1999 Sept. 後期 (Arcana 18)

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過去のお言葉

Sept. 20 (Mon.)

朝から BKC へ。 今日は修士論文の中間発表会だったので。 午後からは、滋賀県技術者養成講座とやらの講師をする。

京都は昨日あたりから、妙に蒸し暑い。 後二、三日はこの暑さが続きそうだ。

本屋での立読みで得た知識。
I am an American. という文章は正しいが、 I am a Japanese. という文章は間違いだそうである。 文法的にはどこも間違っていないはずだが、 用例としては間違いだそうだ。 正しくは、I am Japanese. と形容詞として使う。 なぜなら、一人の日本人、 独立した個人の人格を持った見識ある一人の日本人、 という概念が英語の中にまだ存在しないからであると言う。 だから、日本人全体を一まとめにして「日本人は…」とやる "The Japanese are ..." という英文もあるし、 「日本人の」という形容詞としての Japanese もあるが、 a Japanese という名詞は使われないのだと言う。 本当だろうか。非常にもっともらしい、 と感じてしまうことがなんだか哀しい。

Sept. 21 (Tues.)

朝は膳所でチェロのレッスンを受けて、 午後は大学へ。 新学期最初の教授会。会議は三時間にも及び、 終了時にはぐったりしてしまった。 一部の方にはその後、まだ会議があるとアナウンスがあり、 他人事ながらかわいそうになった。 実は、この教授会の前にも、運営委員会があるので、 中には一日中朝から晩まで会議をしている人もいるわけだ。 いくらなんでも会議し過ぎではないだろうか。

その会議の中で、新しい奨学金の計画などの話があり、 そのためのかなり詳細な資料が配られていた。 それを見ると、 第一に僕が思っている以上に不景気の影響が大きく、 第二に僕が思っている以上に経済格差が広がっているのではないか、 と言う印象を受けた。

子供の頃よく聞いた一億総中流という言葉がしみついていて、 なんとなくそういうイメージを持っていた。 しかし、例えば所得分配の不平等度を表す指標とされる (*1)ジニ係数で見ると、 (0 が完全に平等で、1 に近づくほど不平等を表す。詳しくは註を参照)、 日本は1990年前後で既に 0.4 を大きく越えており、 大体 0.3 と 0.4 の間であるイギリス、フランスなど先進諸国より遥かに大きく、 最も貧富の激しいイメージを持たれているアメリカですら 0.4 程度で、 日本の所得格差は欧米諸国に比べて断突に不平等なのである。 ちなみに、累進課税後の再分配所得で計算しても、日本の順位は揺るがない。 ジニ係数は経済格差を見る一つの目安に過ぎないが、 それでもこれはかなり僕にとっては意外な数値だった。 また、所得ではなく、資産でジニ係数を計算したい所だが、 資産についての評価が困難なせいでほとんど国際比較できるデータがない。 1980年より前のバブル景気以前のデータでは、 日本はヨーロッパ諸国よりも平等であったとされているが、 1999年現在どうなっているかはわからない。 おそらく所得のジニ係数から鑑みて、アメリカには及ばずとも、 ヨーロッパ諸国は追い抜いているのではないだろうか。 日本はこれから、累進課税を見直し、豊かなものをより豊かに、 の方向に進んでいくらしいが、 おそらくまだまだこの格差は広がっていくのだろう。


(*1)ジニ係数:
社会の構成員人数を n 人、各構成員の所得額を x(i) とするとき (i は 1 から n )、 二人の所得の差の大きさ |x(j) - x(k)| を 全ての j と k のペアについて和をとり、 n の平方で割ったもの。 所得の大きさは単位を適当にとって、正規化しておく。

Sept. 22 (Wed.) 23 (Thurs.)

22 日。午後から大学へ。卒研のゼミ。 前期で就職活動も終わって、よっこらしょ、という感じで、 後期からようやく卒研がスタートするのが普通らしい。

23 日。秋分の日で祝日。 昨日は早く寝たのだが、正午まで熟睡。10時間以上眠った。 午後から三条に出て、注文しておいたチェロの弦を受けとり、 ついでに CD を買ったり、本屋をまわったり。

今日の音楽。アンナー・ビルスマ弾くバッハの無伴奏チェロ組曲。1979年録音
ずっと聞きたかったのだが、今日 CD で復活しているのを発見。 即座に購入。 今まで CD では 1992 年の録音が流通していて、 僕もそれを聴いていたのだが、やはりこちらの方が断然良いと思う。 ずっとバロック・チェロらしい、穏かで親密な感じが出ていて、 「無伴奏を『歌う』のではなく『語る』」というビルスマの言葉が実感できる。 悠悠として自由でおおらかで何とも言えず良いです。 普段はクラシックなんぞ聴かないという人にでも、 無理矢理にでも勧めたいです。 二枚組なのでちょっと高いですが、絶対損はしないと思います。 一本のチェロでここまで深い表現が出来ることに驚かれると思います。

Sept. 24 (Fri.) 25 (Sat.)

24 日(金曜)。朝から今期最初の講義に行ってみると、 台風による強風警報発令のため BKC 全体で休校。 朝早く起きるのも久しぶりでぼーっとしていたので、 家を出る前に台風情報をチェックするという知恵が働かなかった。 台風の中、何もない BKC に取り残されても困るので、 交通機関の動く内にさっさと帰宅。

と思ったら、午後になっても、 京都、滋賀にはほとんど台風の影響はなかった。

丁度、白井君が京都に来ているので、T 師匠もまじえて夜一緒に食事する。 月曜から広島で日本数学会の秋季分科会なので、 金土日と京都に滞在して T 師匠と共著論文の打ちあわせをし、 そのまま広島に移動という計画らしい。 その後、 さらに白井君と河原町の "ReBirth" で飲んで、タクシーで帰宅。

25日(土曜)。 夕方から三条に出て、駸々堂での山口椿氏のサイン会に行く。 大行列と言うにはほど遠いが、 数名の人がコンスタントに並んでいるようだった。 僕を見ると、 「やあ、これはこれは。この人は大変な方でして、もう」 と訳のわからないことを出版社の人たちに言いながら、 近しい人の噂話などを二、三言交わす。一週間前に会ったばかりだが。 そのまま帰宅。
夜に白井君から連絡があって、また食事して飲みに行く。

Sept. 26 (Sun.)

午後から新幹線で広島に移動。学会は月曜から木曜までだが、 僕は木曜に講義があるので、水曜に帰る予定。

というわけで、日記は次の木曜までお休みします。

Sept. 27 (Mon.) -29 (Wed.)

今回の学会はなかなか楽しかった。 確率論の一般講演はあいかわらず地味な感じだったが、 二日目の受賞講演や総合講演などは流石に面白くて分かりやすく、 刺激的であった。 学会は普段のシンポジウムなどと違って、 異なる分野の数学者が一同に集まる機会なので、 普段会わない人達との懇親という側面もある。 そういった活動(?)では、 確率論の大御所 I 大先生、W 大先生のコンビと、 白井君と四人で飲んだり、 昔駒場の基礎科の建物で一緒だった現 W 大の無限可積分系の人達と飲んだり。

なんだか自分がぼうっとしている間に、 他の皆が次々重要な仕事をしているような気になって (ような、というかその通りなのだが)、 もっと勉強してアクティブに研究しなくちゃいかんなあ、 と反省しきりの学会であった。

さて、明日から新学期の講義が始まる。 しばらくちょっと忙しいので、 この日記はぽつぽつと日を空けて、暇が出来た時に更新していきます。


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