ケーススタディ 岡田の憂鬱

13.01.22
ISOケーススタディシリーズとは
本日はケーススタディではありますが、環境とは関係ない・・・・いや少しは関係があるかな・・・・会社でのお仕事、あるいはお仕事への姿勢についての駄文であります。



山田がメールボックスにたまっていたメールを片付けて、コーヒーでほっと一息ついていると、向かい側の席から岡田がやってきた。
山田は岡田の様子を見て、また相談事かと心中いささかげんなりした。
岡田
「山田さん、私の悩み事を聞いてくれます?」
山田
「いやだと言うわけにもいかないんだろう。あっちに行こうか」
山田は打ち合わせコーナーを指した。
二人はコーヒーを持って打ち合わせコーナーに行く。
山田から口を切った。
山田
「岡田さんがここに来て、どれくらいになりますか?」
岡田
「1年8か月になります」
実を言って私は時間の経過を決めてから書いているわけではない。五反田が1年間の期限付きで逆出向してきた直後に岡田が異動してきた。その五反田が既に元の会社の戻り、そして新規事業を立ち上げて一段落しているのだから、ひょっとすると岡田が来てもう2年くらい過ぎたのかもしれない。時間的なつながりが少しおかしくても、あまり問い詰めないでください。
山田
「じゃあ、もう一人前だね。何か悩みでもあるのですか?」
岡田
「ご存じのように、私はエコプロ展と環境報告書、そして当社の環境広報などを担当しています。まだまだ一人前などと言えるまでになっていませんが、なんとかエコプロ展については業界の打ち合わせなど私一人で担当させてもらえるようになりました」
山田

「エコプロ展か、今年は出展しないって中野さんが言ってたね」
岡田
「そうなんです。せっかく一人で担当できるようになったと思ったのに今年は当社は出展取りやめだそうですし、いきさつを伺いますともう来年以降もないでしょうねえ」
山田
「企業は費用対効果で判断するのは当然だ。昨年までの状況をみて、出展効果がないと判断したということだろう。
それは岡田さんの努力が不足していたということではなく、あのようなイベントが時代に合わなくなったということが理由だろう。そんなに気にしてもしょうがない。次に何をしようかと前向きに考えたらどうだい」
岡田
「でもエコプロ展って日本最大の環境展と言われてますし、当社がそれから撤退すれば他になにがありますかね?」
山田
「うーん、私もそんなに昔からここにいたわけではなく、エコプロ展の初めの頃は知らないのだが・・・エコプロ展というのは1999年から始まったわけで、歴史といっても10年そこそこだ。そしてその短い時間でも内容は私が知るかぎりでもどんどん変質してきた」
岡田
「内容が変わってきたのですか?」
山田
「岡田さんはエコプロ展には2回参画しただけか・・・・それではあまり変化を知らないというか、変化してしまった後の姿しか知らないわけだが・・
私が環境保護部に異動してきた8年前は、いわゆるエコプロダクツを各社が展示して、その省エネ性能やリサイクルのしやすさなどの環境性能を入場者に知らしめるというニュアンスだった。
当時はまだ『環境性能』なんて言葉も市民権を得ていない時代でね。省エネだけでなく廃棄物になったときリサイクルしやすいとか有害な物質を使用していないとか、ライフサイクルを通じて省エネとか省資源という考えを、まあ露骨に言えば啓蒙するという時代だったと覚えている。
そういえばファクターなんて言葉も使われていたな。今じゃファクターなんて、口の端にも上がらない。当たり前になったのか、意味がないと忘れられたのか、どっちなんだろう。
ともかくエコプロ展ではエコプロダクツを展示して来場者に見せて説明していたんだ」

2003年に他社の同業者から「『環境性能』という言葉を使ってよいものだろうか?」という相談を受けたことを覚えている。2003年時点はまだ説明なしに環境性能という言葉を使うことはなかった。今現在は『環境性能』という言葉を東京都などではあいまいのままなんとなく使っているが2013年1月時点においても、環境性能の定義は定かではなく、法令では使われていない。
岡田
「今でもそれは同じでしょう?」
山田
「いや、違うよ。名古屋で開かれた『愛・地球博』はいつだったけ?」
岡田
「2005年です。私がまだ大学生になったばかりでした」

