ケーススタディ 力量13 審査立会 その3

12.07.01
ISOケーススタディシリーズとは

藤本部長
藤本部長
藤本は今日、USO興業という従業員20名ほどの販売会社にISO14001審査の立会に来ている。藤本もまもなく認証機関に出向する予定で、グループ企業のISO審査に陪席するのもこれが最後だろう。
ところで普通は販売会社というと、いくつかの顧客企業をもつか、あるいは不特定多数を対象にビジネスをしている。しかしこの会社は某大手企業専属というか、ただひとつの顧客会社と取引するために存在している。その取引先はだいぶ前に民営化されたが、以前は三公社五現業と称されたところである。
取引金額が大きい重要な顧客がある会社では、その取引先専門の部署を設けることは珍しくない。顧客企業の社名を冠して「〇○事業部」とか、「〇○営業部」なんてのを聞いたり、そんな部署名が書かれた名刺を見たことがあるだろう。また大手自動車会社の所在地には、そこに納める部品メーカーの支社・支店が並んでいる。そしてそれが発展すると、その会社専門の販売会社やサービス会社に分社化したり新規に設立したりする。
USO興業は元々鷽八百機械工業のその大手企業対応の営業部門が分社化したものだ。池袋の駅から数百メートル離れたビルのワンフロアを借りている。その場所はもちろん客先の購買部門が近くにあるという理由からである。もし仮に顧客企業が移転すれば、当然その後を追いかけることになる。
千葉部長
千葉部長
大山
大山さん
ISO認証の担当は業務部である。業務部と言っても業務部長と担当者が二人いるだけだ。部長は千葉といい、人事や事業企画を担当している。部員の一人は経理担当、そしてISO担当は大山といい、もちろんISOばかりではなく総務全般やビル管理などを担当している。

ところで、USO興業が環境に関わることと言っても、たかが知れている。オフィスの影響と言えば、消費エネルギーは空調・照明・OA機器だけで微々たるものだし、社用車もない。廃棄物も事務用品程度だ。
本来業務をとらえても、受注すれば工場にオンラインで情報を伝え、物は工場から客先に直納するので、倉庫もなく自社で検収・検品することもなく、自分はまったく手を汚さない。万が一、製品に不具合があったり、注文取り消しが起きても、電子情報の取り扱いだけで、これまた物には触らない。当然廃棄物など発生しないし、出荷手配などもない。
そして製品そのものはすべて鷽八百社の標準品である。USO興業が環境配慮する範疇も、その範囲も非常に限定的である。
顧客との打ち合わせも技術的なことになれば、工場から技術者が来て対応する。USO興業の存在価値は何だといわれそうだが、それが現実である。

藤本はUSO興業という会社の存在を今まで知らなかったが、いろいろと調べるとこのような規模と性格の会社がなぜISO14001認証をしたのかという疑問を持った。そりゃすべての会社も人も環境配慮して行動しなければならないと言われるとそのとおりであるが、だからといって認証する必要性があるのかというと、どうなんだろうか?
ISO14001に基づくEMSを備えることと、ISO認証することは同じではない。

USO興業は規模が小さいので、審査員は一名で審査は朝9時から始まって夕方の4時半には終了する。今、審査が終了して、今審査員は別室でまとめに入ったところだ。
広くもない会議室に千葉業務部長とISO担当の大山が残って雑談している。審査員のまとめは30分くらいで終わる予定なので、それまで休憩という風情だ。
藤本は朝から陪席していたが、どうしてこの会社がISO認証したのかという疑問が解けない。藤本はふたりに話しかけた。
藤本
「ちょっと教えてほしいのですが、御社でISO認証したのはどういう理由なのでしょうか?」
千葉部長
「私がこの会社に来てまだ1年でして、そのときは既にISO認証していましたね。大山君、いきさつを知っているなら教えてくれよ」

