ケーススタディ 10年目のISO事務局 その4

12.10.31
ISOケーススタディシリーズとは

前回までのあらすじ
山田の元上司で現在関連会社の取締役である福原から、その会社のISO事務局が傍若無人で好き勝手をしているので、担当者をいさめてその会社のEMSを役に立つものに見直してほしいという依頼があった。山田は直接その担当者を指導するのではなく、監査で不適合を出して、それを是正させる過程で教育していこうと考えた。
そして定例の環境保護部による環境監査を行った結果、案の定、たくさんの法律に関わる問題やISO規格への不適合などが検出された。
今回はその続き、監査での不適合の是正についての打ち合わせでございます。
と、これだけではストーリーがお分かりにならないでしょう。ぜひ「10年目のISO事務局その1」からお読みください。



藤本が認証機関を訪問した数日後、山田、藤本、五反田の三人は大法螺おおぼら機工を訪問した。
福原と川端と、是正の打ち合わせをするためである。

福原
「これはこれは、わざわざ山田課長さん自らご足労いただき恐れ入ります」
福原氏も川端の前では山田に気安く話しかけない。
山田
「先日行いました弊社の環境監査の是正の打ち合わせをしたいと思います。とりあえず今日は弊社の担当と御社の担当の説明と、どういった方向で進めるかということの確認をさせていただくことを目的としております」
福原
「承知いたしました。私どもはISOの川端係長が窓口となりますのでよろしくお願いします」
山田
「早速ですが、先日の監査で多くの不適合がありましたが、監査リーダーを務めた横山から、是正するにあたっては個々の現象ではなく根本的原因を究明してほしいと述べたと報告を受けております。その辺については福原取締役と川端係長さんの方でご了解されたということでよろしいのでしょうか?」
福原
「私は異存ないというか、横山さんのおっしゃる通りと受け取っております。川端君はなにか・・」
川端五郎
「現在のEMSで過去10年間、ISO審査で問題なくきておりますので、発見された不適合現象を直せばよくて、EMSの見直しまで行うことはないように思いますが」
山田
「うーん、ISO審査で問題ないことが、ISO規格に適合しているかどうか疑問ですね。更にISO規格に適合していても、この会社にとって良い仕組みなのかということは検討しなければなりません。それと今までのISO審査が適正であったかどうかということも考える必要があります。
細かいことは今後いろいろと福原取締役と川端さんと協議していきたいと思いますが、私の考えをちょっと話させてください。
ISOのために何かするということはまったくおかしなことです。どの会社にも歴史があり、歴史を重ねてきたということは、その会社のマネジメントシステムが機能していると言えるでしょう。
マネジメントシステムというのは、環境とか品質とか労働安全というものではありません。財務、資材、設計、製造、人事その他をひっくるめた包括的な会社の仕組み全体をいいます。ISO認証というのはその仕組みの中の特定の部分、例えば環境とか品質などですが、それが一定レベルにあるかどうかをチェックして対外的に証明することです。ですからISO規格に対応するためになにかをするというのは主客転倒ですね」
川端五郎
「しかし10年前に最初に審査を受けたとき、従来からの仕組みを説明してだめだと不適合を出されたのです。それで私がISO規格対応の仕組みを作って認証を受けたのですよ」
山田
「当時のことは私はわかりません。しかしそのときとるべきだった行動は、出された不適合について、それが妥当なのか、間違えた指摘なのかを吟味して、間違えた指摘ならば認証機関に異議申し立てをすることだったのではないでしょうか」
川端は山田の言葉を聞いて、息を飲んだ。そのようなことを考えたことはなかったのだろう。
山田
「審査において審査員と組織はまったく対当です。審査員が組織側より上位にいるわけではありません。ですから審査員が不適合と言えば不適合になるわけではありません。
そもそも審査員がISO規格を理解しているかどうかも分りません。規格を理解していてもその組織のマネジメントシステムを理解しているはずはありません。
ISO9001の監査の考えを確立したと言われているLMジョンソンという方がいました。その方が言った言葉に『組織を一番知っているのは組織の人だ』というのがあります。その会社の仕組みが良いか悪いかは組織の人しかわからない。外部の人がとやかくいうのは失礼なだけでなく、滑稽(こっけい)なことです。
審査員ができることは、その企業の仕組みがISO規格で定めていることを満たしているかいないかを判断することだけです」

