1998 Jan. 中期 (Arcana 18)

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Jan. 11th (Sun.)

昨深夜、PHSに入電。 東京の某天才プログラマK氏より。 「下北沢で呑んでるんだけど、今から来ない?」 行くわけないでしょ! 「あ、今とりこみ中?」 深夜バスに乗って来いとでも? 「深夜バス??んーーーと。深夜バス?」 いや、なんでもないっす、、、 「あ、東京にいないのか」
単なる酔っぱらいの悪戯電話だな。

午前中に起床。珈琲を飲みながらメイルのチェックとあちこち巡回。 香港のペレグリンに新規業務停止命令か、、、

朝昼ごはん、フレンチトースト、ベーコンエッグ、珈琲。 テレビで「ショーシャンクの空に」を観る。 好きなお話なので。 大甘なのは分かっているのだが、 物理的に監禁されて自由を奪われた人間が、 希望を捨てずその状況を耐え抜き、自分の力(主に精神的な力)でそこから脱出する、 という話に弱い。
娯楽的なものなら「十三号独房の問題」とか。 短篇集「思考機械の事件簿」(フットレル)の一作である。 ありとあらゆる博士号を持ち、 数週間のレッスンを受けただけでチェスの世界チャンピオンを破り、 2 + 2 は何故 4 であるかの研究に人生を捧げている(笑)天才、 オーガスタスなんとかかんとか(ミドルネームは忘れた)ヴァン=ドーゼン教授、 通称「思考機械」が、 ふとした論争から「頭脳だけで刑務所の独房から脱獄できるか」 という挑戦を受ける話。 そういえば、ルブランのアルセーヌ・ルパンのシリーズにも、 脱獄物の傑作があった。 確か、アニメのルパン三世でも同じネタをやっていたが、 投獄された初日から「おれはルパンじゃないんだ!」と騒ぐアレだ。

しかし、もっとも感動的で世界大戦以降の世界に生きる人間が 読まねばならない監獄の書物としては、 「夜と霧」を挙げなくてはならないだろう。 この本には色々と批判があるのは知っているが、 二十世紀の書物として永遠に残るだろう。


Jan. 12th (Mon.)

昨夜、「夏のレプリカ」(森博嗣)読了。
そろそろこの手を使う頃だと思っていたが、ついに来た。 ただ、「してやられた」という爽快感より、 「あれ?アンフェアなのでは?」と一読後は思ってしまった。 再度読み返すと原理的には「アンフェア」な記述は一切なかったので、 本質的には問題ない(はず)。 やっぱり相当の筆力と、作家の徳みたいなものがないと「この手」は メインの仕掛けとして使うべきではないと個人的には思う。 さらにケチをつければ、贅肉が多い。 無駄話が多い上に、 前作と同時進行でこちらの事件を記述した趣向も不要。
色々と文句を書いたが、これは傑作だと思う。 傑作だと思うから細かい点が気になるだけで、 基本的には「すべてがFになる」以降、久しぶりに感心しました。

11 時起床。 フレンチトースト、ベーコンエッグ、珈琲の朝昼食。 今日は変にメイルが少ないな。

午後から大阪大学へ。 京都大学のW大先生の話を聞きにいくため。 ううむ、楕円積分で確かにブラウン運動のサッカーが表現できるのだな、、、
講演後、神戸S大のUさんと一緒に梅田で飲む。 さらに、神戸の三宮のバーでさらに飲む。 11時過ぎに帰宅。


Jan. 13th (Tues.)

HPで宣言していた人の統計では、小栗派2、夢野派1、久生派1(私)。 ということで、小栗派の勝ち、と。

冗談はともかく、この三作家の誰が一番好きか? という統計は一度とってみたいです。 いや、統計と言うよりも、あの人は誰派なのか、に興味がありますね。 上の三人については 「さもありなん」という感じだったが、 いろんな人に聞いてみると「なんとこの人が夢野派!」 というような驚きもあるかもしれない。

午前中に起床。母から電話で、週末の松竹座での歌舞伎の件。 大和屋がでるので是非行きたかったのだが、 忙しくてやっぱり無理そう。妹と一緒に行ってもらうことにする。
珈琲を飲みながらメイルを読み、あちこち巡回。

午後からBKCへ。 教授会。人事問題が山のようにあり、3時間も拘束される。 座っているだけでエネルギーを使い果し、 くたくたになって帰る。


Jan. 14th (Wed.)

