内山の課題報告

12.12.12
ISOケーススタディシリーズとは

朝、山田がインボックスの書類を片付けていると、脇から横山が話しかけてきた。
横山
「山田さん、内山さんからひとつの課題の提出がありましたので、山田さんにメール添付で送っておきました。三人でそれについて話し合いを持ちたいと思いますが、その前にご一読しておいていただけないでしょうか」
山田
「わかりました。内山さんの力作だろうからじっくりと読みたいな。となると今日は無理だから、明日か明後日の午後にでも1時間くらいどうだろうか?」
横山
「明日は私が出張なので、それでは明後日の午後ということでお願いします」
山田
「わかりました」


その日の午後、山田は仕事の合間に内山の報告書をプリントアウトしてながめた。それは横山の課題の一つ、「過去2年間の環境監査結果と是正処置について概要とあなたの見解をレポートにまとめる」というものだった。初めは工場を訪問しないで書ける課題を選んだと見える。
まずボリュームであるがA4で20数枚にわたって書いてある。グラフなどもけっこうあるから、文字数にして15,000字というところか。キーボードを打つだけなら山田なら3時間というところだろうか。内山はどれくらい時間をかけたのだろう、なんてことを考えながらながめていく。
調査対象である環境保護部の環境監査の監査基準は、法規制と社内ルールそしてリスクであるから、不適合は法違反、社内規則からの逸脱、事故のリスクに限定される。ISO14001審査での不適合よりも即物的であり、リスクそのものだからその是正もしっかりとしてほしいところだ。
    内山の報告書をみると、まず現在発生している不適合については
  • ひとつ、全体的に類似不具合が繰り返し発生していること、
  • ふたつ、是正処置としているものが、再発防止まで考えておらず不具合の除去にとどまっているものがかなりあること、
  • みっつ、環境担当者の実務を行う力量が不足していると思われること
    を挙げている。
山田はまあ半分は当たっているかと苦笑いした。現在、監査を行えば一拠点あたり数件の不適合が見つかっている。それは山田自身の力不足によるところでもあるが、完璧など無理というか、求めるべきではないと割り切っている山田は、本当に大問題につながること以外はあまり徹底して再発防止を図っていないのも事実である。山田はいつも横山に言っているが、大きな問題を起こさないことが最低条件であり、それ以上を求めるのは収穫逓減の法則で加速度的に負荷が増えていく。だから適当なところで妥協するしかないのだ。

さて、内山の考えた対策とはどういうものだろうかと山田はザーットながめていく。
まず是正処置を完璧にするために、是正処置の方法を良く教えること、是正報告書の内容が不十分であれば差し戻すこと、不具合発生状況はグループ内に徹底して周知し、対策させることとある。
また担当者教育については全社的に環境担当者教育制度をつくり、体系的に推進していくことが必要とある。 まあ、正論だろうと山田は思う。その実行は極めて困難なのだが、そういってはいけない。そのあたりについて費用対効果の考察があれば素晴らしいのだがと山田は思った。
一通り読み終えて、山田は踏込が足りなく検討不足でなんとかでっちあげてまとめたという感じは否めないが、練習問題の最初にしてはまあまあだろうと思う。ミーティングの前にもう一度読みなおしておこう。


横山が山田と内山を招集した。三人は打ち合わせコーナーに集まる。
横山
「内山さんから最初のレポートをいただきましたので、その発表をしていただきます。
内山さん、ではどうぞ」
内山
「課題は『過去2年間の環境監査結果と是正処置について概要とあなたの見解をレポートにまとめる』ということで、まず過去2年間の監査結果を調査しました。調べてみるとその監査件数と不適合の件数はあまりにも膨大なので、当社グループ全体ではなく当社内に限定しました。とはいえそれでもたくさんの工場と支社がありますので結構な数になりました。
調査結果は第1章に書いた通りで、状況を図表1にまとめています。それからわかることは、類似不適合が繰り返して発生していることです。もちろん同じところで類似不具合が発生しているわけではなく、横展開が不十分だからと思います」

