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「課長、ISO認証指導のことですが、計画を立てる前の方向を考えましたので相談したいのですが」
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「ホイホイ、じゃああっちで話を聞こうか」
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塩川は給茶機でコーヒーを紙コップに注ぐ。佐田もそれに倣う。二人はコーヒーを持って打ち合わせ場に座る。
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「まずちょっと前提をお話します。ISO認証機関はたくさんありますが、当社でISO14001認証はナガスネ認証に依頼するということでしたね。調べますとナガスネのISO規格解釈はかなり独特で、他の認証機関と大きく異なっているようです。先々週、ナガスネの審査員研修機関で講習を受けてきましたが、他社からきていた受講者もその点についてはよく認識していました。但し業界団体の作った認証機関なので、同業他社においても他の認証機関に頼みようがなく、ナガスネのおかしな規格解釈に合わせようというスタンスでした。ナガスネで認証しようとする会社はどこも苦労しているようです」
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「つまりナガスネで審査を受けることは、問題があるということか?」
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「そうは言いません。ナガスネで審査を受けるとすると、余計な手間ひまがかかるだろうということです。ともかく認証機関をナガスネ以外にするという選択肢はないものとして計画を考えました。そういう前提で認証への対応ですが、それはつまり次のようになるかと思います」
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佐田はA4の資料を取り出した。それには表が書いてある。
ISO14001認証方法
塩川は資料を手に取ったが、中を見もしないで言う。 | |||||||||||||||||||||||||||||||
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「なるほど、評判通り佐田はちょっとのことでは音を上げないというわけか」
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「そんな評判は知りません」
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「お前が異動するとき、品質保証部の相原部長がなにを言ったか知らないけど、こっちにもいろいろ事情があったんだよ。 そもそも役員会に当社グループの全社がISO14001認証すべきという方針を提案したのはウチなんだ。まあその判断は間違いではないと思う。ところがその後、業界団体が認証機関を設立したものだから、当社はそこに審査を依頼しなくちゃならなくなった。 まあそこまではいいのだけどさ、その後、業界団体を集めて、ナガスネにぜひ依頼してほしいという説明会があってさ、そこで行われた規格解釈の説明を聞いたウチのメンバーが呆れてみんなISO14001認証の担当はしたくないってなったんだよ。アハハハハ」 | ||||||||||||||||||||||||||||||
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「それで私にお鉢が回ってきたのですか?」
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「まあ、そういうわけだ。気を悪くするな」
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「いえいえ、ISO9000が一巡してしまい私は失業してしまうところでしたので、ISO14001の仕事は救いでした」
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「というわけでさ、おれはお前がどんな方法で指導するのか興味を持っていたのさ」
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「私としてはナガスネを使うしかない、すぐさま認証しなければならない、会社の仕組みは悪くしたくないという条件を満たす方法を取りたいと思います」
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「うんうん、それで」
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「アメリカが第二次大戦のとき、原爆を開発したときのアプローチってご存知ですか?」
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「知らんよ」
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「当時、原爆を爆発させる方法がみっつ考えられたそうです。それで連中はどうしたかというと、三つの方法を試したそうです。結果、みっつともうまくいったそうです」
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「それで」
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「ここに示したように私が考えたのは実行できないものを除くと3つですが、これをすべて試してみたいと思います」
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「面白いアプローチだと言いたいが、それは簡単に実行できるのか?」
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「会社の方針はグループ全体に示していると思いますが、社内に対しては強制できても、関連会社に対して強制力はありません。実質はともかく関連会社は独立企業ですから、形式的にはお願いです。 ですから私の知っている関連企業に私が認証の試行をお願いして、いろいろな方法を試してもらいます。そして1社はナガスネではない認証機関でトライします。 当社の工場ひとつについては、ナガスネで絶対間違いのない方法で準備させて認証させます。 それ以降の環境管理部の指導に当たっては、それらの実験結果を見て判断したいと思います。あるいは、その結果を示して自主的に判断してもらうというのがあるべき姿かもしれません」 | ||||||||||||||||||||||||||||||
それを聞いて塩川は驚いた。佐田はやっぱりただ者じゃない。
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「その実験とやらだが、相手のあることだから、簡単に希望者を選んで、その佐田の考えた方法で受審してもらうように説得できるのか?」
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「実を言いまして私がISO9001認証を指導した会社の中から選んで、それぞれの方法でトライしてもらおうと考えまして、既に内々には話をしております」
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塩川はさすがだと思いつつ、ウンウンとうなずく。
