1999 May. 後期 (Arcana 18)

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過去のお言葉

May 21th(Fri.)

午後から BKC へ。春の定期健康診断に行くと、 体重がまた3キロほど減っていて(「痩せゆく男」か?)、 「毎回どんどん減っていってますね。 大丈夫だとは思いますが、…(ちょっと沈黙)…一応血を採っておきましょう」 と医者に言われて、血を抜かれる。 その後、「確率・統計」の講義。今日は大数の法則と中心極限定理。 さらに学系会議。

美女と山羊の問題。最終解答。
結果として 「最初の議論が正しい。すなわち、扉を変えれば確率は 1/3 から2/3 になる」 が正しい。 確率論としては、条件付き確率をちゃんと計算すればそうなるが、 簡単な説明としては、次のような極端な場合を考えれば、 ほとんど明らかである。

扉が10000あって、その内の 9999 の後には山羊がおり、 一つだけの後に美女が隠れているものとしよう。 貴方はその内の一つを選ぶ。 その他の 9999 の扉の内、9998 または 9999 全部の扉に山羊がいる。 司会者が貴方が選んだ扉以外の 9999 の扉から、 山羊の扉を順番に開けていき 9998 の山羊の扉を開けてしまった。 貴方が最初に選んだ扉の他に、一つだけ扉が残っている。 貴方は扉を変えますか?「もちろん!!」 美女を選ぶ確率は 9999 倍になるだろう。

May 22th(Sat.) - 23th(Sun.)

22日(土曜)。午前、膳所でチェロのレッスン。 午後、自宅で数学など。夕方から大阪で宴会。
23日(日曜)。自宅静養。

ポカについて。
面と向かっての将棋、碁、チェスなどの試合では、 思いがけないポカが起こるものらしい。 時間制限があるし、神経戦の側面もあるからだろう。 "The Even More Complete Chess Adict" (Fox&James) によると、 世界レベルでも二手詰(将棋で言う所の三手詰)を見逃す例は 数え切れないほど生じており、 一手詰を見逃す例さえ少なくはない。 この本はそういう爆笑ものの名人達のポカをコレクションしている 変てこな本で、翻訳も出ているので一読をお勧めする。 まさに魔が刺すというか、亜空間に入ってしまったような、 奇妙な現象が満載である。

以下はこの本で史上最悪のポカ候補として挙げられている グレイトなポカの内から分かり易いものを。
(1)1992 年インターポリス大会。カルポフ対チェルニン戦。 世界最強のカルポフが、王手をかけられたにも関らず、 合い駒をせず、キングを取られてしまった(!)。 チェスではこれは反則なので、審判が指し直しを命じた所、 頭が真っ白になったカルポフは再び素人でも指さないポカを指し、 優勝を逃した。
(2) 1927年ケチュメート大会。ビシェピョル対アウエス戦。 ビシェピョル(白)が長考の末、黒のルークをつまんで自分のビショップを取った。 しかもアウエス(黒)が続けて、そのルークでポーンも取った。
(3) 1963年アメリカ選手権最終ラウンド。ビスガイア対フィシャー戦。 二人は同点首位で並んでいた。 大長考に沈んでいるフィッシャーを不思議に思って、 ビスガイアが見てみると、なんと敵は居眠りをしていた。 フィッシャーの持ち時間は後わずか。 そこでビスガイア本人曰く「最悪手を指してしまった」。 驚きのあまり、うっかりフィッシャーを起こしてしまったのである。 起こしてもらったフィッシャーは、五度目のUSタイトルを取った。

May 24th(Mon.)

京都は雨。ひょっとしてもう梅雨? 午後から大学に雑務に行く。

最近ひどく体力がなくなってきた。 体重が 60 キロを切ったくらいの時は調子が良かったのだが、 50 キロが近付いてくると露骨にスタミナがなくなってくる。 僕がこれはまずいかなと思ったのは、 二週間に一度のレッスンの時に担ぐチェロが変に重かった時だ。 何か余計なものも入れてしまったのかと思って確認したが、 いつもの通りチェロと弓と楽譜が入っているだけだった。 というわけで、 食事を無理にでも多めに取って、運動するようにしよう…

May 25th(Tues.)- 26th(Wed.)

昨日は飲みに行っていたので、更新をさぼりました ;-)

26日。午後から大学へ。暗号ゼミの後、確率論ゼミ。

以前、今日のお言葉で、封じ手を入れ忘れたポカの話を書いたが、 その時某A社のSさんから指摘を受けたこと。 ごく最近のチェスの公式ルール改訂で、封じ手についての項目が 外されたとのこと。 おそらく日をまたぐ試合が少なくなったため、 封じ手についてのルールは各公式戦ごとに設定できる 特別ルールの扱いになったのだろう。

そもそも、 「封じ手」とは一つのゲーム中に休憩が入る時に、 休憩に入る直前に指した方の持ち時間が 不利になることを解消するために導入されるルールである。 休憩後に一手目を指す方は、 休憩中にその盤面を考えることができるから不公平である。 またチェスでは休憩中に他人のアドバイスを受けることも 許されることが多いので(事実上、禁止することは不可能だからだろうか)、 この不公平は放置されるとかなり大きい。 これを解消するために、 休憩前の最後の一手を指す方が、実際で盤面で指し手を示すことなく、 その手を誰にも見せず紙に書いて封筒に封じる。 そして休憩が終了した所で、その封筒が開けられ、 その手が実行された所でゲームが再開される。 これによって、両者とも休憩中に新しい手を考えることが出来なくなり、 持ち時間の不公平はなくなる。うまいアイデアである。 私はこの封じ手というルールを知った時、 (それはチェスではなく将棋か碁だったと思うが)、 その巧妙さに驚いた記憶がある。

May 27th (Thurs.)