午前中に起床。週末のスケジュールに合わせて、 徐々に生活を朝型に移行させる作戦。
朝昼食はいつものベーコンエッグとパンと珈琲。 ベーコンエッグのような簡単な料理でも、 毎日作っているとだんだん上手になってくるものだな、、、 (しみじみ)

午後からBKCへ。 今日はデューティがない日なので、 数学の論文を読んだり、Linux マシンをいじったりしていた。 その他は、ある非常に個人的な問題について、 窓から琵琶湖を見ながら考えていた。
18時過ぎに大学を出たが、 ぼうっとしていたら、山科で降りるのを忘れてしまい、 京都まで無駄に往復。
夕飯は法蓮草とベーコンのパスタと安ワイン。

最近のアジアの金融不安の報道を読むにつけ思うのだが、 本当に我々は「経済音痴」だ。 素人の勘違いだと良いのだが、もしや、 合州国とかイギリスから見ると、 日本も含め、アジアは 「やっぱり資本主義というものを全く理解していないし、 これっぽっちも実現されてもいなかった未開の国々」 に映っているのではないだろうか、 しかもそれは事実なのではないだろうか。 いや、杞憂だといいのだが。
例えば、ずいぶん前に「損失補填」が問題になっていたが、 「損失補填」が何故「イケナイコト」なのか、 あなたは説明できるだろうか? 大口の資本をあずけてくれるお得意様が株式で損をした場合、 証券会社がサービスとしてそれをカバーしてもいいのではないか? また、インサイダー取り引きも「イケナイコト」らしいが、 これから下がることがわかっている自社株を売ってなにが悪いのか?
それは経済学のなんとか理論でどうのこうのとか、 法律の何条何項に反するからどうとか、ではなくて、 「まったく倫理に反する、それをやっちゃあおしまい」 というほどの、市場原理の根本に抵触するレベルのことなのだ、 ということが肌で理解できていないこと、 それが「経済音痴」だと僕は思うのだが。


Jan. 15th (Thurs.)

distributed.net の RC5 クラッキングに参加している人は、 クライアントが RSA 社の DES Challenge II にも対応しましたので、 早速新しいバージョンに入れ替えましょう。

関東方面は豪雪らしい。京都は冷たい雨が降っている。 午前に起床。お昼ごはんは担担麺。 午後から三条に出て、ちょっと買物をする予定。

昨夜の読書。 「歌舞伎のダンディズム」(杉本苑子)、 「毒入りチョコレート事件」 (A・バークリーまたの名をフランシス・アイルズ)。

古典ミステリ再読計画、今日は名作「毒入りチョコレート事件」。 今までは有名作家のあまり有名でない作品を再読してきたが、 今回は超有名作品。
ある夫妻が友人宛てに届けられたチョコレートをゆずられ、 試食したところ夫は命をとりとめ、妻は死亡した。 この一見単純に見えた事件だが、警察では迷宮入り。 捜査の後を継いだのは「犯罪研究会」のメンバー六人。 各人がそれぞれに独自の推理法による捜査の結果を披露する。 次々に発表されては、くつがえされる推理、 二転三転する推理は真実に行きつくのか?
マニア受けする推理小説の趣向の一つとして、 「一つの事件に複数の推理、複数の探偵」がある。 それも二つや三つではなく、たくさんの推理が披露されるもの。 その趣向のおそらく最初の作品が「毒入りチョコレート」である。 現代から思えば、比較的簡単な事件を扱っているので、 それほど意外性はないし、御都合主義的なところもあるが、 このテーマをこれほど鮮やかに料理した作品は以降にはないだろう。 特に最後に登場する一番地味な人物が、各人の推理を表にまとめて、 最終的な真実に昇華していく手際の自然さは見事。 今回、再読して気付いたのだが、 これはこのテーマの最初の作品にして既にこのテーマのパロディかもしれない。 例えば、「木曜の男」(チェスタトン)が最初のスパイ小説にして、 スパイ小説のパロディであり、 「モルグ街の殺人」(ポー)が最初の推理小説にして、 推理小説のパロディであるように。


