1999 Jan. 中期 (Arcana 18)

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過去のお言葉

Jan. 11th (Mon.)

午前は膳所にチェロのレッスンを受けに行く。 どうも今日は調子が悪かった。 余計な共鳴音をカットするために、 弾いている弦と別の弦のあちこちを触りながら、 音階を弾く練習など。

午後から BKC に行き、研究室で論文を読む。 夜は不毛な会議。

小説を題材にして、それを映画化するとしたら、 どういうキャスティングにするか を考えるという遊びがあるが、 僕は気に入った小説を自分が映画化するとしたら、 どういう音楽を使うか、というのが気になる。
例えば、「黒死館殺人事件」(小栗虫太郎)の冒頭は、 地面の高さからのアングルで、真っ黒い館が黒い草の 間から微かに見える。そこで、奏でられる音楽はずばり、 Schubert の「死と乙女」第一楽章でどうだろう。 近づいていくと黒死館を背中に庭で、 「黒死館不出のクヮルテット」が演奏している。 (小説での彼等の登場シーンでは、 鎮魂歌を演奏していたような記憶があるが。) 選曲と演出が平凡なだけに、 演奏する四重奏団は選び抜きたい。

Jan. 12th (Tues.)

午前はチェロの練習。午後は阪大の数理ファイナンスセミナーに 出かける。 セミナーの後、1月から阪大に勤めることになった兄弟子にあたる S さんの歓迎会に参加。 千里中央で飲む。これでまた一つ関西がにぎやかになって喜ばしいことである。

S さんにも「頬がこけた」と言われたが、そんなに痩せたのだろうか。 実家でもずいぶん心配されたが、親とは一年顔を合わせていなかったから、 まあ仕方ないとは言え、S さんとはこの前の年末に会ったばかりなのだが。

昨夜のことだが、発作的に深夜スパゲティを作る。 バターとオリーブオイル、大蒜に玉葱、トマトを煮つめてソースを作り、 パスタを茹でて鍋の中でバターと混ぜ、 熱々のまま皿に盛ってソースをかける。 大変に美味しくて感動したが、こんなことをしていると、 またもとの体重に戻るかもね。

Jan. 13th (Wed.)

自宅で論文を読む。

一瞬、おや?と思うのだが、ちょっと考えてみればなるほどな、 と腑に落ちることがある。例えば、 チェロの弓はヴァイオリンの弓より短い。 それもかなり短い。 チェロの方がずいぶんと大きいから、 楽器屋に短い弓と長い弓が並べてあったら、 当然長い方がチェロ弓だろうと思ってしまう。 実際は逆なのである。

そこでふと演奏のスタイルを思い浮かべてみると、 チェロで手を一杯に伸ばしても腕、弦、弓が正三角形になるくらい。 一方ヴァイオリンは顎から真下にまっすぐ直線に伸ばせる。 だから明らかにチェロの弓の方が短い。 それ以外にも以下のような合理性がある。
ヴァイオリンと比べて、チェロは図体が相当に大きいので、 当然ながら弦も相当に長い。 ゆえに、弦はずっと強い張力で張っておかないと、 やたらに低い音になってしまう。 だから、チェロの弦は強く重い。 したがって、その重く強い弦を鳴らすのにはより大きな力が必要となる。 梃の原理から言って、大きな力を伝えるには力点から作用点までの 距離が短い方が有利であり、弓がより短いのが合理的である。

以上のような話(もっと精密にだろうが) を寺田寅彦がしていた、 と寺田の弟子筋の物理学者が随想に書いているそうだ。 寺田寅彦はヴァイオリンとチェロの両方を奏して、 なかなかの腕前であったと言う。 夏目漱石の「我輩は猫である」に登場する寒月君は、 寺田寅彦がモデルであることが有名だが、 確かに「猫」の中でも寒月君と言えばヴァイオリンである。 ところで、寺田寅彦は随想をたくさん書いている他は、 「漱石の弟子だった」「天才だったらしい」 「天災は忘れたころにやってくる」 くらいしか知らないのだが、 物理学者としてはどういう業績があったのだろうか。 地球物理学が専門だったらしいことは確かだと思う。 何か知っている方がいたら論文など教えて下さい。

Jan. 14th (Thurs.)

学校に行って、いろいろ雑務。

世の中にはちょっとしたコツってのが色々ありますよね。 私はそういうコツに不思議と魅きつけられる性癖がある。 何かの本でそういうものが出てくると何か得をしたような気分になり、 記憶にとどめる。 誰かからそういったことを教わるとこれもまた有難く心に留める。

うまいスクランブルエッグの作り方のコツは、 ベーコンを先に炒めて出る油を用い、バターを足し、 卵三つに対して卵の白身一つ分を余計に加えるのである。 また、カレーライスにする時の御飯を炊くには、 釜にほんの少しオリーブ油を入れて炊くとぱらりと炊けるのである。 濡れた猫を乾かすには枕袋の中に入れてドライヤーで乾かすのである。 風の中でマッチをつけるには、 両手をバレーボールのレシーヴの要領で組んでその中で擦るのである。 レモンは横にして X 型に包丁を入れれば、 全ての袋に包丁が入った四つの部分に分けられるのである。

ハウツーというほどのことではなくて、ちょっとしたことなのだが、 魔法のように素敵な効き目がある。そういったコツ。 ありとあらゆることにそういったコツがあり、 おおげさかも知れないが私はそれらは人間の英知であると思うのだ。
あなたが知っている「ちょっとしたコツ」、是非教えて下さい。

Jan. 15th (Fri.) -- 17(Sun.)

