1998 June 中期 (Arcana 18)

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過去のお言葉


June 15th (Mon.)

午後より京大数理研へ。T師匠と院生のK君とゼミ。 今日は先生が最近計算したことなどを話したが、 体調を崩されているようで早いおひらき。

今日の読書。"Never too late" (by J.Holt). 教育学者の Holt の音楽を中心にした自伝的音楽体験記。 特に四十歳になってからチェロを学ぶ所が中心。

ある死刑囚が後一週間以内、次の日曜日までに死刑執行されることになった。 しかし、死刑囚の精神状態を考えると、 死刑執行の日を知ってしまうのは憐れであろう、との配慮から、 「死刑囚が予期しない日」に突如死刑を執行することになった。
囚人はこう考えた。 土曜日まで執行されなかったとすると、期限は明日の日曜までしかないから、 明日執行されることが予期できてしまう。 したがって、日曜日の執行はあり得ない。 では土曜はどうか?金曜の夜まで死刑が執行されなかったとすると、 土曜か日曜に執行されなければならないが、 日曜は上に述べた理由であり得ない。 となれば土曜日に執行されるはずであると予期できてしまう。 したがって、土曜日の執行もあり得ない。 では金曜はどうか?木曜の夜まで死刑が執行されなかったとすると、、、 とこの議論を続けて、結局死刑を執行することはできないはずである、 と囚人は論理的に結論し、安心してぐっすりと眠った。
この囚人の議論はどこがおかしいか?

June 16th (Tues.)

午後からBKCへ。 暗号ゼミ。 エントロピーの簡単な性質など。 Jensen の不等式の証明でひっかかり、あまり進まなかったが。

その後、緊急の教授会が召集。

さて、囚人シリーズ第二回。
三人の囚人A,B,Cがいて、 この内の二人が死刑になることが決まっているのだが、 どの二人なのかは囚人達は知らない。 囚人Aはこう考えた。 三人の内二人が死刑になるから、自分が死刑になる確率は三分の二である。 しかし、 三人の内二人が死刑になるということは、 自分以外のBとCの少なくとも片方は必ず死刑になるのだから、 それをBと仮定してもよかろう。 とすれば、死刑になるもう一人はCと自分のどちらか片方であるから、 自分が死刑になる確率は二分の一である。 三分の二のはずの確率が二分の一に減って、彼は少しばかり心の平安を得た。
この議論はどこがおかしいか?

それでも不安だったAは、 誰が死刑になるか知っている看守にこう持ちかけた。
「BかCの少なくとも片方は確実に死刑になるのだから、 BかCで死刑になる一人の名前を教えてくれないか?」
看守はしばらく考えた。確かに二人の内、 少なくとも一人は死刑になることは明白であり、 (二人とも死刑なのかもしれないが)、 その名前を教えてもAにとっては何の情報にもならないだろう。 看守は「Bは死刑になる」とAに答えた。 Aは、今や、自分とCのどちらか一方だけが死刑になることを知ったから、 自分が死刑になる確率は三分の二から二分の一に確かに減ったと思い、 少しばかりの心の平安を得た。
この議論はどこかおかしいか?

June 17th (Wed.)

午後からBKCへ。 夕方から兄弟子にあたるSさんの講演。 Sさんは数理ファイナンスの研究をしており、 今日の講演は完全でない市場での金利先物などのヘッジについての 最近の話題(だったと思う)。 最近、流行っているのは、"Default"(倒産、破産)の評価だそうな。

その後、夜はSさんを囲んで草津の中華料理屋で食事。 さらにその後、Sさんと数学科の講師のAさんと三人で山科で飲む。 Aさんの名言「K先生も最近、伸びてきたよ」などを聞き爆笑。

食事会、その後の居酒屋でも、偉いと思う研究者は誰か、 最近注目の研究者は誰か、という話題が出た。 もともとは我々の師匠のT先生が昔挙げた四人の名前が正当かどうか、 とI御大にSさんが聞いたことから始まったのだが、 I御大の意見は「自分もそう思う。しかし一般にはそう思われてないだろう」 とのこと。 Sさんはディフィ、フェルマー、スツルックだそうな。 僕は最近全然論文を読まないので特にないのだが、 強いて言えば興味を持っているのは、、、、丸山先生と白井君かな (かなりマジ)。

June 18th (Thurs.)

今日は勝手に自主休業。
午後は本を読んだり、チェロの練習をしたり。 ようやく音叉でA弦を合わせて、 完全五度ずつ離して他の三弦を合わせるという調律が出来るようになってきた。 もちろん、弦を鳴らすだけで五度ずつ調律するなどという音感があるはずもなく、 そこは物理現象の応用であるちょっとしたトリックがあるのだが、 それについてはまた今度。ただこの方法では純正律にしか合わせられないのが、 たまに傷なのだが。 (というか、弦楽器も平均律に合わせるものなのだろうか? 音感がある人なら可能ではあろうが)

囚人シリーズ第三回。今日は非常に難しい問題。

ある国のある所に知能犯専門の刑務所があって、 ここの囚人達は全員非常にインテリジェントで、 極めて鋭い推理力を持っている。 ある時、この囚人達の中の何人かに特赦を出すことが決定した。 囚人達は自分以外の囚人に対しては、 誰が特赦予定者であるか刑務所職員に個人的に聞いて知っているとする。 ただし、自分本人が特赦予定者であるかどうかは職員も教えてくれないし、 囚人仲間もやっかみがあるので本人には教えてくれない。 刑務所所長はインテリな囚人達が嫌いだったので、 ただ特赦を出すのが嫌で、 自分が特赦予定者であることを論理的に帰結できたものに限って、 本当に特赦を出すことを発表した。 その日から丁度一週間後の朝礼時に、 特赦予定者全員が刑務所所長に「自分は特赦予定者である」 と宣言し、確かに特赦予定者全員が特赦となった。
さて、問題。特赦になったのは何人?