Jan. 16th (Fri.)"Yet Another Your Love"

午前中起床。 午後からBKCへ。今日も会議。 年度末に近づき、毎週のように会議がある。 人事に入試に卒業に、、、

各分野にはその分野の「お気に入りの言葉」があるものだ。
例えば、数学者は「明らか」とか「自明」とか、 証明によく使う決まり文句などが好きだが、 コンピュータサイエンスにもそういう言葉があるようだ。 例えば、ハッカーは大体において非常に親切な人たちなので、 大抵の質問には懇切丁寧に答えてくれるが、 あなたが余りにつまらない質問をしつこくしていると、 "RTFM!!" と切り捨てられるかもしれない。 "Read The Fu**ing Manual !" の略である。 こういう長いセリフの頭文字を拾った略形が好きみたいだ。

その分野でよく聞く言いまわしにはその世界の特色が出るものだが、 計算機屋がよく言う、"yet another" もその一つだろう。 「また、もう一つ別の」という感じの意味だと思うが、 今でもたまに耳にする。(ちなみに、RTFM は既に死語) unix には yacc というツールがある。 これは "Yet Another Compiler-Compiler" の略で、 言語の構文規則を与えてやると、その規則に従った構文解析プログラムを 作ってくれるプログラムである。 (そう言えば、計算機屋は「プログラムを作ってくれるプログラム」 とか、自己言及的な言い回しも好きみたいだ。 "GNU is Not Unix" とか) よく知らないが、これが "Yet Another" の起源なのではないだろうか。 多分、この種のプログラムがあまりにたくさん作られたために、 冗談で「またもう一つの」とやってみたのだろう。 (結局、yacc だけが生き残っているのは皮肉だが、、、)

ソフトウェアの開発では、似たようなものがたくさん作られることが多く、 本物のアイデアというか、オリジナリティが希薄な印象がある。 それをこの分野の人も良くわかっていて、 自分でそれを "yet another" と皮肉ってみたくなるのかもしれない。
そう言えば、Perl の世界の有名人 R. L. Schwartz は "Just another Perl hacker" と news の最後に署名するらしいが、 せめて、"Just Another" と行きたいものだ!

"Just Another My Love !"


Jan. 17th (Sat.)

午前七時起床(信じられない)。BKCへ。 今日は共通センター入試の監督にあたっていたため。
まあ問題を配ったり、解答用紙を集めたり、 という程度の仕事だが、入試監督は初めてなのでちょっと刺激的だった。 今年はBKC内に関しては特に問題なく、 とどこおりなくスケージュールが進み、18時前には解放された。 センター入試の監督がどういう風に行なわれているのか、 まったく知らなかったのだが、 全国で全く同じ条件で試験をするという目的上、 何時何分にどういうアクションをして、どういうセリフを言うか、 という精密な台本が存在していることに驚いた。 まあ、考えてみれば当然なのだが。

その後、京都駅に直行。 その途中で、PHS の留守電を聞くとプライベートな仕事が入っていた。 さらにそれとは別に明日の某「秘密会談」のためにランチの場所をおさえる。 京都駅着、19時前、のぞみにすべり込みセーフ。
新幹線車内では、ビールを飲みながら、先程入った仕事をやる。 ノートパソコンって本当に便利ですね(泣)。 一時間くらいで完了。既に数学の論文を読むような状態ではなかったので、 Perl の教科書を読む。

東京着。すっかり雪化粧か、、、
去年のクリスマス以来の下北沢亭に到着。 多分、これから倒れこむように睡眠。


Jan. 18th (Sun.)