業務部長の千葉は鷽八百機械から出向しているのだ。ここで業務部長を何年か勤めてまた鷽八百社に戻るのか、あるいはここで役員になるのか、はたまた別の関連会社に行くのか、それはここでの働きぶりできまるのだろう。総務や人事に属する人たちには、藤本のような技術系人間とは違う世界なのだ。
そして大山のようなプロパーは、役員はもちろん部長などには決してなれない。大企業の子会社はそういう仕組みになっている。プロパーはやる気がしないだろうと藤本は同情した。


大山
「2005年頃ですか、客先からグリーン調達基準書というものが送られてきました。当時はそういうことを取引先に要求するのが流行したのですね。その中で今後取引は、ISO14001認証あるいはエコアクション21とかその他の制度の認証を受けているところに限定すると書いてありました。そうでないと取引しないというのです。
お分かりのように、当社はお客様が1社ですからね、当時の営業部長が青くなりまして、すぐに認証しなければとコンサルと契約して認証したのです。そのときエコアクションでなくてISO14001を選んだというのは、何があったのでしょうか? そこはわかりません」
千葉部長
「ほう、そんなことがあったんだ。じゃあISO認証はビジネス上の必要条件と言うわけだ」
大山
「いや、ところがです。そうはいっても客先はたくさんの取引先があり、当然大小あるわけです。当社くらいの規模でISO認証したところはほとんどないと聞いてます」
藤本
「じゃあ、それらの会社どうなったのですか? 認証しなくても取引は継続しているのですか?」
大山
「客先としてはあまり考えずに高いレベルを要求してしまって、困ってしまったわけですよ。それでISOやエコアクションを認証していない会社に対しては、客先が環境監査を行うと言い出したのです。客先がじかに確認して取引可否を判断するということですね」
藤本
「なるほど、理屈としてはまっとうですが、それも手間が大変なことでしょうねえ〜」
大山
「そのとおりです。客先は環境監査を始めたものの、すぐに音を上げて、なしくずしにグリーン調達基準書を改定してきました。今まで二度改定がありましたが、最新版では『ISOその他の認証をすることが望ましい』という表現になっています」
千葉部長
「そんなことがあったのか。じゃあその時点で、当社も認証を止めるという選択もあったわけだ」
大山
「部長、そりゃそうでしょうけど、何事も慣性がありまして、一旦始まるとなかなか止めることはできないのですよ。もちろん認証を止めれば客先に対してもその旨通知しなければならず、そのときの言い訳も面倒でしょうし、年の費用が数十万ならこのままにしておこうと判断したというか、判断せずにズルズルときているわけです。
千葉部長の代になんとかしてほしいと思っていたのです」
千葉部長
「なるほどなあ、一旦始めると止められないというのは日本の習わしのようだ」
そのとき隣の部屋のドアが開き、審査員審査員が顔を出した。
審査員
「おお、みなさんいらっしゃるようですね、ちょうどよかった。千葉部長さん、もう私の方としましては、まとまりましたので最終会議をしてもよろしいですか?」
千葉部長
「審査員さん、こちらは結構です。社長は客先を訪問してまして、クロージングは私が代表して承ります」
審査員
「わかりました。ではすぐに始まって、すぐに終わりましょう」
この審査員もなかなかさばけているようだ。
大山が机上を片付けて乱れた椅子を並べていると、審査員が書類とノートパソコンを持って入ってきた。

