1998 July 前期 (Arcana 18)

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過去のお言葉


July 11th (Sat.)

下の方で「数奇にして模型」のネタバレをしますので御注意。

「ハルモニア」。いきなり「白鳥」が弾けるようになるとは、、、 絶対音感とかいう問題じゃないと思うが。

最近早起きになってしまっている。九時起床。 Java の勉強をしたり、チェロの練習をしたり。
夕方から三条へ。本とかCDを見てまわって、 Cafe Riddle で一服して帰る。

「数奇にして模型」の R師匠の感想(7/10の日記) については同感かな、、、結構評判は良いようだが、僕も今一つだと思います。 やりたかったことは多分、 いわゆる推理小説のお約束とまったく違った思考と嗜好で行動する犯人が、 いわゆる推理小説に登場しちゃうとどうなるか、 とういうことでこの筋では「詩人と狂人達」とか、 「DL二号機事件」とかをふと思い浮かべたが、 そういった過去の名作では「狂人なりの論理を追う」という いわゆる本格推理小説的興味が中心になるのだが、 「数奇にして」ではその面白さすら放棄する、 というのが目標だったのではないでしょうか。 その結果、目標通りやっぱりつまらない、 という落ちがついたような気がしました。 例えば、小説内で一つのポイントになっている「弁当の問題」の扱いに、 集約されているのではないでしょうか。 実際、僕は犯人が予想できましたが、「弁当の問題」の解答は、 「被害者と思われていた人物は実は殺人を『していたので』食欲がなく、 犯人の方の人は実はまだ殺人を『していなかったので』腹ごしらえをした」 だと予想していました。 そうでないと本格推理としての「着地」が決まらないからです。 「数奇にして」を読んだ方はもう解答を知っているわけですが、 この失敗を目指してわざと失敗したような着地に 居心地の悪い気持がしませんでしたか? 僕の頭が固くて、モダーンについて行けてないんですかねえ、、、

July 12th (Sun.)

九時起床。 スケールをさらったり。 自宅で昼食をとり、午後は時折チェロを触ってさぼりながら、 Java のプログラミング。 java.math.BigInteger クラスを使って、簡単な関数、 じゃなくてクラスか、を色々作ってみる。
明日からは先週の会議の続きと書類作成、試験監督等雑務エトセトラか、、、 というわけでほとんど逃避行動の楽しい土曜日曜だった。

「好きにして森」(爆笑)

選挙の話題とかは嫌いなのだが、 今日は少しだけ。 開票がまだ数パーセントにも過ぎないのに「当選確実」発表がされるのを 不思議に思ったことはありませんか?
これは確率論をやっているものには、不思議でもなんでもないことである。 今、全投票数の中で p の割合が候補者Aに投票しているものとする。 この p の真の値は全て開票しなければわからないが、 n 票開票した時点で q の割合がAに投票していたとしよう。 この q は p にどれくらい近いか? 真の割合 p で毎回コイン投げをしていると思って、二項分布で近似し、 さらにガウス分布で連続近似することが可能である。 q と p の誤差が 0.005 以内なら十分な精度であろう。 この近似が95 % の確率で成立する開票数を求めれば、 この分布をガウス分布で近似して、 開票数はだいたい4万票もあれば十分である。 すなわち4万票開票して、その割合を調べれば、 確率 95 % で真の割合と高々 0.005 の誤差しかない。 一つの選挙区で当選者が何名でるのか知らないが、 数名の当選者なら誤差 0.005 は当選確実を出すのに、 十分過ぎるくらいの精度である。 選挙区によっては数千も開票するまでもなく、 当選確実を十割に近い確率で出せるだろう。 そういうわけで「当選確実」は本当に確実なのである。 多分、数千から一万、開票した時点で最初の当選確実が出て、 数万開票した所でほぼ全当選者が確実とされるはずだから、 確認してみてください。

July 13th (Mon.)

