マネジメントシステム物語42 こぜりあい その1

14.03.13
マネジメントシステム物語とは

岐阜工場が審査を受けてから半年が経った。片岡はとうにツクヨミ品質保証機構に出向していた。
あれ以降も素戔嗚(すさのお)グループ企業のいくつもがISO14001認証している。というのは佐田たちの指導を受けずに自主的に活動してきた会社も多く、ほぼ毎月2箇所くらいの割で審査を受けているのだ。今まで審査を受けた事業所はすべて、ナガスネの講習を受けてナガスネ方式で準備してきており、細かい指摘は多々受けているが紛争に発展したのはなかった。とはいえそれらの事業所の認証のための文書や仕組みをみると、ナガスネの審査員を満足させても企業には貢献しないと佐田たちは考えている。
これからは新しい方針で指導してきた事業所が順次審査を受けることになる。本社の通知ではナガスネでなくても良いという意味で、「ナガスネを推奨する」と表現したが、それを「ナガスネを使え」と理解したところが多く、ほとんどが認証機関にナガスネを選んでいた。それで、これからは問題が多発することが予想された。

今日は素戔嗚(すさのお)電子の山形工場のISO14001の審査である。佐々木がメインになってここ半年指導してきた。ナガスネで審査を受けるのだが、ナガスネ流を無視して審査を受けるので、どんな問題が起きるのかと、佐々木はいささか変な意味で期待している。
佐々木は森部長と熊田課長に、当社の認証を受けるにあたっての方針の趣旨と具体的な方法を説明してきた。両名はナガスネともめたオロチ機工や素戔嗚静岡に問い合わせしたし、またナガスネの言うとおりに対応した岐阜工場についても調査していて、本社の指導に納得していた。
森部長も常識人だし、熊田課長に至っては真面目な仕事をすることにかけては依怙地といえるほどだから、審査が楽しみだ。
熊田課長 森部長 佐々木
熊田課長 森部長 佐々木
審査員は須々木審査員と三杉審査員である。さてどうなるのだろうか? 今回は佐々木だけが陪席した。佐田は認証準備中の他の関連会社の指導に飛び回っている。佐々木も山形工場に審査の前日から期間中滞在する予定だが、そんなに長い時間ひとところにいるのはまずなかった。毎週出張続きである。

オープニングミーティングである。
今までのいきさつを聞いている森部長は、わざわざ騒ぎを起こすことはあるまいと、経営者である工場長と審査を受ける部門の長10数名の他に、環境管理部門から10数名を出席させた。30名もいればよいだろう。
須々木は会場をながめて何も言わなかった。聴衆を見て大いに満足したのか、それとも不満だったのか、どちらなのかは定かではない。
須々木審査員の挨拶が始まった。
須々木
「本日と明日の二日間にわたりISO14001の審査を行います。ISO14001はISO9001と違い経営の規格です。単に公害を出さないとか環境を守るということではなく、ISO14001は費用逓減や会社の質向上に役立つ仕組みです。
更に私たちの審査はISO規格だけでなく、多面的に企業の経営に役立つことを目指しております。ですから最終的な結論だけでなく、審査の現場で語る我々の言葉をよく聞いていただいて参考にしてほしいと考えております」

多くの認証機関は「当社を選んでいただきまして、ありがとうございます」と始まるのが普通だが、ナガスネのモデルとなった認証機関のオープニングではその言葉を聞いたことがない。自分たちが選ばれるのが当たり前と確信しているのだろうか? それとも市場競争というものを理解していないのかもしれない。
ところで審査報告書に書かれたことだけでなく、現場で話すことを良く聞いて拳拳服膺(けんけんふくよう)しなさいと語る審査員は多い。これは一体どういうことなのだろう? 文書として残すと後で問題になると困るからなのか、自分たちの言葉はとてもありがたいお経のようなものだと錯覚しているのだろうか? わざわざ紙に書くのが面倒だからなのか、これも良く分らない。