内山は要点を簡潔に説明していく。調査や分析が適正かどうかはともかく、説明はうまいものだと山田は感心した。今の若い人は大学でもパワーポイントを使って発表するのが当たり前になっていることもあり、またカラオケなどの影響もあってか人前で歌ったり話したりすことは苦にならないようだ。昔の人が人前で話すときのよく言った「エート」とか「あのう」とかいった時間稼ぎのような言葉を言わない。それだけ話なれているということだろう。
15分ほどの発表が終わると、横山は山田に声をかけた。
横山
「内山さん、ありがとうございました。
山田さん、なにかありましたら」
山田
「教育担当は横山さんだから、今日は私は陪席だけということにしよう」
横山
「わかりました。では内山さん、私からいくつか質問します。
同じ工場で再発していないなら、是正処置が不十分という理屈はないと思いますが、そこはどうなんでしょうか?」
内山
「ああ、言われるとそうですよねえ〜、是正処置が真の再発防止になっていないとしても再発していないのだから・・おっしゃるとおりですね」
横山
「そうしますと類似不具合は他の事業所で発生しているだけということになりますから、その原因は内山さんが書いているように横展開が不十分ということになります。内山さんはその対策として『不具合発生状況はグループ内に徹底して周知し、対策させること』と書いています。内山さんは過去本社からそう言った通知が出ているものをご覧になったことがありませんか?」
内山
「あまり記憶にありません。毎年の監査結果のグループ企業への情報発信はしているのでしょうか?」
横山
「毎年、年度初めに前年度の環境に関する問題をまとめ紙の冊子とpdfファイルの形式でグループ企業に情報を発信しています。とりあげているのも監査結果だけでなく、事故、違反、ISO審査での問題、その他ニアミスレベルの問題などいくつもの切り口でまとめています」