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「今申しましたように、ナガスネ以外の認証機関に会社の従来からの環境管理体制を示して審査を受けるのが最小の労力で会社に貢献するように思えます。ですからそれがひとつのアプローチとして考えています。 他の方法は、ナガスネをやむを得ないとしていかに労力を少なくするか、いかに実際の会社の仕組みを悪くしないかという段階を変えて向こうの出方を伺うというのが本当のところです」 | ||||||||||||||||||||||||||||||
塩川は佐田の話を聞いて、これは困ったことだなあと思う。いや、佐田がすることが困ったことだというのではなく、やはり当社がナガスネを認証機関に選んだことが困ったことだということだ。
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「なるほど、いくつかの方法を試行すること、その方法については了解した。ともかく10月までの1拠点認証は大丈夫なのだな? そしてそれは社内の工場だからナガスネでなければならん」
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「それは絶対確保しましょう」
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といいつつ、佐田はまだその工場を決めてはいなかった。
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「わかった。この計画をみると4拠点同時に進めることになるようだが、人員としてお前ひとりで間に合うのか?」
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「負荷的には間に合うと思います。ただ・・」
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「ただ?」
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「当社としてこれからナガスネに出向させる予定の人がいれば、そういった方を環境管理部が予め引き取って、認証の指導をさせつつ審査員として養成しておくのも良いかと思います。また、当社としてグループ内にISOコンサルを行うような業務というか事業を始めるなら、そういった人を育成するというのもありでしょう」
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「なるほどな、いろいろ考えているものだ。 それで俺の仕事だが、その試行する会社はもう決まっているとして、俺から依頼文を出せばいいのか?」 | ||||||||||||||||||||||||||||||
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「そうお願いしたいです。レターは私が書いて明日にでも・・」
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「わかった。それで教育するとなるといつからがいい?」
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「審査員になるとか、コンサルをするとなりますと、認証指導だけでなく、法規制や事故防止なども合わせて学ぶ必要があると思います。 実はですね、私が参加させていただいた先日の審査員研修には、他の会社からナガスネに出向する予定の方が数人いました。彼らはそれまで環境管理に従事していたわけではなく、開発や資材部門の部長クラスだったのですが、早い話が社内で使いみちがなく審査員に出向となったわけです。日本の人事政策ならそれもしかたないです。しかし彼らは環境管理など知らず、それに関連する資格も持っていません。そんなわけであと数か月しかないのに今一生懸命に公害防止管理者などの受験勉強をしているのです」 | ||||||||||||||||||||||||||||||
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「なるほど、そういう予定者に対して予め教育を施して、一人前にして出向させるということか・・」
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「そうです。そのときは環境企画課や環境推進課などにも教育をお願いして、環境管理全般についての知識と少しは経験を積ませたいですね」
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塩川は佐田の話を聞いて、こいつにISO認証指導させるだけではもったいないなと思う。とはいえ、ISO認証指導についても佐田が第一人者であることは今の話でも間違いなさそうだ。品質保証課から来てもらったのは大正解だったようだ。認証指導が一段落したら、環境監査や法規制の指導などにも使えるかもしれない。
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「オイオイ、お前こそ、そういった資格は持っているのか?」
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「私は元々が現場スタッフだったでしょう。そのときは必要に迫られて危険物甲種と作業主任者をいくつかとりました。もう10年も前のことです。それから出向していた時、仕事の合間に公害防止管理者を趣味で受験しまして一応全部持っています」
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「ほう!それはすごい。お前は審査員になるか?」
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「冗談はやめてください。私がISO9001の初期から関わってきたことはご存じでしょう。同僚でISOが好きで審査員になった人もいますけど、私はああいったお仕事は好きじゃないんです」
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「ほう?審査員はかっこいい仕事で、ぜひとも審査員になりたいと願っている人は、品質保証部にも環境管理部にもいるようだが」
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「まあものの見方、考え方もいろいろありますからね。私は審査員というのは創造的な仕事ではないと思います。創造的というのは芸術家ということではありません。改善を進める仕事はすべてが創造的です。現場で速く安く良いものを作ろうと考えるのが、私には一番合っています」
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塩川は、佐田を見た目とかかっこよさとかには価値を認めない珍しい男だなと思う。
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「よし、わかった。お前のアプローチについては了解した。発信文を持って来い。計画についてはもう少し詳細を書いたものを出してくれ。おれがハンコを押して部長に出しておく。計画書は進捗を書き込めるようにしておいてくれ。 それから出張が多くなると思うが、進捗は毎週、メールで良いから俺に出すように。出張手続と予算については・・・」 | ||||||||||||||||||||||||||||||
●