審査員の挨拶の後に経営者が挨拶をするわけであるが、工場長は意外なことを言いだした。
工場長
「ISO14001が経営の規格であるとおっしゃいましたが、それはどういう意味なのでしょうか? 経営とはお金、人、物を活用して、社会へ貢献することと理解していますが、ISO14001にそういったことが書いてあるのでしょうか?」
工場長はそこで話を止めた。つまり挨拶ではなく須々木氏の話に疑問を呈したのだ。
しばしの沈黙ののち、須々木審査員は自分への質問であると気がついて
須々木
「ISO14001が経営の規格といっても、ドラッカーのようにこういった経営をしなさいと書いてあるわけではありません。事業を推進する上で環境配慮をする意味とか、経営の意思決定においてどうあるべきかということを述べているということです」
「ISO14001は経営の規格だ」という人は多いが、経営の規格とはいかなるものかとか、ISO14001はどのように経営に役立つと説明したのを聞いたことがない。
工場長
「私もISO14001規格は一応読んでみましたが、どうも経営とは無縁だろうと思いました。ISO規格は経営レベルではなく、環境管理について書いているようです。審査員さんはISO14001が経営の規格であるというご認識であるかもしれませんが、ここでは環境管理に限定して審査をしていただきたいとお願いします」
須々木
「ご存じとは思いますが、ISO14001認証して経費削減ができたとか、製品の環境配慮が進んだとおっしゃる企業さんは多いです。そういう点で我々の審査は経営に大きく寄与すると思います」
工場長
「経費削減だって製品の環境配慮だって、私どもはISO14001が現れる前からしていますよ」
須々木
「いや、我々の審査をご覧になれば、ISO14001がどのようなものかご理解いただけるものと存じます」
工場長
「わかりました。期待していますので、よろしくお願いします」
その後経営者インタビューとなったが、須々木審査員も慎重になりジャブの応酬で終わった。

工場長が席を外していよいよ本格的な審査が始まる。最初は環境側面である。
審査風景
三杉審査員
「環境側面を評価する方法はどのようにしているのでしょうか?」
熊田課長
「環境側面の評価ということはしていません。環境側面の特定方法は・・・」
三杉審査員
「ちょっとお待ちください。環境側面の評価をしていないとはどういうことでしょうか?」
熊田課長
「ISO規格では環境側面の評価を求めていませんが?」
三杉審査員
「規格では著しい環境側面を決定せよとあります。著しい環境側面かどうかを決めるには、点数で大きさを決めて該非を判断しなければなりませんね」
熊田課長
「規格では評価せよという言葉はありません。ですから点数に表さなければならないとは考えていません。私どもでは規格にある著しいものを決定するということを、管理しなければならないか否かを決めることと考えています。という考えで著しい環境側面を決めています」
三杉審査員
「そのような方法では客観性があるとは思えませんね。誰が見ても納得できる方法は点数しかないでしょう」
熊田課長
「だってあなた、廃棄物と重油を比較できるわけがありません」
須々木
「そのようなちょっと比較しがたい物同士を比較できるようにするために、点数化する必要があるのです」
熊田課長
「点数化すれば比較できるのですか?」
須々木
「できますよ」
熊田課長
「当工場では産業廃棄物は年間500トン出ています。重油は年間320キロリットルくらい使っています。この廃棄物と重油を点数にして比較できますか?」
三杉が須々木に断って話し始める。
三杉審査員
「できますとも。産業廃棄物1000トンを5点にとるとすれば、500トンなら3点になります。また重油500キロリットルを5点にすれば、これも3点になります。3点と3点で、そのふたつは同等だとわかります。
そういったことを当認証機関の環境側面講座で教えています。みなさんは研修を受けていないのですか」
熊田課長
「なんですってええ! どうして産業廃棄物が1000トンで5点になるのですか? その根拠を知りたいですね。なぜ産廃500トンと重油320キロリットルは、環境負荷が同じなのですか?」
産業廃棄物500トン

