1998 June 後期 (Arcana 18)

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過去のお言葉


June 22th (Mon.)

土日は猛烈な豪雨。 京都南部は洪水警報が出るくらいだった。 何故か傘が一本もなく、冷蔵庫も丁度カラ。 宅配ピザと具なしのペペロンチーノでしのぐ。

月曜日。 京大数理研にちょっと調べものに行ってから、三条まで戻ってくる。 築八十年くらいという毎日新聞京都支社の、 一階にあるギャラリーに行ってみるが、 生憎月曜は休み。その地下に最近出来た極めて怪しげなバーを覗いてみるが、 こっちも改装中らしくあいていなかった。残念。

どうも、精神的にちょっとばて気味。

June 23th (Tues.)

午前中はチェロの練習など。 七月あたりには先生に習えそうなので、 基本的な所のおさらいを中心にする。

午後から BKC へ。暗号ゼミ。 自然言語のエントロピー、冗長度の定義や、その暗号攻撃への応用など。

七月に入ると学生達は試験のシーズン、それが終わると夏休みなので、 そろそろ卒業研究のことを考えなくてはいけないか、と思い、 学生達にネタをふってみる。 最近、DES の次世代にあたる対称暗号が募集されていたことは、 御存知の方も多いと思う。 締切が過ぎて、今の所、次世代暗号候補として有力視されているのは、 Rivest の RC6、Schneier の twofish などだが、 これらのアルゴリズムの理解とコーディング、 計測、評価、cryptoanalysis をやってはどうか、とサジェスチョン。 色んなレベルのアプローチがあるとは思うが、 ちゃんとアルゴリズムを理解して、自分なりにコーディングできて、 ちょっと評価実験をするくらいまでいけば、 卒研としては恥ずかしくないし、ホットな話題だけに興味を引くと思う。 最悪の場合、候補になっている暗号を理解し日本語で解説するだけでもよかろう。 実際に本格的に cryptoanalysis するというのは、 既に立派な研究のレベルなので、今後、数年ネタには困らないだろうし、 技術も蓄積していけるだろうとの、 新米教官としてはかなり考えた結果なのだが、、、 どうなることやら。

June 24th (Wed.)

午後から三条に出て、某ギャラリーをのぞき、 その地下のカフェを探索。6月の間は夕方5時からの夜の部のみの営業とのこと。 十字屋でヨーヨー・マのバッハ無伴奏チェロ組曲のビデオを買ったりして 時間をつぶしてから、謎のカフェに戻る。 豚背肉のトマト煮でビールを飲みながら読書。 確かに怪しすぎ、、、この店。

囚人シリーズが意外に好評だったので、今日もまた問題。
非常に有名なパズルに、 常に正直に答える人と常に嘘をつく人のどちらか分からない相手に、 一つ質問して何かを知るにはどうすればいいか、というものがある。 よくある形の一つは、天国か地獄かの分かれ道に案内人が立っているのだが、 彼は常に正直な案内人か常に嘘をつく案内人かのどちらかで、 そのどちらかは分からない。 彼に一回だけイエスかノーで答えられる質問をすることができるのだが、 どんな質問をすれば天国への道が分かるだろうか?というパズルである。

この問題は有名なので、ここで答はかかない。 今日の問題はある意味では、その究極のバリエーションである。

今日の問題。先に言っておくが、これはかなり難しい。
常に本当のことを言う人と、常に嘘を言う人がいた。 この二人はまったく見分けがつかない(ここまでは一緒だ)。 ところがある日のこと、常に嘘を言う人が頭を打った結果、 気が狂ってしまい、正しいことを正しくないと思い込み、 正しくないことを正しいと思い込むようになってしまった。 つまり彼の中で真偽がひっくり返ってしまったのである。 しかし、常に嘘をつくという彼の性格はそのままだった。 したがって、彼は正しいことは、正しくないと自分では信じているため、 さらに嘘をつく結果、正しいと発言する。 また正しくないことは、正しいと自分は信じているため、 さらに嘘をつく結果、正しくないと発言する。 例えば「2 たす 2 は 4 ですか?」と質問すると、 彼は 2 たす 2 は 4 ではないと信じこんでいるので、 本当の答はノーだと思い、 それに対して嘘をついて、正直者と同様「イエス」と答える。 つまり彼は一見、正直者とまったく同じ返答をするようになってしまった。

さて、問題。 イエスかノーで答えられる質問で、 この狂った嘘つきと本当の正直者を区別できるようなものはあるのだろうか?

June 25th (Thurs.)

午後からBKCへ。今日は特に用事はないので、 研究室で数学を考えたり。

昨夜はヨーヨー・マのビデオを観て、非常に楽しかった。 特にチェロに興味がない人でも、きっと楽しめると思う。 特に第四巻目の「サラバンド」(無伴奏チェロ組曲四番)は、 映像作家エゴイアンが撮ったドラマ仕立てで、 ちょっとした映画よりよっぽど面白かった。 ヨーヨーをコンサート会場まで連れていく、 リムジンの運転手の爺さんが何とも言えないいい感じ。 本人の最近の代表作らしい「エキゾチカ」より面白いんじゃないかなあ。

