もちろん会社には1996年版と2004年版のISO14001対訳本もJIS規格票もあるのだが、山田はこういうものは自分のお金で買わないと真剣に読まないということを知っていた。 しかしこんな冊子が3000円もするとは、日本規格協会は独占企業で暴利をむさぼっていると苦々しく思った。せめて工業標準化委員会のウェブサイトをプリント可能とすべきだ。我々は納税者なのだから。 |
お断りしておく、 私が今勤めている会社はここに書いてあるようにレベルが低くない。だけど私はあちこちの会社を見ており、ここに書いたようなものじゃなく、事務局派遣業におんぶにだっこというところも知っている。 嘆かわしいことだ
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山田は、平目が聞きかじってきた「ISOとはルールを作るものだ」という話をきっかけに「ISOの活動」とはそもそも何なのかという根っ子の部分に疑問をもつようになった。引き継ぎを始めてからずっと山田が感じる違和感の正体が、そこに潜んでいるような気がしたからだ。また、ヒントになるかもしれないと思い、山田もそのメルマガを講読してみることにした。 さっそくメルマガが送られてきた。今回の内容は、「内部監査はプロセス監査で進めなければならず、そのためには部門長の協力が必要であり、部門長がISOを正しく理解して経営に活かすことが肝要だ」というものだ。また、それに役立つ書籍の購入を勧めるものだった。 「ああ、ここでも『ISOを経営に活かす』とある・・・。でも部門長はもともと経営陣の一員だし、認証取得以前から立派に部門を切り盛りしてきた。 いまさらISOを知らないと何か経営に大きな支障があるのだろうか。。」 山田はそうつぶやき、ここ数年間のことを思い出していた。 鷽八百機械工業では、いわゆるカミ・ゴミ・デンキの活動というものは一定の区切りがついたものもあるし、進行中のものもある。 前者はコピー用紙の節減であり、後者は電力削減だ。 コピー用紙の節減というのは一種の躾でもあるので、裏紙使用を徹底するというルールが定着するまでそれほど時間はかからなかった。それでも未だに用紙サイズ別の使用量を月末に事務局に提出することになっていて、煩わしいことこの上ない。 営業部の担当であった山田は、売り上げの締めといった仕事に追われて提出を忘れがちで、平目から注意されることもあった。 しかし、今度からは自分がその記録を集める立場だ。平目の話では、出し忘れどころか意図的に出さない部署もあるらしく、気が重い。現に平目が内線電話でこんな会話をしているのを聞いた。 「あのね、提出期限をもう一週間も過ぎてますよ。しかも2ヶ月連続です。 明日までに出さなかった場合は『是正処置勧告書』を発行しますからそのつもりで」 電力削減は進行中だが、正確に言うと達成できた年度もあればできなかった年度もあるので、終わりが見えない。昨年度は世界不況の直撃を受けて生産量が激減したために余裕で達成してしまった。おそらく今年度も達成できるだろう。 そういえばここに配属される直前、顧客クレームへの対策の相談で製造課長の鈴木に会ったとき、こんな会話をしたことを思い出した。 山田「製造は電力削減の主担当だから、さぞやプレッシャーがかかるでしょうね」 鈴木「最初はそう思ったさ。でもね、要領だよ、要領。」 山田「え? どういうことですか?」 鈴木「要はムリのない範囲で毎年少しずつ削減していけばいいのさ」 山田「そんなことコントロールできるんですか?」 鈴木「簡単さ。目標の設定を緩めにしておくだけだよ。ホンキでやれば1年で達成できるんだけど、それを3年ぐらいかけて少しずつやればいいんだ」 山田「え? そんなことでいいんですか?」 鈴木「これはね、『継続的改善』といってISOの基本原則なんだ。キミも規格要求事項の勉強をすればわかるよ。ボクは認証取得するときに猛勉強したからね。けっこうISOに詳しいのさ」 そのときはそんなものかなと聞き流した山田だったが、ここ数日の経験を通じてどうも違うんじゃないかと思うようになった。 山田は、平目や鈴木の話を整理してある推論を立てた。 つまり、彼らがいうISO活動とは「有形無形を問わず、ISO認証を取得・維持するために審査員に見せる必然性から作られたバーチャルな仕組み。あるいはその周知活動、文書又は記録」ではないか。 これを元に彼らの言動を振り返ると見事に全てが当てはまった。なんのことはない。実務には関係のないものを仕事のフリをしてこなしていただけだったのだ。 電力削減はコストを下げて利益を出すためであって、つまりは儲けるためだ。 そんな活動がチンタラと3年もかけていいはずがない。それが「継続的改善」とやらであれば、それを強いる規格要求事項の方がおかしい。 そう考えればなんだか件のメルマガも胡散臭く思えてきた。世の中から病気がなくなれば製薬会社が困るのと同じで、もし本当に「ISOの活動」が各企業からなくなってしまったらメルマガの発行元であるISO教材の会社はどうするんだろう? だいたい、もともと審査のために作られたバーチャルなものを経営に活かすというのは、スタートからして間違っている。