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六角は元ラインの営業部長で57歳、本人は関連会社の販社への出向を希望していたが希望にかなうところがなく、それなら新天地で頑張りたいという意向を受けて、人事がISO審査員はどうかと持ちかけると喜んで乗ってきたという。
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早苗は今まで工場で環境課長をしていた55歳である。工場でISO9001認証した経験もあり、またISO14001認証のときは中心になって動いていたので、ISO規格については詳しいと自負している。定年後のことも考えてISO審査員を希望していた。まだ役職定年前ではあったが、その希望を受けて人事が本社で審査員の修行をするように段取りしたのである。
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佐田は、ふたりだけでなく、以前から環境監査を担当していた竹山 の指導も合わせて行う予定である。というのは、今までの監査の方法を見ていると竹山をそうとう教育しないと彼に任せることはできないと思うからだ。 佐田はどのように教育していくべきか、佐々木と相談する。 |
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「正直言って3人が3人、経験も知識もバラバラで、どういうふうに指導していくべきか迷っています」
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「確かになあ、片岡さんと私のときは似たようなレベルだったからやりやすかったかもしれん」
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「とりあえず竹山さんはともかく、二人には手始めに審査員研修を受けてもらおうと思いますが」
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「確かに審査員研修は受けないとならないでしょうが、ちょっと気になるのです。まったくの白紙の人があの審査員研修を受けると、環境目的や目標の理解とか、環境側面は点数だとか、間違えたことを覚えてしまうのではないかと懸念するのですよ」
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「確かにそうですね、六角さんはともかく、早苗さんが洗脳されやすいと思います」
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「あれ、それは私とは逆だね。工場の環境課長をしていた早苗さんなら、実際の管理とかけ離れたおかしな考えには気付くのじゃないかね?」
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「いや見識の広さといっちゃまずいかな、工場の中で実務をしている人は、現実はわかるのですが理論化、体系化ができないので、自分が担当していた環境のことでもかえっておかしな考えに染まりやすいと思います。 反面、環境に関係ない仕事をしていても高いところから全体を見ていた人は、ISO規格を理解することができて、矛盾や問題点などに気が付きやすいのではないでしょうか」 | ||
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「そんなものかね、ともかく審査員研修を受けるべきか否かだが・・・」
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「審査員研修は受けてもらわなくてはなりません。洗脳されようとされまいとそれは出向するためには必須です。ただ、この会社の中で監査するときはこの会社の監査基準を遵守してもらいます」
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「なるほど、出向したって実際の審査にあたっては、その認証機関の流儀には従わなければならないわけで、そういうことをしつけることも必要か」
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「そう考えています」
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「それから資格取得も必要だね。我々も当初は難しいとか言っていたけど、私も公害防止管理者水質1種を取ったことがこの仕事の自信につながったからね」
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「資料を見ると早苗さんは公害防止管理者水質と危険物は持っているようです。それで竹山さんと六角さんに公害防止管理者の水質1種を受けてもらいます。早苗さんはどうしましょうかねえ〜」
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「想像だが、パソコンが使えないとか、文章作成がどうかということもあるね」
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「やれやれ、ますます個人ごとにカリキュラムを考えないといけないか」
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佐田と佐々木はワイワイと議論しながらなんとか教育内容をまとめた。
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六角と早苗が来ると佐田は佐々木と竹山も集めて、今後の方向の説明を行った。
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「これから1年かけて、六角さんと早苗さんはISO認証機関出向のため、竹山君には環境監査の監査員を指導できるように教育していく予定です。教育責任者は私で、教員は佐々木さんと私です。 六角さんも早苗さんも管理職をされていて経験豊富なのはわかりますが、環境管理とか審査員となるとまたそれなりの知識や技能が求められますから、言い方は悪いかもしれませんが初心者に戻った気持ちになってください。 竹山君も今まで内部環境監査の事務局担当をしていたわけですが、監査の方法も目的も全面的に見直したので、一から学びなおすという気持ちになってほしい。 三人には当社の内部監査の監査員や、各種研修会への参加、資格取得などをしてもらいます。 しかしまっさきにしてほしいのは次のことです。これから2週間に次のことを実施してください」 | ||
佐田はそう言って1枚の紙を配った。
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「今年の秋の国家試験では、六角さんと竹山君は水質1種を受験してもらう。もちろん合格してくれないと困ります。公害防止管理者は水質が基本だからね。早苗さんは水質1種を持っていると聞きましたので、大気に挑戦してもらいます」