山田は横山が説明している間に立ち上がり、打ち合わせ場と居室を仕切っているロッカーから今年度と前年度の冊子を取り出してきた。
山田
「内山さん、実物はこれなんだがね、君は見たことはないのだろうか?」
内山は山田から受け取ってパラパラとながめた。
内山
「ああ、思い出しました。これは環境管理課で回覧されています。私は日常業務が忙しくてあまり中身を読みませんでした」
横山
「内容は後で見ていただくとして、環境保護部はそういう情報を年度ごとにまとめて発信しています。もちろん重大不具合が発生したときはその重大性に応じて、事業所長クラス、部長クラスに事故発生の情報通知と点検を指示しています」
内山
「ああ、そうだったのですか」
横山
「そうしますと、内山さんの報告は調査不足ということになりますね。ともかく横展開が不十分であることは間違いないですが、環境保護部の情報発信が不足しているとは言えません。工場でそういう情報を活用していないということかしら」
内山
「うーん、おっしゃる通りですね。
ちょっとわき道にそれて良いですか?」
横山
「どうぞ、どうぞ」
内山
「横山さんから調査不足といわれましたが、どういう調べ方をすればよかったのでしょうか?」
横山
「仕事というものはすべて規則に基づいて動いています。会社で情報を収集しそれを活用するのもすべて会社規則で決めています。ですからまず調べものとか仕事の手順を知りたいときは会社規則を読むことから始めなくてはなりません」
内山
「えー、会社規則ってそういうことを決めているのですか!」
横山
「うーん、困ったわね。私は内山さんが会社規則をそらんじているのかと思っていました」
内山
「ボクは会社規則なんて読んだことありません。会社規則ってそんなに重要なんですか?」
横山
ええ
山田
「うーん、内山さん、我々は会社で仕事しているわけだけど、仕事は思い付きとかその都度上長から命令されてしているわけじゃないよね。
君の工場での環境管理の仕事って何に基づいてしているのだろうか?」
内山
「基づくって言われても、会社に入って、いや5年前に環境保護部に異動になってからですよね、廃棄物の扱いとか廃棄物業者への対応は、先輩というか前任者から口頭で教えられたことがほとんどですね」
横山
「ちょっとちょっと内山さん、私たちが工場に行って監査すると工場では作業手順書を出して仕事の仕方を説明するでしょう。あれってなんなの?」
内山
「ああ、『作業手順書』というのがありましたね。私も仕事をしているうちに、『作業手順書』というものがあることを知りました。私も廃棄物業者の現地調査の作業手順書を作ったことがあります。しかし実際の仕事のやりかたと作業手順書に書いてあるのは同じではないのです」
山田
「同じじゃないってのも、おだやかじゃないね」
横山
「ちょっと山田さん、黙っていてください。
内山さん、あなたが甲府工場で仕事をするとき、例えば毎年廃棄物業者の現地調査に行くということは何に決まっているのでしょうか?」
内山
「ええと、たぶんその廃棄物管理について決めている作業手順書に書いてあるかと思います。しかし私は毎年度はじめに、前年度の活動結果を基に年間計画表を作ります。そこに廃棄物業者の現地調査を業者ごとにいつ行くかを書き込んでいます。廃棄物の削減計画などもそこに盛り込んでいます。その計画表を見れば私の一年間の活動がわかるようにしているのです」
横山
「すると作業手順書で定めていることと、あなたの年間の活動計画が整合しているかはわからないのですね?」
内山
「そういうことを考えたこともありません」
横山
「話は変わるけど、あなたは一昨年、廃棄物業者の現地調査を近隣の関連会社や下請と共同して行うようにしたといいましたよね?」
内山
「はい、そのように改善しました」
内山は胸を張って言う。これは彼の自慢なのだ。
横山
「現地調査を共同して行うというのは手順の見直しでしょうけど、それは作業手順書に反映・・・つまり改定したのでしょうか?」
内山
「いえ、そういうことはしていません」
横山は天を仰いだ。彼女にも手におえないものがあるらしい。
ともかく横山は気を取り直して・・・
横山
「あなたの職場の人はみな、会社の文書などを見ていないのでしょうか?」
内山
「担当者によって違いますね。電気担当は電気事業法で手順書に定めることが決められているので管理方法などを工場規則にしていますし、その文書と現実はずれていません。めったにはないですが立ち入りもありますから。
