*この物語はフィクションです。登場する人物や団体は実在するものと一切関係ありません。但しここで書いていることは、私自身が過去に実際に見聞した現実の出来事を基にしております。
審査員物語とは![]() |
「今猿さん、先日お願いした信頼性が低下したという広報や報道について調べていただけましたか?」
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「増田先生も調べてみたのでしょう?」
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「ハイ一応は、しかし見つかったものが非常に少ないのです。ええと昨年(2008)アイソスというISOの月刊誌10月号に経産省の室長の講演録が載っていましたが、その中でISO認証企業に不祥事が頻発しているという記述がありました」
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「ほう、それは知りませんでした。アイソスは私も購読しているのですが興味のあるところしか読まないので見逃してしまったようです」
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「それから先日お話に出た『マネジメントシステム規格認証制度の信頼性のためのガイドライン』を一読しました。ただ、信頼性がないと言い切ってますが、根拠があいまいですね。ひとつふたつ例を取り上げているだけです。科学的じゃありません」
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「私もそう思います。ええと今年(2009)になってからもいろいろな人が信頼性が下がっていると言ってますが、いずれも根拠がはっきりしません。見方によれば誰かが言い出したのを受けて、それを増幅して発信しているような感じですね」
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「まさに発振ですね」
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「アハハハハ、三木さんその言葉覚えてしまいましたね 増田先生、ご依頼の広報や報道ですが、改めて調べましたが根拠といえるようなデータはありませんでした。まあ、ここ数年だけでも製鉄会社からの規制値超えた排水とかばい煙排出とか、製紙会社の古紙配合比偽装、食品の賞味期限改ざん、冷蔵庫に再生材を使用しているといったのが嘘だったとか、まあ環境不祥事の報道は多いですね」 | |||||||||||||||||||||||||
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「私も昨年の古紙配合比の騒ぎは覚えてます。あのときは大騒ぎでしたね」
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「まあ犯罪ではないようですが、道義的には問題ですね。でもあの事件の被害者って誰なんでしょうねえ。配合比が違っていても、品質が良く値段も安かったならみんなハッピーじゃないかって気もしますが」
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「被害者がいなければ犯罪じゃないってこともないでしょう」
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「まあそれは被害者をどうとらえるかでしょうね。売春とか麻薬は被害者がいない犯罪と言われますけど、治安の悪化とか倫理の低下など社会が劣化するなら被害者は国民全体でしょうし」
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「この場合、環境に良いものを買おうとした消費者は騙されたんだから被害者でしょうね」
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「いや私はウソをついても罪ではないとは言いませんけど、そもそも古紙利用が環境に良いという情報発信をした人の責任もあるでしょう」
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「それはあるでしょうね。ただそういう情報に乗っかって商売したというのはやはりまずい。それは古紙配合比が多いほうが良いということはないという情報発信をすべきだったでしょうね、業界として」
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「そういう問題が起きた根元には環境に良いという言葉に反論できない空気があるのではないでしょうか」
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「確かにそれはあるでしょうね。今問題にしているISO認証の信頼性でも、悪いことをした人がいたのは事実だから、ほかの人も悪いことをしているんじゃないかっていう論理的にはおかしいけどそういう空気があり、それに反論しにくい」
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「流れに乗ったほうが楽で実入りも良さそうだ」
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「でも今までの数年間、ISOがすごいすごいと言っていて、ここにきてISOはだめだというのは主体性もなくまっとうとも思えませんね」
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「さてさて真実はどこにあるのか」
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「三木さん、もうしわけないがコーヒーが切れた。もう一杯所望したいのですが」
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「いやあ、ありがたい。三木さんが女神に見えますよ」
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「年のいった女神でごめんなさいね」
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「今猿さん、信頼性って何ですかね?」
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「信頼するとは言っても信頼性という言葉は日常では使いませんね。信頼性というのは国語辞典にはないようです」
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![]() 陽子は棚から広辞苑など辞書を取り出してページをめくる。 ![]() | ||||||||||||||||||||||||||
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「確かに信頼性はないわ。信頼はどういう意味かというと、この辞書では『信じて頼ること』ですって、信頼という漢字の間にひらがなを入れただけって感じですね。 ええっと、こちらは『人や物を高く評価して、任せられるという気持ちをいだくこと』」 | |||||||||||||||||||||||||
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「となるとISO認証している企業は公害や事故を出さないとみなされることが信頼であって、事故が起きたのでISO認証企業でも事故が起きると思われたということかな。それを信頼性が低下したといっても間違いはないようだ」
