![]() 瀬尾さん |
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「やあ、山田さん、お久しぶりですね。お仕事が忙しいですか?」
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「これは瀬尾さん、いつもお世話になっております。なかなか顔を出せずにすみません。瀬尾さんの方も最近はどうですか?」
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「どうですかって、仕事のことですか、ISOですか、囲碁のことですか?」
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「いえいえ、単なる社交辞令ですよ」
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山田は瀬尾氏の隣に座って自分もお茶をついだ。 ![]() | ||||||||||||||||||||||||||||||
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「最近は囲碁をする人が減ってきていますね。特に若い人で囲碁をたしなむ人がいない。このクラブでも40前となると、ほんの一人か二人しかいません」
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「昔は囲碁や将棋というと大人の上品な遊びというイメージがありましたが、最近は囲碁や将棋のパソコンソフトも強くなってきて、普通のゲームとの違いがなくなりましたね。そんなこともあるのではないでしょうか」
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「山田さんもパソコンで囲碁をしているのですか?」
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「やりますよ。いつでも一人でもできますし、待ったをして文句を言われないのでいろいろ検討できるのがよいですね」
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「そんなものですかねえ〜、そんなことを聞くとちょっと寂しいね。ともかく今年は会員を増やすのが私の目標だ」
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そのとき二人連れが入ってきた。 ![]() ![]() | ||||||||||||||||||||||||||||||
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「すみません、囲碁クラブと聞いてきたのですが、少し打たせてもらえませんか」
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「どうぞどうぞ、棋力はどのくらいでしょうか?」
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「私は日本棋院の5段免状を持っています。こちらは3段免状を持っています」
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「わあ、それはお強い。ここでは点数制でやっております。ここの200点がだいたい初段くらいでしょう。12点で | |||||||||||||||||||||||||||||
「230点です」
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「じゃあ、山田さんこの方に教えてもらったらどうですか。18点差というと2子置いてコミなし、持碁で白勝ちになりますね」
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「未熟者ですがよろしくお願いします」
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山田は立ち上がり、近くの空いている盤に案内した。 相手は当然のように上座に座った。
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「私は山田と申します。ご指導願います」
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「池村といいます。お願いします。星山君はとりあえずボクの打つのをみているか?」
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星山と呼ばれた連れ ![]() 山田は黒石を右上と左下の星に置き、相手の打つのを待った。 ●
二人の勝負はなかなかつきそうがありませんから、その間 私のおバカなお話しを・・・● ● 今は脱退してしまいましたが、以前私が入っていた囲碁クラブでのできごと。 とある例会に見知らぬ人がやってきました。体の大きな人で一見して日本人ではなさそうです。 会長が何事かと伺うと、その人は中国人でした。碁を打ちたいとのこと。棋力は4段と言います。会長が私の顔を見て相手しろと言います。私はいやだよと断ったのですが、まずお前がやれと言います。私の結果を見てからという魂胆のようです。道場破りが来ると、まず下っ端に相手をさせるのと同じです。師範はその様子を見て考えるのでしょう。もっとも会長の強さは私とどっこいでしたけど。 ともかく私がそのクラブに入って間がなく一番下っ端でしたので逃げるわけにもいかず、しょうがないと覚悟を決めます。 「では2目置かせてください」といいました。相手が4段なら2目置かなくてもよいのかもしれませんが、私も負けたくなかったので・・ さて囲碁を打ちながら話をすると、4段とは中国でのことだという。中国のアマチュア初段は日本のアマチュア4段か5段の強さだといわれていますから、ほんとうなら私は5目か6目くらい置かないといけないわけです。これじゃあ手合い違いも甚だしいと途中で投げようかと思いました。ホント でも投げるのもやり直すのも悔しいからそうせずに、そりゃ必死に考えましたよ。それと相手も2目差ということは、私にそれだけの力があると思って無茶なことはして来ません。 盤面が進むほどに私の方は敗色濃くなって玉砕かと思われましたが、そうなると相手が緩んできて逆に私が大石を取って中押し勝ち、はっきりいってまぐれです。そのときはもう汗びっしょりでしたね。いつもあんなに真剣に考えたら強くはなるかもしれませんが疲れてしまいます。そんな囲碁は楽しみでなく苦しみですよ。スポ根ものやモーレツ社員物語はテレビで見るから楽しいのであって、自分が主人公になったらやってられません。 私が勝ったのをみて、それから他の人が「おれも」「おれも」状態になりました。でも数人対局しましたが、全滅でした。結局勝ったのは最初の私だけ、それもマグレでした。 ともかく私は日本男児の意気を見せたぞ。 尖閣は日本
