1998 March.中期 (Arcana 18)

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March. 11th (Wed.)

そう言えば、ペケ6関係の仕事を某F通としていたという昔話を 某A社で聞いた覚えがありますね、、、

午前九時起床。 少し勉強をして、白井君と家で昼食をとり、外出。 僕はBKCへ。白井君は京大数理研へ向かった。 今日から昭○大のHさんも京都に来ているので、 一緒にゼミをするらしい。

午後は情報学系ネットワーク管理グループ会議。 その後、さらに各研究室の管理者を集めて、 四月からの新ネットワーク強化変更についての会議。

今朝雑談していてふと思いだしたのだが、 ポール・ヴァレリーは数学や理論物理が好きで、 自宅に四方全部の壁が黒板になっている自習室を持っていたそうだ。
数学を勉強する詩人、ってなんか格好いい。


March. 12th (Thurs.)

午前十時頃起床。 白井君は既に目を覚まして、数学をしていたようだ。 珈琲をいれて、ぼおっとしていると、 白井君はHさんと待ちあわせのようで、十一時頃に出ていった。 僕はそれから昼食を作り、家を出たのは十三時頃。

午後は学系会議。 後期分割入試の合否線引きについて。 その後、ネットワーク関係のミーティングがあったはずなのだが、 結局開かれなかったようだ。

久しぶりにI御大に会って、数学の話をしたり、 すっかり放置していた AMS Review を書いたり。

今日は多忙ゆえの「ただの日記」、、、


March. 13th (Fri.)

午前九時起床。 なんとなくコンピュータとチェスをやっていたら(gnuchessx)、 ずいぶん久しぶりに勝った。 しかしその理由は何故か途中で相手が発狂してしまったからで、 これは gnuchess のバグなのだろうか、それとも K6 のバグ?
以下は棋譜
White: Ks.Hara - Black: GNU Chess
Scotch Gambit
1. e4, e5; 2. Nf3, Nc6; 3. d4, ed; 4. Bc4, Nf6; 5. O-O, Nxe4; 6. Re1, d5; 7. Bxd5, Qxd5; 8. Nc3, Qa5; 9. Nxe4, Be7; 10. Bg5, Qe5??
ここで発狂。以下、24手目でメイト。結果 1-0。

白井君は十一時頃、Hさんと連絡をとって出ていった。 今日の内に東京に帰るとのこと。 今回は月曜から四泊五日の滞在で、僕はほとんど相手はできなかったが、 白井君はずっとHさんと数学をしていたようで、 短い滞在期間にも色々と成果を上げていったようだ。 僕も見習わなくては、、、
今朝は、白井君と兎に角、勉強したことや、出した結果などを全て ドキュメント化しておくことが一大事との反省と認識で一致し、 今日から毎日少しずつでも数学を纏めていくことを約束した。

午後からBKCへ。 午後一で NTT と情報学科ネットワークの ギガビット化工事についての打ち合わせ会議。 その後すぐ三時過ぎから学系会議。 四月からの研究室のわりふりなどの問題。 僕は個人研究室とは別に、学生用に一部屋もらえるようだ。

会議が終了したのは五時過ぎ。I御大と数学の話をしていると、 僕がずっと放ったらかしにしていた 非可換ゲージの話についてヒントと宿題をもらう。

ああ、この土日の間に、特許関係の資料を作って、 あれもして、これもして、、、数学も考えないと、、 きーっ。(ヒステリー発症)。


March. 14th (Sat.)

午前九時起床。 ビデオで「ロングキス、グッドナイト」を見る。 記憶喪失者が自分はプロの殺し屋でないか、と気づいていくという筋は、 ラドラムの「暗殺者」のパクリだが(それともラドラムの映画化なのか?)、 タンクトレーラーの化学爆弾を市街で爆発させるテロは、 「テロリストの半月刀」みたいだし、 政府機関が予算獲得のためにテロを支援するという動機も 何処かで読んだな、、しかも何度も。 なんだか色々のアイデアの都合のいい借用で出来ていたが、 まあ暇つぶしにはなった。

昼食を食べてから三条に出て、Cafe Riddle で数学の勉強。 その後、本屋を周ったり。 買った本、「日々の泡」(ボリス=ヴィアン、曽根元吉訳)、 「確率論の哲学的試論」(ラプラス)、 「はじまりのレーニン」(中沢新一)、 「トリストラム・シャンディ」(スターン、朱牟田夏雄訳)、など。

