2013.05.08
世の中には、ISO9001やISO14001を認証することで、会社を良くすることができると語る人が多い。E塚教授もかく語れり。
だが私は常々、ISO認証しても良くならないと書いている。「AはBである」と「AはBでない」は明らかに相反するから真実はいずれかである。私の論が少数のようだから、当然多くの方から、ISO認証して良くなったという事例を添えた反論があってしかるべきだ。
だが残念ながら、私の主張に対する反論はまだいただいていない。よって今回は、ISOによって改善効果があったというネットや書籍にある主張を検証したい。
以下、その辺で見かけた認証効果について吟味していきたい。
Googleで「ISO+メリット+効果」などで検索した結果、すぐに次のようなものが見つかった。
- ISO取得のメリットは『社会的信頼を得る』ことです。(某認証機関のウェブサイト)
社会的信頼ってなんでしょうか?
他より低い金利で銀行から借りられるというのでしょうか?
- 業務の効率化(某認証機関のウェブサイト)
業務の効率化、いいですね、具体的にはどういうことなのでしょうか?
- 社員のコミュニケーションおよび意識の向上(某認証機関のウェブサイト)
- 企業体質を改善していこうという姿勢が根付く。(某コンサルタントのウェブサイト)
意識向上とか姿勢ねえ〜・・・・・わかりません。
- 省エネ、省資源によるコストダウンが実現できる。(某コンサルタントのウェブサイト)
コストダウンができる、いいことです。証拠は?
認証機関やコンサルタントがウェブサイトに書いているものには、その効果を具体的に示したものはない。化粧品だってカップラーメンだってOTC医薬品だって、「当社比」とか「これは使用者の感想です」なんて断りはあっても、具体的な説明をしているのに、ISOにおける効果とは、定性的どころかあいまいに表現することもできないものなのか?
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コマーシャルで薬事法や景品表示法などに反しない範囲で一生懸命に効果を説明しているのは、具体的でなければ宣伝効果がないからだ。ISOの効果を具体的に書かないのは薬事法や景品表示法違反を心配しているわけではなく、具体例がないからだろうか?
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では認証機関やコンサルタントはあきらめて、ネットで企業や講演会などのウェブサイトを探した。
- 業務分析をやったことでムダな業務を減らすことができた。余分な商品サンプルや返品が少なくなった。(某認証機関の発表会:食品卸売業)
業務分析とISO認証とは関係ないと思うのは私だけだろうか? 認証と余分な商品サンプルや返品が減ったこととは、どうつながるのだろうか? そんな無駄、ISO認証と関係なく省けないのだろうか。認証費用そのものが無駄なような気がする。
ところで認証の効果というなら、認証前後の無駄な業務や返品の差の検定をしたのだろうか?
- 環境目的に「不良品発生の低減」「業務効率の改善」を掲げて改善活動を行った。その結果、特定の商品分野においては、過去1年間の不良品発生率の60%減、加工速度30%向上を達成した。(某認証機関の発表会:金型製造業)
前記と同じだが、ISO規格は管理技術である。認証によって「不良品発生の低減」「業務効率の改善」を掲げて改善活動が進めることはできるだろうが、改善そのものは保有技術に依存すると思う。おっと不良対策のテクニックについてもISO規格はなにものも提供していない。せいぜいが是正処置をしろとか予防処置をしろと書いているだけだ。そのつながりはどうなのだろうか?
それに私が愚考するに、元々が『「不良品発生の低減」「業務効率の改善」を掲げて改善活動を行っていた』ので、それを環境目的にしたのではないのか? ここに書いてある通り『環境目的に「不良品発生の低減」「業務効率の改善」を掲げた』なら、順序が逆ではないのだろうか?
- 作業場は紙くずが飛散しているのが当たり前という意識があったが、作業終了後に清掃を行うようになった。(某認証機関の発表会:古紙回収業)
そうか、ISO認証しなければこの会社では掃除もしなかったのか?
社長さん、そもそも社員教育がなってませんよ。社長の徳がないのかもしれませんね。
真面目な話、掃除さえ徹底できない会社なら、上司の命令に従うとは思えない。
- 原料をカット済み野菜や半加工済みの魚介類に切り替えたことで、食品廃棄物の発生を削減できた。(某認証機関の発表会:食品製造業)
原料の形態を変えることは管理ではなく固有技術の範疇ではないのだろうか? それともISO認証することで、そういったアイデアが湧き出てきたのだろうか?
