ケーススタディ 非製造業の環境教育1

12.08.15
ISOケーススタディシリーズとは

日本の法人で製造業よりも、非製造業がはるかに多いのと同様に、鷽八百社グループでも非製造業が8割程度を占めている。
製造業は公害防止組織法その他のさまざまな法規制がかかることと、その内容が具体的でビジブルであり、届を忘れたり、必要な措置が漏れたりということは少ない。また行政の指導も行き届いている。非製造業であっても環境に関して、さまざまな法律が関わる。しかし非製造業においては危険性を認識したり、驚くような設備もないことが多く、管理や運用に漏れが起きやすい。また騒音規制など公害関連については、行政の非製造業への指導や教育は、製造業に比べて不足している。
環境保護部の今年の課題は非製造業への環境法規制教育である。関連会社と一口に言っても100社以上あり、その内容はさまざまであるので、第一段階として建設業をしていない販売代理店に限定して、しかも関東近辺に所在している中から12社に絞って行うことにした。まあ初回は様子見というところだ。

教育内容の骨子は藤本が検討し策定したが、詳細とそのテキストについては五反田と山田も参加してまとめた。教育用のパワーポイントは異動してきた横山がかなり熱を入れてやってくれた。
まず、対象者は実務担当者とした。部長クラスが来ても、自分は細かな実務を覚えなくてよいという意識があるので今回の教育対象からははずした。
私が過去に部長クラスを相手に環境教育をしたとき、マニフェストとか、騒音の届出などを実際に書く練習をした。結果は不評で大ブーイングだった。偉い人にはどこかから偉い先生を呼んできて講演でもしてもらうしかない。

時間的には1泊して1.5日缶詰で行うことにした。時間的ちょっと短いかとは思うが、あまり長時間は拘束できない。
場所は鷽八百社が浦安に保有している保養所である。浦安になんで保養所がと思うかもしれないが、日本最大のレジャーセンターであるディズニーランドがあるので、わざわざ社員とその子供たちが遊びに行くためのベースキャンプを作ったのだ。山田は、ここに宿泊して、何日もディズニーランド通う親子の話を聞いたことがある。山田はディズニーランドまで1時間のところに住んでいるが、未だかって行ったことがない。もちろん地方から東京への出張の際にも、ここに泊まることができる。
ともかく、ここに昼前に集合して翌日4時頃に終わるスケジュールである。 教育内容だが、山田はよくみかける通り一遍の環境管理教育にしたくはなかった。通り一遍とは、法律の説明、マニフェストの書き方というようなものである。今回は、実際の仕事に即したものにしたいと考えている。
主催者側も初めてなのでどうなるか予想がつかない。それで講師はどうしようかと山田は迷ったが、廣井は教える方も全員で行って勉強して来いと言ってくれた。もし二日の間に問題が起きたら、廣井が対応するという。山田はありがたくそれを受けた。ということで山田、藤本、五反田、横山の全員で行くことした。

販売代理店環境管理教育プログラム
時間実施事項
第一日目13:00〜13:30オリエンテーション、自己紹介
13:30〜14:30環境法違反、環境事故事例紹介
14:30〜17:30業務から見た環境法規制
18:30〜懇親会
第二日目9:00〜9:30前日の反省と今日の確認
9:30〜10:30実務における近事故、ヒヤリハット事例紹介
10:30〜12:00ケーススタディ(仕事の進め方、事故発生、模擬監査)
12:00〜13:00昼食
13:00〜15:00続き
ケーススタディ(仕事の進め方、事故発生、模擬監査)
15:00〜16:00ケーススタディ発表会
16:00〜16:20講評・反省
16:20〜17:00確認テスト
終了次第、解散

はじめと終わりは山田が仕切り、講師は基本的に藤本と五反田、グループ分けして討議の時は4グループにしようと思う。環境保護部から4名行くからちょうどだ。
山田他のメンバーは前泊して準備に当たった。
保養所といっても、純粋なホテルではなく、研修所としても使っており、50名くらい入れる部屋もあり、プロジェクタや音響設備も整っている。グループ分けして討議するときも机を並べかえればできるだろうと見当をつけた。