産業廃棄物
?
=
重油320kl

重油
三杉審査員
「もちろんお宅で産廃500トンは重油320キロリットルの倍の環境影響があると考えるなら、配点を産廃500トンで5点、重油500キロリットルで5点にするというのもあるでしょうねえ〜」
そこにいた全員がドット笑った。一人は笑いが止まらず抑えるのに苦労している。
笑われて、三杉は顔を赤くした。
熊田課長
「それは単なるこじつけというか言葉の遊び、いや数字の遊びでしょう。
廃棄物と重油が比較できるなんて話にならないでしょう。もっと簡単なものとして重油とトルエンを例にあげましょう。重油とトルエンだって点数で比較できませんよ」
三杉審査員
「その場合は理論的に配点できます。重油の指定数量は2000リットルでトルエンは200リットルですから、トルエンには重油の10倍の点数を与えることになります」
熊田課長
「それは消防法の量の規制を考慮しただけですね。火災が起きた時の消火を考えたら、トルエン200リットルよりも重油2000リットルの方が消火するのは困難ですよ。
また漏洩したときの環境影響の期間とか、あるいは臭気とか毒性とかいろいろな観点があるでしょう。指定数量が10倍だから環境負荷が1割なんて簡単に言えるものじゃありません。
まして産業廃棄物と重油が比較できるわけないでしょう」
三杉審査員
「いや点数をつけて比較しなければなりません」
熊田課長
「どのような根拠で配点するのですか。そんな方法は、単なる数字遊びです。環境管理というか、事故を起こさないということはそんなんじゃしょうがないでしょう」
三杉審査員
「じゃあ、お宅ではどう考えているのですか?」
熊田課長
「どちらも火災や毒性の危険があり、また法規制を受けるのだから、しっかりと管理しなければならないと認識しているということです」
三杉審査員
「でも著しい環境側面がたくさんあったら管理できないでしょう?
著しい環境側面を上位いくつまでというのは、そういう実用的な意味から決めるのです」
熊田課長
「あのね、法規制を受けるものが多いから上位10まで管理して、11位以下は管理しないなんてことができますか? 毒物がたくさんあるけど、10種類だけ管理して、それ以外は野放しなんてことが通用すると思っているのですか。
多かろうとしっかり管理しなければならないものはちゃんと管理しなければならないのです。
上位だけ管理するなんて発想は、実際の仕事をした人は思いつきませんよ。市役所にそんな考えが通用しますか?」
須々木
「ちょっと議論をやめなさい。ともかく御社の著しい環境側面を決定する方法は客観性に乏しいので、規格不適合ということでよろしいですね」
熊田課長
「はあ、同意できません。法規制に関わるから法の定めに従って管理するという論理が客観性に乏しいとおっしゃいますと?? 不適合の理由を説明願います」
須々木
「ですから、著しい環境側面を決定する手順が不適切であるということです」
熊田課長
「不適合であるためには、規格のどのshallかを明示しなければならないそうです。どのshallかを教えてください」
森部長
「あのう、すみませんが・・・・」
須々木
「ハイどうぞ」
森部長
「当工場では、当社グループのオロチ機工の審査結果を入手して、それを参考にしてここの認証活動を進めてきました。それによりますとオロチ機工では著しい環境側面を決めるのに、法規制の該非、事故発生の恐れの有無などで判定していて、御社の審査に合格しています。当工場でもそれと同じ方法であるわけですが、オロチでは良くて、当工場では不適当であるといわれるのはなぜでしょうか?」

そう言って、森部長はオロチから入手した資料を須々木審査員に見せた。

環境側面事故苦情の恐れ法規制に該当社長方針著しい環境側面
電気の使用−−●●
水の使用−−−−
紙の使用−−−−
廃棄物●●●●
プレス機械●●−●
コンプレッサー●●−●
材料 生鋼板−−−−
材料 ジンク鋼板−−−−
材料 ラミネート鋼板−−−−
輸送−−●●
・・・・・−−●●