「トリストラム・シャンディ」は岩波文庫で新しい刷りが出ていたので購入。 もちろん御存知とは思うが、これは天下の奇書として有名で、 その面白さといったら無類だが、最近、現代文学的冒険のつもりで、 下らない趣向を書き散らす作家が多いが、 トリストラム・シャンディに対して恥じる所はないのだろうか。
スターンがこの作品を書いたのは、1700年代後半のことなのだが、 真っ黒や真っ白なページが入っていたり、 極彩色のマーブル模様(岩波文庫では白黒)が入っていると思えば、 執筆の進行状況を表しているという曲線図があったり、 トリストラムの生涯と意見という題名で主人公が受胎する所から始まるのに、 いつまでたっても主人公は現れないし、 「ボヘミア王と七つの城の話」という章が何度もあるのだが、 話を始めたらすぐに毎回何かと邪魔が入り脱線して常に一行しか進まない、 とか、兎に角ありとあらゆる手で読者を翻弄していく。

夜は本を読んだり、仕事用の資料のアテをつけたり、 ちょっと計算をしたり。


March. 15th (Sun.)

いや、滅相もない。ところで、清涼院流水って誰ですか? 清涼飲料水みたいでユニークな名前ですね。 駄洒落みたいなペンネームから推察するに、 きっとジェイムズ=ジョイスみたいな作風の現代作家なのかな、、、

午前七時起床。ずいぶん早起きになってしまった。 メイルをチェックしてから、珈琲をいれて寝床で読書や、 数学を勉強したりする。 早起きをすると妙に時間が豊富になったような気がする。 夜早く寝るから気のせいだとは思うのだが。

午後は河原町に出て、本屋を周ったり、Cafe Riddle で 本を読んだり。


March. 16th (Mon.)

昨夜のこと、買ってあったイーサカードを片手間に Linux に差そうとふと思った。
パーツ屋で聞いたことのないメーカーの NE2000互換カードを 2000 円くらいで買っておいたのだが、 NE2000互換用ドライバを組み込むべくカーネルを再構築し、 リブートしてみても認識しない。 Windows用 のPlug and Play が問題なのだろうと、 ジャンパ設定で PnP を外し、直接カーネルに IRQ を教えてみたら、 認識はしてくれたが挙動不審の上に、 今度は X Window System が動かなくなった。 /dev/mouse が使えないと文句も言っている。 色々調べてみると腐った NE2000 互換というのはいくらでもあるらしく、 イーサカードのドライバのソースコード ne.c を見てみると、 「駄目駄目な」NE2000 コンパチの処理をしている所がある。 この辺りを書きかえて情報を取り、 その情報をもとにソースをさらに書き変えたりするのかな、、、 と絶望的な気分になるが、 そのまえに一応 IRQ をハード的にずらしてみようと、 またカードを引き抜いてジャンパ設定して、 リブートしたら問題なく動いた。

こういうことはよくあることだが、 その度に、何だかんだいってもやっぱり Windows は偉いなあ、と思う。 僕は Windows95 のことはほとんど知らないが、 新しいハードを繋げるのはすぐに出来る。 "For Windows95" の力である。
いくら PC-Unix が使いやすくなっているとは言え、 カーネルの再構築を普通のユーザがやるような世界は尋常ではない。 Windows や MacOS などの OS をユーザが自分で組み立て直すなんて、 普通の人は思いもしないだろう。 誰でも勝手にOSをいじり、ドライバを書き、ドキュメントを作り、 サポートをし、また勝手に使い、書き変え、それを再配布し、 それは全て無償である、ことも想像できないかもしれない。 でも、Windows の便利さということは絶対にある。 どうなっていったらいいんだろうなあ、、Free な Unix って。

今日は大学で特許関係の資料をそろえたり、 雑用をしたり。 I御大に丸山儀四郎先生の論文集をもらい、ついでに思い出話を聞いた。 なるほど、、歴史ってあるんだなあ。 やっぱり最近の僕達って駄目駄目だなあ、、勤勉さに乏しいよ。


March. 17th (Tues.)

