1999 July. 前期 (Arcana 18)

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過去のお言葉

July 1st (Thurs.)

午後から大学へ。 午後は雑務の後、雑務の後、雑務。

昨日の問題の解答。まず一つ目の問題から。
黒い点と赤い点をペアに結ぶ方法はたくさんあるが、 それは高々有限個に過ぎない。 ある結び方に対して、 その n 本の線分の長さの和を対応させよう。 結び方は高々有限個しかないのだから、 線分の長さの和を最小にするような結び方が必ず存在する。 実はこの結び方には線分の交わりが一つもない。 なぜならば、もし黒Aと赤A、黒Bと赤B を結ぶ線分が交わっていたとすれば、 その二本だけ、黒A と赤 B、黒B と赤A に結び直した結び方の方が、 明らかに短かくなるからである。証明終わり。

二つ目の問題の解答。
まず閉曲線の上に閉曲線の四等分点 A, B, C, Dをとる。 今の所、この四点は同一平面上にはないとして、 その内の三点 A, B, C を含む平面を考えよう。 残りの一点 D はその平面で分けられた二つの空間のどちらかにある。 これをこの平面の「右」と「左」ということにして、 D は平面の「右」にあるとしよう。 同様に B, C, D を含む平面を考えると、 点 A は先程の D と反対側、すなわち平面の「左」 にあることに注意せよ。 この二つの状態は、連続にうつりあうことができる。 すなわち、四等分点を曲線の上でA が B に、B が C に、C が D に、 D が A になるように連続に移動させていこう。 A, B, C で作られていた平面が、B, C, D で作られた平面に連続にうつり、 その移動の最中に平面外の残りの一点は平面の「右」から「左」に移動する。 ということは、この移動のどこかで平面と交わったはずである。 そこで、四等分点が同一平面の上にのっている。 証明終わり。

July 2nd (Fri.) - 4th (Sun.)

1904年6月16日に何があったか?

2日(金)。午後から大学へ。 「確率・統計」の講義。最尤法の残りをやって、 正規分布や t-分布を使った区間推定の方法など。 その後、学系会議。
3日(土)。雨の中、名古屋大でのシンポジウムに参加。
4日(日)。久しぶりにさわやかな晴天。 ちょっと名古屋に移動しただけなのに疲れていたらしく、 午後までたっぷり寝てしまった。 しかも、風にあたりながらベッドで横になって、 ヨーヨー・マの "Simply Baroque" を聴いていたら、 いつの間にか眠ってしまい、午睡まで(二時間も)してしまった。 夕方から三条に出て、Cafe Riddle で本を読んだり。

今日の読書。「ユリシーズ」(J.ジョイス/訳:丸谷・永川・高松)。
内緒にしていたが(誰に?)、実は初めて読む。 大きな声では言えないが実は読んでません、 という作品が結構多いのである。 今日から読み始めていつ頃、読み終わるかは不明。

ジョイスと言えば、柳瀬尚紀。 僕は柳瀬尚紀は大好きなのだが、 「フィネガンズ・ウェイク」などを読んで、 ジョイスの柳瀬訳はどうかなあ、と思った。 ジョイスに対する柳瀬尚紀の感覚は正しいと思うし、 大変共感してもいるし、 文学とジョイスについての物凄い博識ぶりを尊敬してもいる。 しかし、ジョイスの柳瀬訳は好きでない。 これは翻訳の一般論になってしまうが、 例えば、英語の言語に依存した洒落があったとしよう。 僕の好みでは、これは日本語の洒落に無理にうつして欲しくない。 表面の意味だけ翻訳して、 註釈でここは洒落なのだ、と欄外に書いて欲しい。 原作者の洒落につきあうのはいいが、 翻訳者の洒落にまでつきあいたくないのである。 例え、そのセンスがいかに素晴しく、 博識と的確な解釈に裏打ちされていたとしても、 やっぱり余計だと思う。 もちろん、これは好みの問題ですけど。

ところで、「ユリシーズ」第12挿話での話者「俺」は実は犬である、 という柳瀬説、どうなんでしょうねえ。 「ユリシーズ」全文は、 カナダのトレント大学の ジョイス関係のアーカイブ からダウンロードできます。

July 5th (Mon.)

午前はチェロの練習をして、午後から京大数理研でゼミ。 リーブらの熱力学の公理化の話などを聴く。 ゼミの後、皆で数理研の近くで飲む。

実は数日前に「涙流れるままに(上・下)」(島田荘司)読了したのですが、 感想を書くと否定的なことばかり書いてしまいそうなので、 やめておきます。

今日は酔っぱらっていますので、この辺で。

July 6th (Tues.)

メイト宣言の不遜

午後から BKC へ。 「数学解析」の講義。 ラプラス変換の性質について色々。 その後、教授会。

JPCA の記念すべき第一回 E-mail Open (チェスの電子メイルによる通信試合)に 「ビリから二番目」のレイティングで参加しています。 対戦相手の大ポカのおかげで、 今日で一勝を上げました(14 手目で Mate in 3 Moves 宣言)。 これでレイティング通りの順位はクリアか?(笑)。

July 7th (Wed.)