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「ISO規格も会社規則もコピーしてはだめなのかね? 勉強するためなら同じじゃないかね」
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「自分でワープロすると頭に入ります。それにワープロの練習にもなるでしょう。これから社内の監査やISO審査に参加するとワープロ技能は必須ですから」
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「4番から6番はプリントしてもらえないかね・・・」
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「あ、じゃ僕やりますよ」
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「うーん、それは自分でしてほしいのです。プリントする手間ではなく、本社のサーバーのどこにどんなファイルがあるかを知って、必要なものを探すという方法を覚えてほしいのです」
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「やれやれ、こんなことをするとは思わなかった。どこにどんな情報があるかもわからんよ」
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「じゃあ、初めは僕がサーバーのホルダーの構成を説明します。佐田さん、それはかまわないでしょう?」
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「そうしてください。みなさんには環境監査への参加や、審査員研修も受講してもらわなければなりません。しかしまったくの白紙ではそれもできません。とりあえず最初の2週間でここに書いたことをしてもらいます。分らないことがあったら三人で相談してください。佐々木さんと私は週の3日は出張ですが、いれば相談に乗ります。 ご質問はありませんか?」 | ||
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「質問するまでのレベルに至っていないよ。佐田君、とにかくやってみるよ」
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2週間後である。また5人が集まった。
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「どうでしょうか、2週間の成果はありました?」
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「それじゃ私から。ワープロ作業は二つとも終わった。二日かかったよ、だけどキーを打つのは早くなったようだ。ワープロの練習と共にISO規格と会社規則を理解したつもりだ」
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「けっこうです。ではその二つになにか違いがありましたか?」
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「君の狙いはわかったつもりだ。ISO規格は仕組みを要求していて、会社の監査規則は結果を要求している。まあ目的が違うのだろうね。もちろん結果がなければなんでも意味がないが、ISO規格では結果まで保証できないからせめて仕組みだけはということなのだろうね」
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「おっしゃる通りです、目的をご理解いただいたと思います」
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「わしもワープロは終わった。六角部長は5本指を使っていましたが、私は一本指打法ですから大変でしたよ。会社規則とISO規格の違いは分かったが、わしはISO規格の方が正しいという気がしたなあ」
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「それは目的次第でしょう。会社の運用において仕組みが立派でも結果が出なければ意味がありません。仕組みはあってもなくても、遵法をしっかりしろ、パフォーマンスをあげろというのが至上命題です。それができなくては会社がつぶれます」
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「資格取得だが、本を買って読むだけでは無理のようだ。竹山君と話し合って産環協の通信教育を受けようということにした」
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「ウェブサイトを見ると修了まで6か月とありますが、3か月勉強すれば合格するという人もいます」
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「確かに3月あればなんとかなるでしょう。もっとも3月3時間とも言われているようですけど」
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「三ヶ月、毎日3時間勉強するという意味かい? そりゃ大変だな」
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「六角さん、私も昨年それを受験したのですよ。ISO審査員になるにはやはり環境関連資格があったほうが箔がつきますからね。頑張ってください」
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「佐々木さんが合格したなら負けられないね」
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「わしだけが大気なんだが、わしもその通信教育を受けることにした」
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「そうですか、大気は水質よりもとっつきにくいと言われています。早苗さんは水質を持っていますが、資格は多い方がよいですね。実際に使わなくても見た目が良い、勲章みたいなものです」
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「過去の環境不具合などは竹山君にサーバーのホルダーを教えてもらいプリントした。各自読んでときどき意見交換会をしているんだ」
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「コーヒーを飲んでだべってるだけですよ」
