Back Numbers : No.4~よもやま話



アカデミー・ショーを笑え ! vol.2

う : しかしさぁ……あーたってば、先月あれだけけなしてた割には期待して見てるわよねぇ。実は好きなんだよね ?
ぴ : うっさいわねぇ。だってどういう思惑でどこに賞が行ったみたいだとか、傍目で見てる分には面白いでしょ ? それに先月も言ったけど、別に賞もらう人には罪は無いんだから。現場の人達は皆真剣にやってる訳だし、それが評価されて素直に喜んでいる人達を見てる分には、こっちだって単純に喜べるじゃないの。
う : ホントかなぁ……まぁいいけどさぁ。
ぴ : そんじゃぼちぼち始めましょうか。

【助演男優賞】
ぴ : 助演男優賞……これは予測がつかなかったけどねぇ。でも蓋を開けてみれば、ベテランを押さえて目新しい人が取ったというか。助演賞辺りだと、よくこういう外し方をして意外性を狙ったりするよね。
う : でもキューバ・グッディング・Jr.、ほんとーに嬉しそうだったねぇ。あれだけ喜ばれると微笑ましいというか、賞をあげる側もあげ甲斐があるよねぇ、きっと。
ぴ : 喜び方がすごくてスタンディング・オベイジョンが起こった、ってのは初めて見たよね。
う : ほんと……ねぇ、ところでこの人って、ひょっとして、【ボーイズ・ン・ザ・フッド】に出てた人かなぁ ?
ぴ : え、マジ !? どれどれ……(データベースを調べる)……あーっ !! ホントだぁーっ !! トレ君の役だぁ。あの主役の男の子かぁ、ぜーんぜん気づかなかったわよう。まー立派に育っちゃって。
う : てことは、それなりにキャリアも積んできて、今回の受賞ってことよね。
ぴ : これでホントにお墨付き、ってことになる訳かな。
う : そりゃ嬉しいかもしれないわなぁ。これで出演作のオファーが増えるといいよねぇ。

【助演女優賞】
う : 助演女優賞もゲバ評からすると、意外な人が取ったってことになるみたいね。助演男優の方もそうだけど……若くて可能性のある人にあげたかったってことかなぁ ??
ぴ : 何でようっ。素直にローレン・バコールにあげりゃぁいいじゃん。私これ、まかり間違っても、ジュリエット・ビノシュにだけは絶対取って欲しくなかったのようっ !!
う : どしてまた ?
ぴ : だってこの人は、今や私にとっては、非ハリウッド的な映画なるもののミューズのような存在なんだもん。これで賞もらったのをきっかけに、ハリウッドの巨大スタジオからくそくだらないような映画のオファーが死ぬほど増えるかと思うと……あー耐えらんないっ !!
う : そんなぁ、彼女のキャリアを勝手に決めつけてどーすんの。それにさぁ、それこそ、そんなくそくだらないような映画への出演を軽々しく引き受けるようなジュリエット様じゃぁないでしょ ?
ぴ : オファーの数が増えれば、確率的に言って、まかり間違って1本くらいは出てしまうかもしれないでしょ ? それにねーっ、事前の話や脚本段階ではよくっても出来上がった映画は散々、ってことは、ハリウッドでは珍しいことではないじゃない ?
う : それはそうかもしれないけど……。
ぴ : そりゃぁねぇ、フランス映画だけを相手にしてたら出演作も限られちゃうかもしれないし、彼女くらいになったらそれはもったいないかも知れない。いろんな国のいろんな映画に出られた方がいいに決まっているんだけどさ、でもこんなふうにアカデミーを取っちゃうと、今までの作品をろくに見たことがないような人達まで猫も杓子も、てな感じで来るようになるんじゃない ? そいつ等がねー、今更ジュリエット・ビノシュを“発見”したようなつもりでエラそーに振る舞うのがイヤなんだって。
う : そいつ等って、知り合いでもいるのかよ……まぁ、確かにね。ちょっとはアメリカ産以外の映画も観てなさい、と言いたい訳かな ?
ぴ : そゆこと。