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おっと山田さんと池村さんの勝負もだいぶ進んだようです。● 中盤にさしかかった頃、 ![]() それからほどなく、まだ寄せに入る前に池村は上げハマをつかんで盤上に置いた。これは負けましたという意思表示である。 | ||||||||||||||||||||||||||||||
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「ありません、いやあ、お強いですな」
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山田の目算では15目は勝っているだろう。しかし今までの流れをみるに相手も大きなミスもしていない。こちらも素直に打っていて、それだけ差がついたという感じだ。正直なところ対局者に5段の力はないのではないかという気がした。
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「ありがとうございました。初めての方と碁を打つと緊張します」
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「星山君、山田さんと一局打ってごらん」
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星山は喜んで池村と代わった。
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「私は3段免状をもっていて、池村さんに2目で打っていますので、山田さんとは | |||||||||||||||||||||||||||||
囲碁では強い人が白石を、弱い人が黒石を持つ。お互いが対等のときは互先といい、どちらが黒を持つのかを決めるのに、目上の人が石をいくつか握り、目下の人が相手の握った石が奇数か偶数を当てる。あたれば黒、あたらなければ白を持つというルールになっている。自分から石を握るというのは、自分が目上だという意思表示であり、よほどの高齢者でもなければそんな失礼ことを言う人はいない。見知らぬ人同士の時は「どうぞ握ってください」と譲り合うのが普通だ。 ともかくその結果、山田は黒になり、打ち始めた。 瀬尾も手持ちぶたさのようでお茶を持って今猿の隣に座った。 ●
中盤になると大差がついたのが明らかだったが、星山は捨てずに最後まで打った。最後に数え終わってから星山は大きな声を出した。
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「うあー、22目負けか・・・大差でしたね。あなたは強いですねえ〜、ほんとに3段なんですか?」
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山田は星山の嘆きを聞いて、3段というのに 目算とは試合中に何目差がついているかを頭の中で数えること。初段以上になれば、常に何目の勝ち負けかを読んでいる。読めなければ有段者ではない。 目算した結果、優勢ならミスをしないような打ち方になるし、劣勢ならイチかバチかの勝負にでる。ズルズル負けるのはゲームの理論からいってありえない。そして挽回できないほど負けていれば、そのまま続けるのは時間の無駄、いや見苦しいので、先ほどの池村のように敗北をみとめるのが礼儀である。 | ||||||||||||||||||||||||||||||
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「こちらさんは星山君より強いから4段くらいじゃないの。ボクにも二目ではなく、定先くらいじゃないのかな」
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「いや私は段などありません」
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「そうですかあ〜、しかしお強いですね」
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「どうでしょう、今度は私と打ちませんか。私は持ち点が250点ですから互先でいかがでしょう」
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池村の顔色が変わった。
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「いやいや、もうおいとませねば・・・今日はどうもありがとうございました」
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「もしお気に召したら入会していただけるとうれしいのですが」
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「そうですね、考えさせてください」
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二人が去った後、お茶を飲みせんべいをかじりながら話す。
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「あの二人は勝つ気で来たのだろうけどコテンパにされてしまいましたね」
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「5段と3段の免状を持っているというおはなしでしたが、お二人とも2段くらいさばを読んでいるのではないですか」
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「ともかく入会する気配はなさそうですな」
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「山田さんが勝ちすぎですよ。入会してもらうつもりなら負けてやらないと でも、脇で見ていると、とても5段と3段の力はないね」 | |||||||||||||||||||||||||||||