私が審査員なり審査員




notepc.gif
大山ISO事務局です

千葉部長わしが管理責任者である

藤本部長見学者です

審査員
「じゃあ、クロージング前の打ち合わせとクロージングをまとめてしちゃいますね。
結論としまして、御社の仕組みは継続してISO規格に適合していることを確認しました。また環境目的として製品含有化学物質のデータベースの整備とその情報を顧客に提供するということを掲げて実行していることを確認しました。ということで不適合はなく、認証の継続を推薦するということです。
以上が主文ですが、よろしいでしょうか?」
千葉部長
「私どもとしては異存ありません」
審査員
「じゃあ、これでおしまいです。すみません、報告書をプリントアウトしますので、それに千葉部長さんにサインしていただきたいのですが」
千葉部長
「ハイハイ」
プリントアウトしたものに、千葉部長と審査員がサインをして、大山がそのコピーを取ったりと若干バタバタあった後に一段落した。
女子事務員がコーヒーを持ってくる。 コーヒー
審査員
「実は少し話したいことがあるのですが、もう審査はおしまいですのでこれからの話は個人的見解ですが・・」
藤本はよくうわさに聞く審査員の独り言かと予想した。
千葉部長
「なにか報告書に書けないような問題がありましたか?」
審査員
「いや、そういうことではないのですが・・・御社でISO認証している意味があるのかなと思いました。御社はとりたてて環境負荷と言えるようなものはない。それだけでなく、事業内容は鷽八百社の一営業部門であり、自社が独自に事業を推進しているともいえないと思います。失礼かもしれないが、現在目的に挙げている化学物質データベースだって顧客と鷽八百が主導していると思います」
千葉部長
「おっしゃる通りです。それで審査員さんは当社がわざわざISO認証する意味がないということですか?」
審査員
「お互いにここだけの話ということでお願いします。私も会社からは営業活動をしろと言われていますので、認証を止めなさいなどと発言したことが伝わるとお叱りを受けてしまいます」
千葉部長
「わかりました。大人の話ということで・・・」
審査員
「ISO規格では、あれをせい、これをせいとたくさんの shall があります。公害発生のおそれのある工場や、非製造業でも例えば銀行など与信などに環境配慮を加味する必要がある企業では、それは重要なことだろうと思います。
しかしながら御社は基本的に独自事業と言えるわけでもなく、製品についても営業戦略についても独自で決定しているわけではない。また製品の輸送も手を出していない。オフィスといっても環境負荷はほとんどない。御社が『紙ごみ電気』をテーマにしていないのも不思議なくらいです。いや、そんなことをしてほしいわけではありませんが」
藤本
「審査は終わったということなので、私も発言してよろしいでしょうか?」
審査員
「どうぞどうぞ、藤本さんは本社のお目付け役なのでしょうから」
藤本
「私もこのような会社がISO認証をする意味が理解できませんでした。やはり客観的に見てこのような規模、性格の会社であれば認証は不要ということですか?」
審査員
「ISO14001の認証は前世紀は環境負荷の大きな企業が主でしたが、その後中小企業や行政機関に広まりました。確かにいかなる組織もしっかりした環境管理体制は具備してほしいと思います。しかし認証と環境管理体制を整備することとは別です。
そして御社のようなあまり環境負荷のない会社は、ISO規格と関係するところが少ないですし・・」
千葉部長
「弊社がISO認証を止めたら、どういう影響がありますか?」
審査員
「そりゃ当社にとっては売り上げが減ります。いや、これは冗談ではなく本当です。しかし言い換えると、本来ISO認証が必要ないような会社にまで認証するように売り込んでいたということが、ある意味不適切、露骨に言えばやりすぎだったと思いますね。
御社が認証を止めたとき御社のビジネスにどのような影響があるかとなりますが、御社の事業は閉鎖的で利害関係者は顧客企業と親会社のふたつしかありません。
利害関係者にはビル管理会社も入るでしょうけど、あんまり関係ないですよね。まして近隣住民なんて考える必要がありません。
つまり顧客企業と親会社から認証せよという要求がないならば認証を止めたことによる、費用削減、また今日の審査でも拝見しましたが、ISO認証のためのルールとか審査で見せるための書類もあるようですから、そういったことの省力が図れると思います」
千葉部長
「認証は不要ということはEMSはいらないということですか?」
審査員
「いやそうじゃありません。環境管理をしっかりすることは必要です。しかしISO14001はフルセットなんですよ。ゴルフをするのにクラブ全部は必要ありません。もしパー3のホールだけなら適当な3本もあればまにあうでしょう」
千葉部長
「パットゴルフならパターだけで十分ですね。
当社はもっと簡易なEMSで良くて、ISO認証は過剰品質というわけですか?」
審査員
「まあ表現はともかく、やり過ぎって感じはありますね。御社はISO認証することよりも、主要な利害関係者である顧客と親会社が環境管理に何を求めているかをはっきりさせて、それを完璧に実行した方が、顧客に喜ばれるのではないでしょうか。
いやそれどころか裁量範囲の多いISO14001認証よりも、利害関係者が望むことをはっきりさせ、それをしっかりと行う方が利害関係者は安心するでしょう。
おっと、そんなこと私の立場で言っちゃいけないのだけど」
千葉部長
「実は私もこの会社に来て間がなく、過去のいきさつを聞いたばかりなのですが、元々は顧客のグリーン調達基準に認証要求があったそうです。しかしその後グリーン調達基準が改定されて今は認証の必要はないそうです」
審査員
「何度も言いますが、環境管理をしっかりすることと、ISO14001準拠のEMSを作ることは全然違います。更にISO14001準拠のEMSを作ることと認証を受けることはまた大きく違います。御社が本当に必要なものを考えて実行した方が良いでしょう。何事も費用対効果は重要ですし・・・
藤本
「終わりの方が聞こえませんでしたが、何とおっしゃったのですか?」
審査員
「いや個人的見解ですが、審査する者としても、必要もないのにISO認証していて『ISO認証しても、お金ばかりかかって何のごりやくもない』と言われるのがつらいのですよ」
千葉部長
「非常にためになるアドバイスいただきまして、ありがとうございます。この件については社内で十分検討いたします。しかし、そういうアドバイスをされた審査員はあなたが初めてのようですね。もしかしてこれっきりとなりますと、非常に残念です」
審査員
「医者は病気をなくすため、弁護士は争いをなくすために存在しているそうです。もしどこもしっかりした環境管理をするのが当たり前になって、認証制度がなくなり審査員が失業するようになったら、それは素晴らしいことじゃないですか」