山田

「その年のエコプロ展は生物多様性一色で、各社ともドングリや落ち葉を会場に持ち込んで子供相手に自然教育をするなんてのが多かったね。
その後エコプロ展では生物多様性だけでなく、サンゴ礁保護とか希少生物保護、あるいは海に沈むツバルを救えなんてことを言いだした」
岡田
「それがなにか?」
山田
「いやそういうことをしても別に悪くはないだろうけど、それがエコプロダクツ展かと初心に帰って考えると、ちょっと違うのではないだろうか?
エコプロダクツというものの定義もないのだが、自然はプロダクツではないだろうねえ」
岡田
「ああ、そう言われるとそうですねえ」
山田
「出展者もメーカーや商社だけでなく、大学やNPOの参加も増えてきて、エコプロ展というよりも自然保護展とか環境活動展示会という趣が強くなってきた。まさか学生がプロダクツということもないだろう」

山田は思い出し笑いをした。
岡田
「どうしたのですか?」
山田
「フフフ、中には自然を救えという宗教のようなNPOも多いね。私から見たら場違いとしか思えない。やはり2005年頃に大きく内容が変化したような気がする」
岡田
「おっしゃる意味はよく分ります」
山田
「更に2011年の東日本大震災以降は、工場省エネが前面に押し出された。そりゃ工場省エネをすることは悪いことじゃないし、企業としては当然のことだ。
しかしそりゃもうエコプロ展ではないだろうねえ」
岡田
「省エネの機器はエコプロダクツではないのですか?」
山田
「省エネには設備や機器によるものと、運用や管理方法によるものがある。前者はエコプロに入るかもしれないが、一般の人に知ってもらうとか買ってもらうものではないだろう。後者は工場管理のノウハウだろう」
岡田
「おっしゃるとおりですね」
岡田も最近は社内や社外でもまれてきたせいか、人の話をよく聞くようになった。
山田
「岡田さんが当社の経営層になったとして考えてごらん。現在のようにエコプロ展で工場省エネとか自然保護を展示して、当社の事業や企業の評価にどれくらい貢献するだろうか? 露骨に言えば、売上が増えるとか、株価が上がるのかといことだが」
岡田
「難しいですねえ、正直言って全く効果がないように思います。
しかし変かもしれませんが日本は横並びの国ですから、同業他社が出展していて当社が出さないとマイナス評価になるかもしれません」
山田
「その恐れは大いにある。だけど今回の決定にあたっては、中野さんや岡田さんがどれくらい影響があるかを調査して、出展の効果を出したのではないかな?」
岡田
「それについては調査会社に委託して調べました。その結果、まったく影響はないという結果でした。というか、今まで出展していてブランドイメージ向上に効果がなかったというのが本当のところです」
山田
「まあ、まったくということはないだろうけど、
当社の製品はコンシューマー向きじゃないからね。当社がエコプロ展に出せば当社の顧客の関心を呼ぶかどうかを考えると、現在のエコプロ展は無関係のように思う。
大学生の就職にあたっての当社志望などには影響するかもしれないが・・」
岡田
「環境報告書も実はあぶないんです」
山田
「ほう、環境報告書については知らないが、なにか方針が変わったのかな?」
岡田
「昨年まではアニュアルレポート、環境報告書、CSR報告書などをそれぞれ別々の冊子にしていたのですが、今年は環境やCSRの要旨をアニュアルレポートに盛り込んで、詳細はウェブサイトに掲載することになりそうなのです。つまり環境報告書の冊子は作らない方向で検討中です。
それは費用削減のためと、データを1年ごとではなく今後は4半期ごとに最新化するためというのが中野さんの説明でした」

