とは裏腹に、デビュー曲 「殺意のバカンス」 にも実力の片鱗が見える。 |
2 | LiPS | CT22-5138 | 1986 | アイドル絶頂期のアルバムか。 「ドラマティック・エスケープ」 は凄みがある。 |
3 | MINAKOザ・ヴァージン・コンサート IN BUDOKAN ライブ | CA32-1225 | 1986 | 初ライブ実況録音。CD盤の方がアナログ盤より若干収録曲数が多い。 |
4 | キャンセル | CA32-1300 | 1986 | 脱アイドル、シンガー志向が強くなった。バラード 「涙をF.O.(フェイドアウト)して」 が逸品。 |
5 | OVERSEA | CA32-1470 | 1987 | 全曲英語の海外録音。海外同時発売らしい。英語はあまり巧いとは思えないが。 |
6 | パッセンジャー | CT32-5019 | 1987 | 唯一の主演映画のサウンドトラック。歌3曲のみ。三田村邦彦と小林聡美の演技力が光った(‥‥‥??)。 |
7 | Midnight Swing | CT32-5065 | 1987 | ロック色の濃い一風変わったアルバム。「孤独なハリケーン」 が素晴らしい。 |
8 | DISPA1987 | CT32-5100 | 1988 | ライブ実況録音。かなり荒っぽい歌いっぷり。ソロ活動に飽きが来ていたのかも知れない。 |
9 | WILD CATS / MINAKO with WILD CATS |
CT32-5254 | 1988 | 女性ロックバンドのリーダーに変身。「あなたと、熱帯」 はイロモノに近い。 |
10 | 豹(TARGET)的 / MINAKO with WILD CATS |
CT32-5510 | 1989 | ロックバンドとしての第2作。 グループは間もなく解散。「KILL ME」 は結構気に入っている。 |
11 | BEST POP COLLECTION | TOCT-5938 | 1990 | 東芝 (EAST WORLD) 最後のシングル 「シャングリラ」 が入ったベストアルバム。 この後ミュージカルへ。 |
12 | JUNCTION | PHCL-5010 | 1994 | ミス・サイゴンから復帰、フォノグラム (MERCURY) から発売された珠玉のアルバム。「つばさ」 「さあね」 がいい。 |
13 | 晴れときどきくもり | PHCL-5018 | 1995 | 現時点での最新アルバムと思われる。TVアニメ主題歌 「Lullaby〜優しく抱かせて」 がいい。 |
この他に、いわゆるベストアルバムが同じような内容で毎年のように出ていて都合2〜3枚、「バラード・コレクション」 という名のベストアルバムが2枚ほど発売されていたはずだ。うち1枚は「BEST POP COLLECTION」 と同時発売のはずだが、曲の重複が多いので入手していない。その他、輸入盤が存在する 「HEART BREAK」 (25cmシングル) などの珍品を含め、シングル盤だけの発売、他の歌手とのオムニバス盤など、私には手に負えないほど多数存在する。
青色にしてある最初の4枚は、私の区分ではアイドル時代のものであるが、内容的にはアイドルっぽいものからバラード、ロックまで、かなり多岐にわたる。この時期から実に器用である。が、器用過ぎて深みが乏しく、やや不満が残る。次の緑色の3枚は、もはやアイドルとは言い難い内容になってくる。赤色の2枚は 「MINAKO with WILD CATS」 のもの。ロックとしては少々軟弱過ぎ、面白みに欠けるが、本田美奈子の曲としては捨て難いものもある。
黄色に塗り分けた最後の2枚は、ミュージカルから復帰後、レコード会社を移籍して発売された。「ミス・サイゴン」 の経験は彼女を大きく変えたように見える。ヴィブラートのややきつい、ダイナミックだが荒っぽい歌い方はすっかり大人しくなり、声も多彩になり深みを増した。「JUNCTION」 は、本田美奈子の作品として、現時点でもっとも優れたものだと思う。 「晴れときどきくもり」 も佳作である。実は最後の3枚だけは中古でなく、ちゃんと定価で新品を買っている。恐らく中古はほとんど出回らないであろう。
さて、現在は‥‥‥一体何をしているのだろうか。既にレコード会社を再度移籍したらしいが、全く音沙汰がなくなって、もう3年経つ。そろそろ気まぐれな歌姫が、次の手で私をアッと驚かせてくれてもいいはずなのだが。
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