1998 Dec. 前期 (Arcana 18)

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過去のお言葉

Dec. 1st (Tues.)

午後から BKC へ。留学生数学の後、会議。

今日の読書。「遠い太鼓」(村上春樹)。
作家がヨーロッパ(主にギリシャとイタリア)に暮らした三年間の 日々の暮らしなどが淡々と書かれているのだが、妙に面白かった。 ギリシャはとてもいいところで、イタリアはとても酷いところ、 という言う基調なのだが、良い時も悪い時も、 村上春樹的「結局、そういうものだ、仕方ない。世の中酷いこともあるけど、 そう捨てたもんでもないし、僕と世界の折り合いはあんまり良くもないけど、 それなりに僕はこの世界について大好きなところもあるし、 そう、例えばよく冷えたビールとフィツジェラルドとかね、 それで、とにかく何とかやりくりしてるんだよ」感が滲み出ていて可笑しい。 ちなみに上の台詞括弧の中は、僕が思う村上春樹的世界観の要約である。

Dec. 2nd (Wed.)

水曜日は朝から夜まで演習で、レポートの採点をしたり。

O さんは禁酒生活が長続きしているようですね、、、
ところで、martini と言えば、アル中のガンマン、ハーヴェイ・ロヴェルの 名台詞。これを読んで飲みたくならなければ、 完全に身体からアルコールが抜けたと言ってよろしいのではないでしょうか。

「パリでマーティニの本当の作り方を知っている店に 入っていくところを覚えている。 ひる頃、人ごみにならない内に行くとていねいに作ってくれる。 相手も嬉しいのだ。うまく作ったのを本当に味わってくれる客が嬉しいのだ。 だからその客の分はていねいにやる。慎重に時間をかけて作る。 こちらも同じ気持で飲む。相手はそれがまた気にいる。 何杯も注文してもらおうとは考えていない。 時たま、そんな客が来て自分たちの腕をふるうのが嬉しいのだ。 それを喜んでもらえれば満足なんだ。 哀れな存在だよ、バーテンと言うのは」
(中略)
「グラスがうっすらとくもるていどに冷やすのだ」柔らかい声で続けた。 「凍らせてはいけない。 凍らせるとたいがいのものは一応うまく見せかけることができる。 ついでだが、それがアメリカを治める秘訣なんだよ、ケイン。 本当はくだらないオリーブやオニオンは入れない。 ただ夏の薫りだけなんだ」
(「深夜プラス1」(ギャビン・ライアル)より)

ただ夏の薫りだけなんだ、か……ほら、飲みたくなったでしょ?

Dec. 3rd (Thurs.)

自宅で仕事。途中でチェロを弾いたり、 コンピュータをいじったりで息抜きしながら、 遅れぎみの翻訳を進める一日。 逃避行動として samsara をニュースサーバにしてみる。 ユーザが僕だけだし、INN の設定ミスで方々に迷惑をかけても悪いので、 簡単な leafnode をインストールしてみた。
夕方、時間があまったので近所に髪を切りにいく。 表に出ると急に冷えこんでいて、あわてて少し厚着をする。

さて、話は変わって、僕は今まで何度も「失なわれた時を求めて」 を読もうとしてきたのだが、その度に挫折を繰り返してきた。 実は読了したことがないのである。特に第一篇「スワン家の方へ」 で挫折することがほとんどである。 初めて読んだ時は、半分くらいまで進んだところで忙しくなり 中断したのだが、そのせいで、また最初から読み始めようとすると、 はじめの辺りの内容を知っているものであまり面白くなく、 第一篇でとたんに挫折の憂き目にあってしまうのである。 しかし、その続きから読む気にはなれない。それにはあまりに間隔が 空きすぎていたのである。 そして、最近、何度目のチャレンジなのか、また第一篇から読み始めた。

そして、今回こそ読了できそうだ、という予感がする。 というのも、今までの読み方がよろしくなかったような気がするのである。 これは内容にドライブされながらどんどん読んでいくというよりも、 毎日ちょっとずつ読みたいだけ、 綺麗な骨董を手に持ったり畳に置いたりしながらためすがえす眺めるように、 その文章を味わいながら、ぼうっと読んで、飽きたらまた明日、 という読み方がふさわしいのではないか、と思う。 そういうわけで最近の僕は、寝台に入ってから、手元の明かりで しばらくの間「失なわれた時を求めて」を読み、眠くなってきたら寝る。 大体、一日数十ページくらいなので、全部読み終わるまでに、 何箇月もかかりそうである。 僕はこういった読み方はしたことがないので、とても新鮮である。 それにこの読み方にしてから、とても「失なわれた時を求めて」が面白い。 毎日、この時間が楽しみなくらいだ。これがいつか終わってしまうのが、 ちょっと勿体なく思えるほど。

Dec. 4th (Fri.)

午後からBKCへ。 ちょこちょこと雑務をこなし、一つ会議に出席し、 夕食を生協で取って帰宅。 南草津駅でばったりI御大と会い、一緒に帰る。 先生が珈琲が飲みたいとおっしゃるので、山科で喫茶店に入り雑談。

さて、明日からしばらく東京に滞在します。 5日(土)は某画廊を訪問など、6日(日)も別の某画廊訪問など、 7日(月)から10日(木)まで東大数理科学でのシンポジウムに参加、 9日(水)の夜は某A社の忘年会出席が現在の予定。

というわけで、次回更新は来週金曜日になります。 日頃御贔屓の皆様方には、またお会いしましょう。

Dec. 5th (Sat.)-12th (Sat.)

5日(土)に新幹線で東京に移動して、11日(金)午前に京都に戻る。 東京ではほぼ予定通り。5日(土)は画廊を訪れ、 9日(水)夜は某A社の忘年会の後、天才プログラマK氏と他、 A社の王女様と女王様と四人でベルギービール屋で閉店まで飲む。 久しぶりにモワネット・ブロンドを飲めて幸せ。 7日(月)から10日(木)までの昼間は東大数理でシンポジウム。 11日金曜の午前に京都にもどり、夜は草津で情報学系の忘年会。 二次会、三次会、と最後まで出席したため、帰宅はタクシー。

12日(土)、午後はチェロのレッスン。 この一週間は練習をほとんどしていなかったので、 かなりあやしかったような。 指があまり開かないし、音程の勘も狂っていた。

東京滞在中の読書。「クルーグマン教授の経済入門」(クルーグマン)。
山形浩生の訳がケッサクで、原作の非常に読み易く楽しい雰囲気が うまく伝えられていると思う。 クルーグマンは次期ノーベル経済学賞の最有力候補とも言われる若手経済学者。 上の「経済入門」は経済「学」入門ではない所が味噌で、 わかりやすい日常的な言葉使いで、 経済の問題を考える上で何が大事で何が問題ではないのか、 どういう風に考えればよいのか、がきちんと述べられている。 一見は「おや?」と思うような突飛で単純な意見をすぱっと突きつけるけど、 よーく考えれば確かにその通り、と思わされる所が多い。

こういう本当の意味での良い入門書はなかなか無いけど、 たまに当たると、学問ってのはこうでなくちゃねえ、 としきりに感心するのである。 日本にはほとんどないけど…


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