やまいもの雑記

スーパージェッター

久松文雄
「鉄腕アトム」「鉄人28号」「エイトマン」はほぼ同時期(半年ぐらいずれがあったっけ)のテレビ漫画だったが、「スーパージェッター」はこれらより少し遅れて始まったと記憶している。

で、目新しかったのは主人公の30世紀人・ジェッターがロボットでもアンドロイドでもサイボーグでもなく、体力的に優れてはいるものの、ただの人間だったこと。そして、前記の作品が明らかな未来(鉄腕アトム)、ちょっと未来かもしれない(エイトマン)、明らかに現代(鉄人28号)、と舞台は違っているものの登場する主人公もその時代の人間(ロボットだから物体か?)だったのに対して、ジェッターがタイムマシンで「未来の国からやってきた」(主題歌より)未来人だったことだ。

(当時としては)スマートなボディスーツ、名前だけはふつうの銃よりすごそうなパラライザー(神経麻痺銃)、重力を遮断して浮遊できる反重力ベルト、そして、ジェッターの愛機・流星号との通信機をかねつつも、30秒だけ時間を止めることのできるタイムストッパー。それまでのテレビ番組とは一線を画する何ともモダンな小道具をそろえたヒーローであったことよ。

実際、このタイムストッパーにはすごくあこがれた。当時の子供には、いや、子供でなくとも腕時計は贅沢品で、確かセイコーあたりで現在の10万円ぐらいの値段ではなかったかと思う。今の1000円で買えるクォーツ時計など、どこにもなかった。だいたい、クォーツ時計が登場した1970年代には、それだって高級品だったのだ。月差30秒以内のクロノメーターと呼ばれる時を司る神の名を冠された精密時計に比べれば、時間の表示では同じ性能ながら驚異的な廉価ではあったが(クォーツ時計開発の経緯については『匠の時代』(講談社)が面白かった)。

その腕時計に、さらに子供心をくすぐる通信機能が付き、その上自分以外のものが時間を止めてしまう驚異的な能力を持っている。デザインは、文字盤に数字がなくて四角い目盛だけ、針は時計の中心まで繋がっておらず、文字盤の上に浮かんで時を刻んでいる。時計のベルトも、穴を針で止めたりせず、ベルトの弾力で腕を挟む構造だ(たぶん、実際に付けたら腕が痛かろうが)。何からなにまで魅力的な時計だった。

その後、腕時計に通信機能とチェーンハンマーのついた時計や(W3(ワンダースリー))、腕時計にモニターと通信機能が付いたビデオシーバー(ウルトラセブン)、腕時計の指令装置で動くロボット(ジャイアントロボ)などが登場したが、その原型は「スーパージェッター」のタイムストッパーであると考えている。当時の私は「007シリーズ」を知らなかったのだが、どっちが早かったんだろう?

また、流星号はタイムマシンでありながら地上をタイヤ走行し、空を飛び、水中に潜ることもできる万能マシンで、電子頭脳でジェッターの声を聞き分ける。乗り物と言うよりはロボットに近いものらしく、状況判断はするわ、押しつぶされたりすると身をくねらせて脱出するわ、キューキューという返事も相まって実にかわいらしい機械だった。マッハ15という飛行性能表示も新鮮な響き、というより、この作品で初めてマッハという言葉を覚えた。

そういえば、この作品で覚えた名前や概念は驚くほど多い。タイムマシンという言葉は知っていたが、具体的に時代を超えた登場人物を意識したのはこれが初めてだったし、音速を表すマッハ、時間犯罪を監視するタイムパトロール、パラライザー、反重力、赤外線透視レンズ等々。現在では何気なく使われている言葉だが、当時としては画期的なものばかりで、しかもそれが映像でわかりやすく表現してあった。この作品で本格的にSFマインドに目覚めた人も多かったのではなかろうか。

それもそのはずで、「スーパージェッター」には当時新進気鋭のSF作家・筒井康隆たちが原案や脚本に携わっていたのだ。ちなみに筒井康隆は、この作品の著作権化料で作家として独立できたと話している。

SF的小道具の豊富さ、「少年忍者風のフジ丸」で人気のあった久松文雄の魅力的な登場人物たち、当時としてはスマートな動画処理が相まって、高品質のSFドラマが誕生した。といいたいところだが、当時の大人の方がついていけなかったらしく、けっこうみみっちいギャング相手のことが多かったように記憶している。とほほ。

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