疲れているのだろうか、最近寝起きが悪くて、充分眠ったという気がしない。 時間にすれば充分すぎるほど寝ているのだが。

午後からBKCへ。 今日は本年度最後の教授会。

会議終了後、時間があまって、ぼうっとしている所に、 某所では宴会の計画が盛りあがっていて、 僕も飲みたいのは山々という気分なのだが、 場所が赤坂ってのは遠すぎ、、、
それでも一瞬、新幹線で駆けつけようかと思ったが、やはり断念。

今日の読書。
ボリス・ヴィアン「日々の泡」。 「泡(うたかた)の日々」という邦題もあったと記憶しているが、 僕はどっちかと言うと「日々の泡(あわ)」の直訳調が好きだ。 小説冒頭の部分の、バスマットに塩を振りかけると石鹸の泡が吹きだす シーンが浴室の明るい光と共に思い浮かぶ。 この小説のポップで、お洒落で、悲しくて、はかなくて、悪戯けていて、真摯な、 白昼夢のような明るさと切なさを「日々の泡」という題名の方が 良く伝えていると思うから。

ところで、言語遊戯っていうのはこの水準のものを言うのであって、 「クスリの中にリスク」とか脱力駄洒落を連発されても、 心の底から冷えびえしてくるだけなんだよね、、、
って、ヴィアンと声量印留垂を比べるなんて、 月と縁日の緑亀を較べるようなものだけど。


March. 18th (Wed.)

昨深夜、某所より電話。二時間ほど色々と話す。 何も起こらぬ毎日だが、何かが静かに変わってゆくのであろうか。

早起きの癖がついているようで、寝るのは遅かったのに、 起きたのは早朝。珈琲を飲んで、数学のノートを作る。
家で昼食をとって、午後は河原町へ。 CD を買ったり、本を買ったり。

今日の読書。 新渡戸稲造「武士道」。コナン・ドイル「第二のしみ」。
「武士道」は新渡戸稲造の "BUSHIDO, The Soul of Japan" の翻訳。 誰かが、外国人に「日本人とは何か、日本の文化とは何か」と聞かれたら、 「あなたの国の図書館でイナゾウ=ニトベのブシドーをまず、読んで下さい」 と答えると書いていたが、確かにそうかもしれない。 現代では、他にも言うべきことや、訂正すべきことが色々あるだろうが、 まずここからというのは正しい。 これだけの意見を矛盾なく、英語で、しかも英語国文化に則しながら、 語れる教養人が現代にいるのだろうか。 "BUSHIDO" を古い、と批判する前に、 自分の教養のなさと知的力量の浅はかさを反省したい。


March. 19th (Thurs.)

九時起床。珈琲を飲みながら数学のノートを作る。 昼食を作って、家ですませる。 今日は情報学科のネットワーク工事日。何度か家からBKCに telnet したが、 問題は生じていないようだった。

午後から京大数理研へ。恒例のゼミ。 院生のK君が Denker-Sato のプレプリントを紹介し、 僕は少しだけ、Debiard-Gaveau について話した。 その後、京大の近くで一緒に食事をする。

帰りに先斗町の我留慕でロックを三杯ほど飲んで帰る。 山科についたら丁度、雨がふってきた。 天気予報によると今夜は大荒れらしい。

東京方面は春の陣、か、、、、


March. 20th (Fri.)

昨深夜、某所から電話。一時間ほど情報交換。
午前九時起床。珈琲を飲みながら数学の勉強を少しだけ。 昼近くに、某所に目覚し電話を入れたが、起きてくれず (≠気の利く愛人こと、目下旅行中のT部長)。

午後からBKCへ。 今日は僕主催の暗号関係のゼミ。
アフィン暗号など初歩のあたり。

自分が指導するゼミというのは今日で二度目、前回が初めてだったのだが、 個人的には感慨深い経験だった。 学生として初めてゼミをした頃から(それはつい8年ほど前のことだ)、 自分は全く成長していないようについ思ってしまうのだが、 今度は先生として学生達に接してみると、 向こうがあまりに何も知らず、何も出来ないことに驚き、 昔の自分を思い出して、ああ僕も少しは成長していたのだったか、と思う。 僕は自分にとって自明なことをコメントしているのだが、 多分学生には何でも知っているかの如く、 電光の如く素早い思考をあやつっているかのように、 物凄く遠い存在のように、見えていると思う。 しかし、右も左も分からぬような君達とこの「先生」たる僕の違いは、 全くほんのちょっぴりの違いなのだよ、と教えてあげても、 多分彼等には冗談としか思えないだろう。 それが冗談ではないと分かるころには、 彼等も僕と同じようなことを思うだろう。

自分と自分の先生達との関係を考えてみると、こっちの場合はいつまでたっても、 向こうの思考の早さや知識の広さに感心するばかりだ。 多分、この差はちょっぴりではないのだろう。 またはちょっぴりの差の階層が何段もあるのであろう。
精進しよう、、、


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