この、"Yo-Yo Ma, Inspired by Bach" は、六巻組のビデオで(LD もある)、 バッハの無伴奏チェロ組曲の第一番から六番まで、 チェリストのヨーヨー・マがそれぞれを異なる分野の人達と コラボレーションしたもの。 一番は造園家のメサヴィと、 二番は幻の建築家ピラネージについて録音技術者のエプスタインや 建築家のサフディなどと、 三番は振り付け師のマーク・モリスと、 四番は映像作家エゴイアンのドラマ、 五番は玉三郎と舞踊について、 六番はアイスダンス(!)のトーヴィル&ディーンと、 いうように多種多彩のコラボレーション。 どれも約一時間弱なのだが、どれを観ても何か引っかかる所があって、 それぞれ傑作かどうかは分からないが、絶対観て無駄ではないと思う。 これらが綺麗な凝ったつくりのケースに入っていて、 二万円は安いような気がする。

昨日の問題は難しいかと思ったら、すぐに回答を寄せてくれた方々がいた。 答は「あなたは正直ですか?」である。 正直者はもちろんイエスという。狂った嘘つきは、 まず自分が正直であると信じているので、それに対して嘘をつき、 ノーと答えるだろう。 ただ自分が正直だと信じているのに、嘘をつく、というのは矛盾ではあるが、、、
正解者の一人、某A社のSさんの言葉によれば、教訓は 「常に嘘をつくためには、真理は何か、を知らねばならない」とのこと。 なるほど。 多くの宗教では悪魔はもとは天使であったとされることが多いが、 悪魔も元来天使であったが故に、悪についてのエキスパートになれたのであろう。

June 26th (Fri.)

今日は用事もないので、 家でチェロの練習をしたり、数学を考えたり。 チェロはハ長調のスケールと三度音程、四度音程をさらい、 バッハの無伴奏チェロ組曲の一番からプレリュードの冒頭部と、 サラバンドの冒頭部を練習。 数学は目下計算中の確率積分の積の期待値について。

夕方になってから三条に出て、十字屋で CD を買ったり、 本屋を覗いたり。 Cafe Riddle で一休みして帰る。

昨日、マの無伴奏のビデオを観たせいもあって、 朝からカザルスやマイスキーのバッハ無伴奏組曲を流しっぱなし。 一番は自分でもほんのちょっぴり練習をしているので、 やっぱり聞き方がチェロに全く触っていなかった頃とは全然変わってくる。 そういう意味でも楽器を噛るというのは良いことかもしれない。
カザルスは、マやマイスキーやフルニエに比べて、 とてつもなく独特な演奏であることや、 マイスキーのありえないような音色の美しさ、流れるような自然さが、 少しわかってくる。 また楽譜を見ながら聞いていると、バッハのこの曲が、 本来単音楽器であるチェロに和声的、多声的な演奏をどこまでも要求するという、 恐しいことをやっていることが朧げながら、わかってくる。

やっぱり音楽が好きな人にとっては、 少しでも自分で楽器に触れることは良いことだと思います。 あたりまえのことばかりなのだろうけど、 日々発見がある。 チェロを持ってみて初めて、「あれ?どうやって和音を弾くんだろう」 って思いましたもの。

June 27th-28th (Sat.-Sun.)

二十七日、土曜。 東京から何やら秘密任務を帯びて単独関西訪問をしているらしい、 O姐さんから連絡があり、一緒に三条でお食事をする。 御隠居部のT部長もやってくる(かもしれない)という話だったので、 先斗町の「我留慕」に移って待つことにする。 が、しかし結局都合がつかなかったらしく、深夜におよんでも現れず、 僕は終電で帰った。O姐さんは、週末の河原町の喧噪の中へと消えていったが、 その後また秘密任務に戻ったらしく行方不明。

二十八日、日曜。 今日も湿度の高い気持の悪い天気。チェロの練習と、明日のゼミの準備など。

O姐さんにも、最近日記がつまらないと批判される。 そう他人が読んで面白い日記にはならないですよ、、、だって日記なんですから。 最近特に無事平穏に暮らしてるし。 何もない日常を淡々と書いてしかも味のある、 といった百鬼園流を目指して行くしかないか。

June 29th (Mon.)

午後より京大数理研でゼミ。 今日は僕と院生のK君、T師匠の全員が少しずつ話したので、 遅くなった。三人で食事をして帰宅。

今日は師匠に 「頭が計算モードになってないね」と言われ、ちょっと落胆。 多忙であまりまとまった研究の時間が取れないことは事実だが、、、 要努力。

そういや、T部長が行方不明なのは ハネムーンに行っているらしいですね?

June 30th (Tues.)

午後よりBKCへ。 暗号ゼミ。直積型の暗号についてなど。 某A社のアルバイトをする気がないか、聞いてみるが、 四年生は卒業をかけた試験シーズンでそんな余裕もあるはずもなく、 唯一の院生T君にも「なにかと忙しい身で」とかで断わられてしまった。 まあ、T君は無給で助手よりこき使われているから無理もないが、、、

T部長、旅行より御帰還。
お土産にモロッコ革装の詩集をもらったが、 こんなことをするから、 モロッコにハネムーンに行っていたなどとホラを流されるのだろう。 新婦(予定者)にも初めてお会いしたが、 T部長の相手ともなればどんな変わった子かと思ったら、 「内気な男の子」といった風情のほっそりした可愛らしい女の子であった。 部長も早く甲斐性をつけて、ホラを本当にしてほしいものだ。 御馳走さま。 ちなみにこれがお二人の お写真(pic1gif 本人許可済)。

夜はフルニエでベートーヴェンのチェロソナタを聞いたり。


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