それからしばらくの間、佐田は認証のアプローチ方法ごとに詳細なスケジュールと実施事項を決めて指導プログラムを策定した。そしてどのタイプをどこに依頼するかを、相手の顔を思い出しながら、一番適性のあるところに振り当てた。社内の工場をどうしようかというのはまだである。● ● 1週間ほどして塩川課長が佐田を呼ぶ。 | |||||||||||||||||||||||||||||||
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「佐田よ、この前お前から言われた件だがな・・」
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「この前申し上げた件とおっしゃってもいろいろありましたから、どのことか・・・」
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「ああそうか・・・出向者教育だよ。人事にあたったら既にナガスネ出向予定者を選出していた。本来ならというか、適任者ということから考えれば工場での環境実務の経験者を審査員として出向させたいところだが、人事処遇上行先のないというかもらい手のない部長などが並んでいたよ。部長クラスは関連会社に出向するのが多いのだが、性格に問題があるとか、専門分野が狭くて使い物にならないとか、行先のないのがたくさんいるんだ。ナガスネはそういう人がいくところとみなされているようだ。そんな人が審査員になったら、審査を受ける企業が迷惑するよな」
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「そのようなことのないようにするのが塩川課長のお役目でしょう」
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「お前も口がうまいよ。確かにおれは無任所大臣の佐田の相手だけじゃなくて、出向者教育の担当にもなってしまった。来月付けで2名が異動する。今年末に出向予定だ。お前はその教育計画と実際の指導を頼むわ。もちろん種々教育は各担当に依頼して良い」
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「承知しました。お二人にはISO認証の指導に行ってもらってよいのですね?」
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「もちろんだ。まずご芳名だが、佐々木元部長と片岡元部長だ。教育計画はこちらに来たときに説明できるように頼む」
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「承りました」
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「佐田よ、お前はできませんとか嫌だということは言わんのだな?」
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「言ってもしょうがないなら言うだけ無駄でしょう」
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「なるほど」
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佐田はまず元の職場である● ● 星山社長にISO14001のことを頼んでいたので、星山は武田課長と設備係長を集めておいてくれた。 | |||||||||||||||||||||||||||||||
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「ご無沙汰しております。みなさんお元気そうで何よりです」
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「佐田さんも、ますますのご活躍と聞いているよ」
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「今まではISO9001認証指導をしていましたが、 | ||||||||||||||||||||||||||||||
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「わしも新聞などで見ている。これからは環境だってんで、どの会社もISO9001以上に認証が重要になると言われているな」
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「確かにそんな風潮ですが、よく考えればそれほどのものとも思えませんけどね。だってISO9001のときも認証しないと欧州に輸出できないと言われたものですが、そんなこともなかったようですし。 それはともかく星山社長にはちょっとお願いしていたのですが、オロチが素戔嗚グループのトップを切って認証ほしいのです。どのみち本社はすべての関連会社に認証するように指示していますので、どうせなら早い方が良いと思います」 | ||||||||||||||||||||||||||||||
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「そういうなら佐田さんが指導するという条件だろうな?」
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「もちろんです。ちょっとお願いはですね、お宅がISO9001の認証を受けたBB社ではないところでいきたいのですが」
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「なんか事情があるんだろう。わかった。おい、武田課長、半年で認証しろ。いや5か月だな」
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「社長はせっかちだから・・」
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武田は笑う。ここ数年、製造部門と生産管理部門をひとりでみてきた。苦労してきた武田は貫録がついた。
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「環境管理となると私が主になるのでしょうか? 管理責任者はどうするのでしょうか?」
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「今は品質の管理責任者はどなたですか?」
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「無駄はしないという単純明快な理由もあるし、人もいないことなので、わしが品質担当役員ということにしている」
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「なるほど、そうしますと環境担当役員も社長ということですね?」
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「そうだ、こんな中小企業じゃ誰が品質、誰が環境なんてオママゴトしてもしょうがない」
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「設備係長さん、ここでは公害防止管理者が必要でしたっけ?」
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「特定施設としてはプレス、コンプレッサーがあります。公害防止管理者は騒音、振動が該当します」
