1998 Dec. 後期 (Arcana 18)

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過去のお言葉

Dec. 21th (Mon.)

朝から京大へ。谷口シンポで Malliavin 教授、Varadhan 教授が来日した ことに合わせたサテライトシンポジウムに参加。 僕にとっては目玉であった Malliavin の講演はやはりさっぱり分からず、 講演後に質問をしてみるがやはり良く分からなかった。 夜は某ホテルでパーティで、ホテルまで Malliavin と二人で歩いて行く。 途中でまた数学の話を蒸し返したがやはりよく分からず、 その他はほとんど雑談モードで30分ほどの道のりだった。

パーティで雑談していると、また Malliavin がやってきて、 「どくとーる、あっら、は誰か?」と聞くので 「私がその Hara である」と言うと、 「おお、我々は先程話したではないか」とまた何処かに言ってしまった。 多分、T 師匠に Hara と話してやってくれ、とでも言われたのだと思うが、 親切で良い人だなあ、と思うと同時に、 「僕の名前を覚えていなかったのですね…教授」 とちょっとがっかりしたことであった。

その後、T 大の K岡先生(谷口シンポのスピーカー)を中心に、 白井君、N 大の C 先生、H 大の T 君などと数名で三条で飲む。 帰宅は23時半くらい。

今日もふらふらです。寝ます。

Dec. 22th (Tues.)

昼から BKC で留学生数学の講義をしてから、 その足で京大のシンポジウムへ。最後の二回の講演に間にあった。 シンポジウムの後、まっすぐ家に帰る。

今日の読書。「ポーをめぐる殺人」(ヒョーツバーグ、扶桑社ミステリ文庫)
ヒョーツバーグがまたやってくれました。 その名も原題 "Nevermore"。 1923 年のアメリカを舞台に、ポーの作品まさにそのものを見立てた 連続殺人事件が起こっていく。 「モルグ街の殺人」「黒猫」「マリイ・ロジェの謎」、、、 奇怪な殺人事件の謎に挑むのは大奇術師「偉大なるフーディニ」と 訪米中のコナン・ドイル!

ポー原理主義者にはもちろん、推理小説好きに垂涎のこのあらすじを聞いて、 本屋に走らないでいられますか? 今日の夜は仕事をしないで、ゆっくりと堪能させていただきました。

Dec. 23th (Wed.)

午前中はチェロを弾いたり。 「聖しこの夜」とパッヘルベルのカノンのチェロパート。 チェロの先生のクリスマス会で弾くのでその練習。

午後は某知り合いに頼まれて携帯電話を契約に行く。 電話番号11桁化をきっかけに(まるできっかけの理由になってない気がするが)、 乗り変えユーザの獲得をもくろんでいる某セ○ラーホンである。 どの機種でも電話機自体はタダだと言うので、 何となく周りからデザインが浮いていたノキアのものを買う(と言うか貰う)。 自分からかけることは滅多にないので、 電話料金は基本使用料の一番安いものにした。 いつの間にか PHS とあんまり変わらない値段になっているようだ。 籤を引いていってくれ、というので適当にがらがらと回すと、 一等(JCB の商品券)が当たってしまい、 カップルが道にあふれる寺町の電気街で、 「おめでとうございますう」と店のお姉さんにはしゃがれながら、 がらーんがらーんとベルを鳴らされたりして、 何だか空しい気持になったことであった。
と言うわけで、新年から電話番号を変更しますので、 必要な方は何らかの方法で御連絡下さい。

今日の読書。「スノウ・クラッシュ」(ニール・スティーブンソン)
まだ途中だが、これは面白い。サイバーパンクを面白がって 無理に拡張したようなふざけた感じがクール(死語)。 妙に真実味がある悪い冗談。翻訳が遅れたこともあって、 話自体は「今さら」と言う感じもするコンピュータウィルスがどうとかいう、 デジタルカウボーイでジャックインなものだが、 その世界観や造形はデフォルメされながらもディテイルが正確な、 グロテスクかつポップで、オーヴァードライヴ(古語)。 マフィアが一大産業になった超高速ピザ配達を牛耳っていて、 武装した「配達人」が命がけでピザを配達するところとかお洒落。 30分で届かないと、マフィアの大ボスがジェットヘリで謝罪に来る。 素敵だ。

Dec. 24th (Thurs.)