山田も中野がそんなことを言っていたのを思い出した。
山田
「そういえばそんな話を聞きましたね。まあ時代がどんどん変わっていますから、紙の報告書そのものが時代遅れになってきたのかもしれません。
そんなことで驚いていてはいけないでしょう、岡田さん。若いのだからもっと革新的、革命的な発想をしてください。岡田さんは新しい企画はないのですか?」
岡田
「私がこの環境保護部に来てから担当したのが環境報告書とエコプロ展なので、それがなくなるとどうしたらよいのかと心配です。私はこの二つ以外担当したことがありませんから」
山田
「広報というのもいくつも切り口があると思うよ。社外への対外的な広報もあるし、社内や関連会社など内部に環境活動を知らしめて士気向上を図るのもあるでしょう。
また広報といっても紙が基本ということもない。インターネットといっても、ウェブサイトは既にいくつもの方法の一つになってしまった。ブログも、SNSも、ツィター、フェイスブックもある。どんどんと手軽で表現力のあるものが出てきている。これからももっと双方向性の高い、まもなく個別対応ができるような、ウーン、例えば閲覧者と自動応答で対話するようなものになるかもしれない」
岡田
「おっしゃる通りですね。私が考えなければならないことは、環境報告書やエコプロ展というものではなく、いかに社内や社外に当社の活動を正しく速く伝えるかということですね」
山田
「なにごとも固定観念で考えてはいけない。環境報告書というのも昔からあったものじゃなく、たかだか15年の歴史しかない。1990年代半ばに各社が競って発行を始めた。
だけど、環境報告書も基本に立ち返って考えると、必要なのかと考えなくてはならない。
そもそも企業は投資家や顧客あるいはリクルートするために情報公開するべきだし、社会的責任として公開しなければならない。
そのとき損益や人事制度や不祥事と環境指標は同列にあるはずだ。環境報告書というものが別個に存在するということ自体おかしなことだともいえる。
だいぶ前、今でもかな? 環境報告書のコンテストなんてのもあった。しかし各社の環境報告書を比較して順位つけるという意味もおかしい話だ。というのは企業の情報を公開することは重要だが、環境報告書だけ取り出して評価することはできないからね。まして環境債務が財務諸表の一項目となった今、環境報告書というものが独立して存在する意味はないと思う」
岡田
「山田さんのおっしゃることはよく分るのですが・・・そうすると環境保護部で環境報告書を作らないとなると私の仕事がなくなってしまいます」
山田は笑った。岡田は気を悪くしたような顔をしている。
山田
「自分の仕事がなくなって残念とか、困るという発想はしないほうが良い。人はみな自分の仕事をなくすために働いていると考えるべきだ。見方を変えて、自分の仕事が大事でなくすことは絶対にできないなんて考えているようじゃ進歩がないよ」
岡田
「おっしゃることはわかるんですけど・・・」
岡田も理屈は分かっても、なかなか気持ちの整理がつかないようだ。
山田
「どんな仕事も時代が変われば変わる、なくなるのが当たり前だ。会社人に必要な力量というか能力は、良い仕事をすることではなく、いかなる仕事でも覚えること、学ぶことではないかと思う。実をいって以前、藤本さんたちとそんなことを議論したことがある」
岡田
「学ぶ能力が大事なのですか?」
山田
「そうだ。世の中はどんどん変わる。世の中で変わらないのは変わることだけという逆説的な言い方もある。
昔、経理屋といえばそろばんができることが必要条件だったと思う。今はそろばんよりもいかにさまざまな指標を分析し改善策を提案できることが大事だろうと思う。現場だって、昔は技能しかない。今だって技能は大事だが、考えることがもっと重要だ。知識ではない、知恵というのか考えることと言うべきか、人間の進歩は知識によってではなく、知恵によって成し遂げられたのだからね。
岡田さんは環境報告書を作ることが仕事なのか? エコプロ展を切り盛りすることが仕事なのか? といえば、そうではない。
環境に関して公報することが仕事なのかといえば、そうでもないだろう」
岡田
「上位の概念というと、コミュニケーションということでしょうか?」
山田
「いや、コミュニケーションする目的である情報共有かもしれない。あるいはブランド向上かもしれない。敵対勢力を作りたくないとう消極的な理由かもしれない。もちろん私もこれだということはわからない。あるいは現時点ではこれを目的として考えようという発想もあるだろう。
しかしそういうことを良く考えて、それを実現する方法を時代に合わせて考えることが大事だろうね。
もうひとつ注意しなければならないことは、あまり時代に先走りしてもいけないということだ」
岡田
「よくわかります。今の仕事の目的というか存在意義を良く考えてみます。そしてそれを実現する方法を、利用できるインフラやツールを活用して実現することですね」
山田
「そういうことだ。
しかし正直言って岡田さんとこんなことを議論できるようになるとは思わなかった」
岡田
「私がノータリンのアンポンタンだったということでしょう」
山田
「正直に言えばそうだ。岡田さんがここに来たとき、私に当社の環境経営がなっていないとねじ込んできたのにはまいったね」
岡田
「いやだあ、山田さん、恥ずかしいです」
岡田が山田の肩をドーン と押したので山田はよろめいた。
山田
「岡田さんは、今は環境経営ってなんだと思っているのでしょう?」
岡田
「環境経営ってものはないと思います」
山田
「ほう、その心は?」
岡田
「企業には経営そのものしかありません。環境経営も人権経営も品質経営もCSR経営もありません。企業のすることは、法律はもとより社会が期待することを満たして、そして利益を出し永続すること以外ありません」
山田
「良くできました。それは決して後ろ向きとか社畜なんてことではない。社会人としてまっとうな考えです。そしてその考えを自分の仕事を通して実現することはとても難しいことです」
岡田
「質問です」
山田
「ハイ、なんでしょうか?」
岡田
「大学で、大学院でも同じですが、環境経営を語っている教授たちは現実の環境問題とか経営というのを知らないのでしょうか?」
山田
「うーん、私はご本人ではないのでよく分らない。もちろんそういった人たちは頭がいいのだろうけど、やはり現実の経営というもの、複数の、いや沢山の要因をいかに折り合いをつけて運営していくかということを体で理解していないのではないだろうか。
一旦経営者となれば、セクハラも環境事故も、法違反も、法違反といっても環境法違反も外為法違反も独禁法違反の談合もみな同じく重要問題であり、すべてをうまく管理していかなければならないのだから。
私は経営者ではないけれど、ある範囲の管理を任されている。その仕事というのはオーケストラの指揮のようなものだと思っている」
岡田
「オーケストラの指揮というと、どういう意味でしょうか?」
山田
「指揮者が見ている楽譜は縦方向にたくさんの楽器が並んでいる。これだけに注力するとか、これだけは問題ないようにというような指揮では演奏にならない。すべてのパートを問題なく、いや最高のパフォーマンスで進行させていかなくてはならない。
それと同じく環境のパートだけを優先するとか、品質だけが大事ということはない。
私だって、費用、セクハラ、年度計画、人事管理、安全その他のたくさんの項目をすべてにおいて問題ないように進めていくのが毎日だ」
岡田
「わかります。つまり大学で環境経営と語っている先生は、現実の経営をしたことがないから、自分が関わっている環境のパートをしっかりしなければならないと考えているだけということですね」
山田
「まあ大学とか教授といってもたくさんの人がいていろいろな考えがあるだろうから一概には言えないが・・
環境経営という言葉を使っている人には、そんな意味合いがありそうな気がするね」
岡田
「山田さん、大学とか大学院で講師をされたらいいですよ。リアル社会の環境経営のお話をすれば学生に受けると思います」
山田
「おいおい、私は環境経営って言葉そのものに疑問を感じているんだから、そんなことは無理だよ。会社の経営を語ることはできても、環境経営を語ることはできない」