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「余計なことを言わんでもいい」
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「いや、過去の不具合、監査報告書、審査報告書をだいぶ読んだが、勉強になった。わしも長いこと環境管理に携わっていたが、他の工場のことはほとんど知らない。全社の状況を見ると何が不足か、何が問題かということが良く分るよ」
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「じゃあ、事前勉強は終わったということで、来週から少しずつ社内の監査にオブザーバーとして参加してもらいます。各種報告書は常に読み返して、真似すべきところ、真似してはいけないところを考えてください。先輩の成功や失敗を追体験することはカットアンドトライの無駄を最小化します。 おっと、もちろん公害防止管理者の受験勉強はしっかりお願いします」 | ||
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グループ企業の監査は毎週1回か2回あり、毎回教育中の一人を連れて行くことにした。● ● 初回は、佐田が幹事となって兵庫工場に監査に行った。オブザーバーとして六角が参加した。 監査後に佐田は、各監査員の個々の報告書のチェックと全体をまとめた報告書作成を六角に頼んだ。 二日後、佐田は六角に声をかけた。 | |||
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「六角さん、監査報告書のまとめはできましたか?」
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「おお、やっているとも、オイ、竹山君、兵庫工場の監査報告書はできたか?」
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「六角さん、僕は監査に参加してないので細かいことが良く分らないのですよ。各人の報告書の中にあいまいなところとか矛盾しているところがあります。そこんところどうしましょうかねえ〜」
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「お前、なこと何年やっているんだ。そんなもの適当にまとめてしまえ。 佐田君、というわけだ。あと1日くれたまえ」 | ||
佐田は呆れた。
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「六角さん、竹山君、ちょっとこちらに集まってください」
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佐田はふたりを打ち合わせコーナーに呼んだ。
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「六角さん、ISO審査員というのは管理職じゃないんです。担当者なんですよ。ですから自分が切符も手配するし書類も書くし折衝も説得もしなくてはならないんです。私がいろいろお願いしている仕事は審査員になったときに備えてのことです。よって自今以降、書類作成はすべて六角さんが自分で考えてワープロしてください。 竹山君、会社組織において命令は誰から受けることになっているか分るか?」 | ||
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「はあ、考えたこともありませんが」
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「じゃあ、覚えておくように。直属上長から命令を受け、報告も直属上長にするんだ。つまり私だ。塩川課長や熊田部長から、そして六角さんから命令されても、あるいは報告を求められてもしてはいけない。いいか、しなくてもよいではなく、してはいけないんだ」
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「ちょっと待ってくれ、俺が佐田君に断りなく竹山君に頼んだのはまずかったかもしれんが、審査員が担当者だという認識はなかったぞ。そもそも俺は子会社に管理職として出向する部署がないからということで審査員はどうかという話を持ってこられた。だから当然文章を書いたり報告書を作る部下というか手足がいると思っていたのだが」
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「それは・・・・困りましたね。六角さんと人事の間のコミュニケーション不足だったのではないでしょうか。審査員とは、自分の手足を使う作業者なんです」
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「実を言って俺はISO審査というものを見たことがないんだけど、審査員は自分で報告書を書くのか?」
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「そうです。もちろんワープロですけど、だから先日も皆さん一人一人にワープロの練習をしてもらったわけです」
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「佐田君の言ったことは分かった。とはいえ、俺は勘違いしていたようだ。後で人事に行って話を聞いてくるわ。 竹山君、悪いことをしたな。今回のものはせっかくだから作ったところまでで俺にメールで送っておいてくれ。あとは俺がする」 | ||
そう言って六角は部屋を出ていった。人事に行ったのだろうと佐田は思う。
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「竹山君、命令というと堅苦しいが、六角さんや早苗さんから仕事を頼まれてもしないように。私は彼らの技量をあげるためにわざわざワープロしてもらっているのだからね」
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竹山はわかりましたと仏頂面して言った。
六角は実際に人事の部屋に行った。人事部にはいくつもの課があり六角の審査員の話をもってきたのは本社グループという課であった。その課長がいるかと見るといた。六角は本社グループの課長に話しかける。 | |||
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「ちょっとお話したいんだが」
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課長は六角の顔色を見てただ事ではないなと思う。それで小さな会議室に連れていく。六角を奥の上座に座らせると課長は早速話を始めた。
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「六角さんも環境管理部に行かれて半月が過ぎましたか。どうでしょう、仕事の内容についてわかってきたところでしょうか?」