川端は黙っていることができなくなったようだ。
川端五郎
「山田さん、山田さんはどれくらいISO規格をご存じなんでしょうか? 私はISO事務局を10年も担当してきました。ISO認証する会社の指導も何度もしました。ISO14001審査員補の登録もしているのです。山田さんが私よりISOについて詳しいといえますか?」
山田
「そうですね、川端さんほど経験はないですね。私は環境管理に関わって6年くらいですから。ただ私はそうとうISO規格を読みこんでいると思います。審査で問題があったとき、審査員の考えが正しいか否か常に考えて受け入れるか反論するかを決めています。
過去に、私がISOに関わってから審査員と見解が違ったことはたびたびありますが、一度も審査員の見解を受け入れたことはありません。私が審査員を指導していると言っても過言ではないでしょう」

山田は気負いもなくそう語った。川端は山田の言葉を聞いて色を失った。
山田
「そもそもISO規格をどう読むかですが、単に文字面もじつらを読んで、そのとおりすることが良いのではありません。会社が従来からしていることで、規格に書いてあることにあてはまるものは何かということを考える、そしてその要求が企業経営においてどのような意味があるか考えないとなりません。
そういうスタンスで考えないと、ISO規格の文字面にかき回されて会社に貢献しないおかしなことになります。
良く見かけるのですが、環境方針に会社名がないとダメ、枠組みという言葉がないとダメというようなバカバカしいことに終始することになり、そういうことをしていても会社のためにならないのですよ」

山田は大法螺機工の環境方針が、ISO規格の要求事項通りに書かれているのを知っていてそう言った。
川端五郎
「じゃあ、これから当社の仕組みを見直して審査で指摘を出されたら、山田さんが対応してくれるのですか?」
山田
「私は貴社の人間ではないので、先方が私を交渉相手として認めるかどうか問題ですね。もちろん、もめた場合は協力させていただきます。今までなんども鷽八百グループの会社でISO審査でトラぶったとき、相手はいろいろな認証機関がありましたが、私が支援しています。今まで私の説明が受け入れられなかったことはありませんでした」
川端五郎
「弊社が契約している認証機関は過去の審査で問題なかったのですから、今後も従来通りの考えで審査すると思いますが」
山田
「このたび、藤本部長と五反田がその認証機関に今回の弊社の環境監査で見つかった問題をなぜ過去の審査で見つけなかったのかについて協議に行ったのですが、先方は過去の審査が不適切であったと認めました。ですから来年の審査では従来のEMSでは不適合になる恐れが多分にあります。いや、私どもではその認証機関に不適合を出すように求めております。 私個人の意見ですが、我々が監査して不適合がこれほどあるのに、ISO審査で見つけないのでは今までの認証機関の力量がないと思いますので、認証機関を変えた方がよろしいのかもしれません」

川端は何を言っても山田が動じないので二の句が継げない。
福原
「もういいだろう、川端君。
では山田課長さん、是正の進め方についてお宅様のお考えを説明していただけますか」
山田
「審査とコンサルを同じ人がしてはいけないというルールがあります。コンフリクトといいますが、利害が相反するので適正なコンサルも審査もできないからです。
それと同じく、私どもも監査をした者が是正の指導をすることはできないと考えております。この場合コンフリクトがなくても指摘が適正かの検証が入らないから暴走する危険があります。ということで大法螺さんの是正の指導は私が担当することにします」
福原
「おお、課長自らご指導いただけるとはありがとうございます。
川端君、山田課長は鷽八百グループではISOに明るい方として有名なんだよ」
山田
「福原さん、川端さんがご存じないのですから、有名じゃないようです。
ともかく私の価値観はまず会社の仕組みを基に、会社に貢献するか否かという判断基準で行うことにブレはありません。審査員が言ったからとか、審査でもめないようにとか、他社がこうだからという発想はまったくありませんし、そういう発想から作られた仕組みはすべて直してきたつもりです。大法螺さんの仕組みをお聞きするのが楽しみです。
今日は今後の進め方の説明とご確認いただくということで、細かな話は次回以降といたしましょう」