午後から BKC へ。 今年最後の雑務をまとめて色々と片付ける。 今年もあっという間に雑務の中に過ぎていってしまったなあ。

夜は翻訳の仕事。何とか年末までには出来そうな感じ。

今日は日常に書くネタがないので、雑談を。
「ポーをめぐる殺人」に脱出王と呼ばれた奇術師フーディニと 女性の霊媒師との対決がストーリーに組みこまれているが、 これは史実である。 フーディニと霊媒師達との闘いは、 1922 年、科学雑誌 "Scientific American" が 「厳正な審査のもとで正真正銘の心霊現象を最初に見せたくれた 霊媒に対し、1500 ドルの賞金を支払う」と発表したことに始まる。 蓋をした懐中時計の時間を目隠をしたままで透視する「透視力」で スペイン、フランスの科学者達の御墨付をもらったアルガマジラなどの 強敵のトリックを次々に暴いたフーディニの前に登場した 最強最悪の敵がマージョリーと呼ばれる霊媒師だった。 マージョリーの「能力」は降霊会。身体の自由を奪われた状態で、 霊を呼ぶことによって、物を動かしたり音を鳴らしたりするという、 現在で言えば、まあサイコキネシス(念動力)だろうか。 降霊会は闇の中で行なわれるので、結局トリックの要点は、 手足を押さえられて全く自由を奪われているように思われる状態で、 いかに「イタズラ」をするか、ということで、 ありとあらゆるずうずうしく抜け抜けとした巧妙な手口が使われていた。 フーディニはそれらを次々と見破っては指摘し、 また一度は頭でテーブルを動かそうとした マージョリーの頭をテーブルの下で把んでみせもしたが、 結局、やった、やらない、の泥試合に終わった。

この辺の対決を本格ミステリとしてロジカルに書けば、 「ポーをめぐる殺人」ももっと面白くなったと思うが、 ヒョーツバーグは推理作家じゃないからなあ。

Dec. 25th (Fri.) - 26th(Sat.)

25日、主に自宅で翻訳の仕事をしたり、合間にチェロの練習をしたり。 ちょっとクリスマスらしきことをしようと思って、 三条の Cafe Riddle にチョコレートケーキを食べに行く(わびしすぎ)。

26 日。午後から琵琶湖ホールのリハーサルルームでの チェロとヴァイオリンのクリスマスコンサートに参加。 10人ほどのヴァイオリンと5人のチェロに混じって、 僕は「きらきら星変奏曲」、パッヘルベルのカノン、 ホーマンの二重奏曲、「聖しこの夜」のチェロパートを弾いた。 どれも非常に簡単なものなのだが、大変に楽しい思いをした。 第一にチェロを担いでコンサートホールに行き、 他の人に混じってチューニングしたり、 立っておじぎをして拍手をもらったり、と何となくいっぱしの チェロ弾きになったような気分になれる。 第二にやっぱり弦楽器の音を合わせるのは楽しい。 下手なのでたまーになのだが、音がぴたっと他の弦楽器と合うと、 いい音で共鳴が起こって、「おお、、、俺って今、チェリスト?」 とこれまたその気になれる。

その他、ちょっと思ったのだが、やっぱりチェロを弾く人は、 ヴァイオリンに比べておっとりしているのではないだろうか。 演奏前のヴァイオリンの人達は何だかかしましく相談したり、 ここの Fis の出だしがどうだとか注意しているのだが、 一方、その間チェロは既にチューニングを終えて、 ヴァイオリン達の議論に目をひそめるでもなく、 「用があったら、いつでも呼んでください」 という感じで、たまに弦をはじいて音を確認したりしながら、 ぼーっとチェロを構えたまま待っている。 なんとなく受けた印象で言うと、 やっぱりチェロに比べて、 ヴァイオリンの女の子達(全員女の子だった) は元気がいいというか、しゃきしゃきしている。 半分くらいはスター候補という気がする。

とにかく楽しい一日でした。また合奏したいなあ。

Dec. 27th(Sun.)

