第三者認証というビジネスモデル 3 10.02.17

ISO14005というものがある。
いや、あるのではなく、これから誕生するらしい。まだ制定されていない。

ちょっと話をそれて背景を説明する。
ISO14001とは会社や団体の環境管理レベルの満たすべき基準であり、外部の人がお金を取ってそのレベルにあるかどうかを点検して免状を出すのが第三者認証という。
この外部の人による点検を「審査」といい、人件費がべらぼうに高い。
工場で1000人もいると初回の審査で200万、それ以降毎年130万くらいかかるのが現実だ。
商社であっても1000人いれば初回150万、それ以降毎年100万くらいだろう。
お断り
この金額は審査会社によって2・3割上下するし、昨今はだいぶ値引きもしている。
しかし利益につながらない費用がこれほどかかるのは大変だ。
そして審査するための工数(何人で何日するか)は国際ルールがあって、その工数が人数にリニアではない。対数曲線のようになっており
30人で5人工、100人で8人工、500人で12人工、1000人でも12人工位のカーブになる。
参照
JAB MS200-2009「マネジメントシステム認証機関の認定の手順」
1ダースなら安くなるというのは市場原理ではあるが、中小企業にとっては大企業よりハードルが高いというか負担が大きくなる。これはちょっとやそっとでは認証を受けようとする気は起きないだろう。
だからISO14001は大企業中心である。
もちろん従業員3人の企業で認証しましたなんてのもあるし、だいぶ前に社員一人(つまり社長だけ)の会社で認証したという記事もあった。
きっとその会社はISO認証を得るために設立されたに違いない 

中小企業が空白であることに目を付けた、というと聞こえが悪い、中小企業のためにISOとは別に簡易な認証を考えた人がいる。一人や二人ではない。たくさんの人が考えて認証制度をたくさん作った。
老舗のKES、環境省がバックについているエコアクション21、国交省が始めた環境経営、民間企業が老人雇用対策として始めたエコステージ、そのほか各県ごとに独自の認証制度があると言って過言ではない。

しかし安くするためにはどこかで手を抜かねばならない。
なにしろ審査というのは人件費と交通費しかかからないわけで、JRやANAに値引きさせない限り審査員の人件費を削るか、審査時間を短くするしかない。
簡易版の審査はみな審査費用がISOより安い。そりゃそうだ、同じ値段なら国際的に通用するISOに流れてしまうし、そもそも値段が高ければ中小企業は認証を受けようとはしない。

さて、そういった簡易版の認証に蚕食(さんしょく)されていてはISO審査会社は面白くないし、なによりも収入ががた減りだ。
それは世界的な状況らしく、ISO14001の簡易版を作ろうと言うのがISO14005である。ISO14001の半分ならISO7000のような気もするが・・冗談だよ 
 ちなみにISO7000は装置用の記号の規格である。

ISO14005はまだ制定されずにISOで検討中だ。
../okane.gif しかし日本の各審査会社はISO14005の認証をしますよとウェブサイトに書いているし、新聞発表するし、説明会をしている。
お金儲けに精を出すことに非難する気はない。大いにもうけてほしい。

しかし、そもそもそのゾーンは高値なら客はなく、安値なら儲からないという、うまみのないところだ。
エコアクションとかエコステージはどうしてビジネスが継続できるのか?という疑問もあるだろう。
そういった仕組みは費用を安く、つまり退職者など賃金が安くてもよいという人を審査員にしていること、また地域の審査員を割り当てて旅費などをかけないなど工夫をしている。
更に組織を単純にしてオーバーヘッドを少なくしている。そうでなければ成り立たない。
それだってビジネスと考えれば、儲けの出ないものである。

ISO審査会社がISO14005で審査しますよというのはけっこうなのだが、果たしてそのビジネスの費用構造はどうするのだろうか?
まさか人件費を圧迫したり、交通費を値引いたり、審査時間をべらぼうに短くすることもかなわないだろう。
ちなみに現在のISO審査費用は1日あたり13万から18万というところもある。もちろん安いところは10万を切るけど、それから人件費を考えてみれば儲からないことは明白だ。