福原
福原はちょっと話が切れたときに口を挟んだ。
「山田さん、本日はちょっと私どもで席を用意しておりますので、みなさん是非ともご出席をお願いします」
山田は藤本と五反田を振り返った。
藤本
「私は喜んで、福原取締役と川端係長といろいろとお話したいと思っておりました」
五反田
「私も喜んで」
藤本の家は多摩ニュータウンだと聞いているし、五反田は横浜の住民だ。山田は千葉だから一番遠方だ。遅くなると帰宅はちとつらいが、一人だけ顔を出さずに帰るというわけにはいかない。
それとは別件だが、本来は監査の場合、被監査部門が設けた宴席はお断りしているのだ。しかし今回は監査は既に終わり結論もでていることだから、まあいいかと山田は心の中で妥協した。
山田
「ではありがたくごちそうになります」
福原
「ごちそうなんてとんでもない。健保会館ですよ。川端係長の助手をしている桧垣という者も同席しますのでよろしくお願いします」



豪華な建物でもないし豪勢な料理でもないが、くつろげる感じの宴であった。
桧垣という若者がやってきて名刺交換する。
福原の音頭で乾杯をして、はじめは福原が話の主導をとった。




藤本 生ビール サラダ 生ビール 山田






福原 生ビール 刺身 生ビール 五反田




川端五郎 生ビール 焼き鳥 生ビール 桧垣
福原
「藤本さんは監査が業務と伺いましたが、当社のEMSのレベルはいかがでしょうか?」
他社に比べて自社の環境管理はどうか、世間のレベルでどのあたりに位置するのかということは、誰もが知りたがることだ。

藤本
「お宅は製造業ですが、監査をしまして大いに意外な感じがしました。普通の工場は1970年代から公害防止組織法に基づく環境管理組織が作られています。ISOではその仕組みで審査を受けるというのが一般的です。もちろん営業や設計部門などは公害防止組織法が適用されませんので、そういった部門はISO認証を機に新たになんらかを追加するというところが多いですね。
他方、非製造業、例えば支社、販売代理店、運送会社などではISO審査を受けるときに初めて環境管理をどうするか考えたというケースが多いです。勘違いしないでほしいのですが、そういった非製造業においても以前から環境管理をしているのです。ただ、あまり環境法規制などを受けることがないので、環境と無縁だと思っていることが多く、それまで実際にしている環境管理体制を見せて説明する会社はほとんどありません。そしてその結果、多くの会社は『紙ごみ電気』と揶揄される怪しげな会社に役に立たない活動をするのがこれまた普通です。本当は非製造業だって以前から環境活動をしているわけで、それをそのままISOの環境側面とか目的目標に取り上げればいいのです。華々しく見えないかもしれませんが、それはしょうがありません。だって元々環境負荷が少ないのですから。
まあそういう前提を踏まえて考えると、御社の場合、製造業しかも公害防止組織法の規制を受けているにも拘らず、ISO認証のために仕組み、つまり体制や文書を作っているという珍しい会社ですね」
福原
「珍しいということは、見当違いなことをしていると理解してよろしいのですか?」
藤本
「言いにくいですが、そのとおりです。なぜこのような無駄な仕組みにしたのか不思議です」
川端五郎
「当時我々は会社の環境管理体制を調べたのですが、そのままではISO審査に耐えられないと判断して、それを一旦リセットしてISO規格対応で考えたのです」
藤本
「そのままでは審査に耐えられないというもの変ですよね。過去30年以上、事故防止を図ってきたのだし、行政の立ち入りを受けて問題があったわけでもないのに」
川端五郎
「たとえば環境側面を把握するという仕組みもありませんでした」
藤本
「ISO規格が現れる前に環境側面を把握すると考えていた会社があるわけありませんよ。そもそも1996年以前に環境側面なんて言葉はありませんでした。環境側面とは、管理すべきものを意味するのですが、翻訳するときにそれじゃありがたみがないと思ったのか、わざわざ環境側面なんて言葉を作ったのですよ。
ISOだからといってまったく新しい考えなのではありません。従来の公害防止活動を全社に拡大したと考えてよいのです。過去から管理しているものを著しい環境側面とするという発想はなかったのですか?」