審査が終わっても、まだ直帰するには早い時間である。
藤本は地下鉄で大手町の本社に戻った。
私も貧乏性というか、気が小さいというか、出張しても直帰するということはほどんどなく必ず会社に寄った。


藤本が席に座ると山田がニコニコしてやってきた。
山田
「藤本さん、小規模の非製造会社のISOというのはどうでしたか?」
藤本
「ほんとに山田さんは私が話しかけようとすると、それを察してそっちからやってくるね。ありがたいと思うよ。
今日も新しい疑問がわいた。いや、収穫があったというべきかな?」

山田はあっちに行きましょうと体で示した。
二人は給茶機でコーヒーを注いで打ち合わせコーナーに座った。
藤本
「今日訪問した会社は、先日の販売会社よりも小さい。しかもその機能も非常に限定されている。
それで疑問は、小規模な企業、それも非製造で環境負荷が小さい会社でなぜ認証する意味は何かということだ。
実はクロージングが終わってから、審査員が言いだしたのだが、このような規模が小さく環境負荷が少ない会社では認証を受けるよりも顧客・・いや利害関係者と話をして、利害関係者が求めることをした方が早いのではないかというのだよ」
山田
「藤本さん、失礼ですが、それは小企業に特有な疑問とは言えませんよ。
そもそも、企業はなぜ認証するのかということが普遍的な疑問じゃないですか」
藤本
「うーん、大企業でも、環境負荷の大きなところでも、なぜ認証するのかは疑問だということかい?」
山田
「そもそも第三者認証制度というものは、ISOや規格制定者が考えたことではありません。ISO9000sが制定された1980年代末にビジネスとして発生したにすぎません。
昔々、ISO規格などがないときでも、大手企業は品質保証協定あるいは品質保証規格を作って調達先にそれに従った製造を要求したのです。
そして、そういう企業が多く、品質保証規格がたくさんあって要求する方もされる方も大変だということでISO9001が作られる流れになったのです。
品質保証規格は製造プロセスの管理(規格では工程管理といいました)を要求していますから、実際にそれを守っているかを確認するためには現地に行って調査する必要があります。つまり監査ですね。当然購入者が供給者、下請けや部品メーカーに行くわけですが、手が回らないのは火を見るより明らかで、それを請け負うものが現れたわけです。
やがて品質保証規格が統一されてISO9001となったので、購入者全員が監査を行う必要はなく、一社から監査を受けて適合を認められれば他の顧客にも通用するわけですよね、それが第三者認証に至るわけですよ」
藤本
「なるほど、すばらしく論理的な説明だ。
そして、顧客が1社であれば第三者認証は不要なのは当然であり、そのとき一般的な規格であるISO9001やISO14001ではなく、顧客の求めに従うというのも当たり前ということになる。元の姿に戻るというわけだ」
山田
「ですから、その理屈は大企業も小企業も関係ありません。外部から何を求められているか、内部で何が必要かということが基本です。」
藤本
「外部要求はわかったが、内部で何が必要かとは?」
山田
「環境においてはその環境負荷に応じた管理体制ですね」
藤本
「なるほど、山田さんと話していると疑問が晴れていくようだ。
すると小規模な企業において第三者認証が必要か否かという問題ではなく、第三者認証が必要なケースはどのような場合かということが正しいのだろうか?」
山田
「もっと露骨に言えば、第三者認証はどのような条件下なら存在できるのかと問うべきかもしれません。
最近、第三者認証制度が下火、つまり登録件数が減少してきたものだから、認証機関が内部監査(一者監査)や二者監査を請け負いますなんて言い出して、実際に商売を始めています。」
藤本