一人1日13万なら大儲けだなんて言ってはいけません。審査員の1日それだけもらえるわけじゃないです。
審査会社が借りているビルの家賃、そこで働く事務員や営業マンや役員の賃金、そして交通費から電話代、その他を考えれば想像できるでしょう。
帝国バンクなどで審査会社の決算をみると同情するしかない。
注)審査会社のかなりは財団法人や社団法人もある。また決算を公開していないところもある。

それから考えると、ISO14005の認証を開始して、そして客がついても、たいして儲からないような気がする。
果たして認証というビジネスモデルは儲かる仕組みなのだろうか?
あるいは取りこぼした中小企業を認証することによって、売り上げ拡大を図っても、利益には貢献しないのではないだろうか?
どなたか、シミュレートしてみてください。

本日の心配事
そして私が心配しているのは、審査会社の損益ではない。
儲からないからさらに価格競争が激しくなり、そして審査の質が低下し、社会の信頼をかち得ないようになり、その理由が企業の虚偽だなんていうのではないか・・・と懸念するのである。
杞憂だろうか?



外資社員様からお便りを頂きました(10.02.18)
第三者認証というビジネスモデル 3 によせて
ISO14005は、前から気になっていたのですが、エコアクション21やKESとの関係が更に気になります。
認証の目的が、環境関連の遵法にあるのならば、日本の法規に根差した認証の方が良いのかもしれません。エコアクション21や、KESの認証が、そうした部分に特化していればISO14005認証に対して存在意義があるかもしれませんが、その辺り 何かご存じででしょうか?
値段という意味では、エコアクション21もKESも、ずいぶん前から10万円台で実施していたように思います。
受験経験はなく、また聞きですが、実態は出前セミナーのような感じで、ヒアリングに基づき資料や体制の確認があったように思いました。
中小企業向けの指導には、その程度の範囲ならば昔から、中小企業庁、地域の商工会、地域の商工課などが面倒をみるセミナーもありますから、冗長なのかもしれません。
取引先からの要求ならば、最近は第三者認証を必須とせず、「同等の管理体制」と有難いご理解を増えてきたように思います。
環境を本気で考えるならば取引先の体制も考慮に入れるのは当然と思います。ならば人任せにせず、社内体制の資料を要求して中身を読めばそれなりに判るのではと思います。(佐為さまがやっている第二者による監査?)
一方で中国辺りの企業では認証はありながらも考え方も違いますので、認証=安心ともいえません。中国調達の経験があれば認証必須などと考えなくなるのかもしれません。(笑)

外資社員様 毎度ありがとうございます。
いずれの認証も、法規制を見るのではなく、法規制を調べる仕組みがあるか、法規制を守る仕組みがあるかを審査するだけです。エコアクションにしてもKESにしても、遵法そのものを調べはしません。
もちろん審査の過程で法遵守に不十分なところが見つかり是正を求める事例もありますが、基本的に遵法がOKか否かは言及しませんし、登録証にも「遵法を確認したわけではない」と大書しています。
ですから国内発のエコアクションであろうとその他であろうと、日本の法規に根ざしてはいません。
値段ですが・・○○アクションの審査費用は確かにISO審査より安いです。しかしシステムが簡単でピンハネというか本部組織などのオーバヘッドが小さい。それに審査員として飯を食って行く人が月20万では暮らしていけないでしょうけど、企業で環境管理をしていた定年退職者が月20万手に入れば御の字でしょう。上を見ればきりがなく、下を見てもきりがない・・関係ないですね。
それと購買者が納入者に「認証しなさい」と要求するのは独占禁止法違反になると聞きます。だからどの会社のグリーン調達基準などを見ても「認証または認証同等」としているはずです。環境に良いことをしようとして、独占禁止法違反で摘発されたらしゃれにもなりません。
最終的には、外資社員様がおっしゃるように、購入者あるいは近隣住民などの利害関係者が「第2者監査」をすることが最善、確実な方法であることは間違いありません。
ちょっと待ってください。 
外資社員様もご存じのように、1980年代の顧客による品質の第2者監査を省略するためにISO9001が1987年に作られて第3者認証が始まったのです。そしてその延長にISO14001もあります。
つまりなんでしょうか? 失われた10年どころか、失われた20年の結果、第3者認証は意味がなく、やっぱり第2者監査だね!という結論になったのでしょうか?
実は私はそう考えているのです。
壮大な社会的実験の結果、人は他人に頼るのではなく、自分がチェックしたほうが信頼できるという根源的なことに気が付いたのでしょうか。