川端は驚いたという顔をした。
川端五郎
「藤本部長、そんな考えでISO認証が受けられるとお思いですか?」
藤本
「問題ありませんよ。そういう考えで認証を受けている会社もたくさんあります。私は前から不思議に思っているんだけど、点数ばかりじゃなくてISO認証するために環境側面を調べるという発想が大間違いと思います。だってISO認証を機に調べるというなら、それまでは法規制も事故のリスクも考えていませんでしたということになる。笑ってしまうじゃないか。
しかも、点数で計算して何点以上を著しい環境側面にするという決め方は、ありゃいったいなんだろうね」
福原
「私もあの考えはわかりません。点数の付け方の根拠がわからないのです。電気使用量と廃棄物の量と紙の使用量にそれぞれ点数を付けて比較するということが果たしてできるものかどうか。まったくファンタジーとしか思えません。
当社は第1種エネ管指定工場になっています。法律では原油換算で計算するのだが、当社は年1200万kWhくらい使っているので当然該当する。
それで1000万以上を5点だったけ? に点数を付ける。ところが、PPCの場合は500万枚で5点にしている。
川端君、なんで電力は1000万kWhでPPCは500万枚で5点なんだろう? それぞれ等しい環境影響があるという根拠はあるのかい?」
川端五郎
「根拠と言われるとコンサルさんの指導があったからですよ。
しかし点数化することの効果は大きいです。点数にすることにより、電力と水や廃棄物を比較することができるのですよ。電力が1200万kWh、廃棄物240トン、PPC500万枚では比較できませんが、電力が5点、廃棄物が4点、PPCが5点なら、優先順位がわかりますよね」
藤本
「私はそれが信じられない。真の環境負荷を基にした点数でなくて、いい加減に配点した電力の5点とPPCの5点の影響が同じといえるのでしょうか? PPC500万枚を5点とした根拠はなんだろうか? もし5点でなく4点にしていればどうなのだろう? 6点にすればどうなのかな」
五反田
「私の疑問は、排水処理施設が点数が低くて著しい側面になっていないということです。どうも考え方が逆じゃないかと思いますね。法規制を受けるものが著しい側面でなければ間違いだという発想はなかったのですか?」
川端五郎
「著しい環境側面は著しいとならなかった法の特定施設よりも、優先して管理する必要があるとご理解していただけたらよろしいのでは。また著しい環境側面が多すぎると管理上問題になります」
五反田
「うーん、それはおかしいですね。いや間違いでしょう。川端さんは著しい環境側面と目的目標をゴッチャにしているのではないでしょうかね?
目的を選択するは優先順位があるでしょうけど、著しい側面に優先とか順序を付ける必要がありませんし、数が多くても管理しなければならないものは管理しなければならないのです。だって特定施設が多ければ順位の低いものは管理しなくてもよいなんて言ったら行政から叱られますよ。アハハハハ」

五反田は本当に素直な人だなと山田は思った。間違いには場所をわきまえず批判し笑い飛ばす。天真爛漫で「裸の王様」に出てくる子供のようだ。
川端は顔色を赤くした。
川端五郎
「著しい環境側面とは管理が必要なものとは同じじゃないんです。改善を必要とするものなのです」
桧垣
「川端さん、2年前にボクがISO事務局に異動してきたとき、川端さんに質問したことがありましたよね。点数が少ないけど法で規制されたものを著しい側面にしないことはおかしいって。覚えてらっしゃいますか?
やはりこの考えは誰でもおかしいと思うんじゃないのかな?」
川端五郎
「桧垣君、君は何年この仕事をしているんだ。私は10年もISO事務局をしてきたんだぞ。私がこの方法を考えたのだけど、今まで重大だと考えたこともない意外なものが計算結果著しい側面になったこともある。点数による方法は、意外と気が付かないものが漏れなく抽出できるという効果があるんだ」
五反田
「その今まで重大だと考えていなかったもので著しい環境側面になったものとはどんなものでしょうか?」
川端五郎
「たとえばPPC用紙とか、照明のLED化が有益な側面になったなどがあります。こういったものは著しい環境側面と思われないことが多いのです」
藤本
「PPC用紙は御社で年間何万円くらい購入しているのでしょうか?」
桧垣
「本社だけで500万円弱でしょうか」
藤本
「電気料金はおいくらですか?」
桧垣
「1億8千万くらいだったと思います」
藤本
「すると1億8千万と500万を比較すると30倍以上違いますが、同じ5点となるのはどうしてなんでしょうか?」
川端五郎
「ですからそういう単純な金額比較ではわからないことが、点数化することによって真の重要性が比較できるようになるのです」
藤本はため息をついた。川端は病気だ。あるいは天動説信者というのかもしれない。
川端五郎
「また著しい環境側面を点数で評価しているとそれを環境目的に取り上げた場合、改善を図ると点数が減り、著しい環境側面ではなくなり改善効果が目に見えることになります。
具体例ですが、長年保管していたPCBトランス10台のうち8台を昨年JESCOに処理を委託しましたので今保有台数が2台となりました。このためPCBの点数が大幅に下がり今年から著しい側面から省きました。これは今年の審査で点数法による良い効果だと評価されました」

