1999 May. 前期 (Arcana 18)

「秘法十八」に戻る トップページに戻る
過去のお言葉

June 1st (Tues.)

通信傍受法案、衆議院通過ですか…

午後から BKC へ。 「数学解析」の講義。今日はフーリエ級数論。 その後、色々と雑務。 今年の確率論若手のサマースクールの幹事をやっているのだが、 ようやく締切直前になって参加申込が集まり始め、 ちょっとほっとする。 まだ申し込みをしていない方はお早めに。締切は今週末、金曜日です。

アレンジと言えば、単位僅少者面接の段取りもあった。 単位僅少者面接というのは、 あまり単位を取っていない学生に教官が面接を行ない、 頑張って勉強しようね、と励ましてあげるのである。 正直に言って、学生にとって大きなお世話だと思うのだが、 大学全体でこういうサーヴィス(?)を行なっているらしい。 この面接の最大のポイントは面接に呼び出すこと自体で、 「俺って留年しそうになってるらしいぞ」 と学生に気付かせることであるらしいので(溜息)、 何らかの役割を果たしているのだろう。 これに限らず、とにかく面倒見良すぎだと思うのだがなあ。

June 2nd (Wed.)

午後から大学へ。 暗号ゼミでプロトコルとはなんぞや、みたいなことをやって、 さらに確率論ゼミ。こっちでは、 概収束すれば確率収束するとか、L^p 収束すれば確率収束するとかの証明。 概収束すれば確率収束することの証明は、 「そんなの簡単でしょー」と学生に言って黒板でやろうとしたら、 つまってしまって、結局本を調べに行くような情けないことになる。 本質的には上極限と測度の交換の間に成り立つ不等式から出るのだが、 そこのとこをちゃんと分かっていなかった。反省。 さすがに L^p 収束から確率収束はすぐ説明できたが、 学生に説明している間に、 チェビシェフの不等式の意味がより深く分かった(笑) ずいぶん、自分の勉強にはなったゼミだった。 学生にとってはどうか知らねど。

夜は京都コンサートホールでベートーヴェンを聴く。 なんと「運命」。正直に言って、初めて生で聴いた。

June 3rd (Thurs.)

京都は少し雨が降ったり、曇ったり。 もう梅雨入りとは、月日の経つのははやいものだ。 自宅で来週佐賀大学での集中講義の準備をする。

サマースクールの申込も締切を明日にひかえてようやく集まり始め、 幹事としてはほっとする。 ひょっとして数人で合宿なんてことになったら、 どうしようと思っていた。 それはそれで勉強になったかも、だが。

これは僕の個人的な意見。 今のサマースクールはそれはそれでいいと思うのだが、 今よりももう少し年齢層が上で、 ポストを得たばかりかその前後くらいの研究者が十人くらいで集まって、 勉強会をすると凄く良いと思うのだが、いかがか。 内容は今よりもくだけて、 普段なかなか勉強できないような基本的な論文を、 みんなでだべりながら読むとか、そんな感じでいいと思う。 若手サマースクール引退者中心にして 「若年増セミナー」くらいでどう?

June 4th (Fri.)

午後から大学へ。「確率・統計」の講義の後、学系会議。

最近、ねずみコウまがいの商法にハマる学生が増えているそうな。 今回問題になっているのは、かなり洗練された手法で、 ファイナンス手法と言ってもいいくらいだ。 なんでも店を出すからと言って出資金をつのるらしい。 まず対象者に消費者金融で借金させる。 その借金を出資させるのだが、その場でその一割を本人に渡す。 そして決まった期限の後に、借りた元金プラス利子を本人に返却する、 というものである。 本当に返してもらえれば、本人は一割儲かることになる。 で、どこがネズミかと言うと、この返却分を新たな「子」 の出資(借金)で補填するのである。 ファイナンス(資金調達)の真髄は「信用の創造」にあるわけだが、 ここでは客の信用をネズミ的に連鎖させていることになる。 ここでマチ金で金を借りさせないで、 単に出資させるだけなら明らかにねずみコウなのだが、 それを借金で補い(すなわち信用におきかえ)、 しかもその場で一割を本人に渡すことで、 なんとなくその場で何もない所から一割儲かったような気になるところがうまい。 単に本人の借金(信用)のほぼ全部を取りあげているだけなのだが。

ファイナンスしたものを実際は投資せずに 連鎖で儲けようとしているところや、 マチ金で借金させるところなどは極悪だが、 本質的にはファイナンス技術と言ってもいいかもしれない。 例えば、債券(他人の借金)を買って、それを担保に同じだけ借金して、 その金を20倍のレバリッジ(てこ)率でインデックス先物に投資、 なんてことが金融工学と呼ばれる世の中だから。

June 5th (Sat.) - 6th (Sun.)

五日。集中講義の準備など。夕方はチェロのレッスン。

六日。一日中、集中講義の準備。一時間ほどノートを作っては、 十五分ほどチェロを弾いて気をまぎらわせ、の一日。 チェロの先生に勧められた Feuillard の "Daily Exercises" からちょこちょことトリルや音階の一番簡単な所を練習。 この本は40ページくらいしかない薄っぺらい冊子で、 芸術性のまるでない指の練習、右手の練習がずらずらと纏められている。 技巧へのチャレンジという意味で楽しい本である。

月曜から佐賀大学に出張しておりますので、日記更新は休みます。 再開は来週月曜日。またの御贔屓を。

June 7th(Man.) - 13(Sun.)

7日(月)から五日間、佐賀大で集中講義とセミナー。 細かい準備は自転車操業でやろうと思っていて、 資料をたくさん持って行っていたのだが、 月曜は O 先生、火曜は K 先生、水曜は M 先生と K 先生、木曜は歓迎会と、 ローテーションを組んだかのように、 毎晩入れ代わり立ち代わり飲みに連れて行ってくれ、 結局準備したものだけで講義をすることになった。 そんなに飲むのが好きだと思われているのだろうか…

とは言え、 佐賀大ではスタッフが非常によくしてくれ、 色々と便宜をはかってくれたのでとても快適だった。 構内にある宿泊施設は広々とした洋間で快適だったし (朝食付きで一泊1000円ちょっと)、 これまた講師室として期間中広い研究室を与えてくれ、 図書室なども自由に使えたので、 空いた時間には計算を進めることができた。 キャンパスも広々としていて、 すっかり佐賀大が好きになった。 また呼んでくれないかなあ。


冒頭へ戻る
「秘法十八」に戻る