公害関係は、公害防止統括者やその代理者、そして公害防止管理者の役割や報告などを工場規則に決めています。そして排水測定や届出などの細かいことは排水管理の作業手順書に決めています。ところで、作業手順書と工場規則というのはどう違うのだろうか?
廃棄物は私ですが、今言いましたようにルールと文書は乖離しています。
ともかくそんなふうに環境管理でも担当職務によって決めている文書も違い、どこまで細かく決めているかも違います。そして実務と一致しているかも違います」
横山
「環境管理課の課長は、業務の手順を文書にすることについて、どのようなお考えなのでしょう?」
内山
「課長は業務と文書は一致させることといつも言ってます。それに従っている人もいるし、しない人もいるという状況ですかね。ボクは文書に書くよりも、実際の仕事をどんどん改善していくことが大事だと思っているので、作業手順書の改定はあまりというかほとんどしません」
横山
「山田さん、何とか言ってください」
山田
「私は発言が禁じられているし、ここは横山さんが仕切っていると思ったよ」
横山
「すみません、先ほどの言葉は取り消します。山田さんからひとつお話していただけませんか」
山田
「内山さん、まず会社の仕事の手順は文書化するというのは鉄則だ」
内山
「ISO規格、品質でも環境でもそう書いてあるからですか?」
山田
「そうではない。仕事の手順や基準を文書化することは必要だからだ。同様に命令も辞令もすべて文書、紙とは限らないけれどに書き示すことが必要だ。それはまず言った言わないという間違いを防ぐことができる。
内山さんが改善した近隣の関連会社と共同して廃棄物業者の現地調査をするということは誰がいつ決めたかというのは第三者がわかるのだろうか?」
内山
「一昨年、島田部長にお話して部長名で関連会社と下請けに発信しました」
山田
「そうするとその命令は一過性なのだろうか? 永続的に効力を持つのだろうか?」
内山
「そういうことを考えたことはなかったですね。当社の部長が関連会社や下請に、やれと言えば良いと思っただけです」
山田
「内山さんは標準化という言葉を知っているかい?」
内山
「聞いたことがあります。ISOも確か国際標準化機構っていいましたよね」
山田
「そのとおり、じゃあ標準化ってどういう意味か説明してよ」
内山
「標準化ですか・・・なんでしょうかね、仕事の方法の標準を決めることでしょうか?」
山田
「いいぞ、そのとおり。標準化といってもいろいろな意味につかわれることもあるだろうけど、工業においてはいろいろな方法や仕様があるとき、ひとつの方法や基準を決めて『標準』とか『規格』と呼ぶものを確立することだ」
内山
「お話からすると、標準化とはイコール文書化となりそうですね?」
山田
「原則としてそうだろうね。文書化しなければ、標準化されたことが継続して標準であり続けることができないだろうからね。
じゃあ、標準化ってどんな意味があるのだろうか?」
内山
「パソコンのコネクタや通信の規格がなければメーカーごとに違ったりしては困りますね」
山田
「そうだ。標準化の目的はいろいろあるが、内山さんが言ったのもそのひとつだ。ヒマがあったらここを読んでおくとよい。
仕事を標準化するという場合、その目的は三つあると言われている。
ひとつは文字通り標準を決めることによって手順を明確にできること、次にそれを元に教育して誰がしても同じ仕事ができるようになる、もうひとつは改善の基本となることと言われている。標準なくして改善なしともいう。
もちろん会社の仕事すべてを事細かく文章で書く必要はない。わかりきったことはルールにするまでもないだろう。まだ標準が確立していないことはルールを決めようがない。ISO9001でも14001でもすべての手順を文書化する必要はないと書いてあるし、文書化の程度は要因によって異なると書いてある(ISO14001序文末尾にある)」
内山
「つまりそれがどういうことになるのですか?」
山田
「当社は結構しっかりした会社だと思う。当社はISO9000sなどが現れる前から、社内の業務を文書化して会社規則として定めている。総務、人事、営業、購買、開発設計、製造、品質、環境、知的財産などに全分野についてどの仕事は誰が決裁するか、誰がどのようにするのかを決めている」
内山
「ええー、そんなこと聞いたことがありません」
山田
「おいおい、そんなことはないよ。入社したとき研修で当社のルールというものを教えられたはずだ。もちろん詳細は配属された部門で関係する会社規則について教えらているはずだよ。君は入社したとき研修で教えられたはずだが忘れてしまったのかね?」