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「そのことなんだがね、私も大きな勘違いをしていたようだ。それで今からでも他の仕事に変われないかなということを相談したいのだが」
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「ほう、どんな勘違いでしょうか?」
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「私はISO審査員とは管理職的な仕事だと思っていた。つまり手足を使う仕事ではないと・・・ 今まで佐田君の指導を受けてきたものといえば、環境法の理解とか監査の方法、報告書のまとめとかそんなことばかりだ。ワープロ作業もある。それで彼にそれらが審査員の仕事とどんな関係があるのかと聞いたのだ。そしてはじめて審査員とはどんなことをする仕事かということを聞かされた。彼の説明では審査員とは直接作業者じゃないか、 私は管理職的な仕事をしたかったのだがね」 | ||
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「ええと、まず六角さんはISO審査員のお仕事を管理職だと思ってらっしゃったと、 それからISO審査員の仕事の内容を知って、審査員ではなく管理職的な仕事を希望するということですか」 | ||
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「そうです」
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「六角さん、まずご理解いただきたいのですが、あなたは役職定年になりましたから、社内では管理職にはなれないのです。そして出向すれば管理職になれるわけではありません」
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「でも子会社とか関連会社の管理職とか役員とかいう道もあるわけだろう」
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「当社では決裁だけがお仕事という管理職もいるかもしれません。しかし本来管理職とはマネージャー、つまりマネジメントする人です。マネジメントとは、与えられた目標を達成する手段やスケジュールを決めてそれを達成するように指揮し問題があれば解決し、ときには第一線で活動しなければならないということはお分かりと思います。そして戦力外の部下を指導育成して一人前にするのも管理職の仕事です。 子会社などに出向された場合は、決裁だけのお仕事というのはありません。それだけでなく受け入れる側では、その人が来たことによる売り上げアップはいくら期待できるのかということを考えます。六角さんの出向を打診された関連会社は、六角さんがいくら売上を伸ばしてくれるかを見積もって受け入れるかどうか考えます」 | ||
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「つまり私の場合はそういう能力がないから、子会社が受け入れしなかったというわけか?」
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「そういうわけではなく、その会社の期待とは六角さんの力量とがマッチしなかったということでしょう」
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「しかし出向するときはいくらかはお土産というか当社からのお仕事を持っていくのは普通だよな」
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「昔はそうだったかもしれません。しかし個人の実力で売り上げをあげることができなければ本来の出向ではありません。出向とは当社で無用の人を引き取ってもらうことではなく、向こうで必要な技能や技術のある人を外から迎えることですから。六角さんも自分が当社からお土産と抱き合わせで出向するなら悲しいでしょう」
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「うーん、つまり関連会社の管理職というのはないということか?」
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「もちろん時期によっては変わるかもしれませんが、現時点ではそういう希望はないということです」
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「話は変わるが君んところからISO審査員の話を持ってきたとき、どんな仕事かということは説明がなかったように思うが」
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「六角さんに送っているメールはすべて私にもCCが入っておりますし、面談には立ち会っていました。 出張が多いというか出張がお仕事であるとか、その仕事内容については一通り説明したと思います」 | ||
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「うーん、私が思い込みでみていたのかもしれんな」
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「販社の営業マンという職種の受け入れ希望はありますよ。もちろん売上などのノルマは高いです。出向者を受け入れるということは、その会社が採用できる営業マンよりも能力が高い人がほしいということですからね」
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「正直言って、わしも10年前20年前と同じ活動はできないと思うよ。歳をとってからは人のつながりとか地位で仕事をしていたからなあ〜」
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「ともかくISO審査員の研修を少し続けてみてはいかがですか。あの佐田という人は高卒ですし出世もしてませんが実力のある人です」
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1時間ほどして六角は部屋に戻ってきた。そして佐田のところへではなく、塩川課長の席に行ってわきの椅子に座ってなにやら話を始めた。佐田はそれに気がついたが自分の仕事を続けた。
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1週間ほどしてからのこと、塩川課長が佐田を呼んだ。
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「おい、佐田よ。お前、六角さんにISO審査員は管理者じゃなくて担当者だといったのか?」