そんなものはさっさと捨ててしまって、儲けるためにどうすればいいかを考えた方が手っ取り早いに決まっている。 よし、今度またJ○×の田井さんに電話して聞いてみよう。そして、製造課長の鈴木とも話をしてみよう。そんなことをしたら次の審査で困るとか言い出しそうだが、わかってもらえるだろう。 「ん? 待てよ。製造課長のところに行ったのは。。。あ、しまった」 山田は、この前のクレーム対策を顧客がどう承知したかの報告書を品証課に提出するのを忘れていたのだ。山田はあわてて品証課に向かった。 山田「多胡課長、すみません。先日の顧客クレームの件ですが」 多胡「ああ、山田君。あれならもうキミの後任者からもらったよ」 山田「そうですか。よかった。では」 多胡「まあ、せっかく来たんだ。ゆっくりしていきなよ。相談したいこともあるし」 山田「え、相談ですか?」 多胡「そう身構えるな。たいしたことじゃない」 山田「はあ」(ホントかな。この人、論理的に話してくるから苦手なんだよな) 多胡「実はね、平目さんには前から相談しようと思っていたんだが言い出しにくくてね」 山田「何でしょう」 多胡「コピー用紙の裏紙使用ルールなんだけど、あれ、廃止できないか?」 山田「え? どうしてですか?」 多胡「あれが原因で製品不良が起きているんだ」 山田「どういうことですか」 多胡「製品の製造手配をするとき、手配書に図面を添付するだろ。新製品じゃない限り、設計課は他の類似図面を引用してそれを元に製図する。 出図前のレビューのためにテストプリントするから、もし誤りがあればそれを修正して完成させる」 山田「はあ」 多胡「そうすると、完成図面と修正前図面の両方が同じ紙の裏表にプリントされることだってある。製造課は間違えて修正前図面を見て作業してしまうってわけだ」 山田「なるほど。でも裏面には大きく×を書くルールになっているから、間違えることはないはずですよね」 多胡「キミ、現場を甘く見ちゃいかん。忙しいときは忘れることもあるし、間違えて正の方に×を書くことだってある。こんなミスを根絶するには裏面使用を禁止するのが確実だ」 山田「いや、しかし。おっしゃることはわかりますが、裏面使用ルールはEMS活動の目玉みたいな存在ですから簡単に廃止するわけには・・・」 多胡「EMS活動だって? じゃあ、QMS活動はどうでもいいのかね。EMSの方がQMSに優先するとでも言うのかい? いったい、EMSとQMSのどっちが会社にとって大事なんだ。だいたいね、私は品質の管理責任者だ。前の9001審査のとき、審査員からこの問題を指摘されて困っているんだ。そのときは何とか交渉して観察事項で済んだけど、今後指摘されたらCARが発行されることは間違いない。責任を取らされるの私なんだよ」 山田はぐっと詰まってしまった。と、同時にはっとした。 無意識のうちに自分もEMS活動などという実態のないものに染まっている。 それだけじゃない。原材料やエネルギーの削減は環境負荷低減でもあるし、ロスの削減でもあるから品質の活動とも一致する。でも、今回のように相反するとき、どう判断すればいいんだろう。あちらを立てればこちらが立たずではないか。 平目さんに相談したところで答えは決まっている。環境の管理責任者として自力で考えなければならないのか、それとも品質管理責任者である品証課長の多胡さんと相談しつつ、会社にとって何が最適なのかを考えればいいのか。 だいたいISOのルールとは会社にとって何なのか? 必要なものなのか? もし認証を返上したとしたらどうなるのか? 帰りの廊下をゆっくり歩きながらあれこれ考えを巡らすうちに山田はある結論に至り、決意を固めた。 「よし。それでいこう」 本日の検討課題 ・ISOの活動って、何だろうか? ・品質と環境とで相反する問題が生じたとき、どうすればいいのだろうか? ・あなたが山田君なら、今後どうするだろうか? |
ぶらっくたいがぁ師匠 毎度ありがとうございます。 世の中のISOの何割が意味のないISOゴッコなのでしょうか? そういう会社のためにISO教材会社が存在しているようですね。本当はISOなんて仕組みが存在するわけがありません。会社の仕組みがまずあって、そのシステムを改善していくときのツールというか改善ポイントとしてISO規格を使うはずです。 紙ごみ電気が重要な環境側面という組織があるのだろうか?
オフィスの活動が重要でない組織があるはずがない。だからその活動そのものが環境側面じゃないか。 裏紙を活用する代わりに、裏紙禁止して事務能率を向上し時間外を禁止した方が、人事管理、人件費管理、機密管理、そして環境に最高に貢献するはずだ。 オフィス省エネを進める人たちが、エアコンの制御、自然光の利用、PCの省エネ設定などばかり考えて、事務能率の向上を考えず、時間外規制を思いつかないのは、アホというしかない。 京都議定書達成は遠いぞ!
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