三杉と須々木はしばらく小声で話をしていた。
須々木
「この件についてはちょっと検討時間を頂けますか。では次に進みましょう」
三杉審査員
「では環境目的・目標についての審査です。目的はどのようにして決めていますか?」
熊田課長
「素戔嗚グループでは、経団連が『地球環境憲章』を策定した1991年の翌年から、グループ全体として環境パフォーマンスを向上させる『素戔嗚環境計画』を策定して社内外に公表しております。当然それは各事業所に割り当てられ展開されています。
山形工場ではここに割り当てられた省エネ、廃棄物削減、有機溶剤削減、環境配慮製品の開発などの目標を実現すべく活動をしてきました。今回のISO14001認証にあたっては、従来からの当工場の活動テーマと目標値を、ISOの環境目的にあてはめています」
三杉審査員
「すると環境側面から環境目的を選んではいないということですか?」
熊田課長
「ISO規格では、環境目的を設定するときには、法的及びその他の要求事項、著しい環境側面、技術上の選択肢、財政上、運用上及び事業上の要求事項、並びに利害関係者の見解に配慮せよとあります。
グループの計画を立てるとき、そういったことをすべて考慮に入れて決定しているわけですから、まさに規格通りかと考えます」
三杉審査員
「あのねえ、著しい環境側面を決定したら、その中から改善する項目を決めなくちゃならないでしょう、わかりますか」
熊田課長
「わかりませんね。三杉審査員のお考えですと、著しい環境側面でないと環境目的にしてはいけないように聞こえます。我々は森林保護活動も環境目的に取り上げて、県の活動に参加しています。しかし森林は当工場の著しい環境側面ではありません。三杉審査員のお話では、当工場は森林保護を環境目的にしてはいけないことになりますね」
三杉と須々木は顔を見合わせた。そしてまた小声で少し話をしている。
三杉審査員
「わかりました。それでは環境マネジメントプログラムに進みます。では森林保護の目的のプログラムと目標のプログラムを見せてください」
熊田課長
「環境目的では問題ないということでよろしいのでしょうね。
それじゃ、環境マネジメントプログラムはこれです」
三杉審査員
「これは今年度の活動のマネジメントプログラムですね。目的、つまり3年間のプログラムも見せてください」
熊田課長
「ありません」
三杉審査員
「え!環境目的の環境マネジメントプログラムを作ってないのですか? それじゃ不適合ですよ」
熊田課長
「規格ではそんな要求はありません」
三杉審査員
「環境目的の環境マネジメントプログラムと環境目標のマネジメントプログラムを作成しなければならないでしょう」
熊田課長
「規格にはそのようなことは書いてありませんね」
三杉審査員
「規格にちゃんと書いてあるでしょう。『その目的及び目標を達成するためのプログラムを策定』と」
熊田課長
「当工場の環境目標を達成すれば、必然的に環境目的は達成されます。もし環境目標を達成しても環境目的が達成されないなら、そもそもがおかしいと思います。だって環境目標の定義そのものですからね。
ということで環境目標を達成する環境マネジメントプログラムを作成すれば、当然環境目的は達成されるでしょう」
三杉審査員
「そうじゃないんだなあ〜、二つ欲しいんですよ、ふたつ」
熊田課長
「我々はこれで良いと考えています」
三杉審査員
「ともかく不適合です」
熊田課長
「そう言われても納得できないですね」
三杉審査員
「次に進みます。この工場の法規制一覧表はありますか?」
熊田課長
「不適合を認めたわけでありませんが、次の項目の審査に移るというので対応します。
法規制一覧表は事前に提出していますが、これです」
三杉審査員
「そうそう、お宅からいただいた法規制一覧表ですが、お宅は環境法規制だけでなく、下請法とか、労働基準法とか、なんでもかんでも一緒になっています。これはまずいので環境だけ分けることが必要です」
熊田課長
騒音計 「実際の仕事をしているとですね・・・・私は環境管理課をあずかっているわけですが、私の日常業務において環境だけ切り出して管理するということはありませんね。できないのです。
例えば騒音測定をすることを考えてみましょう。業者に頼むとすると支払いが遅れないように下請法も関わります。当然夜間の騒音も測定しますから、誰かが深夜の測定に立ち会うとすると労働基準法にも関わります。騒音計をもって深夜工場の外を歩き回るわけですから、近隣の町内会に連絡しておくことも必要です。深夜になれば照明も落ちてますから、必要なところの照明をちゃんとしていないと安衛法にも関わります。ところが近隣の方々から夜間は敷地境界の照明を点けないように要請されており、そういった場合には一定期間前に町内会にお断りをしなければならない。つまり騒音測定に関わる法規制は、騒音規制法だけじゃありません。そういった関係法規制や協定を理解している必要があるのです。
ですから私どもの法規制一覧表とは実務を行う上で必要なものを網羅しているつもりです」