「当社の環境保護部が行っているような監査を請け負って行うということか?」
山田
「そうです。それは認証という外部のお墨付きをいただくという概念ではなく、単なるアウトソースという位置づけでしょうね。そうなるとその監査結果は外部に対してまったく意味を持ちませんから、内部にいかなる貢献があるのかという判断がされます。つまりそのサービスの仕様はどうなのか、どれくらいの品質で提供できるのかが問題になります。
そうなると、審査ではアドバイスはできませんとか、具体的なことは言えませんという逃げはありません。被監査側が困っていれば気づきではなく、そのものずばりのアドバイスというより指示指導が必要となります。そして、それができないのではお金を払ってサービスを買うに値しません。
それだけでなく、委託する側としてもいろいろと検討しなければならない問題があります」
藤本
「というと、」
山田
「社内の遵法確認という位置づけであれば弁護士法は関係ないでしょう。しかし内部的にはもっと重要でクリティカルなことがあります。
ISO規格は普遍的といえばかっこいいですが、表面的なことしか書いてないのです。だから真に意味のある二者監査を行うには商品知識、製造などの専門知識、他社状況、業界動向についての知識が必要です。いやそれだけでなくその会社の文化や成り立ちを理解することが必要となります。それはその仕事をしている人でないとわかりえないことなのです。
僭越ですが、私が森本さん森本より会社人生が長く、それゆえに彼より会社の文化に沿った監査ができると自負しています。そういうことです。
更に、クレーム、事故、その他の不具合というのは外に出せない情報ですから、外部の人に監査してもらうためにその情報を伝えることができるかは疑問です。相当な守秘契約、それも実効性のあるものでないと私なら頼めません」
藤本
「山田さんのいうことはよく分る」
山田
「それだけではありません。私や森本さんが監査を行って、なにか不都合とか見逃しがあれば、当然私たちの責任は追及されます。監査した者には懲戒があるかもしれないし、環境保護部に任せておけないということになれば実施部門を見直すということにもなるでしょう。
しかし外部の認証機関に委託あるいは部分発注をしていた場合で、監査の判断ミスや見逃しがあったとき、それへの対応は今後発注しないというくらいの処置しか取れそうがありません。損害賠償とか責任追及ということは無理でしょうし、そんなことをしても対応できる認証機関があるとは思えません」
藤本
「外部に一者監査や二者監査を頼むというのは危険な賭けと言うわけだ。
しかしなぜ認証機関はそういった事業に乗り出そうとしているのだろうか?」
山田
「藤本さん、世の中は単純です。
10年前、認証機関の事業は、審査、出版、研修と言われていました。しかし出版は今は完璧にだめです。ISO関係の本は2000部売れたら御の字だそうです。だってこれほどISOや認証制度に関する情報があふれているときに、わざわざお金を出して本を買う必要がありません。今でも売れているのは環境法解説くらいでしょう。毎年法律の制定改正がありますからね。でもそれもたかが知れています。私ならそんなの買わずに行政のパンフレットを読んだほうが良いですね。
研修なんていまどき環境側面とか学びに来る人がいますか? 審査員の研修はCEARに承認されたところで受講しなければなりませんが、それ以外は怪しい講習機関よりも自習のほうが間違いありません。
最後の砦の審査ですが・・登録件数は減る一方、労働安全もBCMもエネルギー管理も登録件数は増えずに見通しが暗いです。
残るは身売り、撤退、夜逃げと選択肢はいろいろあるでしょうけど、とりあえず自社が持っている(と思われる)コンピタンスでできる事業をいろいろと模索しているというところでしょう」