午後から BKC へ。 確率論ゼミのあと、暗号ゼミ。

今日は七夕ですね。幸いにも京都の天気は良いようです。

悪魔が魂と引き換えに三つの願いをかなえてくれるという話が ありますよね。 子供の頃にあの話を知って、 「魂と引き換えに」とはどういう意味なのだろうか、 と思ったものだ。 今ではキリスト教の考え方を少しは知っているから、 まあ理論的には大体わかるのだが、 それでも実際に三つの願いが叶ったあとに、 具体的にどうなるのか、と言うことはイメージしにくい。

まあ、そういう難しいことは別にして、 この話のよく出来ているところは、 悪魔(なのかその使いなのか)が 「人間の願いを叶えるという形でしか邪悪な力を発揮できない」 という所である。 これは巧い。最初に考えた人はよっぽど頭がいいに違いない。 この悪魔は悪いことが何でも出来るわけではなくて、 人間が望んだことを(人間が思っていたのとは違う形で)叶える、 という制限された形でしか力を発揮できない。 このテーマでは人間の方がいかに悪魔を出し抜くか、 ということに焦点を置くことが多いが、むしろ、 悪魔の方も厳しいルールの中で最善(最悪?)を尽くそう、 と頑張ってるわけですね。

もちろんいくらこのテーマが面白いとは言っても、 これで小説を書くのは絶対にやめておきなさい、 と星新一も言ってます ;-) 本人はたくさん書いてますけど。

July 8th (Thurs.)

やさしい問題のやさしくない解

午後から BKC へ。 午後一杯、コンピュータヴィジョンが専門の同僚の先生から 尋ねられた簡単(そう)な二次曲線の問題を考えてみたが、 どう考えてみてもうまく出来ず、 結局、簡単な解の表示はない、という結論に達した。 大学入試問題なみの初歩的な問題に見えるのだが、 計算が四次方程式に帰着してしまい、 どうしても綺麗な構造が出てこない。 こういうこともあるんだなあ、と思った次第。

夕方から某ミーティングに参加予定だったが、 電話で某新聞社から R 大学が計画中というプロジェクトの取材があり、 ミーティングはやむなくさぼり。 噂でそういうプロジェクトがあるという話は聞いていたのだが、 まさか僕がやることになっていたとは知らなかった(おい)。

取材のあと、数学科の A 氏、K 氏、 リタイアの後学生になった S さんと飲みに行く。

July 9th (Fri.)

My Erdös number is 5

午後から BKC へ。 「確率・統計」の講義。 その後、昨日の二次曲線の問題について同僚の先生と少し議論など。

今日のお言葉にあがっているエルデシュ先生は、 史上最も共著論文の多い数学者としても有名で、 その共著者の人数は 485 人と言われている。 数学的冗談の一つとして「エルデシュ数」と言うものがある。

エルデシュ自身のエルデシュ数は 0 である。 エルデシュと共著論文を書いたことのある者のエルデシュ数は 1 である。 エルデシュと共著論文を書いたことのある者と共著論文を書いたことのある者の エルデシュ数は 2 である。 この調子で共著者をたどって、 何ステップでエルデシュに至るかをエルデシュ数と言う。 エルデシュに至るような共著者を持たない場合のエルデシュ数は無限大と定義する。 現在知られている最大の有限のエルデシュ数は 7 だそうである。

というのは、 昨日数学科の A 氏と雑談をしている時に、 僕のエルデシュ数は 5 である、と教えてもらったから。 最近論文を書いていないもので、 論文の話をするのは嫌いなのだが、 つい面白くて引き込まれてしまったというか、 確かにそう言われてみれば、そうだそうだ、と妙な感心をしてしまった。 スタート地点が Chang-Erdös-Shirao だというのが、 ちょっと盲点だった。 赤の他人同士でも友達の友達の友達とたどっていくとほとんどの場合、 わずか数ステップでつながってしまう、という話があるが、 案外近いものであるなあ、と感心したことであった。 この エルデシュ数プロジェクト にエルデシュ数2の数学者全リストなどがありますので、 興味のある方は辿ってみてはいかが。

July 10th (Sat.)

複数形に注意

数学科の A 氏と確率論若手サマーセミナーの 予定地を下見に行く。 山科から50分ほど JR にのって、稲枝駅下車。 そこからさらに迎えにきてもらった車で二十分ほど。 うーむ、サマーセミナーに相応しい田舎ぶり(笑)

帰りに近江八幡で、しゃぶしゃぶを食す。 近江牛を堪能。 A 氏はまだ東京に色々と「諸問題」(複数形に注意)をかかえているそうです。 誰か相談にのってあげてください。

帰りの電車の中で暇なので、例の二次曲線の問題を考える。 山科につく頃に、簡単な相似関係に気付きすっかり解けた、 と思っていたのだが、 家について冷静になってみたらやっぱり全然解けていなかった。


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