正しく言えば1998年当時、役務契約は下請法対象外で、役務が含まれたのは2003年改正からだ。でもそれ以前だって、役務の支払いは遅れても良いわけではなかった。

三杉審査員
「ISO14001審査では環境法規制だけ審査するわけですから・・・それだけをまとめておくことが必要です」
熊田課長
「我々にとって、環境法違反と下請法違反とを区別する意味はありません。というか分けてはならんのです。仕事をする上ではすべてを守らなければならないのだから。
審査員さんのおっしゃるのは、審査のとき他の法規制もあると調べるのが大変だからということでしょうか?」

三杉と須々木は顔を見合わせて、しばし絶句した。
三杉審査員
「御社の『是正処置・予防処置規定』は環境だけでなく品質やその他の問題が起きたときも適用するのですね。環境だけ別にした方が良いように思えますが」
熊田課長
「基本的なことですが、仕事をどう考えるかということでしょうね」
三杉審査員
「仕事をどう考えるかとおっしゃいますと?」
熊田課長
「つまりですね、我々はここで電子機器を作っている。環境管理といっても、電子機器を作るためのインフラの一部ということです。そのときISO14001認証とは何かと考えるとですね、我々の環境管理が最低限のレベルを満たしているかどうかの確認を認証機関にお願いしたというわけです。わかりますか?」

三杉も須々木も、わからないという顔をしている。
熊田課長
「仕事は順調にいくこともあるしいかないこともある。問題が起きたとき原因を究明し対策し再発防止をするということは組織として当然です。そのとき環境の是正処置だとか、品質の是正処置だとか、下請けの管理の問題だとか区別する意味があると思いますか?」

三杉も須々木も黙って聞いている。
熊田課長
「会社の業務はシームレスです。環境だとか品質だとか特許だとか職掌上は管理上分けているけれど、本当はすべて連続していて分けるのは困難です。またどの仕事にも共通な手順は、共通なルールで管理するのは組織の必然でしょうねえ。環境の是正処置、品質の是正処置、構内運搬の是正処置、そういう発想はしないのが普通でしょう。環境の是正処置は別にする方が良いなんて、仕事をしている人なら思いつきませんよ」

やっと三杉は自分の発言を否定されたとわかったようだ。口をとがらせて言う。
三杉審査員
「環境の是正処置とそれ以外の業務の是正処置が同じでいいと言えるのですか?」
熊田課長
「仕事で問題が起きたとき、その問題がどのくらい重大性なのかの判断、行政対応、本社報告、影響範囲の特定とそれに対して手を打つこと、今後のものをどうするのか、類似の問題はどうか、そういった手順というか手法は共通じゃないですかね。
重油が漏れたとき、いえ例えばの話でウチで起きたことはないですが、そのときの対策と、出荷した製品に異物が混入していた時、これもたとえ話ですよ、そういうときの対策は異なっても、考え方は同じじゃないでしょうか。
少なくても今まではこの工場ではひとつのルールで運用してきましたし、それで問題はなかったです。ISO認証しても仕事が変わるとは思えません」
三杉審査員
「では次に進みましょう」
次に進むというのは、自分に都合が悪いときの逃げなのだろうか?
三杉審査員
「内部監査の審査です。お宅の内部監査員の要件はどうなっているのでしょう?」
熊田課長
「この工場ではISO14001の内部監査は、業務監査の一環としてとらえています。それでご質問の回答としては、業務監査を担当する人の要件となりますね。規則で、業務監査を行う者は業務監査教育を受けていることと決めています」
三杉審査員
「業務監査の教育といってもISO規格の教育はしていませんよね? それではISOの内部監査をする力量はありませんね」
熊田課長
「この工場の仕組みというかルールは、環境でも経理でも特許でも、全部工場規則に決めてあります。それで業務監査をする人は、工場規則すべてに通じていることを要求しています。
さて、お宅がこの工場にISO審査に来ているということは、当工場が提出した環境マニュアルがISO規格を満たしていることを確認したからです。そうでなければ審査してはいけないと決まっているそうですね。そして環境マニュアルに書いていることはすべて工場規則に展開されています。
となると論理学の三段論法からいって、工場規則をすべて知っている人は、環境マニュアルを満たしているかどうかを監査することができる、環境マニュアルを満たしている組織ならば、ISO規格を満たしていることになりますね」
三杉と須々木はあっけにとられたような顔をして黙っていた。