廃棄物の抑制もISOと関係ないように思うのだが・・・
- 環境に配慮した企画・デザインを推進した結果、新規のクライアントの獲得につながった。(某認証機関の発表会:印刷業)
環境に配慮した企画・デザインというものはISO認証とどういう関係があるのだろう?
「おい、今年当社がISO認証しただろう。それでその認証機関から当社に認証して良かったことを発表してほしいって依頼があったんで、おまえ、頼むわ」
「認証した効果ですか? 認証したって何も変わりませんよ」
「そう言わないで・・・おお、そうだ新しいお客さんとれたじゃないか。あれを認証の効果として発表して来いや」
「あれは美大出の新人が入ったおかげでしょ」
「いいから、いいから」
案外そんなところでは・・・
- 環境法規制の整理ができた。役所への届出書類の忘れを予防できるようになった。(リサイクル業者のウェブサイト)
なるほどISO認証は遵法に効果があったようですが、それってどうもISO14001の意図である「遵法と汚染の予防」とはレベルが違うように思います。
それに、認証によって届漏れがなくなったなんていうなら、認証していない多くの企業では届出漏れが大量に出ているのでしょうか?
ちなみに私の経験では、ISO認証する前から届出漏れはなかったので、認証しても何も変わりませんでした。
ところでこんなことをウェブサイトに書いていいものかと・・・
- 異物が混入して使用できなくなった原材料を再利用するようになり、産廃処理費用が大幅に減った。(某認証機関の発表会の工業品製造業)
すばらしいことです。ISO認証とは技術レベルを向上させるもののようですね。ぜひとも日本中の企業がISO認証して廃棄物をゼロにしてほしいものです。
- 今まで納品書と請求書は別々でしたが、一体に改善しました。(某認証機関の発表会:印刷業)
うわー、これはISOとは無縁のようで・・・
- 洗浄工程で使用する薬剤を工夫した結果、脱水汚泥の排出量が減り、処理費用の節減につながった。(某認証機関の発表会:リサイクル業)
すみません、ISO認証とその改善はどんな関係があるのでしょうか?
まさか審査の時に審査員から指導を受けたなんてことは・・・・
- ISO活動として、工期短縮、創意工夫の水平展開に取り組むことになりました。(某土木建設業のウェブサイト)
ISO認証しないときは、そんな工夫さえしようとしなかったのでしょうか?
- デッドストックの削減、エコ製品の拡販を目標に据えて、満足する成果を得ました。(某商社のウェブサイト)
商社っていうくらいなら、それなりのレベルにあるのでしょう?
何と言ってよいやら・・・
- 製造工程の省力化を図り電力削減をした。(某認証機関の発表会の事例)
これは今年(2013)私が暇つぶしに聴講に行ったときの事例だ。
ISO9001でもISO14001でも省力化をしろとは書いてない。また省力化の手法も載っていない。認証と省力というのはどう関係するのか疑問に思ったが、私は質問しなかった。聞くだけ野暮と思ったから。それに質問して講演者も困ると思ったし・・
- 経営の効率化推進(某認証機関の発表会の事例)
小集団活動で問題点を探ったところ、環境目的目標が多すぎることが問題だとわかった。それで環境目的を見直して重点的に活動するようにした結果、少しずつ改善されていくのが分るようになった。
この文章だけからではわからないが、そもそも環境目的とは必要なものを取り上げるのではないのだろうか? 必要でもないのをしていたならそもそもダメだし、必要なことをヤーメタというのはますますダメだ。この文章を読むと、理解に苦しむ。
調査データを元にして効果を論じたものを
CINIIとか
アイソス誌の過去記事から探してみた。データを基にしていない定性的な話とか精神論、感情論は除いた。
また2004年以前は除いた。その頃までのISO認証効果の論文は希望的なことを書いたものばかりだから。
- ISO14001の有効性に関する調査研究
(2012 鳥取環境大学 名誉教授 衣川益弘)
学術論文というよりも報告書的な小品である。主にCO2と廃棄物に注目して、ISO14001認証企業グループが非認証グループよりも改善効果が高いとしている。
| 認証グループ | 非認証グループ |
CO2削減 | 10% | 1.7% |
廃棄物リサイクル率 | 82% | 16% |
詳細は論文を参照のこと(CINIIで検索のこと)
しかしデータの扱いと処理、そして論理の進め方は学術論文といえるような厳密性がない。更に改善効果とISO認証の因果関係についてはまったく言及がない。グループ間の比較のみだ。
一番の問題は規格の意図である遵法と汚染の予防についてまったく言及がないことだ。この著者はISO認証とはCO2削減と廃棄物削減と思っているのだろうか?