ちょっと条件を正確に。自分が特赦予定者であることが分かったと、 所長に宣言できるのは一日一回の朝礼の時のみとする。 さらに特赦予定者であることに気付いた囚人は、 すぐさま次の朝礼でそのことを宣言するものとしよう。

June 19th (Fri.)

朝から雨で、猛烈に湿度が高い。 午後から学校へ。学系会議や、 コンピュータビジョン関係の研究をしているJ先生と議論など。 この前の身体検査の結果が出ていた。特に異常はなかったが、 半年前に比べて体重が5キロ減っていた。苦労してるのかな、、、私。

さて、昨日の問題だが、答は「7人」である。
私がこの問題を初めて知ったのは、 中学校に入ったかどうかくらいの子供の頃だった。 その問題では答の人数は知らされていて、どうしてそう結論できるのか、 と理由を問う問題だったのだが、 答を読んで理屈はわかったもののいつまでも(今でも) 何処か不思議な感覚がぬぐえない。 数学というのは自明な論理を積み上げているだけなので、 ある意味では結論も当然の結果なのだが、 どうしても不思議に見える時がある。

さて、何故7人と結論できるかという理由。
この問題のポイントを挙げて整理してみよう。 (1)「囚人はみな非常に頭が良い」 (2)「囚人は自分が特赦かどうか知らないが、 自分以外の他人が特赦かどうかは知っている」 (3)「少なくとも一人は特赦がいる」 (4)「丁度一週間後、すなわち7回目の朝礼で、 特赦予定者は皆自分が特赦予定者であることを結論した」
以上が重要なポイントである。

まず、特赦予定者が一人である時から考えよう。
とすると特赦予定者本人Aは、 自分以外の囚人は皆特赦予定者でないことを知っているから、 このような発表があった以上、他ならぬ自分が特赦予定者なのだ、 と推論できる。したがって、 彼は明日の最初の朝礼で自分が特赦であると宣言するだろう。 特赦予定者でない他の囚人達は、彼が特赦予定であることを知っていたが、 自分が特赦予定かどうかはわからないので、第一日目では何も結論できない。 次の朝礼でAが宣言するのを聞いた時に、以上のAの推論をたどって、 A以外には特赦がいなかったことを、 すなわち自分は特赦予定者でなかったことを知ることになる。

次は特赦予定者が二人である時を考えよう。
特赦予定者をA,Bとすると、 Aは自分以外にはBだけが予定者であると知っているが、 自分が予定者であるかは知らないので、予定者はB一人なのか、 自分を含めた二人なのかは初日の段階ではわからない。 Bも同様である。 したがって次の日の朝礼で宣言するものはいない。 ところがこの朝礼が終わった段階で、 Aはこう考える。もし、B一人だけが予定者であったならば、 Bは自分以外には誰も予定者がいないことから自分が予定者であると結論し、 この朝礼で自分が予定者であると宣言したはずだ。 しかしそうしなかったということは、 Bも自分が予定者なのかどうか結論できなかったのであって、 それは他ならぬA自身が予定者であることをBが知っていたことを意味する。 よってAは特赦予定者である。 Bもこれと同様に考えて、自分が特赦であることを推論するだろう。 したがって二回目の朝礼で、AとBは自分たちが特赦であると宣言するだろう。 A,B以外の囚人はこの二人が予定者であることを知っていたが、 この二人だけが予定者なのか、自分自身を含めた三人が予定者なのか 結論できず、AとBが宣言するのを聞いて初めて、 自分は予定者でなかったことを結論することになる。

さて、次は特赦予定が三人の時、、、と順番にやっていけば、 特赦予定者が n 人の時、n -1 回目の朝礼が終わった時点で、 n 人全員が自分が予定者であることを結論し、 n 回目の朝礼でそれを宣言することがわかる。

June 22th (Mon.)

土日は猛烈な豪雨。 京都南部は洪水警報が出るくらいだった。 何故か傘が一本もなく、冷蔵庫も丁度カラ。 宅配ピザと具なしのペペロンチーノでしのぐ。

月曜日。 京大数理研にちょっと調べものに行ってから、三条まで戻ってくる。 築八十年くらいという毎日新聞京都支社の、 一階にあるギャラリーに行ってみるが、 生憎月曜は休み。その地下に最近出来た極めて怪しげなバーを覗いてみるが、 こっちも改装中らしくあいていなかった。残念。

どうも、精神的にちょっとばて気味。


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