これと同じことを過去にも書いたことがある。
私は過去ISO審査で何度も同じことを聞かれて、同じことを説明してきた。笑ってしまったのは、同じ審査員が翌年も前年とまったく同じことを質問したことだ。私が説明したことは忘れても許すが、その理屈さえ忘れてしまったことは許せない。ボケ老人だったのか? でもボケた人を審査員に雇用しているとはその認証機関がおかしいじゃないか。なお、その審査員のご芳名は平■さんと言った。調べるとまだ主任審査員登録をしている。


マネジメントレビューである。
三杉審査員
「マネジメントレビューは定められた間隔で行うことになっています。お宅の間隔は何か月ですか?」
森部長
「マネジメントレビューといってもすべての報告を一度にするとか、経営者の決定がすべてを一度に行っているわけではありません。監査の報告は業務監査の報告として年に1回行われます。ええと、毎年12月ですね。
環境マネジメントプログラムについては、これは素戔嗚グループ全体の活動の一環ですから、毎年1月から3月までが実績の集計と計画策定になります。工場長には3月末に報告し、決裁を受けて本社報告が4月上旬となります」
三杉審査員
「あのですね、マネジメントレビューというのは、まとめて年1回とか実行するべきです」

この論理はナガスネのモデルとなった認証機関ではなく、J●▲の審査では常に言われたことである。私はそんなことはないだろうと常に説明していたが、彼らは毎回しつこく語った。J●▲内部ではそうさせろという指示でもあったのだろうか?

