1998 Aug. 前期 (Arcana 18)

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過去のお言葉


Aug. 3rd (Mon.)

昨日一日休んでいたので、今日から仕事モードオン。 午前中は翻訳などをやり、午後はちょっと Web 上で調べもの。 合間にチェロの練習をしたり、本を読んだり。

「ティンカー、テイラー、ソルジャー、スパイ」 (ジョン・ル・カレ)読了。
「寒い国から来たスパイ」で一世を風靡したル・カレの代表作にして、 エスピオナージュ小説の最高傑作と謳われるスマイリー三部作の一作目。 引退生活から呼び戻された元諜報部員の老スマイリー(なんと七十歳)が、 通称「サーカス」こと英国諜報部の中枢に潜む二重スパイを探すという、 難役を引き受ける。 スマイリーは、かつて自分が巻きこまれ「サーカス」 を追われた政争の記録を辿ることで、 幾重にも張り巡らされた偽装を潛り、 無数の仮説と事実をつきあわせ、 複雑でデリケイトな罠をかけて二重スパイの正体に迫っていく。 「鍵掛け屋」「洋服屋」「兵隊」「貧者」「乞食」 と呼ばれる五人の内の誰が裏切者なのか、、、
恥ずかしながら初読。傑作。これはすごい。

Aug. 4th (Tues.)

午前中は翻訳を少しやり、昼食を取ってから、 午後は三条に資料の買い出しに行く。 "JAVA Fundamental Classes Reference", "JAVA Security" など。 古い人間のせいか、どうも紙に印刷されてないと頭に入らないもので。 (一言アンケート。「あなたはモニターで資料を見るのと、 紙に印刷された資料を見るのとで、理解の上で有意な差がありますか? その答について、それは何故だと思いますか?」) また講○社ノベルズの新刊が素晴しい賛辞の帯つきで出ていたが、 もう騙されるのに懲りたので購入せず。 Cafe Riddle で少し暇をつぶして帰る。

夜は最近考えていた簡単な計算例を TeX でプレプリントにまとめ始めたり、 プログラミングの仕事をしたり。

上のアンケート質問は条件が不明確だが、 まあ現状のテクノロジーで、とか、普段自分が使っている環境で出来る範囲で、 などの適当な境界条件をつけて下さい。 例えば、Post Script 形式の資料があって、 それを緊急に読んで頭にたたきこむ必要がある時、あなたなら、 それをモニター上で読むのか、 それともプリンターで印刷してから読むのか、 (それはモニターやプリンタの質に依存するだろうが、) それは資料の大きさに依存するのか、または挿絵やグラフなど ビジュアルをどれくらい含んでいるのかにも依存するのか、 または資料の具体的内容にまで依存するのか、 リンクのあるハイパーテキストである場合はどうか、 などなど、適当に問題を具体化して答えてくれると嬉しいです。

Aug. 5th (Wed.)

昨夜、夜更しをしたせいか正午くらいまで寝てしまった。 昼食を作って食べて、午後は資料読みとテキスト書き。

やっぱり紙媒体の方が読みやすい、という人が多いようですね。 でもプログラマなんかは大量のソースコードを画面上で読んで、 理解して編集するのが日常だから、もう画面で見る方が頭に入る、 なんて言う人が案外たくさんいるような気もするのですが。

そう言えば、僕が初めて本気で読んだプログラムは、 紙に印刷されて国境を越えた "PGP" でした :-)
その代わりに BSD とか、TeX のソースでも読んでれば、 プログラマになれてたのかも知れないなあ、、、 (なれないで良かったという話もあるが)

Aug. 6th (Thurs.)

どうもいくら寝ても眠い。夜もしっかり八時間寝ているのだが、 さらに二時間昼寝をしてしまった。 疲れがたまっているのだろうか。
午前中はチェロの練習と、翻訳の仕事をし、 昼食を食べた後は、昔書いたコードの JAVA への移植作業など。

プロのプログラマの方から一昨日からのアンケートのついての 御意見をいただいたが、やっぱり少し違うなあ、と思ったのは、 「キーを叩きながらモニターで見ている方が楽しいので モニター上の方が長時間ソースに向かいあえる」という所。 この方は紙の上の方がバグも見つけやすい、 と紙寄りの発言もなさっているくらいだが、この辺はやはりプロ。 検索機能や、エディター、フォントの関係などを指摘なさっていた。 CD-ROM 版の辞書がいかに素晴しく画期的であるか、 という柳瀬尚紀氏の指摘を思い出した。

専門家でない人もびっくりさせられるような、 プロでも愛用しているテクニックというのはなかなかないが、 あればそれは本質的に偉大なアイデアであることが多い。 数学で言うと、「母関数」とか。
今、a(0), a(1), a(2), a(3),... という数列がある時に、 a(0) + a(1)x + a(2)x^2 + a(3)x^3 + ... という多項式を この数列の母関数という。 例えば、以下のように使う。

