「悪魔祓いの戦後史」 稲垣 武 good

出版社ISBN初版定価(入手時)巻数
文芸春秋 4-16-736504-9 1997/08/10676全1巻

監査に行って「御社には問題ありません」というのはなかなか勇気がいる。後で欠点が見つかるかもしれないから、
他方、何事か不具合を見つければ「貴社にはこのような不具合がありますよ」というのは簡単である。
まさにこれは悪魔の証明だ。 
悪魔の証明とは
「ない」ことを証明することを悪魔の証明という。
「有ることの証明」は、なにかひとつ証拠を出せばおわりだが、無いことの証明は事実上不可能である。だって全ての可能性、場所を調べないとそんなことは言えないし、まだ探し漏れがあるかもしれない。論敵からはそこを突かれる。
だから一般的に立証責任は「ある」と主張する肯定側が負う。そして証明できなければ無いものと見なされる。「推定無罪の原則」がそれに当たる。

しかし現実社会ではこれがみなの共通認識となっているわけではない。
掲示板では悪魔の証明をせよと語って、論敵が目を白黒させるとワシの勝ちだなどと雄たけびを上げている。 
似たようなものとして、今の状態が気に入らないと「これは正しくない。真実は違うのだ」という論法を使うお人がいる。 誰かって? たくさんいます。
akunin.gif この本ではそういう論理的ではなく、情念で考え、自分が信じるだけでなく、この日本を間違った方向に導いた人々や導こうとしている人々が名指しで論評されています。

日本が理想社会でないことは確実である。
しかし、この世界に理想社会がないことは証明されていない。いやあるかもしれない。
戦争に負けて私が生まれた頃、一般の日本人が外国なんて行けるはずがない。
そんなとき、進歩的な知識人はソ連は理想の国だ、学校も医者も無料だ、誰でも才能さえあればトップにだってなれると語った。
それを信じて共産党に投票した人が大勢いた。

北朝鮮は農業生産では韓国や日本を追い越したと語った。
それを信じて地上の地獄に旅たって行った人々がいる。

中国は精神力で鉄を作ることができると語った。日本やアメリカでは巨大な製鉄所で作る鉄が中国では村々の小さな設備で作ることができる、中国人民はエライ、資本主義者はバカだ、と語った。

やがてそんなことはないとばれると、今度は北ベトナムは理想の国だ、南ベトナムを解放しなければならないと語った。
ベトナムでは戦車や戦闘機や完全武装の兵士がはだしの武器も持っていない独立心旺盛なベトコンにやられていると語った。アメリカはベトナムで敗北を喫したが、ベトナムでははだしの農民と戦っていたのではなく、実際は中国やソ連の支援を受けている北ベトナムの正規軍と戦っていたのだった。

そして本当は共産主義者との宣伝戦にまけたのだ。

いずれにしても進歩的知識人は北が統一したベトナムがすぐに理想社会ではなく共産主義独裁国家となったことがわかり、そして近隣諸国に今度は攻め入ったことで困ったことになった。

しかし、進歩的知識人は頭がよい! 
すぐにまたそれに代わる理想の国を見つけることができた。
アフリカにも、中東にも、
「これが理想の国だ、日本は見習わねばならない」
しかし、それもめっきがはがれ、日本人はそうなりたくないと気づいた。
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でも進歩的知識人はそして決してくじけることはなかった。
「コスタリカは非武装なのだ」
あっというまにそれが事実と異なることがわかった。

それでも進歩的知識人は世界中を探し回る。
「オーストラリアは理想だ」
「ニュージーランドは理想だ」

もう世界には進歩的知識人が理想だと叫んばなかった国はないんじゃないか?

いやある、 この日本である。
青い鳥の童話にあるように、自分が住むこの日本が理想の国なのかもしれない。


でも進歩的知識人はそれに気づかず、今日も世界を彷徨する。
理想を求めて、


ところで、進歩的知識人とはなんなのだろう?
    この本ではそれをこう述べている。
  • 抽象的な原則論を繰り返す人
  • オールオアナッシングの考えをする人
  • 現実よりも宗教的教義を尊重する人
  • 侵略してくる外国の軍隊を歓迎しようという人
  • 日本人のシベリア抑留を「ソ連が養ってくれた」という人
  • 親米の日本は武装してはいけないが、共産主義になれば武装すべきという人
  • 中国の軍隊は怖れないけれど、自衛隊を恐れる人
  • 裁判制度よりも人民裁判を望ましいと考える人
  • 憲法は第9条だけと信じている人
  • ダブルスタンダードの人
  • ソ連の悪行は見えない人
  • 中国のウソには気づかない人
  • 教え子を戦場には送らないが、この地を戦場にする人
  • 加害者の権利を被害者の権利より優先する人
  • 反省をしない人
  • 常に責任をとらない人

エーット、このような人を進歩的知識人というそうなのだが、よく考えると単なる嘘つきではないのでしょうか?
東大を出ようと、フルブライト留学をしようと、弁護士であろうと、学校の先生であろうと、国会議員になろうと、党首であろうと、テレビに出ようと、嘘つきに違いない。

みなさん、進歩的知識人の話を聞くときは、まゆに唾しないといけません。

この本は実は10年以上前に書かれています。
しかし、今現在もテレビや新聞で進歩的知識人が声を張り上げて、日本の悪を語り、外国を真似ようと語っています。
日本人はよほど進歩的知識人が好きなようです。  


pulin様からお便りを頂きました(08.03.22)
理想の国
「悪魔払いの戦後史」の書評の指摘では、私は現実よりも宗教を信じる人なるでしょう。
理想の国=仏国土と「本気」で信じていますから。正統仏教徒として当たり前の信条です。
貴方が尊敬しているでしょうチベットの活仏も当然そう考えているはずでしょう。
というわけで。
pulin様 お便りありがとうございます。
人は宗教を信じなくては人たるを得ないでしょう。本当です。
しかし現実を生きている私たちは、宗教だけでも生きていけません。
まして弾圧、脅迫、暴力を受けている人たちは日々の生活はいわゆる人権レベルではなく、人間扱いされていないわけです。
そんな人たちをなんとかしなければならない。
それは私たちが明日そんな目に合わないためでもあります。
まあ、そんなこんなで画策しております。


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