生まれて初めて、肉じゃがというものを作ってみる。 玉葱が煮崩れないように、半分は後に取っておくこととか、 肉もからからにならないように、別に玉葱と炒めておいて、 煮つめる前に鍋に混ぜるとか、色々コツがある。 レシピ通りに作ったのだが、 今までに食べた肉じゃがの中で一番美味しかった。 レシピってのは偉大だなあ… その通りにやればこんなに美味しいものができるんだから。

16日(土曜)。 夕方から三条へ。切り裂き系というより最近は試験管系らしい R 師匠から 塚本邦雄全集第一巻を受けとりに行く。 塚本邦雄は結構好きで書肆季節社から出た歌集などを持っているのだが、 この全集をそろえるべきなのか、否か… Cafe Riddle で「読書家のあるべき姿」について、 横で聞いていたとすれば鼻持ちならないであろう議論をした後、 木屋町の前田豊三郎酒店でミステリ談議などをし、 〆にお茶漬が食べたかったので祇園の八咫に行ったのだが、 熱澗などで身体を少し温めてから満を持してお茶漬を注文したら、 「御飯がなくなりました」と断られショックを受けて帰る。
お茶漬が食べられなかったのは残念だったが、 R 師匠から普段の「女子高生キラー」としての活躍ぶりを色々と伺い、 勉強になった一夜であった。

17日(日曜)はセンター試験の監督。

さて、この R 君との打ち合わせのためのメイルのやり取りで、 自宅からある種のアドレス宛てにメイルを出すと、 相手に届かないというエラーが起こっていることが発覚。 Mew の imput でプロバイダの SMTP サーバに渡しているのだが、 理由が良くわからない。 プロバイダに連絡を取ってみると、pop サーバ宛てに SMTP を渡してみろ、 というので、そうしてみると直った。 どうも or.jp で終わるアドレスに出すとこのエラーが起こるようなのだが、 そうとも限らないような気もする。 アドレスによらず常に届かない、というのならまだ理解できるのだが、 宛先によって届いたり届かなかったりという現象は、 一体どういうことなのでしょう。 メイル関係のプロトコルに詳しい方、是非御教授下さい。 (ひょっとして、そんなことも知らんのか、 と言われるような初歩的なことなのだろうか…)

そういうわけで、年末あたりから、来るはずの私からのメイルが来ない、 という方はお知らせ下さい。

Jan. 18(Mon.)

メイル問題の御報告。 昨日、書いた後にS和大のHさんから、Sender が間違っている、 との御指摘を受け、ログをとりなおしてみる。 SMTP の MID: と S: のフィールドをローカルのものにしていたのだが、 正しい Message-Id と Sender を挿入するように変更した所うまく行きました。 どうせ SMTP だから、という愚かな思いこみが間違いのもとでした。 やっぱり初歩的なことでしたな…

午後から BKC へ。採点報告など雑務をこなして、夕方まで論文を読む。 その後、試験監督一つ。夜は非常に不毛な会議。帰宅は九時半。 なんでこんなのに巻き込まれちゃったかなあ。

学生に「先生、質問を書く前にちゃんと自分で調べて下さい」 などと忠告されたり。 同時に、正しい SMTP のあり様と SMTP 経由のスパム防止について廊下で講義されたり(笑)。 勉強になるなあ。

どうも体調が今一つ。 フルニエが弾くバッハの無伴奏チェロ組曲など聞きながら、講演の準備など。

Jan. 19(Tues.)

朝一番から試験監督。 昼から会議一つ。 さらに、認証局関係のミーティングに参加。

家に帰ったとたん、ばったりと眠る。

二時間ほどで目が覚めた。やはり疲れているらしい… 夜は講演の準備など。

Jan. 20(Wed.)

某イーノさんへの回答。
人間が覚えやすい数字の桁数は 7 桁と言われてますね。 これは人間が同時に把握識別できる種類の数がせいぜい 7 である、 という心理学で有名な主張で、例えば文化圏が違っても、 たいてい虹の色は七色であるとか、効果的な登場人物は七名だ、 とかに関係があると言われています。 実際に具体的な実験で実証した論文としては、 "Magical Numbler of 7, Plus and Minus 2: Some Limits on Our Capacity for Processing Information" (G. Miller, The Psychological Review, Vol.63, No.2, 1956, pp.81-97) が初めてのものです。
また人間が一体どれくらい数字を覚えられるものか、 ということについての研究があるのかないのかは知りませんが、 円周率を数十万桁くらい覚えている日本人の方がいましたね。

今日はずっと家で講演の準備をしようと思っていたのだが、 昨夜、最重要資料のプレプリントを大学に忘れてきたことに気付き、 暗澹とした気分で大学に出勤。 忘れものだけを取って、即帰宅。自宅で講演準備。 講演の準備に疲れて、漱石の「草枕」を読んだり。

明日朝一、試験監督…その後、仙台に移動。週末までシンポジウム。 どうも私立大の冬って体力の限界に挑戦、って感じだなあ。

というわけで、来週まで日記を休ませていただきます。 御贔屓の方々にはまた月曜、お会いしましょう。


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