嘘八百社の本社のISO14001の更新審査の時期となった。
平目は昨年末に定年退職予定だったのだが、本人の希望と環境保護部のメンバーの要請もあり、当分の間嘱託として残ることになった。今回の審査は山田が平目の指導を受けて、対応することになっている。
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ケーススタディはたくさん書いているので、他の編では今年は維持審査だと書いたかもしれない。まあ、この編では更新審査ということにする。
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審査が間近とはいえ、嘘八百社ではISO審査の対応のためにすることがない。いったい一般の会社では審査前の準備ってどんなことをしているのだろうか?
正直言って、私には何をするのか想像がつかない・・?
- 文書の見直し?
嘘八百社のルールで社内の文書は、制定・改定・あるいは見直しをした時から一定期間過ぎたら作成部門が見直しをすることになっている。特段、環境保護部が心配することはない。
サボっている部門もあるだろうって? そりゃ、あるかもしれない。いや、一つや二つはあるに違いない。でも、あったなら厳しく不適合にしてもらえばよいだろう。
私の知っている会社では審査前に文書の一斉点検をしている。よくわからないが、審査で文書の見直しをしていない不適合を出してもらった方が良くはないか?
- 記録?
そりゃ仕事をしていれば必然的に記録は残る。そもそも記録は必要だから作るのである。
嘘八百社ではISO認証を受けるとき、新たに作ることにした記録は一切ない。必要があれば元々作成していたわけで、ISOのために作る記録なら長続きするはずがない。
ISOのための仕事なんてあるはずがない。無駄なことはしないにこしたことはない。
- 教育?
業務遂行のための教育はあっても、ISOのための教育なんてありません。ましてや審査の前にしなくちゃならないことがあるのだろうか?
もしかして、あなたの会社では、ISO規格とか、生物多様性とか、熱塩循環なんて仕事には役に立たない高尚な教育に貴重な会社の時間を使ってるんじゃあ・・
嘘八百社の本社でも著しい環境側面はたくさんある。それらの業務に従事しているメンバーには力量を持つ者を当てている。そんなことISO以前の当たり前のことだ。
例えば、廃棄物担当には行政が開催する講習会に行かせたり、ビル管理担当者はエネルギー管理員講習会を受講させたり、自然保護や社会貢献のメンバーはNPOやその他の会合や研修に行っている。別に箔を付けるためとかじゃなく、それが業務上必要だから・・
感染性廃棄物管理は看護師がしている。注射針や血液などの危険性の知識と取扱について、これ以上の力量のあるものはないだろう。営業担当は製品知識、他社情報、製品関連の社会動向を知っているのは当然だ。そうでなければ商売ができない。
環境保護部には廣井のように工場の古手の環境課長を充てている。
まさに力量のあるものに従事させているではないか。わざわざこれ以上することがあるだろうか?
- 是正処置?
会社というのは常時PDCAを回して仕事をしているのであって、「是正処置」は「計画」と「実行」とワンセットなのだ。是正処置とは日常仕事をしていれば、必然的にしているはずです。仕事が順調に進んでいるなら、より一層良くするために上長はフィードバックをかけます。
審査で「是正処置としてどんなことをしてますか?」なんて質問されたら、課長は机の上のインボックスからどれでもいいから書類を1件つまみだして、「例えば・・」と説明すれば十分だ。
- 内部監査?
年間計画で行っているので、あわてることもないし、あわててもどうしようもない。
- マネジメントレビュー?
これって日常の報告、伺い出、決裁そのものじゃないですか?
他に何かするのですか?