熊田課長
「三杉審査員さん、ISO14001にはアネックスというものがありますが、あれは参考にして良いのでしょうね」
三杉審査員
「そう考えています」
熊田課長
「アネックスでは『環境マネジメントシステムのすべての要素を同時に見直す必要はない』とありますよ」
三杉は対訳本を広げてながめる。
三杉審査員
「ええと『見直しの範囲は包括的であることが望ましい』とありますから、同時に行うと読めるのではないでしょうかねえ〜」
須々木
「三杉君、三杉君、アネックスの論議をしてちゃいかんだろう。ここははっきりとさせなさい」
三杉審査員
「あ、ハイ、ええとマネジメントレビューは定期的にまとめて実施することが必要です。規格本文を読めばそうなります。これは不適合でよろしいですね」
森部長
「あのう・・・実際に会社を動かしていくと、定期的にまとめて実行するということは現実的じゃないということが分りますよね。仮定の話ですが、内部監査をした結果、問題が見つかれば、監査が終了しなくても重大問題はすぐに工場長に報告しなければなりません。環境目標の達成状況といってもテーマによって重要性が異なります。廃棄物削減が未達であっても事業推進上重大問題にはならないでしょうが、新規開発製品の環境性能が実現できないとなると開発スケジュールの遅れ、ひいては工場の存続問題になります。そんなわけですから監査とか目的の達成度あるいは状況や情報の変化などを合わせてマネジメントレビューを行うなんてことは事業をしている上では現実的ではありません」
三杉審査員
「それならとりあえずの報告はしておいて、あとでまとめてマネジメントレビューをするという方法もあるのではないですか」
森部長はしばし黙って斜め上を見上げていたが、やがて口を開いた。
森部長
「オープニングでみなさんはISO14001は経営の規格だとおっしゃった。そして経営に寄与する審査をするから期待してほしいともおっしゃった。
ところで、この工場の年間生産高は800億くらいです。ここには社員だけでなく関連会社も含めると2000人以上働いている。家族も含めると1万人くらいになるでしょう。その子供たちは学校に行き、奥さんたちは地域で買い物をして、地域の経済を支える。そういった人々の雇用とか地域社会との関係とかを考えるとものすごい責任があるわけです。それだけの事業を継続していくということは、遊び半分とか、オママゴトではやっていけません。
本社から、オープニングにはできるだけ出席させるようにと連絡がありまして、今日は30人以上集めました。当社では、一人1時間1万5千円以上の売上または生産をあげてくれないと困るわけです。今日の須々木さんのお話に、それだけの価値があったのか考えてみてほしい。私の感じでは100円の価値もなさそうだ。我々は毎日、真剣勝負をしているのです。経営とはそういうものです。
どうも審査員の方は
経営というものを
ご存じではないよう
ですなあ〜
森部長
みなさんがISOは経営の規格だとか、審査で経営に貢献するとおっしゃるなら、相当な覚悟で審査をされているのだと思います。不適合とおっしゃるなら、どこに行っても誰もが不適合だと認めるようにはっきり証拠と根拠を示してほしいですな。そしてその不適合を直すことによって、会社の違法を正すとか損失をなくす、あるいは会社に相当金額の貢献がなければならない。数式が良いとか悪いとか、法規制の一覧表を環境だけ別にしろとか、そんなくだらないことで不適合と言われても私は何の意味も認めない。あるいは証拠も根拠も不明確で口で不適合と言われただけでは、こちらは認めるわけにはいきません。
どうも審査員の方は経営というものをご存じではないようですなあ」
熊田課長
「経営どころか、実際の仕事も知らないように思えるなあ〜」
熊田課長の言葉は独り言にしては大きかった。
ちょうど終了時間であった。工場長が部屋に入ってきた。
工場長
「おい、森部長、初日の塩梅(あんばい)はどうだ?」
森部長
「はい、本日はまったく不適合はなく終了しました。明日も問題ないでしょう」
工場長
「そうか、そうか、わしもそう思っていたよ。ところで経営に寄与するアドバイスとやらは頂けたのか?」
森部長
「はい、我々が従来からしていたことで間違いないことを確認しました」
工場長
「そうか、そうか、わしもそう思っていたよ」
須々木審査員も三杉審査員も体を固くして黙っていた。
●
●
●
翌日、審査が終わった後、佐々木は森部長と熊田課長と話し合っていた。
熊田課長 森部長 佐々木
熊田課長 森部長 佐々木
森部長
「いやはや、ISO審査とはこれほどくだらないものだったかと呆れたね」
熊田課長
「結局、経営に寄与するとはどういうことなんでしょう」
森部長
「単なる奴らの宣伝文句だろう。講釈を語るなら、経営をしてみろとしか言いようがない」
佐々木
「森部長、とりあえずは終わりましたが、次年度はどうするのでしょうか? やはり認証機関を鞍替えしますか?」
森部長
「ビジネスをするにはISO14001認証が必要らしい。他の認証機関は知らないが、どちらにしても審査が会社に役に立たないなら、なんだかんだ言われないのがいいね。ナガスネが今後面倒なことを言わないというなら、毎年200数十万渡しても俺としては文句はない。課長どう思う」
熊田課長
「しかし部長、200数十万というのも大きいですね。外資系は50万くらい安いと聞きます。次回は相見積もりを取って安いところに出すというのがいいんじゃないでしょうか。廃棄物処理費用を50万削減するなんて難しいどころか不可能かもしれません。業者を変えただけで50万削減できるなら、ぜひやるべきですよ」
佐々木
「認証機関も業者ですか、アハハハハ」
熊田課長
「普通あんなでかい口叩く業者はないですけどねえ〜」
森部長
「熊田課長、いろいろ準備もあるだろうから、鞍替えについて調べておいてくれ」

うそ800 本日の暴露話
正直言ってここに書いたのは創作である。
もちろん私はここに書いたのと同じことを審査員に言ったことは何度もあるが、彼らはああだこうだと言い逃れ、決して己の非を認めたことはなかった。



名古屋鶏様からお便りを頂きました(2014/3/13)
規格のどのshallかを明示しなければならないそうです

「犯人」を追求したがる連中というものは、得てして自分たちの責任には知らんぷりをしたがるもののようで。いや別に朝■新聞のこととは一言も言っておりますが

鶏様 毎度ありがとうございます
だけどさー
お前が犯人だ、お前は有罪だというだけで済むなら、ISO審査って簡単だなあ
江戸時代、取り調べでは拷問をしたというけれど、拷問しても自白しなくちゃシロだったわけだし・・・・


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