午前中に起床。 下北沢の某珈琲屋で友人のO嬢と待ち合わせて会談。 さらに某イタリア料理屋でお昼ごはんを御一緒する。 先年はたいへんに御迷惑をおかけしました、、、

14時から知人の舞台を観に行く。 舞台はなかなか楽しいものだった。その後、楽屋参りをして 出演者出口の辺りに一緒に移動すると、 大勢のファンが待っており、 僕の知人はいつの間にこんなに有名になったのか、と一瞬思ったが(嘘)、 言うまでもなく彼女のファンではなく、 A.フェリ のファンだった。 出口の表で「出待ち」をしているファンを後目にフェリのすぐ傍にいたのだが、 こんなに小柄で地味な人だとは思わなかった。 舞台ではあんなに華やかな美女なのになあ。

知人に差し入れを渡してから、新幹線で京都に戻る。 新幹線の中では "Learning Perl"を読んでいる内に到着。 やはり「のぞみ」は「ひかり」に比べて随分と速い印象。

なんだか喉元に小骨が刺さったように何かが気になっていたのだが、 今何だったのか分かった。 今日、舞台の休憩中に客席で知り合いの某ダンサーに挨拶されたのだが、 その時に「はらさん、お身体の調子はどうですか?」と聞かれたのだ。 その時は、「ええ、大丈夫ですよ」とか適当に答えたのだが、 今考えてみると僕が何故、身体の具合を聞かれるのだろうか、、、?


Jan. 19th (Mon.)

またしても朝七時起床。午前中からBKCへ。 朝から後期試験監督。 自分の科目「数学解析」の監督と、あと二つ他学科の科目の監督補助。 どちらも助手がついてくれて、非常に有能なのであまりすることはなかったが、 立ちっぱなしなので疲れた。 しかし、「全くできません。本当にすみません」とだけ書かれた解答には、 脱力させられたが。 本当にすみません、って謝られてもなあ。

夕方から一乗寺の恵文社ギャラリーへ。 恵文社は叡山電鉄一乗寺駅近くにある怪しげな本屋で、 その中の一角がギャラリーになっている。 山口椿氏の扇絵の展示会だったのだが、 もちろんその絵はすべて男女があーなっちゃってたり、 こーなっちゃってたりする絵である。 もちろんちゃんとなにがなにになにされてるところが きちんと描かれているものである。 宣伝文句の「現代のレオナルド=ダ=ヴィンチ」ってウエジマケ○ジ、 誉め過ぎだろう、いくらなんでも。 関○大学で女子大生を次々誑かしている場合じゃない、 本当に宗教学の仕事してるのか? 海の向こうでエリアーデが泣いてるぞ、、、

椿氏が泊まっているという都ホテルに訪ねようかと思っていたのだが、 予定よりずいぶん遅くなったので中止。 それに不味いところに居合せても何だし。 家に帰って、お風呂でこの数日の疲れを癒すも、 また明日は阪大まで出掛けなくてはならない、、、


Jan. 20th (Tues.)

午前中に起床。午後からのセミナーに出席するために大阪大学へ。
今日のスピーカーは僕の兄弟子にあたるSさん(MTEC)と、 東京大学のO先生。 Sさんは僕の四つ年上で、 学位を取ってからも大学のポストに恵まれず、 民間の金融研究所に就職したのだったが、 そちらの方面で大活躍し、現在では日本ファイナンス理論にSあり、 とまで言われているそうだ。 (僕はSさんにアカデミックポストを用意できなかったことは、 日本の確率論業界の大失態だと思っているが。 少なくとも当時、Sさんに匹敵する教養と実力を持っている院生は 確率論業界にはいなかったはずだ)

Sさんの話は、僕の理解したところでは、 ある株式またはオプションを購入する時に、 金利先物を売り買いすることでリスクヘッジする最適な戦略を求める問題。 90年台の初頭に Diffie などによって計算されたモデルでは、 金利として決定論的なものを用いていたが、 もちろん金利は確率的に変動するものであり、 Sさんのモデルと確率解析による計算は確率微分方程式に従う 金利を仮定していると言う面で、その必然的な拡張と言えるだろう。 Sさんの理論では、割引債(Zero Coupon Bond)のプロセスが巧妙に 用いられて、すっきりした表現になっているように僕には感じられた。 Sさんは「自明なことですけどね、、」と遠慮がちに述べていたが。

その後、講演者二人と阪大などの先生方と千里中央で歓迎会。 23時過ぎに帰宅。


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