外資社員様からお便りを頂きました(10.02.20)
第三者認証というビジネスモデル 3 によせて (続き)
失われた20年の結果、第3者認証は意味がなく、やっぱり第2者監査だね!という結論になったのでしょうか?
ISOに関しては、専門家ではないのでなんともいえませんが、顧客向けで言えば「同等の体制」で認める会社が多くなった点では自社が責任をもつことを認めてくれることが多かったと思います。
前にもお話した通り、私の会社では技術系の第三者認証試験をしています。
この場合には、毎年 数回 海外でのイベントに手弁当で参加し、試験レベルの統一と更新、問題点などの共通をし改善をする必要があります。
また、技術系評価ですから測定器など試験環境の準備には数千万円が必要です。 こうした認証では、評価設備の費用とそれらを運用するノウハウを考えると、第三者認証の方が経済的だと思います。
ISOの場合は、第三者認証のためのハードルが低い、一方で会社ごとに千差万別の状況が存在するならば、第三者認証が有効に機能するには、よほどの能力かノウハウが必要なのだと思います。だとすれば、第三者認証機関自体の能力や得意分野が明示されないと利用の必然が判らないと思います。

外資社員様 毎度ありがとうございます。
第三者認証といっても中身はさまざまです。もっとも通常は責任を持つような場合は「認証」を使わず、「認定」を使うように思います。例えばUL認定、JIS認定、キャラクターの小物だって○○認定なんて表示します。
それに対して認証とはあんまり責任を負わないような場合に使います。
実をいって、ISO第三者認証とは名称は認証ですが、外資社員様の思い描いている認証とは別物と認識した方が良いと思います。
JISQ17000の定義では「認証」とは「製品、プロセス、システム又は要員に対する第三者証明」であって、更に「マネジメントシステムの場合は登録と呼ぶこともある」って!
つまりISO第三者認証とは、認証機関(以前は審査登録機関と呼ばれていた)の「台帳に記載してもらうこと」であって、それ以上でも以下でもないということ。要するになんのご利益もないのです。
そもそも外資社員様が書かれている通り、現在の第三者認証制度とはいったい何なのか?が明確ではありません。
いみじくも飯塚センセイがISO第三者認証とは
ISO9000=ISO9001QMSモデル+QMS認証制度
と語っています。
実を言って、私はこの方程式は間違いだと思っております。ともかくいわゆるISOの権威者は第三者認証には、対外的な外部品質保証(以前申しましたようにISOの定義によるところの品質保証です)と会社の品質経営の仕組みのモデルであるという相矛盾したものであると言われているということです。
要するに、現在ISO第三者認証とは何なのか?ということがまったくの混乱状態にあります。
ISOの部外者だけでなく、制度内の人たちにとってさえ、いったいISOとは何なのかを本当に理解している人はいないし、理解できないと思います。なぜなら、ISO9001:1987とISO9001:2008は名前は同じでも意図するところが違うのですから。
上記方程式であると考えることは結構なのですが、そのような方程式を満たすものが存在できるのかということさえわかりません。
私は存在できないと思っております。
ということで、外資社員様はあまりISOについて真剣に考えることはありません。考えるだけ無駄というもの。
しかし、私は渡世の義理と言いますか、日常関わっており、なんとかまっとうにしなければとむなしい戦いを続けているのです。笑ってください。


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