    山田
  1. オリエンテーションである。
    参加者には見覚えのある人は一人もいなかった。だから、誰がどれくらい知識があるかなど全然見当がつかない。一生懸命やるだけだと思った。
    山田が開講の挨拶をして、講師側の自己紹介、受講者の自己紹介を行っておしまいである。

  2. 環境法違反、環境事故事例紹介
    藤本が担当である。

    藤本
    「みなさん、環境法違反というものが毎年何件くらい起きているかご存知でしょうか?
    犯罪白書というものがありまして、日本の犯罪統計が毎年報告されています。日本は治安が良い国だと言われていますが、毎年どれくらいの犯罪が起きているかご存知でしょうか? 犯罪というのは起きたことに気が付いたものです。泥棒に入られても気が付かなければ犯罪が存在したことになりありません。それで認知件数といいます。交通違反を除いて認知件数はだいたい148万件です(2011年)。交通違反は800万件くらいあります(2010年)。みなさんも酒酔い、スピード違反をしてはいけません。
    残念ながら、環境白書には環境犯罪という区分はありません。廃棄物については減少傾向にありますが、約6000件から6500件です。その他に公害関係が同じく約6000件あります。その他化学物質や省エネなどもあるわけですが、そういったことについては数が少ないのか、見当たりません。」

    なにがし
    30代の男性が発言した。
    「我々の販売店では環境法違反なんて、そんなこと聞いたことがないです。そもそも関係ないのではないですか?」
    藤本
    「みなさんは自分の会社が販売業で非製造業だから環境法違反に関わらないとお考えかもしれませんが、実はいろいろな法律に関わっていて、しっかり法律を調べて対応しないと大変なことになりますよということをお話します」
    なにがし
    「私の会社では廃棄物はすべてリサイクルしています。だから廃棄物を出していません」
    藤本
    「廃棄物というのは売れないものをいいます。よくリサイクルしているから廃棄物じゃないとおっしゃる方がいますが、今現在日本では廃棄物の多くはリサイクルされていて埋め立てられるのは廃棄物の4%くらいです。


    藤本
    「話がそれてしまいました。要するにみなさんの会社からもいろいろな廃棄物が出ているということです。
    青森岩手の不法投棄をご存じと思います。大量の廃棄物が不法投棄されて大問題になりました。廃棄物を不法に捨てたのは悪い業者でしたが、そこに廃棄物を頼んだいくつもの会社が措置命令を受けました。措置命令とは法規制を守っていない会社に対して、廃棄物を取り除くように行政が命令することです。措置命令といっても、自分が青森の山奥に行って持ち帰ることはできませんので、行政にお金を払って処理を頼むことになります。これは刑法犯ではありませんから、前科にはなりませんが、金額は罰金よりも多額になります。ある会社では頼んだ廃棄物の処理料が15万くらいだったそうですが、それが不法投棄されて措置命令を受けて支払ったお金が1000万以上と報道されていました。
    幸い、鷽八百グループでは青森岩手の事件に関わった会社はありませんでした。しかし毎年多くの不法投棄がみつかり、措置命令も出ていますから、そういうことにならないように気を付けなくてはいけません。
    廃棄物だけじゃありません。みなさんの会社にエアコンがない会社はないとおもいます。当然、家庭用のエアコンでなく、大きなものを備えていると思います。エアコンの室外機の送風機の馬力が法律では10馬力、条例では5馬力とか2.5馬力以上になると、設置と代表者の届出が必要です。そして代表者が替わるたびに届をしなければならないのです」

    なにがし
    40代の女性が手を挙げた。
    「すみません、質問です」
    藤本
    「ハイなんでしょうか?」

    なにがし
    「当社のエアコンは届をした記憶がありません。それってまずいことなんでしょうか?」
    藤本
    「まずエアコンが法規制にかかるかどうか調べることが必要ですね。対象である場合、設置届出や代表者の変更の届をしていないと罰金があります」
    なにがし
    「えー、ひょっとすると当社は違反ですか?」
    藤本
    「まあ、エアコンの設置届をしないで罰金という事例は聞いたことがありません。事後でも届ければ受理されるでしょう。ともかく法規制はちゃんとありますので、もし近隣からの騒音苦情などが起きていれば罰金ということもあるでしょう」