うそ800 本日のネタばらし その1
先日、外資社員様から小規模な非製造業においてISO14001認証の必要性、意義についてご意見をいただいた。
私も常々そう考えていることです。それについてもっと書いてみようかと思いまして、藤本部長にもう一度審査の立会をしてもらいました。

うそ800 本日のネタばらし その2
私とISOのなれ初めは1991年のこと、1992年に欧州統合するのでイギリスに輸出するにはそれまでにISO9000s(当時はISO9002でもよかった。9003ではだめだった)の認証が必要になった。認証しなければ商売あがったりということで、必死に頑張った。
その結果、輸出していた製品の部門はISO9002の認証をした。それでメデタシメデタシで仕事は終わってよかったのだが・・
当時、ISO9000sの認証は製品ごととか事業ごとに行うのが普通だった。
ISO14001が現れてから同じところに所在していれば、事業所が異なっても法人が異なっても、まとめて認証した方が安いなんて発想をして、企業側も認証機関もそういう認証を不思議と思わなかったことも不思議である。まあ、公害対策時代ならそれもありかもしれないが、製品の環境性能や環境ビジネスが主となると、そういうアプローチは全くの間違いであることがわかる。
ところが偉い人というのは何を考えるのかわからない。輸出していない、顧客からISO認証の要求のない製品の製造に関してもISO認証するんだと言い出した。まあ、当時は日本でISO認証が始まったばかりであり、ISO認証工場とは優秀であることの証であり、更には製品まで素晴らしいと間違えられていたこともあり、勲章が一つより二つの方が良いと思ったのだろう。 ともかく輸出と関係ない製品についても翌年認証を受けた。そのときはISO9001であった。ところが私もその頃は元からある会社の書類を見せるだけという手法を身に付けておらず、といって特別に手間暇をかけていたわけではなかったが、審査のための書類というものがあった。たとえば不適合の是正の記録を残すというのは当時から要求事項であった。
ISO9001:1987 4.14e
ところが不適合がないから、該当する記録がない。初めて審査に来た審査員がこういった。
「記録がないのは構わない。しかし記録を保管するファイルがないのは不適合です」
記録を入れるファイルをつくておけば適合だという。そんなものかと言われままに、背中に立派なタイトルを付けたファイルを作り棚に置いておいた。中身はからのままであった。そしてそれを毎回審査で見せて、審査員は不適合はなかったのですねといって終わっていた。
当時は維持審査は半年ごとであり、審査のたびにその空ファイルを見せていた。
二年くらいして審査員が代わった。その方はクロージングで語った。
「お宅の場合、客から要求されていないのだからISO認証を止めたらどうですか」
その場にいたのは管理責任者の部長と、私を含めて担当者が2名であった。そう言われて我々は非常に驚いた記憶がある。
当時のISO9002のオープニングもクロージングも出席者はそんなものだった。1997年ISO14001の審査が始まって参加者が急増した。もちろん審査員のご要望によって
部長は「いやあ、これは上が決めたことですので」と言葉を濁した。
当時は審査員は営業活動をしようという気はなかったのか、あるいは仕事が急増して断りたい状態だったのだろうか。
いずれにしろISO認証するということは、しっかりした理由がなければならないでしょう。そして認証の結果の効果を明確にしておいて、それが達成されたか、あるいは他の代替え手段がないかを常に考える必要があります。
なにしろただじゃないんですから・・・