- ISO14001認証による環境負荷変換分析:PRTRを用いて
(2006 高崎経済大学准教授 岩田和之 博士課程在籍中の論文)
- ISO14001認証取得の決定要因とトルエン排出量削減効果に関する実証研究
(2010 岩田和之、有村俊秀、日引 聡)
PRTR報告データのトルエン、キシレン、ダイオキシンの排出量の変化から、ISO14001認証企業グループと非認証グループにおいて削減率が異なっているかを比較した結果、トルエンにおいて認証グループの削減率が高いと結論している。
このケースも改善効果とISO認証の因果関係についてはまったく言及がなく、グループ間の比較にすぎない。つまり認証することによってその会社のパフォーマンスが向上したのか、それとも元々パフォーマンスの良い企業が認証しただけなのかはこの論文からは読み取れない。ただこの論文の目的はISO認証による環境負荷の事例についてであり因果関係どうこうではないのでこれで良いのだろう。
5/9追加
ご存じとは思うが、PRTRは汚染の予防の指標として適切である。
- ISO14001認証の信頼性の考察
(2012アイソス掲載 斉藤隆俊)
これはISO14001本来の意図である「遵法と汚染の予防」の指標でみており、結論として認証企業の不祥事が増加していると言われていることに対して、増加していないという結論である。だから認証の効果を評価した論文ではない。認証と指標の因果関係は説明していないが、認証の効果についての論文ではないのでこれで良いのだろう。
- 企業における環境管理システム(IS014001)と改善活動の有効性
(2005 沖縄国際大学総合研究機構産業総合研究所 喜屋武 昌健)
これはれっきとした学術論文なのだが、その効果の指標を見て笑ってしまった。だってISO認証によるオフィスで使う紙の費用削減とか木材の削減をとりあげている。ISO認証の本質とは無縁のあまりにもちいさなことだし、紙削減のためならISO認証が必要とは思えない。
書籍、雑誌、ネットなどにおいて「ISO認証によって改善が出た」というものを見ると、マネジメントシステムとは無関係の改善活動によるものと、改善テーマをISOのためという錦の御旗をあげたことのふたつあるようだ。だが、マネジメントシステムがしっかりしたから改善が進んだというものはないように思える。
ISO認証によって会社が良くなったと主張するなら最低限、次が必要条件だろう。
- 会社が良くなったことを示す指標を明確にする。
もちろんISO9001の序文には「顧客満足」が目的、ISO14001の序文には「遵法と汚染の予防」が目的とあるから、顧客満足や遵法と汚染の予防を指標とするのは当然だ。
- ISO認証によってその指標が良くなった因果関係を明確にする。
- 改善効果があることを定量的に示すこと
(指標の差を立証する)
これは特段厳しいハードルではない。論文でなくても、会社で何事か投資をするとかプロジェクトを実行するときに、企画書にこれらがなければ説得力はない。
だらだらと多数の論文や発表事例などを羅列したが、一件たりともISO規格あるいは認証によって改善されたことを、因果関係と改善指標で示したものはなかった。
もちろんだからISO規格が改善につながらないというつもりはないが、少なくても2013年5月時点、私はISO規格あるいは認証によって改善効果があるという事例を見つけることができなかった。

本日の主張
ISO認証するのは国土交通省の入札のためだとか、お客様のグリーン調達対応だと言い切るならまっとうなことだ。だって、それこそが本来の目的だから。
企業はISOのためではなく利益を出すため、事業を存続するため、そして社会に貢献するために、必死で遵法を確実に、効率をあげ、良い製品サービスを提供することに努めているはずだ。ISO認証とはそれを第三者が調査してしっかりやっていると裏書することにすぎない。裏書する行為にはもちろん価値があるが、それは企業の効率を上げたり改善を進めるものではない。
ISO認証に似たものに企業格付けがあるが、企業格付けが会社を良くするわけがない。良い会社が良い評価を得るだけだ。

本日のおねがい
ISO9001規格の意図である「顧客満足」及びISO14001規格の意図である「遵法と汚染の予防」において、認証の効果を示したものがあれば至急連絡されたし