    藤本の話を聞いて、他の出席者も少しは真剣になったようだ。
    藤本は、その他にさまざまな事例を説明した。

    • 工事で問題発生
      建物の外装塗装に来た業者が使用後の塗料を側溝に捨てて帰ってしまった。塗料が流れて近所で大騒ぎになった。消防署まで出動した。責任は工事業者にあるとはいえ、会社の評判が落ちたのは事実だ。工事を依頼するときは、後の処理などを十分に注意しておくことが必要が。
    • ビルピットの悪臭
      道路を歩いていると、臭いにおいがするところがある。ビルの排水を公共下水管に放流できれば良いが、高さの関係でくみ上げることが必要なときは、一旦下水を貯めてポンプアップすることになる。これをビルピットとか排水槽という。この手入れが悪いとここから悪臭が発生する。
    • 灯油給油時
      非常用発電その他で灯油や重油タンクを備えているビルも多いが、その給油時に会社側がだれも立ち会っていないところがある。漏えいしたとき、会社側の責任問題となる。
    • 毒劇物販売の許可
      劇物に該当する塗料や接着剤を販売しているが、実際は客先から受注すると工場から直送している。自社では倉庫もないし触ることのないのでそういった規制を受けるとは思わなかった。
    • 特別管理産業廃棄物
      古くなったパソコンのUPSを廃棄物業者と契約して処理したが、あとで特別管理産業廃棄物管理責任者がいないこと、そして届出していないことに気が付いた。調べると罰金30万であった。
      UPSとはUninterruptible Power Supplyの略で、停電時でもしばらくの間コンピュータに電気を供給する装置。
    • マニフェストの記載不備
      マニフェスト票もだいぶ電子化が進んできたが、まだ過半数は紙で運用されている。法で定める記載が漏れていると罰金50万である。
      全国産廃連その他が作成し販売しているマニフェスト票には法律で定めること以外の記入項目が多々ある。そういったものは記載しなくても問題ない。例えば回収日を書く照合確認欄などは空欄であっても良い。但し回収日をなんらかの方法で管理することは必要だ。

    藤本
    「非製造業でもこのような事例は多々あります。
    皆さんは環境法規制に関わらないとか、環境事故とは無縁とお考えかもしれません。しかし自分のお仕事が環境法規制に関わらないか、今日明日で考えたいと思います」
うそ800 本日の体力不足
キーボードを打つのにも疲れた。
続きがあるのかどうかは、読者からの反響によってと・・・
もっともあることを見越して、本日は第1回にしております。

うそ800 本日の反省
詳細は書きませんが、ここに述べたことを教育すれば、一応のレベルにはなると思います。もちろん問題はあります。それは、販売会社などの環境担当者はほとんどが総務担当者なのですが、環境にかかわる業務は常時発生しないために、習熟する前に忘れてしまうのです。工場では日常発生しているわけで、そこが大きく違うのです。
環境負荷の少ない会社に対しては、「これこれの業務が発生したら環境保護部に問い合わせろ」というのが一番手っ取り早いかもしれません。実は過去の私の経験からもそうなのです。めったに発生しないことを教えるのも覚えるのも難儀なことです。ただ、そういうことができるには対応してくれる部門が必要です。グループ企業にそんな部門があっても良いかとは思いますが、それほど余裕のある会社も少ないでしょう。
結局、担当している人の才覚で、対応していくしかないのではないでしょうか。

続きは → その2




名古屋鶏様からお便りを頂きました(2012/8/15)
建物の外装塗装に来た業者が使用後の塗料を側溝に捨てて帰ってしまった

いわゆる「安い」業者にはウチも何度か泣かされたことが。
作業中に公道目掛けて猥褻物陳列罪をやらかして通報されたり、トイレを貸したらペンキではなくベンキの「外」で用を足されたりとか、塗料ではないですが自販機の廃飲料を側溝に流されたり・・・
社員だけでなく、外部コミニュケーションも重要ですわ。