うそ800 ネタばらし その3
途中まで書いていたら、ぶらっくたいがぁさんが同じようなモチーフで書いていたので、若干加除修正しました。


ぶらっくたいがぁ様からお便りを頂きました(2012/7/1)
ウチは製造業ですが、電力消費以外の環境負荷はゼロに近く、ISO14001認証の維持について深く疑問を抱いております。
今回のケーススタディは、たいへん身につまされました。

たいがぁ様 まいどありがとうございます
極論すれば、顧客要求にないならば認証の意味はまったくありません。
あとはかざりです。


外資社員様からお便りを頂きました(2012.07.03)
おばQさま
製造部門の無い会社についてのお話、有難うございます。
この事例でも、グループ会社の特定顧客向け 営業部門が集まってできたとの事。
裏返してみれば製造部門を持つ会社のISOの認証で、営業部門に対して どの程度 掘り下げるかとの話と似ています。
「全く関係無い」と言えば問題になりますが、会社方針を理解して 出来る範囲の事(節電や事務機器の正しい廃棄など)を、実施する体制が明確ならば、おそらくは審査の場で おとなしくしていれば済むように思います。
それが会社として独立してしまうと、顧客が 「サプライチェインを含んだ活動」には、例外が無いと考えるならば無用と思いつつも、認証が必要な場合も出てきます。
受ける側とすれば、審査するべき内容も少ないのですから、簡単な認証が受けられれば助かるのです。
そこに、審査担当が 杓子定規な、製造部門向けの 重い審査や、膨大な資料を要求した日には眼も当てられません。
こういう会社のISO担当は、詳しく知るはずもありませんから、下手をすれば言うがままかもしれません。
一方で、有難いのは、世間の景気が悪いせいか、非製造業の会社に ISO14000認証取得せよという会社は無くなりつつあります。
購買部門から、この手の社内体制の調査票が来るのですが、2012年度版では「非製造業では不要です」と書いている場合もあります。

外資社員様 毎度ありがとうございます。
以前、外資社員様がおっしゃったように、環境負荷が少ない企業における認証の意味ということになり、その結論は認証してもしょうがないということだと思います。
審査の場で おとなしくしていれば済む ような部門はたくさんあります。いや実はそのような部門の方が多いのではないでしょうか。経理、財務、知的財産権関係などなど
そういう部門は関係ないよと明言すればよいのですが、世の中の審査員は「全員参加」なんて言って見逃しません。なにか悪しき軍国主義のようです。
ISO規格はすべて網羅しようとしてフルセットなのです。だけど現実の会社のほとんどは、中小企業ですし、環境負荷も少ないです。そんなフルセットを使いこなす以前に無駄無用であることはあきらかです。
ISO14001ができたとき、中小企業用の規格も作ろうという動きがありました。だけどISO-TCの結論は、ISO14001は中小企業にも使えるので、簡略化した規格は不要であるというものでした。
そりゃ、理屈から言えばそうかもしれませんが、現実の審査員はそれほど有能じゃありません。環境負荷の少ない会社、中小企業も環境に配慮した事業を進めたいのでISO14001認証しようとしたとき、大企業と同じべらぼうなことを要求されたわけです。
もっと審査側が世の中を知っていて、現実に合わせた、いや規格の意図を本当に理解した審査を行えば、大企業における不平不満、中小企業における過大なシステムなどは発生しなかったと思います。
そして現実のISO14001がレマルクの法則でばかばかしいほど巨大化した今では、景気動向に関わらず、ISO14001が不要であるとはっきりすべきでしょう。
外資社員様が書かれたようにだんだんとISO14001認証取得要求が減っているということは、良い傾向でしょうね


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