内山は斜め上方をみて思い出そうとしているようだ。
山田
「ともかく、会社の大きなことは会社規則で決めている。しかし工場ごとに決めなくてはならないこともあるので、それは工場規則というもので決めることになっている」
内山
「工場規則は知っています。もっともあまり読んだことはありません」
山田
「さて特定の部とか課の仕事のルールを工場規則にすると大変だ」
内山
「どうして大変なのですか?」
山田
「工場規則を作るには工場の各部門に問い合わせして同意を得なければならない。そして決裁者は当然工場長になる。部長が他の部に影響を及ぼす規則を決裁したらおかしいだろう。それは組織論から当然導き出される」
内山
「なるほど、おっしゃることはわかります」
山田
「だからそういう場合は部の中にしか影響しないルールは部で決めてよく、課の中にしか影響しないルールは課で決めて良いことになっている。そして部のルールを執務規定と呼び、課のルールを作業手順書と呼ぶことになっている。というのを決めているのは会社規則だ。
ISO規格でいう手順書とは社内文書のことで、今あげたすべては手順書というカテゴリーになる」
内山
「えー、そうだったんですか。じゃあエネルギー管理や公害防止は工場全般に関わるから工場規則で、廃棄物の取り扱いは環境管理課の中だけのことだから作業手順書なんですか」
山田
「仕事の手順や基準をそういう文書に決めておけば、言った言わないという問題も起きない。また後任者はそれを読めば一応の仕事はできるようになる。そして改善するときは手順書を改定することになる。標準という意味をご理解いただけたかな?」
内山
「そういったことを入社時に習っていたわけですね、私は忘れてしまいましたけど」
山田
「入社時に何をどのようにして教えるかということも会社規則の人事のパートに決めてある。そういう規則は当然社員なら読めるようになっている。以前はパイプファイルを各課に配布していたが、今ではイントラネットにpdfでアップしてある」
内山
「会社で仕事をするためには、そういうことを知らないといけないのですね?」
山田
「もちろんさ。道路交通法を知らない人は車を運転してはいけないのと同様だ。
会社は規則を公開する義務があり、従業員は規則を読む義務があるのは当然のことだ。というふうに当社はISO規格なんてできる前からしっかりと標準化を進めていたわけだ。
だから・・・・」
内山
「わかりました。私は仕事に関係する会社規則や工場規則に精通して、自分の仕事で改善や変更があれば速やかに関係する規則や作業手順書を改定しなければならないということですね?」
山田
「そのとおり、しかしなんだね、言っちゃ悪いが内山さんはそういう当社の従業員として知っておくべきことを知らないことが多すぎないか?
本社が発信している情報も良く見ていないようだし、君自身、なぜそういう情報を良く見ていないのか心当たりがあるのかい?」
内山
「そう言われると弱いですね。私自身もそうですが、まわりの人も前任者もあまり規則や本社の通知などを重要視していませんでしたね。そういう気風を受けて私もそうなったのだと思います」
山田
「横山さんは会社規則との関係ってどんなものだったの?」
横山
「私は入社してからずっと総務でしたから、会社のルールは身近に感じていました。物を買うにしても申請するにはどうするのか、申請書はどれか、決裁者はだれか、金額によって決裁者が違いますから。また費用の支払いはどうするのかといったことを知らないと仕事になりませんでしたし、常に会社規則や私たちの場合は工場規則ではなく支社規則と首っ引きでしたね。もちろん部の規則である執務規定も頭に入っていました。だから内山さんが会社の規則など気にしないで仕事をしていたと聞くと驚きです」
山田
「ありがとう横山さん。内山さんだって新しい設備を導入するとか廃棄物の定期報告するとき工場長のハンコを押してもらうなんてことは工場規則で決めているはずなんだが、そういうときはどうしたのだろうね?」
内山
「新設備などは、我々がアイデアを課長に出して、実際の手続きはほとんど課長がしていました。定期報告はそれぞれ申請書がありまして、それに必要項目を埋めていましたね。今考えるとその申請書は工場規則で決めているのでしょうね。
工場ではそういうふうに規則を知らなくてもどうにかなってしまうというところがあるのでしょう」
山田
「そうかもしれない。しかし本社が出した通知や冊子を良く読まないのでは困るね。もし内山さんが本社で種々データをまとめて工場の環境管理向上のために発行しても活用してもらえないんじゃ残念に思うんじゃないか」
内山
「おっしゃるとおりですね。どうして読まなかったのでしょうか。面白いことが書いてないからでしょうか。あるいは先日山田さんがおっしゃったように、私がその冊子から重要な情報を読み取ることができなかったので真剣に読まなかったのかもしれません。そんな気がします」
横山
「なんですか? その読み取ることができないってお話は?」
横山はなににでも興味を持つ・・・
内山
「横山さんが出張だったときですが、ボクが山田さんからいろいろなお話をお聞きしたのです。ボクが今までそういうことを教えてもらったことがないと言いますと、それまでだって上長や先輩が教えてきたはずだというのです。ただ、ボクが上司や先輩の話すことを理解できなかったのだろうというのです。他人の話を聞いて理解するには、理解できるレベルになっていないと聞いても分らないというのです」
横山
「うんうん、わかります。そういうこと。私もここにきて初めの頃は廣井さんや山田さんが語ることを聞いても変なことを言うとしか思えないことが多々ありました。一緒に仕事をしていると、なぜそのように判断したのか、なぜその施策を打ったのかということがわかるようになってきました」
山田
「それは私も感じている。具体例として横山さんが監査報告書をチェックしているが、最近は私がみる必要もないように思っているよ」
横山
「まあ、ありがとうございます」
山田
「話を戻すと、内山さんは横山さんの次の課題を進めると同時に、会社のルールについて勉強しなければならないね。君が改善したことを工場や部のルールに反映しないと人が代わったりするとあっというまに実行されなくなってしまう。自分がした改善を末永く続けてほしいと思うならば内山さんのしたことを工場規則などに反映しなければならない」