【監督賞・作品賞その他】
ぴ : 助演女優の話が出たところで、一挙に【イングリッシュ・ペイシェント】話に行くけどさぁ。
う : まぁ、これまだ観てないから何とも言えないよね。
ぴ : うん。でもやっぱりスケール感のあるメロドラマが取り易いんでしょうかねぇ。賞が決まってから言うのは何だけど、これに較べれば他のノミネート作は小粒、っていうことになるのかな。
う : 成程。でもすごいねぇ。監督賞・作品賞あわせて全部で9部門 ? プロデューサーのソウル・ゼインツが特別賞とかももらってるし。
ぴ : でも別に部門数はなぁ……あてになんないよ。例えば美術賞衣装デザイン賞なんか、どういう基準で賞を決めてるんだと思う ? はっきり言って、各部門部門で、他の映画と較べてどこがどう優れているかなんて、ひとつひとつ吟味して厳重に決めているとは私には思えないんだけど。例えば編集賞を取ったからって、この編集のどの辺りが他の映画より優れていたか、なんて、あのアカデミー賞の会員の人達に、そんな観点までチェックする能力があると、本当に思う ?
う : な、何もそこまで。
ぴ : アカデミーの会員の人達、今年は【イングリッシュ・ペイシェント】がお気に入りで、ついでにソウル・ゼインツを讃える年にしよう ! ってなもんで、雰囲気に流されてるだけなんじゃないの ?
う : でもこのソウル・ゼインツさんって、すごいいい映画ばっかり創ってる人みたいじゃん。こういう信念を持っている人に賞をあげるっていうのは悪くないんじゃない ?
ぴ : プロデューサーはプロデューサーで誉めるのはいいわよ、別に。けどさぁ、他の部門は他の部門で、また別の問題じゃん。まぁ撮影賞なんかは比較的分かり易そうな気はするけど、それでも他の映画のカメラだって全部素晴らしいと思うし、どこにどう遜色があるっていう訳じゃないでしょう。
う : まぁねぇ。それはそうかも知れないけどね。

【音楽関係の賞】
う : ところで【イングリッシュ・ペイシェント】って他には……音響賞とドラマ部門の作曲賞を取っているのかぁ。
ぴ : ねー、この作曲賞と音響賞の違いって何 ?
う : さぁ……。musicとsoundってなってるから、“作曲したBGM”と“録音した音”の違いなんじゃないの。
ぴ : でも作曲賞ではミュージカル・コメディ部門が別(【エマ】が受賞)になってるし、主題歌賞はまた別だし。音響の方も音響効果賞(【ゴースト&ダークネス】が受賞)がまた別になってるしねぇ……何もこんなにたくさん賞を作らんでも。訳分かんないじゃないの。
う : まーいいんじゃないの。きっと元々は、それなりの意図があったんだと思うよ。ところで、【イングリッシュ・ペイシェント】の作曲って、ガブリエル・ヤール(ヤレド)さんだったのね。彼が賞をもらったっていうのは嬉しいわ。パチパチ。
ぴ : でもさぁ……ちょっと聞いただけで判断するのは何だけど、【ベティ・ブルー】ほどのキレは無かったような気もするんだけどなぁ……。ところで主題歌賞と言えば。
う : な~に ? エリック・クラプトンの「Change The World」が何でノミネートされてないんだって怒り狂っていた話 ?
ぴ : う、そういう話もあったけどさぁ。それよりマドンナの話よ。
う : 産休中で、きっとボイス・トレーニングもままならなかったんだろうに、わざわざ出て来て歌って下さいましたねぇ。何か子供を生んでから、一段と綺麗になったみたいね。ふくよかな美しさが増したと言うか。うるうる。
ぴ : ホントにねぇ。しかし、今回【エビータ】は、撮影賞とか美術賞とか編集賞とか音響賞とか、見事に主要じゃない部門にだけノミネートされてるんだよね。この映画が評価されたのは、演出や俳優じゃなくってひたすら音楽や舞台装置が良かったからだ、って言わんばかりでさぁ。
う : アカデミー会員のおじい様達、死んでもマドンナ本人には賞をやりたくないってことなんだろうね。
ぴ : 結局唯一【エビータ】が賞をもらったのが主題歌賞で、あれは元来、作詞作曲をした人にあげる賞でしょう !? アンドリュー・ロイド・ウェーバーやティム・ライスは既にミュージカルの方で充分な権威のある人だから、賞をあげても痛くもかゆくもないっつーか、ここまでの底意地の悪さって一体何なのよっ !? 私は今回の賞で、実はこれに一番腹が立ったんだ。
う : ま、ここまで【エビータ】に全然賞が行かないのはおかしい、と思ってるのは、全世界中で私らだけではないとは思うけど。だからこそ、敢えてマドンナは舞台に出て、自分の存在感や懐の深さを全世界に向けて示したかったんじゃないの ?
ぴ : うむうむ。実際、この映画は凄くよく出来ていると思うし、こうやって完成して観てみれば、これはマドンナ以外のヒロインは絶対に考えられなかったわよねぇ。彼女がいたからこそ成立した映画であり、この主題歌だったっていうか。その作品の出来自体に対する揺るぎ無い自信があったからこそ、敢えて敵陣で歌ってみせてやったということね。
う : 後さ、子供を産んじゃったからねぇ。誰が自分を評価するしないなんて、そんな下らないこと、もうどうでもよくなっちゃったんだよ。きっと。
ぴ : お母さんしてるんだねぇ。あ、名前からしてマドンナ(聖母)か。
う : ……。