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「ハイ、どうも審査員の仕事というものが人をアゴで使えば済むようにお考えだったものですから。何か問題がありましたか?」
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塩川は苦笑いをする。
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「いや、問題に早く気がついたということかな・・・・どうも六角さんはISO審査員とは管理者的なお仕事と思っていたらしい。もちろんISO規格や環境法規制を勉強しなければならないということは理解していたが、文書作成とかこまごましたことはアシスタントというか部下が処理してくれると考えていたらしい」
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「そりゃ、まったくの勘違いをしていましたね」
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「まさしく、それでご本人が人事に行って関連会社に出向したいとかいったそうだ。 そのあと、俺のところに相談に来たから俺からご本人にISO審査員のお仕事を説明しておいた」 | ||
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「ISO審査員になるのを止めて、子会社出向でも希望されましたか?」
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「うーん、行くところがないというのがそもそもの始まりだから、そううまい話はない。結局六角さんは当面ここで審査員になる勉強をするということで納得した。 それで佐田よ、お前へのお願いだが、そのへんをよく理解して六角さんの指導を頼むわ」 | ||
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「その辺を理解してという意味が良く分りませんね。やさしくしろというのか厳しくしろというのか・・・」
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「もし六角さんがそんなことを口にしたら、世の中の厳しさをやさしく説明してやれということかな」
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「なるほど、課長は口がうまいということがよくわかりました」
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おばQさま いつも有難うございます。 定年後のお話は大変なまなましく、私の前の会社でも似たようなものがありました。 一つは、お土産をもって関連会社へ再就職で、もう一つは「決済だけの管理職」です。 お土産もって天下りは、考えてみれば本当に変な話です。 行き先の会社が欲しいと思って呼ばれて行くならばともかくも、落下傘で降りてこられた子会社ではプロパーのヤル気を削ぎますし、取引先で押し込まれたとすれば仕事の切れ目が縁の切れ目と思いたいが、後難を恐れて切れない辛い状況になるように思います。 承認だけの管理職は、その部門で仕組みも教育も含めて仕上げた結果として「日々是好日」となり、ハンコを押すだけならば問題ありません。 来たばかりの人が、決済だけで済むことはありえませんので、実際には社内の状況を把握し、問題点を見つけ改善する事が、前処理として必要となります。 にも関わらず、承認だけの管理職が、余所にもあるのだと思えるのでしょうか・・・ そうした「楽して出来る管理職」願望が上は公務員から下は一般企業まで広まれば、国全体の労働生産性は、非常に下がってゆくのだと思います。 私は、これが、その後の日本の国際競争力低下の一因だと思っています。 日本の大きな会社の社員が、退職後の就職先も前の会社からの斡旋を期待するのも、私にはとても不思議に思えました。 海外の雇用関係では、殆ど有り得ない状況であり、もしあるとすれば、合併による解散や、運営主体の交代など会社側に大きな責任がある場合だけです。 普通は、年齢による定年はなく、雇用が自動継続されるのではなく、毎年雇用条件が見直されるのが役職者では普通です。 (管理職で無い場合は、少し異なりますが、雇用契約の更新な点は同じ) ですから、日本風に言えば、上になるほど契約社員(成果主義の有期雇用)なのです。 雇用の継続がなさそうな場合には、最低では1カ月、通常は2か月前に通知され、その後は出社せず(守秘も理由)に給料を貰い、その間に次の仕事を自分で探します。 期間がくれば、そのまま雇用関係は終了して、その後の就業は当人の自己責任です。 日本の会社の、退職後の面倒をみるシステムは、雇用契約書にも、就業規則に定めがあるのでしょうか? 私の前の会社では浅学にして書類を見つける事が出来ませんでした。 もし書面により規定がないならば、慣習法なのでしょうか? ならば、江戸時代の「暖簾分け」が似ているのかもしれません。 但し、この場合には、退職金に相当するものを積み立て、長期勤続し、ある程度の能力がある人に対して開店資金を渡し、他の場所で開店するライセンス権を渡すもので、定年後の業務斡旋ではないですよね。 となると、このような習慣は、いつの時代から始まったのか、そして今後も続くものなのかは、甚だ不思議な気がします。 何はともあれ、定年間際の人が、短期に経験を積みISO審査員になっていたのも事実ですから、日本の会社のシステムは、脇においても、お話の先を楽しみにしております。 外資社員 |
外資社員様 毎度ありがとうございます。 論題がふたつ、出向の問題と審査員になるべき人の資質の問題がありますが、とりあえず審査員の資質について・・ 善悪、是非はともかく、現実には程度の差はあれこんなものでしょう。そしてISO審査員なるものが、環境管理に詳しく俺は社会に貢献するぞという熱意に燃えて就任するというのはめったにないように思います。 正直言って、あまり能のない人が熱意を持つとかえって困るのですが
そもそも、ISO審査員とは会社で要らないとか、自分が希望するとかではなく、真に向いていて能力のある人がなるべきだと思います。しかし現実には環境に詳しいと信じている人、他に行くところのない人、自分が向いていると思い込んでいる人、その他いろいろありますが、環境管理に詳しくて、法律に詳しくて、コミュニケーションに長けていて、おかしな規格解釈をしていない人はめったにいません。私が過去にあった審査員100名くらいいますが、すばらしいと思う人は3人ないし4人しかいませんでした。来年2015年にISO9001とISO14001が改定されるそうですが、規格をいじるよりも審査員をまっとうな人にすること、いやその前に審査員を選ぶ方法をまっとうにすることを考えた方が大事ではないかと思います。 とはいえ、そういった立場にある人が間違った規格解釈を語っていますので、望み薄です。 |