私の昔の上司の話である。その方は頭も良かったし技術もあった。現場でトラブルなどが起きると、一生懸命に原因究明や対策をした。そして関係者を集めて問題対策を指示し教育をした。だけど、その方はそれを作業標準に落とし込むことをしなかった。だからその上司が在任中は良かったが、その方が異動するとまた問題が再発するようになった。
私はそれを見ていたので問題が起きると、対策したこと、例えば作業条件や取扱注意事項などを必ず書き物にして現場に示した。それによって全く同じ問題の再発はなくなった。
そういったことを現場でしていた私は1990年にISO9000sに出会った時、新しいアイデアとか特段すばらしいものだという感じは全くなかった。ただ包括的でありエレガントにまとめているとは思った。

横山
「山田さん、脇から口を挟んで恐縮ですが・・
ISO規格で文書化と言っていることは会社規則を作るということと同じですか?」
山田
「基本的に同じと考えて良い。もちろんISO9001では品質に関すること、ISO14001では環境に関わることだけだ。当社の場合さっきも言ったけど、人事から知的財産まで全方位にわたって規則を定めている。まあ会社で事業を行っていれば当たり前のことなんだけどね、そういうことでISO9001認証しようというときは当社の文書体系から品質に関することを抜き出したものが品質マニュアルであり、ISO14001のときは環境マニュアルになる。
当社の標準体系は今後現れるいかなる認証規格の要求事項にたいしても対応できると思っている」
横山 「まあ、当社ってすごいんですね! 
山田
「そうではない」
横山
「当社のレベルが高くないということですか?」
山田
「そうじゃなくて、継続して事業を行っている組織なら、ISO9001やISO14001を満たす程度の文書化ははるか以前からしているのが当たり前だということだ。ISO認証のために文書化するとか、システム構築なんてことを語る人がいるが、会社というものを全く理解していないとしか思えないね」
内山
「ボクは山田さんと横山さんの議論を理解できるほどのレベルじゃありません。勉強することがたくさんありますね」
山田
「勉強することがたくさんあるということはやりがいがあっていいことだ。次回の課題はもっと先行研究というか過去の調査結果などを踏まえて考えてほしいね」

うそ800 本日の昔話
私は20年前、その時勤めていたところで歩く会社規則集と呼ばれていた。会社規則はすべて頭に入っていた。入っていないと仕事にならなかった・・・いや同僚は頭に入っていなかったから会社規則をすべて知らなくても仕事はできたのだろう。
当時は顧客対応の品質保証を要求された。今だってまともな会社ならISO9000認証を求めずに、その会社の品質保証要求を満たすことを求めるだろうとは思う。ともかく、お客様から品質保証要求事項なるものを出されると、私の出番となり、そんな要求は改めてしなくても元々していることを会社規則から抜き出したもの・・・つまり品質マニュアルである・・・を作成しお客様に提出するのがお決まりの仕事であった。
だから会社規則を知り尽くしていると、そんな仕事はアットいう間にできた。もちろんお客様が以前からしていないことを要求することもある。そういうときは必要最小限の追加をして顧客要求を満たすことが品質保証屋のテクなのである。
そして顧客が品質監査に来ると品質保証屋がその対応をするのだが、そのとき、品質マニュアルに書いたことと会社規則が頭に入っていることは必要だ。相手の監査員が「この要求はどうしているか?」と言った瞬間にそれを規定した会社規則その他の文書の該当ページをパット開いて目の前に示すのである。それこそ「エート、どこだったかなあ」なんてことを口にすると不信感を持たれ、突っ込まれるとぼろが出そうだ。
顧客の監査はシステムだけでなく製品検査もすることが多く、他の人が時間稼ぎをしてくれと言ってくることも多い。そういうときは証拠を探したりどのページにあったかと時間をかけたりする。しかし相手に不安を感じさせないようにするのがコツだ。

うそ800 本日の逡巡
タイトルをどうしようかと悩みました・・・私には珍しいことです。
標準化がいいか? 文書化がいいか、文書の話か、会社規則か、迷いましたが結局・・・
私が文才がないのは間違いありません。



名古屋鶏様からお便りを頂きました(2012.12.13)
ありがちな組織では、最も重視されるのが「空気」で、次が「慣習」それから「口頭指示」といった処でしょうか?
この国では、よりローカルなルールが優先されるようです。

鶏様 毎度ありがとうございます。
法律と条令は矛盾があってはならないのはあたり前です。
いや、当たり前のはずなのですが・・・
県条例と市条例が矛盾する事例はあり、地方自治法によって県条例や優先するはずですが、現実にはケースごとに判断され運用されているようです。
ローカルが優先されるとも限りませんが、どうなんでしょうかねえ



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