というわけで山田が絶対しなければならないということは限られている。
- 役員のスケジュールを抑える。
本心を言えば、審査員に社長が対応することもないのだが。はじめのとき常務が対応する予定だったのをそのときの審査員が社長にインタビューしなければならないと下がらず、妥協したのがいまだに尾を引いている。そのうちこれも見直さなくてはならないだろう。
- 会議室を確保する。
認証した当初はオープニングミーティングに50名も出たというが、今は20名もいない。だが、山田はもっと減らさなくてはと思う。だって拘束されている時間は仕事がストップし、売り上げにならないのだから。
- 昼食の手配、お茶の手配、その他こまごま
オープニングの部屋には表示の紙を貼らなければならない。
イントラネットの担当部署に、審査スケジュールのアップを依頼する。
最近は本社内のセキュリティも厳しいので外来者は目的の職場以外には入れない。ISO審査員も審査職場のみ入れるように審査員に付けてもらうIDカードに必要場所のみ入れるように書き込みを依頼する。
おお!忘れていた。審査員の諾否があった。

1週間ほど前、認証機関から審査員として派遣予定の4人ほどの経歴書が電子メールで送られてきていた。山田は、まだ回答していなかったのを思い出した。
山田は添付ファイルをプリントアウトして眺めた。一人づつA4サイズ1ページに、生年月日、学歴、業歴、保有資格が書いてある。その他に作業服とか安全靴の用意のためだろう、服とズボンのサイズ(M・L・S)と靴のサイズ、帽子のサイズが書いてある。みな、60を過ぎている方ばかりだ。しかし年齢や業歴あるいは保有資格をいくら眺めても、受け入れていいのかだめなのかわかるはずがない。まさか大きな足でそれにあう安全靴がないから止めてもらおうなんていう会社もないだろうが・・
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山田はどうしたらいいのか見当もつかず、平目の机に行った。
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「平目さん、審査員の許諾を決めなくてはならないのですが、どうすれば良いのでしょうか?」
「おお、今回は更新審査だから全員新顔だね。こんなもの経歴とか保有資格なんてみても意味がないよ。この方はドクターってあるが、環境マネジメントではなく農薬を研究したと書いてある。農薬に詳しくてもあんまりというか全然関係ないね。こちらは技術士だが、専門分野が上下水道では我々の本社の環境マネジメントとは縁がなさそうだ。これはみんなで議論した方がいいんじゃないか。」
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平目は嘱託になってだいぶ低姿勢になった。山田はそれが残念だ。平目にもっと積極的に前に出てほしいと思う。
平目は昼休み後に打ち合わせしたいと、廣井と中野に声をかけた。
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昼休み後、環境保護部の打ち合わせコーナーに、4人はコヒーカップを持って集まった。
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「今年は全員新顔だね、ぼくはこの4人に会ったことはない。」
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と平目が口を切った。
どれどれと中野と廣井が4人の経歴を交互に手に取り眺めた。
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「あれえ〜」
「廣井さん、お知り合いでもいたのですか?」
「ううん、知り合いというわけではないが・・」
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廣井は全部を言わずに席をたち、数メートル離れたロッカーからパイプファイルを1冊持ってきた。
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「ぼくは工場でISO審査があると、必ず審査報告書を送ってもらうことにしているんだ。ここに全工場の過去5年分がある。さっき見かけた本間さんという人だが、二年前に岐阜工場でトラブルを起こしている。審査報告書と一緒に熊田課長が・・山田君は
岩手工場の監査で会っているよね?・・熊田課長が審査のメモを付けてきたのだが、本間さんは礼儀知らずとある。具体的には工場幹部にため口を聞いたとか、以前働いていた会社に比べて技量が低いと現場で作業者に言ったとか。実際に岐阜工場は昨年、本間さんを忌避している。」
「ホウ、それはすごいことをしたものだ。理由は何と書いたのだろうか?」
「熊田君から聞いたのだが、既に2回審査にお見えになったので、別の人を希望するとしたらしい。それは受け入れられて別の人に代えてもらい、昨年は問題なかったと聞く。
それとね、この山形さんという人だが、昨年高知工場ですべての部門に環境目的・目標がないので不適合を出している。だいぶもめたらしいが、最終的に高知の東山部長が妥協した。規格解釈がどうなのだろうねえ〜。僕はご遠慮したいね。」
「残りの二人、遠藤さんと黒田さんは何か情報がないですか?」
「遠藤さんを俺は知っている。というか知り合いなんだ。」
「遠藤さんは以前工業会の広報関係者の集まりで一緒だった。なかなかいい人だよ。前の会社で部長になれなかったので、自分から出向先を探して審査機関に行ったと聞く。実務では環境報告書編集を担当していたから、そういう方面は熟知していると思ってたんだろうね。黒田さんは知らないな。」
「黒田さんは2年前まで3回連続リーダーとして岩手工場の審査をしている。審査報告書をみると、証拠・根拠を書いているし、判定もおれから見てまっとうだと思う。良いんじゃないか。」
「分かりました。私が判断して良いなら、遠藤氏、黒田氏は受け入れる。本間氏、山形氏は忌避することにしたいと思います。」
「オイオイ、忌避する理由はどうするんだ?」
「私は遠まわしに言うのが苦手ですから、簡単明瞭に『過去の当社での審査状況を調査した結果、当社においては審査員として不適切と判断した』と記載しましょう。」
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山田はくったくなく言った。
平目は両手を広げて天を仰いだ。そして笑った。
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「もう山田君に教えることは何もない。」
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実を言って、私もはっきりと「審査員として不適切と判断した」なんて書いたことは一度もない。そもそも審査員を忌避したことも一度ない。もちろんすべての審査員をOKしたのではない。私は提示された審査員が「こりゃだめだ」という場合は、認証機関を訪問してのエライサンにお話して変えてもらっている。実物の私は結構紳士なのである。
ところで、審査員側にとっても忌避されずに審査に入って異議申し立てを受けた場合、認証機関内部でも原因調査とか査問を受けるだろうし、更新時にCEARに報告しなければならず、それによって審査員資格更新ができるかできないか影響する。
そんなことならいっそのことはじめから忌避してもらった方が良いはずだ。もちろんその企業には審査に行けないが、トラブルが起きるよりははるかにベターである。
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しかし審査員の学歴、経歴、保有資格でいったい何が判断できるのだろうか?