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「そうすると有資格者というと、そのほかに危険物や特管産廃くらいですか?」
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「まあそんなものですね」
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「ウチはPCBもないし土壌汚染もないはずだ。焼却炉はあったが例のダイオキシン問題の起きる前にサッサと片付けたから今はない。元からトリクロロエチレンは使ったことがない」
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「そうすると公害防止組織の手順書はあるので、認証までに準備することとしては環境管理関係の手順書くらいですか?」
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「今では公害防止だけでなく、危険物の取り扱いなどについても文書化されているから特段準備事項はないと思う」
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「それじゃ明日にでも審査を受けることができるじゃないですか」
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「言いかえると認証を受ける意味がないような気もしますね、アハハハハ」
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佐田はなるほどその通りだと思う。しかしこのような状態の会社で、ナガスネ社で審査を受けるのはわざわざ問題に突き進んでいくようなものだ。それに環境と品質の認証機関は同じ方が良い。特に大蛇のように認証範囲が9000と14000で完全に一致しているのは無駄な手間ひまをかけさせたくない。 いやナガスネ認証に審査でどんどん不適合を出してもらって、社長や武田のお手並み拝見と行くのも面白いかもしれない。 まあ、実験だからしょうがない。それをいうならすべてナガスネを止めて別の認証機関にするのが正解だが・・・それはできない。 佐田は環境側面の決定方法についてはBB社の方式を教えた。それを聞いて武田は、あとは任せてくれという。そしてすぐにナガスネ社と審査の交渉も始めるという。力のある会社なら「頼む」とひとこと言えばおしまいだ。 ●
佐田は静岡素戔嗚にテストをお願いするつもりで行った。鶴田部長はまだ在任である。鶴田部長と福井課長が対応してくれた。
● ● | |||||||||||||||||||||||||||||||
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「いつもお世話になっております。今まで私はISO9001対応でしたが、こんどは新しく作られた環境のISO14001指導を仰せつかりました」
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「佐田さんには今までもいろいろ指導を受けてお世話になった。なんでもお話では当社をグループ関連企業のトップに選んでくれたとか」
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「佐田さんが指導してくれるのでしょう。百人力ですわ。これでまた関連企業のトップで認証できますね」
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「実を言いまして、今回は認証機関を自由に選ぶことができないのです。と言いますのは業界団体がナガスネ認証というのを設立しましてね、業界団体傘下の企業はそこに審査を依頼しろということになってしまったのです」
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「聞いている。おれんとこにお宅の相原部長の名前で、諸般の事情を考慮して、ぜひともそこで認証をするようにというお手紙が来ている。バカバカしい話だ」
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「すみませんがそこのところはご了承願います。ナガスネという認証機関はISOの解釈が独特で審査に合格するのにはその解釈に合わせなくてはならないのです」
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「佐田さんもいろいろあるんだろう。わかった、好きにやってくれ。俺たちは佐田さんの指導のとおりにやってみよう。ところでISO認証も大変だろうと、ウチでは福井課長がISO14001認証のために専任になった」
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「いえ、歳をとって役職を引退した私をISOの経験者として起用してくれたのですよ」
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「それは福井課長、よろしくお願いします。今申し上げましたように、今回は単にISO認証というのではなく、ナガスネ方式と呼ばれるおかしな規格解釈をしているところです。実は私はそのナガスネ方式といえど、余計なこと無駄なことをしないで審査に合格することを検討しているのです。それでお宅にその方法のテストをお願いしたいのです」
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「ナガスネ方式というのは俺も聞いている。あれだろう、環境側面とかというのを決めるのに、掛け算足し算しないとダメというやつだな」
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「部長そのとおりです。あのような方法で適正な値にするのにはトンデモナイ時間がかかり、それは実際の環境管理にはまったく無縁なことなのです。しかしナガスネ方式を否定してしまうと認証を得られません。それでいかに省力化してナガスネの審査に合格するかというのを考えているのです。それを御社でテストしたいのです。うまくいけばその方法を他の関連会社に展開するつもりです」
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「なるほど、私もナガスネ方式というのを聞いています。それでこれから環境側面の決定方法の講習会に行こうと思っていたところです」
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「福井課長さん、その講習会に行かなくてもよろしいです。私が環境側面に適合するための方法一式を持って来ますから、それまで待ってください」
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「わかった。じゃあ、次回から佐田さんの指導の通り進めればいいんだね」
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「期待してください」
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その帰り道、佐田は横浜のウケイ産業による。● ● ここでは黒田部長と佐藤課長ともう一人が待っていた。 | |||||||||||||||||||||||||||||||
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「やあ、佐田さん、今度はISO9001じゃなくてISO14001の認証指導をすることになったんだって?」
