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2004.5.21  今自分がやりたいと思う料理

 

 東京に来て半年以上がたって、少しは自分も成長したのかなあとおもいつつも、まだまだ足りないものが多すぎるというのも日々実感している。

 この仕事についたのは、料理を作ることで人と関わっていきたいと思ったから。他にやりたいことが見つからなかったというのも事実だが、大学時代に人に食べてもらって喜んでもらうことが単純に嬉しかった。もちろん職業にするということはそんなに単純なことではないとわかってはいたけど、ただそれしかやりたいと思うことが見つからなかった。そのときからジャンルはすべてやりたいと思っていた。日本料理もフランス料理も中華料理もイタリア料理もすべて好き。ジャンルを限定したいとは思わなかった。

 辻調理師専門学校でそんなスタンスで学んでいた。全て興味を引かれることばかりだった。もちろん多少の好き嫌いはあったが。アルバイトは大阪のイタリア料理「リストランテカラバジオ」(現在は閉店)でホールを経験。今思っても凄い方と仕事をさせてもらったと思う。現在古巣「リストランテ山崎」に戻られた寺島豊氏、神戸苦楽園「 I VENTICELLI 」の浅井卓司氏と同じ場にいたというのはラッキーだった。当時私はあまりに仕事ができなくて迷惑ばかりかけていたし、もっと学べることがあったはずだと今から考えると思い悔やむことばかりだ。それでも浅井氏はあたたかい人だった。今でも「お前もやさしいだけじゃ生きていけない」と言われたことは忘れない。卒業して就職する間際に「これから自分はジャンルを超えた料理をやっていきたい」というようなことを書いたら、「ベースの料理があってジャンルを超えるのはやりやすいが、ないと難しいんじゃないか」とアドバイス頂いた。それは自分が学んだ総合政策学にも共通 するテーマでもあったし、仕事をしていく上でその本当の意味がのちにわかってきた。

 大阪の創作料理店ではいろんな意味でいい経験はさせて頂いたが、あまりに先が見えなくなったので、辞めさせて頂いた。それまでも自分に欠けていた「社会人」としての仕事の姿勢を学ばせて頂いたとは思う。料理を作るだけではなくて、人と一緒に仕事をするというのはどういうことなのか、何が大事なのかということを。その中にはいくらか反面 的なものもあったが。

 ジャンルを超えた料理をしたいという気持ちは変わっていなかったので、THE RIVER ORIENTALを求人誌で見つけて、運良く入らせて頂いた。そこでの経験も料理だけでなくいろんな意味でいい勉強をさせてもらったと思う。

 東京に来て、カリフォルニアキュイジーヌの日本での先駆者である菅原健二氏とお話させて頂く機会が増えた。本当に学ぶことが多い。共感することも多い。

 かつて浅井氏にも「イタリア料理も含めて伝統あるそれぞれの料理には敬意を払いたい」と書いた。それぞれの良さを引き出したものを作りたいと漠然と思っていた。菅原氏は「一つの皿はひとつの国のテイストでまとめる」と言う。その感覚は自分の求めるものに非常に近い。

 浅井氏も「旨ければいいと言ったらそれまでだけど」と言っていたが、とにかくなんでも組み合わせればいいという多くの創作料理の感覚には馴染めないとずっと思ってきた。浅井氏は「バルサ味噌」とかはどうも受け付けないと言っていた。私も同感だ。世界各国の料理にはそれぞれの文化、風土が反映されている。それぞれ生きてきた人たちの伝統が反映されている。もちろんその中で新しいものも生まれ、他の文化との接触で変化もして、純粋に培養されてきたようなものではないが、今まで生きてきた人が積み上げてきた伝統はとてつもなく大きなものだ。自分はそれらを尊重し、敬意を払いたいと思ってきた。一見新しいと思ってもそのとてつもない伝統を考えると、本当に新しい料理なんて作れるんだろうかと思う。本当に新しいものと言えるのはその伝統をしっかり踏まえているものだけだ。学問の世界でも同じことが言えるが、新しいということはそれまでの積み上げから見れば、ほんの何センチ、何ミリ足すだけのことでしかないと思う。

 自分もまだまだ思っていることを皿に表現できていない。基礎レベルで欠けていることも多い。今店の事実上スーシェフとしての役割を課せられているが、模索しつつもできていないことの方が多い。浅井氏がかつて言ったように「ベースの料理をしっかり勉強すべき」だったと思うこともある。がそれは自分が選択して捨ててきたものなので、今さら後悔しても仕方がないと思う。自分の考えることをお客さんに出す実際の料理に反映できるように、日々学び、前に進んでいきたいと思う。

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