今日は予定がないので、数理研に行こうと思っていたのだが、 目が覚めたら夕方。 雨の涼しさで爆睡してしまった。

ベッドの中でぼうっとしながら、 「方法序説」(デカルト)を読んだり。 デカルトって言うのは大変に面白い人生を送ったらしい人で、 飲む打つ買うの三拍子で、 傭兵になって戦争に行ったり、 博打で生活費を稼いだりしながら各地を放浪したかと思うと、 急に何年も隠遁したり、わけのわからない所が素敵だ。 確か最後は、 随分寒い国の女王に呼ばれて家庭教師になったはいいが、 寒い日に朝っぱらから講義をさせられるので身体を壊して 死んだのではなかったかな。 哲学者ってのはこれくらいカッコ良くないとねえ。

May 28th (Fri.)

盗聴法案決定か…そんなに盗聴って犯罪摘発に効果的かなあ。 普通の人達にはまったく関係ないなんて言ってるけど、 盗聴が予想されるような人々は簡単にそれを防ぐ技術を持っているから、 どう考えても盗聴されるのはまったく普通の人々だと思うが。 なんだか、問題にされる前に、 あわただしく決定してしまっているようで凄くうさんくさいですね。

皆さん PGPを使いましょう。 今、PGP (Ver.5.0i 以降) はずっと使い易くなっていて、 Win 版や Mac 版なんかはすごく便利になってます。 良く使われているメイラーにも簡単に組み込めますから、 是非使ってみて下さい。 Web 上にソフトそのものはもちろん、 インストール法や解説などがいくらでも転がってます。 PGPfone っていう素晴しいものもあります。

午後から大学へ。 「確率・統計」の講義。今日から統計の話。 その後、学科談話会など。 数日前から研究室のサーバの Sendmail 入れ換えによって、 僕の研究室からのメイルが出せなくなってしまっていて、 夕方からその対策。その後、学生が質問に来て、 帰宅は随分遅くなってしまった。

最近知ったパズル。説明が難しいのが難点だが、非常に良い問題。
樽があって、その四方東西南北の方向に一つずつ四つの穴が空いている。 それぞれのの穴は樽の中の四つの壷につながっていて、 その壷の中には一つずつ上向きか下向きに矢が入っている。 もちろん樽の外からは壷も矢も見えない。 貴方は樽の外から同時に好きな二つの穴に手を入れて、 手探りでその穴につながっている二つの壷の中の矢の方向を調べ、 必要ならばその矢の方向を片方でも両方でも変えることができる。 しかし、一回手を入れて出すと、その度に樽が回転してしまって、 どの穴だったか分からなくなる。 ここで問題。 最悪で何回、手を入れれば、四本の矢を全部上向き、 または下向きに出来るだろうか。 ヒントとしては、隣りあった二つの穴に手を入れることと、 向かいあった二つの穴に手を入れることをうまく使うこと。

May 31th (Mon.)

午後から数理研へ。T 師匠、イリノイ大の O 先生などとゼミ。 最近 Annals.Probab. に出ていた論文を僕が紹介した。 Gaussian Intersection Conjecture という問題で、 二つの凸で原点対称な集合 A, B について、 ガウス測度で測ると、A と B の積集合(共通部分)の測度の方が A の測度と B の測度の積よりも常に大きいだろうという、 非常に単純な予想であるが、未だに解決していない。 (1次元では自明、2次元で成立することは比較的最近証明された。) 僕の勝手な意見だが、この予想は任意の次元で成立しないかもしれない、 とこの予想を知った時から感じている。 A, B が凸で対称という条件は、 不等式が成立する条件よりほんのちょっと広いのかもしれない。 反例があるとするならば、 ガウス測度は非常に性質が良いし、減少も速いので、 相当に微妙なぎりぎりの所にあると思う。

この前の樽のパズルの解答。
答は五回。 まず隣りあった穴に手を入れ、両方の矢を上に向ける。 次に向かいあった穴に手を入れ、両方の矢を上に向ける。 これで、三つが上向き、一つが下向きの状態になった。 (そうでなければ四つが上向きになって揃っている)。 次に向かいあった穴に手を入れると、その一つが上、一つが下か、 または両方上かであるが、前者の場合、下向きの一本を上向きにすれば、 四本が上向きで揃うから、後者の場合を考えればよい。 この両方上の二本の片方を下向きにする(ここで三回)。 これで、上向きが二本、下向きが二本で、しかも その配置は樽を周る順に上上下下となっている。 次に隣りあった穴に手を入れる。その二本は方向が揃っているか、 または逆向きになっているか、のどちらかである。 方向が揃っていればその二本を両方とも引っくり返せば四本の方向が揃う。 したがって、逆向きになっているときが問題である。 逆向きになっているときは、その二本を両方引っくり返すと、 上下上下の配置になる(例えば上(上下)下から上(下上)下へ)。ここで四回。 最後に向かいあった穴に手を入れ、その両方を引っくり返せば、 全て上、または全て下向きに方向が揃う。以上で最悪五回。


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