うそ800 本日の思うところ
若い人は斬新な考えをすると思われているが、実はそうでもない。年寄りの方が過去を知っているので、現在していることとかオヤクソクなどが、実はたいした根拠がないとか、確固たる理由があって始まったわけではないということを知っていることもある。
だから現状改革というのはむしろ年配者の方が適していることが多い。

うそ800 本日の懸念
岡田までがエキセントリックを止めて正常になってしまったら、これからのお話をいったいどうしたらいいのだろう。
新たな天動説信者やオタンコナスをリクルートせねば・・・
もっとも現実社会には「マネジメントシステムを導入しよう」とか「マネジメントシステムを仕事に生かす」なんて意味不明なことを語っているコンサルタントやISO事務局の人々が溢れているのですが 笑
、「マネジメントシステムを導入するのは当たり前」とか、「マネジメントシステムを仕事に役に立たせるのは当然だ」なんておっしゃいますか?
そんなことを語っている方は、味噌汁で顔を洗って出直してください。いや出直すまでありませんから、コンサルとかISO事務局を辞めて、周りに迷惑にならないようにひっそりとしていてほしいなあ



名古屋鶏様からお便りを頂きました(2013/1/23)
愛・地球博か・・・懐かしいですね。2005年ころは仕事で忙殺していたので1回も行きませんでした。
ある「環境マネジメントシステムの専門家」というコンサルからDMが来てまして。「環境意識の啓蒙について講演を行います」と書いてありました。「マネジメントシステムを仕事に活かす」と同じで、もう、その時点で語るに落ちるという・・

名古屋鶏様
私も愛地球博に行きませんでした。ああいうものは胡散臭くて苦手です
マネジメントシステムを仕事に生かす・・・なんかイカスというよりバカ丸出しの言い回しですね
力量のないのが丸出しで・・

ぶらっくたいがぁ様からお便りを頂きました(2013/1/23)
はあ?
「マネジメントシステムを導入する」とか「マネジメントシステムを役立たせる」とか、そんなバカ丸出しのことを言う人なんているはずないじゃありませんか。
もしいるとすれば、それはマネジメントシステムを「ごっこ」の一種と考えているか、あるいはその意味がまったくわかっていない人でしょう。
導入もなにも認証取得よりはるか昔、創業時からあるわけで、役立っているから会社が存続できているはずです。

たいがぁ様
 実は・・・大勢いるのですよ
たぶん本当の仕事をする能力がなく、仕事をしているふりの「ごっこ」をしているのかと思います。
あるいはその意味がまったくわかっていないのかもしれません。そのほうが幸せカモ



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