PCBトランス PCBトランス PCBトランス PCBトランス PCBトランス
PCBトランス PCBトランス PCBトランス PCBトランス PCBトランス
→ PCBトランス
PCBトランス
もしPCB機器が10個から2個に減ったからと著しい環境側面から外した会社があれば、アブナイから近づいてはいけない 
それを聞いて藤本は飲みかけたビールをプワッと吹き出した。藤本はあわててふき取る。
みんなも笑ったが、それは藤本を笑ったのではなく川端の論理を笑ったのだ。
川端だけが不審そうな顔をしていた。
藤本
「ホウ、そうしますと現在御社では現在も保有している2台のPCBトランスは管理していないわけですね?」
藤本はハンカチをしまいならがそう言った。
川端五郎
「いえ、そういうことはありません。ちゃんと看板をつけた保管庫において施錠していますし、毎年の点検や報告もしています」
藤本
「じゃあちゃんと管理しているわけだ。それなら著しい環境側面に該当する/しないということは、どんな意味があるのでしょうか?」
川端五郎
「監査の時も申し上げましたが、ISOの著しい環境側面に該当するものがどれかということなのです」
藤本
「はあ? ISOで定めているものですか? なんか堂々めぐりしているようだが」
川端五郎
「審査員はISO規格に書いてある物がどれか、どのように管理しているかということを調べるわけです。ですからISO事務局としては聞かれることがすぐに回答できるように準備しておくということになります」

山田は今まで黙っていたが、これを聞いて黙っていられなくなった。
山田
「川端さんはISO認証の効果とはなにかとお考えですか?」
川端五郎
「ISO認証の目的は二つあると飯塚先生がおっしゃっています。飯塚先生をご存知ですか。飯塚先生は、日本のISOの理論的指導者です。私は先生を尊敬しており、ご講演を何度も聴講しています。
先生があげている効果のひとつは認証そのもの、つまり商取引で認証という効果を発揮したり、会社のブランドイメージを上げるということですね。
もうひとつは会社を改善するツールであるということ。
前者については鷽八百社をはじめグリーン調達で必要条件となった今、効果があることは明らかです。後者については、当社の仕組みが従来は明文化されておらずビジブルではなかったのですが、ISO認証を機会に私が見直しましたのでそうとう風通しがよくなって改善されたと思います」
山田
「改善効果と言えば、第一に遵法の向上とか、事故防止を思い浮かべますが、そういう観点では効果はありましたか?」
川端五郎
「ISOは序文にも書いてありますが、遵法やパフォーマンス向上には直接結びつかないのです」
この男は中途半端にISO規格を読んでいるようだ。山田はこれからの指導は大変だなあと思ったが、五反田の前向き精神を思い出し、これからの指導はやりがいがあると思うことにした。
山田は話の向きを変えた。
山田
「福原さん、取締役としてはISOにどのような期待をしているのでしょうか?」
福原
「それはもちろん審査のためとか審査員を向いたISOではなく、会社に役に立つISOです」
山田
「会社に役に立つと言っても漠然としていますが、具体的にはどのようなことでしょうか?」
福原
「私も一応ISO規格は読んでいる。ISO14001の意図は遵法と汚染の予防だと書いてある。汚染の予防とは事故だけではなく廃棄物削減とか省エネも含むそうだ。私の考える会社への貢献とはズバリこの意図を実現することです。
川端君、ISO活動が審査員のためでなく、会社の遵法、リスク管理、費用改善などにつながるものにしてほしい」
桧垣
「ボクにも話させてください。実際の仕事と関係のあるISOにしてほしいですね。先日の監査でもいろいろと問題が見つかったと思います。教育内容が仕事につながっていないこと、手順書が仕事で使う会社規則と無関係なこと、一銭にもならない集計などを行っていること、実務をしていると会社をつぶす気かと思います」
川端五郎
「福原取締役や桧垣君の考えている仕組みは、第一回審査で問題になったようにISO審査は通りませんよ」
福原
「私の考え、いや社長のご指示でもあるのだが、審査のためのISOならもう止めようということだ。会社のためになるEMSにしたとき審査で指摘を受けるなら、ISO認証を止めてもよいと考えている」