昔、「写真結婚」というのがあった。「結婚写真」ではない。第二次大戦前にハワイやカリフォルニアに移民した男性が、日本から送られてきた写真をみて結婚を決めたのを写真結婚という。まだ見ぬ人と結婚したのは女性側も同じで、心細かっただろうと思う。船に乗ってきた女性は写真花嫁と呼ばれた。
詳しくはここを見てください。
会ったこともない人と結婚するなんておかしいと今の人は言うかもしれない。

当たり前か、おかしいかは、時代や地域によって異なる。私の親の年代は見合い結婚が当たり前だった。戦国時代は政略結婚だった。私の友人には幼なじみと結婚するのが多かった。田舎だったからかもしれない。
順序だって違う。昔は結婚してからセックスして出産した。今はセックスしてから結婚して出産する。いやセックスして出産してから結婚する人もいる。やがて出産してからセックスして結婚するようになるのかもしれない。
話がそれた。写真結婚だって相手の顔は見たわけだ。おっと、審査員の顔写真も付けろなんて冗談は言わない。
そもそも認証機関側の情報開示がまったく不足している。情報開示どころではない。サービスの品質も、仕様さえ示していないということではないだろうか?
「さあさ、買った、買った、車が安いよ!」といわれてあなたは買うだろうか?
オートマかマニュアルか分からない。それどころかセダンかワゴンかも分からなくては、危なくて買い物できない。

現在は購入者は、審査員の情報が全く与えられないで購入を決定している。ケネディがいたら消費者の知る権利が侵されていると言うだろう。
本日の課題
審査員の通知があった時、どのようなことを考慮すべきか、1,000文字程度で説明せよ。
ぶらっくたいがぁ様からお便りを頂きました(10.01.30)
たいがぁです。
審査員の通知があった時、どのようなことを考慮すべきか、1,000文字程度で説明せよ。
まず、ウチではこの前提がありえません。
審査の準備としては、ケーススタディに書かれていたこととかなり重複します。
違う点を挙げるならば、過去1年間で印象に残った苦情・不適合や、イマイチうまくいってない業務プロセスの実態をリストアップし、直前に審査員に送りつけるぐらいでしょうか。もちろん、審査のときに重点的かつ効率的に見てもらうためです。
でも、それはまあオマケのようなものです。審査の準備でいちばん重視しているのは、審査員の事前面談です。
ケーススタディに書かれていたように、審査員の職歴や保有資格なぞを披露されたところで何の意味もありません。つか、そんなことはどうでもよろしい。要は、ウチが期待する審査をする力量があるかどうか、それが重要です。それを書類で見極めることなんてできないでしょう。
であれば、事前に面談して審査の力量を推し量るしかありません。面談の結果NGであれば、審査機関に申し出てチェンジしてもらわないと審査費用をドブに捨てることになります。
人を採用するとき、書類選考だけで決定する企業はないと思います。採否を決めるのは面接でしょう。であるのに、審査員については経歴と保有資格が書かれた書類を押し頂き、一読しただけで受諾する。なんとものどかな慣行がまかり通る世界ですねー。
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たいがぁ様 おっしゃるとおり!