名古屋鶏様 まいどありがとうございます。
はっきりいえば、そういうことに対する社会的視点が時代と共に厳しくなってきていると思います。そして昔の感覚で仕事をしているとひんしゅくを買うようになってきたと思います。
私が子供の頃、近所で家を建てていると、私たちは木端を積み木にもらいに行きました。木くず、鉋屑は主婦連がたきぎ、焚き付けにもらいに行きました。残ったものはドラム缶で燃やして暖をとっていました。もう建築現場から廃棄物が出ません。
ペンキ屋だって、ペンキが残れば家に塗るから欲しいなんて言う人がいました。
そんな時代感覚で今の時代、ごみを処理していたら即市役所が飛んできます。
我々も、反省せねば・・・・

外資社員様からお便りを頂きました(2012/8/15)
おばQさま 大変参考になるお話有難うございます。
カレンダー通り勤務の外資社員です。
仰る通り、日本企業の多くは非製造業で、非製造業のISO対応を説明してくれるようなセミナーは関連会社のみならず、外注先や協力会社にとっても有益なのだと思います。
すでにお書きになっていますが、非製造業は無関係と思いこんでいる会社も多いので、注意が必要なポイントに絞って抑えて貰うのが、お互いに効果がある内容だと思います。
特に廃棄物委託先に問題があり、措置費用が発生すると大きな損害になるので、藤本講師 流石ですね。
エアコンのお話も具体的で判りやすいのですが、こうした設備や廃棄物の扱いは、賃貸オフィスにいる場合でビル全体が処理サービスや空調管理をしている場合が多いので、そうした場合には対応が異なるのですよね。
今回の一日セミナーでISO関連に絞って実施しましたが、非製造業関連会社に対するコンプライアンス指導では、不要な費用や法的問題を回避するという意味では、下請法(不当な取引と見なされない為に)・外為法(輸出入に関して)・著作権法(知的財産の保護)などのお話も重要なのだと思います。 特に、ソフトウエアライセンス管理については、PCがネットワークにつながるようになり、購入ソフトとインストールしたPCの台数が、ネットワーク経由で販売側が把握可能になっています。 悪意が無くても、使わない古いPCからアンイストールしていないと、使用と見なされます。
ソフトウエアの不正使用と見なされると、定価の三倍が和解金の相場です(追加購入費は別)。
こうした不要な費用を防ぐ意味では、こうした注意は非製造業だからこそ重要なのだと思います。
ISOから離れてしまって済みません。

外資社員様、毎度ありがとうございます。といいたいのですが・・・
え!ISOですって
企業において、さまざまな規制といえば聞こえが悪いかもしれませんが、対応しなければならないことがあります。私は環境について書いているつもりでして、ISOについて書いていません。
バーチャルでママゴトのISOと言われては、私はカナシー
環境管理について、リアルでチャンチャンバラバラしていたつもりなんですが・・・・
ビル管理については、テナントの場合、持ち家の場合、丸ごと借りている場合、といろいろなケースがあります。まあ、細かく書いても誰も読みませんよ・・
もし、興味のある方、ご相談したい方がいらっしゃいましたらメールが来ると思いますので、それに対応します。
実を言いまして、結構ご相談があるのですよ。
老人の生きがいです


外資社員様からお便りを頂きました(2012.08.17)
おばQさま
いやぁー、一本取られました。 ISOの為の管理ではなく、管理の表現方法の一つがISO認証と判りつつも、つい、そんな誤解をしてしまいました。
反省することしきりです。

外資社員様 毎度ありがとうございます。
人はだれしも生まれも育ちも、そして現実の仕事も違います。
外資社員様と私も、関心ごと、あるいは現実の利害関係、トラブルというものが異なっていることは当然です。そしてそんなことから、お互いに認識が違うこともあると思います。
例えば、下のような関係をみたとき

 ISO実務の世界
環境ISO14001環境管理・公害防止
情報セキュリティISO27001現実の情報管理

私は左右の分け方が第一に来ますが、外資社員様は上下の分け方が第一に来るのではないでしょうか?
それで環境=ISO14001という発想をされたのかなという気がします。
申しましたように、人それぞれが抱えている問題が異なりますので、その発想も人それぞれかと思います。


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