【短編・ドキュメンタリー・外国語映画賞・その他】
ぴ : あとー、視覚効果賞が【インデペンデンス・デイ】でメイクアップ賞が【ナッティ・プロフェッサー】か。ま、この辺りは分かり易いっつーか。
う : 短編やドキュメンタリーは、日本で見れる可能性は無いかもしれないけどね。でも映画としては、同じ地続きのものだからね。こういうのをちゃんと評価し続けようとする姿勢は偉いよ。
ぴ : アカデミー賞にも良心があるというか、この賞のもともとの成り立ちは志の高いものだったのかな、ということを伺わせるよね。でも、この辺の賞は地味くさいから廃止しようという動きも一部である、とかいう話を前に聞いたことがあるけど。
う : え、嘘でしょ !?
ぴ : だからかどうかは知らないけどさ、何かいろいろショーアップして、少しでも盛り上げようって姿勢は垣間みられるんじゃん。賞自体が、そのショーアップの都合で選ばれているような感じもなきにしもあらずだったりして。
う : あぁ、モハメド・アリとかジョージ・フォアマンが舞台まで出てきたやつとか ?
ぴ : 外国語映画賞とかもさぁ、そんな都合で選ばれているような感じがしたんだけど。いや、あの【コーリャ】って映画自体はきっといい出来なんだろうと思うよ ? けど、舞台に子供を連れて上がれば盛り上がりそうだって、何かそういう計算が働いたような気がどうもしちゃうんだよねぇ……。
う : ま、外国語映画賞は、もともといい加減な賞だと思っているんでしょう ?
ぴ : だって、どんなに優れた映画だって悲劇は絶対に賞を取らないんだもん。まぁ、アメリカ人の好みをよく表しているとは言えるのかもしらんが、なーんか見方が偏っているような気がするんだけど……少なくともその選び方、私は好かない。
(注 : は、その後公開の始まった【コーカサスの虜】を観に行って、ああやっぱりと納得した。映画的には大変優れているのだが、これはバリバリの悲劇だったので、受賞しないのは当然なのでした。)