川端はギョとした顔をした。
山田
「福原さん、そういうISOは審査で不適合になりませんよ。世の中でISO認証している企業の多くはISO規格の意図を理解しない審査員によって間違った方向にいっているのです」
川端五郎
「それは当社もそうだという意味ですか?」
山田
「そうですね」
川端五郎
「これから山田さんが当社のEMSの見直しのご指導をされるとおっしゃいましたので、どのような見直しをするのか楽しみになってきました。そういう方向でいけば間違いなくISO審査で指摘事項が山となるでしょう」
山田
「何事も目的次第ですよね。福原取締役がおっしゃったように『審査のためのISOではなく、会社の役に立つもの』を実現するのですからそのようなことは気にしないことです。
そしてISO審査で指摘が山となってもそんなものが不適合でないことを論駁して見せましょう」
川端は恐ろしいものでも見るような目で山田を見つめた。

うそ800 本日の問題提起
今現在でも川端氏のようなISOをしている人は多い。いや非常に多いというか、そういう人が過半数なのである。そして審査員もそういうISOが当たり前と考えている人が多い。
更に悲しいことは、そういう考えの審査員が「会社のためになる審査をしている」と勘違いしていることだ。
日本のISOは既にたおれて立ち上がれそうない。
こんなばかばかしい第三者認証となった責任は誰にあるのだろうか?
 認定機関なのか?
 認証機関なのか?
 審査員なのか?
 コンサルなのか? ・・・ほとんどは審査員兼業だが
 企業のISO担当者なのか?
 ISO-TC委員なのだろうか?
 一般社会なのか?
私とかぶらっくたいがぁさん名古屋鶏さんでないことは間違いない。

うそ800 本日の疑問
ひょっとして、ISOの審査員は実際に環境管理の仕事をしたことがない人が多いのだろうか?
環境管理の実際の仕事とは、排水処理施設を運転するとか、コンプレッサを修理したり、クーリングタワーの音がうるさいというお宅に謝りに行ったり、あるいは汚れをいとわず廃棄物を分別したりトラックに載せたり、あるいは寒風吹く中配管の修理をしたり、埃だらけになってPCB機器の点検をしたり、側溝の掃除をしたり、とにかく汚くて嫌な仕事ばかりですよ。ISO審査員の方は、そんなことをしたことがないのだろうか?
環境側面の計算をしたり、部門からの順守評価報告をとりまとめたりすることは、環境管理とは言いません。ISOごっこといいます。

その5に続きます



名古屋鶏様からお便りを頂きました(2012/11/1)
うーむ。川中・・ではなく川端氏(しつこい)はかなり悪党と見ましたね。彼は「ISO認証以前からISO関連のつながりがあった」そうですから、事前に「審査員ウケするシステム」を構築することが充分に可能だったワケです。しかし、あえて「それ」を避けることでコンサルの仕事を「作った」ことになります。組織に対する背任と収賄の疑いもありますね。
いっそのこと何も是正しないままに、真っ当な審査をする審査員に見させるというのも手かも知れませんね。そのとき川中じゃなかった川端氏は「審査員の言うことが間違っている!」と叫ぶのでしょうか?
それとも「ブルータス、お前もか」と(略

鶏様 毎度ありがとうございます
川中氏、いや川端氏は己の仕事を価値あるもの、仕事量があること、他人にはできないようにと、けっこうえげつなくやっていたということでオケー?
いや川中氏、違った川端氏はまさしくサラリーマンの鑑であります



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