朝八時過ぎ起床。電車の時間を間違えて、山科駅で試験監督の遅刻が確定。 やむをえず、快速にのり草津からタクシーでBKCに向かう。
「兄ちゃん、期末試験何時からや?」
「九時半からです!」
「かつかつやな、、まかせとき」
という運転手さんのおかげかどうか、ぎりぎりセーフ。
「がんばって卒業せえよ!」って僕は試験監督なんですが、、、

その後、すぐまた夕方まで会議。 終了後、いったん家に帰って仮眠をとり、夜は大津でチェロのレッスン。

チェロの先生と顔合わせをして、その後さっそくレッスン開始。
京都フィルで活躍しているUさんという方で、 本来は作曲科だったのが二十歳になってから副科で始めたチェロが 本業になったというちょっと変わった経歴の方。 「私はプロもアマも区別しません」という一言から始まり、 最初は恐いなあ、、、と思ったが、 終始おだやかにこちらに合わせて、色んなことを惜しみなく教えてくださり、 非常に充実した時間が過ごせた。 「兎に角、良い音を出すことから始めましょう」と言われ、 今日は開放弦を鳴らすのと、 五度の重音(二本の開放弦を一遍に弾く)の練習をした。 調弦する時に、先生が僕のチェロを弾かれたのだが、 べらぼうに大音量でしかも凄く深い音なので、 このチェロからこんな音が出るのか、とちょっと驚いた。
その他、僕のチェロのことについては、 弦が良くないそうだが、 ちゃんと音を出せるようになってから弦を張り変えた方が、 いい弦の音の良さが感動的にわかるから、しばらくこれで我慢しなさい、 とのこと。 あと、駒が曲がってるから楽器屋で修理してもらいなさい、と注意された。 あ、そうだ、もう一つ。「右手の親指の爪を切りなさい」:-)

九時頃帰宅。白井君が明日から京都に来るかもしれないと言っていたが、 どうなのだろうか。

July 14th (Tues.)

そういや、新しい都市伝説(Urban Legends)って、 最近耳にしませんね。 特に子供の間での噂による伝播の力が失せつつあるのかも。 いいことなのか悪いことなのか分からないが。

アメリカなんかでは、この手の 「友達の友達に本当にあった話なんだけどね、、、」というタイプの 都市伝説を民俗学的、社会学的に研究する分野が意外に盛んで、 素人向きの本で翻訳のあるものとしては、 「消えるヒッチハイカー」「チョーキング・ドーベルマン」 「メキシコから来たペット」(いずれもブルンヴァン著)などがあります。 どれも単純なたわいもない話なのだが、妙に魅力的なのは、 やはり人間の根源に訴えるなにかがあるのでしょう。 素材もしかり、そのストーリーの構造しかり。 人間の原始的な恐怖に訴える素材が、 バルトの言うような神話構造なんかにぴたり嵌っていて、 都市伝説が誕生するのかなあと昔、思いました。
確か、ホラー映画のネタにもなってませんでした? 「キャンディマン」だったかな。

午前九時起床。今日も試験監督。今日もその後、会議。 夕方に終了して一旦家に帰って仮眠をとり、 夜から草津に出動。今日はネットワーク管理グループの前期打ち上げ。

今日から白井君が山科亭宿泊。

July 15th (Wed.)

午前九時起床。仕度をして、白井君と家を出る。 白井君は京大数理研へ。僕はBKCに出勤。 午前中、会議。午後、会議。夕方帰宅して、チェロの練習を少ししてから夕食。

二三日前に「数奇にして模型」での食欲の問題について書いたが、 食欲とミステリは意外に関係が深い。
スタンリイ・エレンの「特別料理」、作家は忘れたが「二瓶のソース」など、 短編にブラックな味わいの傑作が多いし、 長編でも「料理長が多過ぎる」のような有名なもの、 「料理人」(クレッシング)といった奇妙な味わいのものもある。 人間の基本的な欲望であるせいか、 なまなましさを上手く料理できるかが、作品の決め手になるようで、 上に挙げたものは、どれもそれぞれに効果をあげている。
特に「二瓶のソース」はアンソロジーに良く取りあげられる、 後味の悪さで有名な作品なので食欲の、いや興味のある方はどうぞ。

July 16th (Thurs.)