【主演男優賞、及び脚色賞】
う : さて、今回は大まかに言って【イングリッシュ・ペイシェント】の年みたいだったけど、脚本・脚色賞と主演賞は少し違ってたみたいね。
ぴ : 少しは他の映画に賞をあげてバランスを取りたかったんだ、という意見もあるみたいだけど、その割には、【秘密と嘘】なんかはひとっつも取っていないけどね。
う : 【秘密と嘘】はカンヌ受賞作だから嫌われたっていう話でしょう ?
ぴ : あと【ジェリー・マグワイヤー(ザ・エージェント)】は……ま、助演男優は取ったけど、トム・クルーズもメジャーの臭いがしすぎるから実は嫌われていると。
う : トム・クルーズは、すっごい年を取ってから功労賞とかもらうパターンなんだよ、きっと。
ぴ : ははは、違いねぇ。かわいそーにねぇ。ところで話を戻すけど、まず主演男優ね。私これ実は、【シャイン】を観に行ってから、絶対ジェフリー・ラッシュだと思ってたわ。
う : アカデミー賞は、病気や困難に打ち勝とうとする人のパターンに弱いっていう、あれかぃ ?
ぴ : そ。あまりにも典型的だけど。それに、【イングリッシュ・ペイシェント】のレイフ・ファインズは……前から言ってるんだけどこの人は、ハンサムではあるんだけど、なーんか中途半端な二枚目なんだよね。ネジの締め方が甘いと言うか、ピントがちょっとぼけていると言うか……。
う : ひどい言われようだな。ま、分からんでもないけどね。だからレイフ・ファインズはないと。
ぴ : さっき言ったようにトム・クルーズもまずないし、ビリー・ボブ・ソーントンという人もちょっと知名度が足りないでしょう ? ま、私としては、まかり間違ってウッディ・ハレルソンが取ったら面白いかも知れない、とは思ったんだけどねぇ。
う : 取ったら大穴だったけど、取りませんでしたね。ま、いくらミロシュ・フォアマンの映画とは言え、ポルノ雑誌編集者の役では望みが薄いんじゃないの ? ところで、そのビリー・ボブ・ソーントンて人、なにげに脚色賞を取ってるよ ? すごいじゃん。
ぴ : うん。この【スリング・ブレイド】って映画に一つでも賞をあげざるを得なかったっていうのは、これはきっと一部ではもの凄く評判のいい映画だった、ということなんだろうね。
う : そりゃ是非観てみたいよね。日本でも早く公開が決まらないかなぁ……。
ぴ : ま、祈っているしかないわな。

【脚本賞、及び主演女優賞】
う : ところでさぁ、【ファーゴ】が受賞しちゃったねぇ。何と脚本賞主演女優賞って、結構主要な賞を2つも。凄いわ。
ぴ : お情けで何か1つでも受賞すれば奇跡だと思っていたのに、こりゃ快挙だぜ。でも決まってみれば、何か妙に納得したんだよね。
う : どの辺りが ?
ぴ : だってこれだけ面白い映画だったんだもん。評判があんまりにも高くて、いくら何でも無視する訳には行かなかったんじゃない ? フランシス・マクドーマンドだって、これはちょっと他にないくらい面白い役だから、見る方にもインパクトがあったんでしょう。他の候補を押さえて彼女が受賞したのは、私ゃほんっと嬉しかった。
う : 女の人にもっと人間として厚みのある役を創ってくれ、ってスピーチしてたね。これは折に触れてよく言われていることだけど。去年かおととしか、司会やってたウーピー・ゴールドバーグも言ってたよね。
ぴ : 女の人をもっと多面的に描けば、もっと映画を新しく面白くする可能性なんて、多分いくらでもあるのにね。ま、この映画は、主人公も面白かったけど、他にもいろんな切り口があって、全部面白かったけどね。
う : うんうん。そうね。アカデミー協会(?)も、コーエン兄弟の才能には、どうしても目をつぶっていられなくなったんだよね、多分。
ぴ : 独立系は独立系だろうけど、もはや決してマイナーとは言えない土壌の上で、これだけのオリジナリティを保ち続けられるんだもの。今やコーエン兄弟の存在は、アメリカ映画界が最も大切にしなければならない至宝の一つなのかもしれないよ ? ま、評価されても当然てとこだな。今回のアカデミー賞、これだけ【イングリッシュ・ペイシェント】一辺倒のゲバ評の中で、実は密かに勝利したのはコーエン兄弟だったのかも知れないよね。
う : それはちょっと大袈裟かもしれないけど……ま、何にせよ、ここのところは私らには嬉しい結果だったわね。
ぴ : てなところでおあとがよろしいようで。それでは。
う&ぴ : ジョエル & イーサン・コーエンさんとフランシス・マクドーマンドさん、ばんざーい !! ばんざーい !! ばんざーい !!

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