今、n 円を全部コインに両替したい。全部100円玉にしてもよいし、 1円玉から500円玉まで適当に混ぜて合計 n 円にしてもよい。 ではその n 円のコインへのくずし方は何通りあるか? この数を r(n) とおこう。 この母関数を R(x) = 1 + r(1)x + r(2)x^2 + ... とすると、 R(x) = (1 + x + x^2 + ...)(1 + x^5 + x^{5*2} + ...) (1 + x^10 + x^{10*2} + ...)...(1 + x^500 + x^{500*2} + ...) が成立するので、右辺を展開すれば x^n の項の係数が答である。 なぜ、上の等式が成立するのかは、実際何項かを計算してみればすぐわかる。

Aug. 7th (Fri.)

午前九時起床。十一時からチェロのレッスン。 今日は Schroeder の課題1を題材に開放弦の練習の後、 ハーモニクスの練習、左手の指の置き方など。 宿題は Schroeder の 2 から 5、スケールの前まで。

レッスンの後、家に帰って、いろいろと作業。

今、チェリストの役が出てくる TV ドラマが放映されているが、 どうしてもチェロを弾くシーンが本物らしく見えない。 こういうことは良くあることなのだが、 演出としてどうやると「本物らしく」見えるだろうか? 某 ML で議論されていたのだが、 弦楽器の場合「指板を叩く」と本物らしく見える、と言う。 もちろんプロとの最大の違いは、 右手のボウイングがなってないことなのだが、 撮影では左手のフィンガリングに焦点をあてることが多いので、 指が弦を押さえる速度が遅すぎるのが、 撮影上本物らしく見えない最大の原因であろう、とのこと。 実際、チェロの演奏を近くで見たことのある人は知っていると思うが、 弦が指板に叩きつけられる音が聞こえるくらい、 指が振り降ろされる速度が速い。 (指使いが速い、という意味ではない) よく知らないが、弦を叩くことによる振動で発声が良くなるそうで、 実際、弓を使わずに左指で弦を押さえる打音だけで、 スケールを弾いたりする基本練習がある。
その ML の参加者の話によれば、 何かの CF 撮影で、突如ヴァイオリニストに仕立てられた役者に、 「指使いはともかく、指板を叩け」と指示したことで、 どうやら本物らしく見え、なんとか急場を乗り切ったとのことであった。

Aug. 8th (Sat.)

午前起床。いつもの仕事をして、昼食。 午後から梅田に映画「L.A. コンフィデンシャル」を観にいく。
最初の方の展開はちょっとダレていたが、後半で雪崩のように収束させ、 複雑なエルロイ節をうまく映画にしたと思う。 そういう意味の脚本賞だったのだろうか。 またキム・ベイシンガーの年齢不詳の美しさも相変わらずで、 そういう意味での助演女優賞だったのだろうか。 僕は実は「血まみれの月」以来のエルロイファンなので、 うまく映像化できるのか心配していたのが、結論として杞憂であった。

エルロイについては「ブラックダリア」を代表作に挙げる人が多いが、 僕は最初の「血まみれの月」が最高傑作だと思う。 コントロールは悪いが物凄い剛速球を投げる作家が出てきたな、 と思ったものだった。その後、小説が上手くなるに従って、 「血まみれの月」での何かにとり憑かれたかのようなエネルギーが なくなっていくような気がしているのは僕だけだろうか。

家にかえって少し仕事をし、 夜は読書。「神の狩人」(グレッグ・アイルズ)。

Aug. 9th (Sun.)

猛烈に眠い。雨が降ったあとの涼しさに負けて、 昼寝を3時間半もしてしまい愕然。 その他はいつもの通り、仕事したり、チェロを弾いたり。

ちょっと仕事に疲れたので、明日からしばらく避暑に行きます。 日記更新もお休みいたします。 来週月曜には復帰しますので、またの御贔屓を。

「神の狩人(上・下)」(グレッグ・アイルズ、講談社文庫)
非常に面白い(内容が深い、という意味ではない)。 数日しかない夏休みに一気に読ませるようなサスペンスが読みたい、 と思っている貴方に最大級にお勧めする。 ついに現れた「羊たちの沈黙」のライバル、 という宣伝文句が本当であるかはともかく、 読ませるタイプの小説であることは疑いない。 逆に言えばこれ以降、サイバー・サイコキラーの分野では、 (そんなジャンルがあるとすれば) これが代表傑作と言われるようになるだろう。 インターネットを自在に動きまわる天才的殺人鬼、 という題材で「またかい(笑)」と思って読み逃すと後悔しますよ。


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