実は私も最近は指名することにしています。
お間違えないように、
良い人を指名するのではありません。過去、問題を起こしていない審査員を選んでいます。最小悪の選択ですね。
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名古屋鶏様からお便りを頂きました(10.01.30)
名古屋鶏です。
まいどです。
ウチの審査機関では、審査のギリギリになってから『この人とこの人と・・』と連絡が来るので、忌避もへったくれもありません。
当然、写真はおろか経歴も学歴も資格も何〜んにも分かりませんの。
仕方ないから、自分で各工場での過去の指摘事例を見ながら『この人は・・まぁまぁまともだな』とか『この人は・・相変わらずアホな指摘を・・』などと情報を集めている次第で。
本音を言わせてもらうなら審査員はある意味、審査機関の商品なんですから、在庫の中から顧客として選択権を持たせて欲しいんですけどね。
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名古屋鶏様 毎度ありがとうございます。
おっしゃるとおり!
顧客満足の「こ」の字も知らない認証機関は顧客満足を評価できるのでしょうか?
ルイスキャロルにでも考えてもらわなくては・・・
不思議な国のアリスならぬ、不思議な国の審査員、いや不思議な国の認証機関は、あっというまにハートの女王に・・・以下略
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Yosh師匠からお便りを頂きました(10.01.31)
「写真結婚」でのことですが。
寫眞が本人のであれば救へますが、別人だつたことがあるさうで、花嫁は上陸を拒否して同じ船で帰國したとか。
本人から直接聞きましたが、上陸して相手と会ふてから嫌ふて逃げて、別な子持ちの男性と結婚したと。
世の中本に書かれてないことが沢山あるやうです。
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オハヨーゴザイマス
私はハワイ移民の本を相当読みました
60年代はハワイはあこがれの地でしたからね
おっしゃるようなケースがたくさん載っていました
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ぶらっくたいがぁ様から名古屋鶏へお便りを頂きました(10.01.31)
名古屋鶏様
まいど、ぶらっくたいがぁです。
仰せのとおりですね。世の中いろんな商品がありますが、客に中身を見せないで売ってるのは初売りの福袋、医者、ISO審査ぐらいなものです。
ウチも昔は審査直前に送られてくる書類を形式的に受諾するだけだったのですが、あるときあまりにヒドい審査内容にプッツンきて審査機関に異議申し立て(殴り込みに非ず)に行きました。今後もこのような審査内容であれば移転もやむなしという意向を伝えたのですが、じゃあ審査員を換えるから様子をみてくださいということになり、これを契機に審査員を事前に面談するようになった次第です。
ですから、その審査機関の正式メニューとして面談サービスがあるわけではありません。というか、そんな審査機関はたぶんないでしょう。
その後も審査機関の移転の検討を続けましたが、審査機関各社の売り込みに対しては審査員の面談を条件としました。今の審査機関もそうしたプロセスを経て決定しました。
登録組織にとって移転は伝家の宝刀です。それをちらつかせて交渉されてみてはいかがでしょうか。案外すんなり応じてくれると思いますよ。
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湾星ファン様からお便りを頂きました(10.01.31)
佐為さま
湾星ファンです。審査員許諾について、であります。(ケロロ軍曹みたいw)
ウチは、経歴書でハネるなんて乱暴なことは致しません。どなたでも、1回はチャンスを差し上げています。で、審査後のアンケートなるもので、力量の劣る審査員は、二度と寄越すな、とやるワケです。
けど、それを繰り返していたら、持ち駒が無くなってしまったのが明らかになったので、最近は、それもしなくなりました。ウチの認証機関は、業界でも大手に分類されているトコです。チーム構成まで書くと、おそらくこのサイトをチェックしているであろう、そのメンバーに正体がバレる懸念があるので、詳細は言えません。
既に第三者審査については、達観してます。要は、ツマらん指摘で業務が増えるような愚行さえ阻止できれば、問題なし、としています。審査で業務改善に資する指摘なんて幻想は、とっくに諦めています。経営者には、無駄だから止めるという選択はいかがでしょうか、と審査の度毎に申し上げていますが、未だに了とされた方はいらっしゃいません。
湾星ファン
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湾星ファン様 毎度ありがとうございます。
既に第三者審査については、達観してます。
それってある意味というか、迷う余地なく、審査員と認証機関を子供扱いしているってことですよね!?
私のように真面目に受け止めると言うか、審査員の行状にカッカきているほうが、相手を一人前に扱っているということになりません?
湾星様にとっては、第三者認証制度はもはやバーチャルで単なる寄付行為になってしまっているわけですか・・
嗚呼、ISO破れたり
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