認証機関の社長さんから、「当社の審査は顧客満足やコンプライアンスを向上させている」なんていうデータがもらえたらいいですね。
名古屋鶏様からお便りを頂きました(2013/5/9)
原料をカット済み野菜や半加工済みの魚介類に切り替えたことで、食品廃棄物の発生を削減
これを聞いてオカシイと思わないヒトがいたら、ISO毒に中枢神経を犯されているに違いありません。だって、小口に切った人参が畑から採れるワケでもなければ、切り身になったタイが泳いでいるワケもありませんから。単にメンドウな工程を外注させただけであり、環境負荷は何も変わってないのですから。或いは管理の目が行き届かなくなった分、リスクが増している可能性もあります。
なんつーか、事例を並べれば並べるほど「認証自体に経営改善効果はない」と証明しているようにしか・・・
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鶏様おはようございます
ひいきの引き倒しとか、誉め殺しのようですね
第三者認証とはなにか?と考えたら明らかだと思うのですが
いや、私が異常なのでしょう
鶏様は異常にならないように
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ヨッシー様からお便りを頂きました(2013.05.09)
楽しく拝見させて頂きました。
私は、一部上場企業の社長室勤務で、ISOをとる様に指示を受け、14001をとり、その流れで、廃棄物業界、リサイクル業界を知るようになり、それから20年、今は還暦を過ぎ、別の会社にお世話になっています。
ただ、今でも廃棄物業者のコンサルをやっています。
ISOを良くしようというお気持ちは良く分かりました。
しかし、登録されているその会社の心情は、?現実には登録維持はムダ金ではないか、?しかし、返上したら回りの企業から「ムダ金の支出をやめた?会社経営が苦しくなってるのかな?」と思われるのを懸念していました。
そこで、ISOは、最低限の審査に通ることだけをする。実際は使えない手順書でも使ってるふりをする(手垢で汚す等)
会社を良くするために、今期はこうする ということを決めても、それをISOの審査に耐えられる(審査員のケチがつかない)ようにすることこそが時間、効率の無駄と割り切っています。審査員に経営の内容まで話倒す、納得させることの方が疲れるのです、必要悪と割り切っている会社も結構あるのではないでしょうか、という意見です。
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ヨッシー様、お便りありがとうございます。
ヨッシー様は私と時期的にも経歴もほとんど同じとお見受けします。
おっしゃるように私たちはサラリーマンですから、犯罪でもなければ長いものに巻かれるのもしょうがないと思います。
実を言いまして私も10年前まで勤めていた会社では上長が審査員がおっしゃることに反論するなというスタンスでしたので、おかしなこととかあきらかな間違いでもハイハイと聞いていたのは事実です。それを良い悪いとかいえるものではありません。
幸いというか不運というか10年前に仕事を変わり、そこでは上長がISOなんて対応するものではなく、会社のあるがままを見せろという発想でしたので、それ幸いと仕事をしてきたというだけです。
ただその頃、ISO-TC委員の方と会い、私が認証機関に合わせて素早く認証するテクニックを自慢したところ、規格のための仕事をするな、会社が規格を満たしていることを説明することだと喝を入れられまして心を入れ替えたというのは本当です。
審査員がいうとおりしてあるいは審査員が期待することを先回りして素早く不適合なく認証するとか審査をパスするというのはやはり間違いであろうと思います。
もちろん上長が理解してくれる環境下においてのみ通用するということではあります。
既に引退した身なら余計なことを語らず静かにしているという選択もありますが、私も20年もISOのおかげで飯を食ってきたという認識もありますので、苦情や批判だけでなく、立て直せと発言し続けていくつもりです。はたして立ち直れるのか、このままポシャルのか、定かではありません。
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