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「ISO9001の仕事がなくなってしまってどうしようかと思っていましたら、また仕事ができて感謝しています」
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「親会社から今度はISO14001を認証しろというメールが来てさ、どうしようかと思っていたらまた佐田さんが指導してくれると聞いてホットしたよ」
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「佐田さんの指導通りすれば間違いないと信じているよ。今度はどんな攻略法なんですか?」
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「私は、いくつかの関連会社さんにいろいろなアプローチ法をしてもらうように考えています。もちろんすべて認証するつもりですが、どれが一番負荷が少なく順調に行くかを見るつもりです」
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「なるほど、それで当社はどんな方法を?」
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「実を言って一番簡単で問題が起きない方法なんですよ。残念でしょうけど」
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「残念なものか。それはどんな方法なんだい?」
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「現在ISO9001を認証しているBB社に審査依頼するという方法です」
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「親会社からの指示にはナガスネ認証に依頼せよと書いてあったが・・・」
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「聞くところによるとナガスネ認証は独特の規格解釈で、向こうが考える通りの方法でないと不適合だそうですが・・」
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「おっしゃる通りです。でもそういったことを無視して、御社はBB社で審査を受けてください。お宅がナガスネでないことについては、本社内部にはいろいろな方法をテストして比較検討するためと話をつけています。そして実を言ってBB社の方がナガスネ社よりも審査費用が安いですからお宅としては悪くない話です」
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「わしもISO14001には関心があるから、いろいろ話を聞いている。BB社で良いと言われて実を言ってホットしたよ」
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「詳細はまた来ますので、とりあえずBB社に審査依頼の話をつけておいてください」
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「いつごろ審査してもらうということにするんだね?
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「お宅の気分次第ですが・・・4か月もあれば十分でしょう?」
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「それじゃ安全を見て半年後にしよう」
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翌週、佐田は岐阜工場に出かけた。岐阜工場からは既にISO14001認証一番乗りをするつもりだというお手紙が環境管理部に来ている。それで塩川課長は今年10月までに認証する工場に岐阜工場をあてることにした。今日は向こうの考えを聞いて、佐田の支援について決めるつもりだ。● ● 工場では大山部長と川中課長が待っていた。 | |||||||||||||||||||||||||||||||
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「佐田さんとは何年か前にISO9001の認証したときの講演会でお会いしましたね。あのときは佐田さんに負けてしまいましたが、今回は我々の方法のすばらしさを示したいね」
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「お宅では、もうだいぶ認証の準備が進んでいるのでしょうか?」
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「私は今、ISO推進室という部門の室長をしています。それでISO14001も担当することになり、既にナガスネの環境側面や環境法規制の講習を受けてきました。環境側面は点数で決めなければならないとか、通勤も環境側面に含めなければならないとか、いろいろ勉強してきました」
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佐田は、通勤を環境側面に含めなければならないとは知らなかった。多分、佐田が研修を受けてから変化があったのだろう。
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「お宅ではどのような形で・・といいますか、やはり規格対応の工場の規定を作っていくという形ですか?」
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「そうです。規格通りに仕組みを作れば審査員にもわかりやすく、審査でもめることもないかと思います」
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「そうですね。それでは特段、本社の方に認証の支援を求めるということはないですか?」
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「川中君、まあ時々来てもらったらいいんじゃないか。それに審査はここが一番手になるだろうから本社の方でも様子を見たいだろう。予備審査と本審査には陪席してもらったらどうだ」
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「そうですね、審査の時はぜひ来てください。きっと参考になりますよ」
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「それはありがとうございます。ぜひとも陪席させていただきます。 本社の偉い人たちは、岐阜工場に10月までに認証してほしいと切に願っておりますので、そこはよろしくお願いします」 | ||||||||||||||||||||||||||||||
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「まかせておきなさい。我々が一番乗りだよ、アハハハハ」
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川中もニコニコというかニヤニヤしている。今度こそは佐田の鼻を明かしてやると思っているのだろう。 しかしウケイが順調にいけば一番乗りはウケイになりそうだなと佐田は心の中で思った。 |