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「新聞や雑誌に、載っている問題を解けば段位免状がもらえるのがあるでしょう。そういった方法で免状をもらうとあんなものなのでしょう。今高段者が増えているのは、強い人が増えているのではなく、段位の価値が下がっているのですよ」
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「形だけでも段位があればいいのか、強ければ段位がなくてもよいのか、なんかISO認証のようですね。段位免状があっても弱い人はISO認証しても中身がなっていない会社、強くても段位免状のない人はエクセレントカンパニーだけどISO認証していない会社ってとこですか」
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「アハハハハ、今猿さんも面白いことを言う。でもそれってほんとみたいですね。私の工場も今猿さんと山田さんのおかげでISO認証しましたが、認証しても会社は何も変わりません。 それと同じく囲碁も強ければ、免状があってもなくても関係ないということでしょうか」 | |||||||||||||||||||||||||||||
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「しかしビジネスではISO認証していればメリットがありますよね」
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「でも今猿さん、ISO認証が必要なのは先方から求められたときだけです」
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「囲碁なら、他の人から段位免状を持つことを求められるということもないですしねえ〜」
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「そうすると囲碁の免状となると、どういうとき必要というか役に立つのでしょう?」
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「名誉でしょうかねえ。今ここは点数制ですが、10年くらい前は段級制でしたから昇段することが我々の夢でしたね。年に二回の大会で優勝、準優勝すると昇段・昇級したのですが、毎年4人しか上がれないわけです。ああいう方法だと大変な名誉でしたね」
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「そうそう、そうでしたね。でも日本棋院の免状があるとその段位が自動的に認められましたね。だから新聞でも雑誌の問題でも、とにかく免状をもらうことに必死でしたね」
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「そうなんですよ、でもクラブで優勝して初段を認められた人と、通信教育で初段を取った人では強さが違いましたね」
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「すると免状を持っていても、強いとは限らず弱い人もいることになる」
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「まさに当時は今のお客さんのような状況になりましたね。それでクラブの総会で議論して客観性があり、勝てば上がり負ければ下がるという今の方法を導入したわけです」
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「今でも免状は価値があるのでしょうか」
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「そうですね、芸事と違い、勝ち負けがはっきりする勝負ごとでは免状を持っていてもどうなんでしょうねえ」
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今猿が笑いながら言う。
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「うちのカミさんは踊りに凝っていてね、子供のときからだからもう30年以上やっているんだろうけど、名取とか師範とか金ばかりかかって大変ですよ。免状をもらってもお弟子さんをとるわけでもなく何の役にも立たないですが、同じ趣味の人同士では自慢のタネになるのでしょうか? ああいうのって勝ち負けがあるわけじゃないから、名誉そのものが昇華したって感じですかねえ」 | |||||||||||||||||||||||||||||
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「うちのやつはフラダンスに凝っていてね、あれもクムフラーとかなんとか大変なんだよね」
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「囲碁は勝負事なのでしょうか、芸事なんでしょうか?」
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「まあスッパと二つに分けることもできないでしょうね。例えば野球だって勝つことだけに価値があるわけじゃない。体力つくりとか仲間との付き合いとか、人によってその目的も価値観も違いますねえ。囲碁もあまり勝ち負けにこだわるのもみっともないように思う。ただ踊りとは違うよね」
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「とはいえ、草野球だって負けてばかりじゃ面白くないものね。囲碁だって負けてばかりじゃ面白くない。『122対0の青春 深浦高校野球部物語』ってのもありましたけど、彼らだって点を取って勝てばもっと素晴らしい青春だったと思います。 ところで今の点数方式だって最善の方法ともいえませんよ。だって努力しても努力しなくても、最終的には勝率が5割になってしまう。それに大会で優勝するにはその直前には負け続けて、持ち点数をさげた方が良いというのもおかしなことだ」 | |||||||||||||||||||||||||||||
「今猿さんの囲碁は勝つためですか、人間修行ですか」
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「いやいや、暇つぶしですよ」
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「アハハハハ、私もです」
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