午前九時起床。白井君と家を出て、僕はBKCへ、 白井君は京大数理研へ。 午前中会議、午後会議。

夕方に家に戻り、三条で白井君と待ちあわせて、 「電気食堂」で飲む。 「がんばれ稲垣君」美味しいんだけど、なぜがんばれ稲垣君なんだろう。 稲垣君って誰?

ちょっとばて気味で今日は日記書く元気ないです、、、

July 17th (Fri.)

今日は午後からなのだが、やはり九時前に目が覚めてしまった。 さらに一時間くらい寝床で夢うつつの状態を続けてから起床。 白井君にいれてもらった珈琲を飲んで、チェロの練習。 近くの中華料理屋で昼食をとって、 午後から今日は白井君も一緒にBKCへ。
夕方から学系会議。 その後、I御大と白井君と草津に出て一緒に夕食をとり帰宅。

白井君と数学の話をしていて、 「素数を生みだす多項式」の話になる。
正確に言うと、任意の整数の組を代入すると、その答が正ならば、 それは必ず素数になり、 しかも、逆に任意の素数はその値として表現されるような多項式が存在する、 という定理がある。 このような多項式の例も幾つか見つかっていて、 例えば二十六変数の多項式でこういうものがある。 某A社で、ランダムに素数を生成するプログラムを作っていた時に、 この多項式を使ってはどうかというアイデアを思いついたのだが、 整数を代入した時に、その値が正ならば素数であるのは良いが、 それがどれくらいの大きさの素数になるのか、 代入する整数の大きさとどういう関係になっているのか、 大きさの評価がきちんとできなかったので (というか真面目に考えている暇がなかったので)、 実装はしなかった。 今、思ってみるにかなり良いアイデアのような気がするので、 興味のある人はやってみたら大金持になれるのかもしれないですよ (結局、ひとまかせ)。

July 18th (Sat.)

今日は休日なのにやはり九時前に目が覚めてしまった。 白井君にいれてもらった珈琲を飲んで、 ケルナーのフーリエ解析問題集の翻訳の仕事を少し。 昼食を白井君と一緒に食べて、家でごろごろ。

白井君がなにを思いたったか、ワインの空瓶に水を入れて オクターブを作るという遊びを始め、しばらく熱中する。 白井君はフルートを吹く人なので、さすがに管の音感は確かで、 ばしっと A を作り、順にオクターブを作っていた。 空瓶を吹いて出る音はどうもかなり良い単音らしく、 チェロのそばで A を吹くと、チェロが勝手に共鳴して鳴り出す。 チェロは巨大な共鳴箱なので当たり前なのだが、ちょっと驚き。
その後、数学の話などをして、夕方に白井君は東京に帰っていった。

僕は夕方から大阪へ。梅田のフェニックスホールで、 チェロ、ヴァイオリン、ピアノのコンサートを聴く。 メンデルスゾーンのトリオなど、なかなか良かった。

July 19th (Sun.) - 20th (Mon.)

19日、三条にチェロを修理に出しに行ったのだが、 一週間あずかることになるというので、 結局再来週のサマーセミナーの時期に修理に出すことにする。 帰りに Cafe Riddle で白桃のジュレを食べながら計算をしていると、 知人から PHS に入電。今から京都に来ると言うのので、 夕飯を一緒に食べることに。 三条の「電気食堂」の姉妹店、四条の「おばけ」で食事。

20日、海の日で休日。夕方から哲学の道沿いにある アトリエ・ド・カフェでのチェロとピアノのコンサートに出かける。 それぞれ作曲者の祖国が違う12の小品をチェロで弾いていく、 という企画で非常に面白かった。 最後にアンコールで弾いた「浜辺の歌」では、 突然懐しいメロディがチェロで優雅に弾かれるのに胸を突かれて、 思わず涙が零れそうになった。 「浜辺の歌」はもちろんあの、「あした、浜辺をさまよえば、、、」 で始まる誰でも知っている日本の曲である。 カザルスの「鳥の歌」やドヴォルザークの「我が母の教えたまいし歌」などを、 カタルニアなりチェコなり、 その国の人が聞くのも同じような感動があるのだろうか。

今日で三連休も終わりか、、、 休暇の最後の数時間を「長いお別れ」(チャンドラー)でも、 再読して過ごすことにしよう。


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