チェロのクリスマス会も終わったし、これで今年の予定は終わったなあ、 とぼーっとする一日。一日くらいはいいだろう。

と、思っていたら、某大御所からメイル。 以前会ったときに昔書いた論文を挨拶代わりに渡しておいたのだが、 そのある個所がわからない、説明せよ、とのこと。 もうすっかり忘れている昔の論文を出してその個所をみると、 確かに全然 trivial なことではない(というか間違っている) ような気がする。 昔はわかっていたのかもしれないが、 もう昔の自分が何を考えていたのか、さっぱり忘れてしまっている。 その頃の詳細なノートは二度の引越しによって、なくしてしまっているので、 一から考えないと分からない。 先方には「もう休日に入った。田舎に持っていって、 じっくりその問題を考えてくる」 とだけメイルを書いて時間をかせぐことにする。

Dec. 28th(Mon.)

午前中は翻訳をしたり、チェロを弾いたり。 午後は昼寝をしてから、三条の Cafe Riddle で本を読み、 夜はまた翻訳をする。

これからしばらく用事がなく、 自宅でごろごろしながら、仕事したり、チェロを弾いたりしてるだけの 日々が続きますので、この日記をお休みいたします。 次回更新は来年の10日くらいだと思います。

それでは、みなさん。よいお正月をお過ごしください。 今年もいろいろありましたが、 皆さんの新しい一年が実り多く、安らかなものでありますように。 また、新年にお会いしましょう。

Dec. 29th 1998(Tues.) - Jan. 4th 1999(Mon.)

10日くらいから再開と書いたが、もう始めてみた。 とは言っても、山科の自宅でずっと籠っているので、 ここに書くような事件は起こらない。 したがって、10日くらいまでは他愛もないことをつらつらと 書くのみであるが、 まあそもそも他のついでにせよ私の日記などを 読もうと言う奇特な方々である。 新年の一興にならぬとも言えまい。

31日に実家に行き、年越し蕎麦とおせちだけはいただき、 2日の午後に山科に帰る。 実家では新しく子犬が来ていた。またロングヘア・ダックスだそうだが、 子犬でまだ顔が丸いのと毛色が薄いのとで、 どう見てもゴールデン・リトリバーの子供のように見えた。 でも、確かに足の短かさはダックスフンドらしかった。

今年の年賀状は、 つき合いのある店(ほとんど飲み屋)と仕事関係を除けば七枚であった。 こちらからは書かないのに、一方的にご挨拶をくれるのであるから、 有難いことである。 特に篆刻が趣味の横浜のOさんからは「呑花臥酒」との一筆をいただき、 とうとう医者から飲酒喫煙の許しでも得たらしく、 白寿を目の前にしながら御健勝のようで喜ばしい限りである。

年末年始の読書。大晦日は百間先生 (ケンの字は間の異体で、門がまえに月なのだが、 異体漢字は SKK でどうやって出すのだろう) の借金話ばかりを集めた「新・大貧帳」(福武文庫)を読む。 僕は百間先生のような王族ではないから、 借金をするような余裕がなく、したがって、 年末にあちこちから取立てがやってくるという風情もないが、 何となく大晦日らしい気分になった。
僕は日本の作家では十蘭、鏡花、百間が大贔屓だが、 その共通点は「しみったれたことが大嫌い」なことだと思う。 百間先生は人生を通じて常に借金をし続けたが、 そこにしみったれた所は一点もない、その心と態度においては、 常に王であった。

その他。クリスチアナ・ブランド「はなれわざ」(ポケミス 474番)。 ううむ、やはり大傑作。何度読んでも感心する。
大島一雄「人はなぜ日記を書くか」(芳賀書店)。 そういえば、神保町に芳賀書店という有名なエロ本屋があったような。 それと関係あるのだろうか、、、この出版社。
プルースト「失なわれた時を求めて」(ちくま文庫)。 毎日ちょっとずつ読んでいるのだが、ようやく「スワンの恋」に入った。


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