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「増田先生、信頼性というからには、なにか指標で表すような気がしますね」
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「信頼なら定性的でも良いけれど、信頼性というなら定量的ということですか」
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「実を言って信頼性というのは国語辞典にはありませんが、JISなどでは定義されている言葉なのです。参考にと信頼性用語というJIS規格(JISZ8115)を買ってきました」
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「ほう、信頼性用語という規格まであるのですか、ということは信頼性とはメジャーな分野なのですね。 ええっ、このJISが4860円もするのですか、書籍並みですね」 | |||||||||||||||||||||||||
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「でもこれは100ページもありますから1ページ48円、まあ妥協できるでしょう。中には1ページあたり100円以上のJIS規格もありますからね。 さて、このJIS規格では信頼性を『アイテムが与えられた条件の下で,与えられた期間,要求機能を遂行できる能力』となっています」 | |||||||||||||||||||||||||
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「それは数値化されるのですか? つまり達成する割合を示すとか」
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「ええっと、ああ信頼性そのものを数値化したものを信頼度といいます。信頼度は『アイテムが与えられた条件の下で,与えられた時間間隔において要求機能を実行できる確率』ということになります」
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「となると信頼性とはさっき三木さんが調べた国語辞典の信頼の意味と同じとみてよいようですね」
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「確かに信頼性は数値化すべきというのは言いすぎですね。私も今まで数値化されてないのはおかしいと言ってましたけど、」
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「それは言葉の使い方だけでしょう。言い換えれば、信頼性が下がっているという主張に対して数字つまり信頼度を示せというのはおかしくないでしょう」
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「ちょっと待って、規格を読むと信頼性も信頼度も定義されているけど、対応する英語はどちらも同じreliabilityですね。だから英語の場合は信頼性と信頼度を区別しないのかもしれない。 それから信頼の英語そのものであるdependabilityはデペンダビリティとカタカナになっている。こちらの定義は一般的記述に用いるとある」 ![]()
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「ISO認証の信頼性が低下しているというのは、報道機関にしても行政担当官にしても信頼性の専門家ではないという意味では一般人の言葉でしょう。ということは信頼性工学の定義ではなく国語的な意味で使われているのではないでしょうか。ならば一般人が考えるそれらの言葉の意味でISO認証の信頼性を考えてもよいのではないでしょうか?」
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「うーん、それも一理ありますね」
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「単にJIS用語を用いるのではなく、我々自身が定義しなくてはならないということですね。現実に使われている意味合いを基に定義したほうがよさそうですね」
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「もっとも実際に信頼性が低下したと語っている人が特定の意味で使っていないかもしれません。そのときの気分・感情でということかも」
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「それは語った人に問い合わせるしかありませんね」
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「気分で使った言葉の意味を問うても回答がないかもしれませんが」
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「ええと、話は変わりますが、普通信頼すると言ったときは信頼する人と対象物は明快ですよね。ISO認証の信頼性というときの信頼する人と対象物はなんでしょうか?」
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「なるほど、主体と客体というわけですか」
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「そりゃ決まっているでしょう。信頼するのは人間で信頼されるのはISO認証でしょう」
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「いや待ってください、三木さんが考えていることと同じかどうかわかりませんが、思いついたのですが、信頼の主体と言ってもいろいろあります。ええと一般消費者、ISO認証を受けた企業、ISO認証を利用する企業、認定機関や認証機関などの制度側、行政その他にもあるでしょうね」
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「ああ、なるほど、そういうふうに細分化するのですか」
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「細分と言えるほどではありませんが、立場が違えば信頼に対する考えも変わりますよね」
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「なるほど、となると信頼されるものといってもこれも多様ですね」
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「私が言い出したんですから私にも言わせてください」
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「どうぞどうぞ」
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「信頼される対象として、認証制度そのものもあるでしょう。ISO認証を受けた企業も考えられます。企業の場合は更に認証を受けた企業のパフォーマンスもありますし、ISO認証の対象はマネジメントシステムですから認証した企業の仕組みの場合も考えられます。 でも一消費者として考えると、企業の製品や活動を信頼するあるいは信頼しないということは大ありですけど、企業の仕組みを信頼するってことはなさそうですね」 | |||||||||||||||||||||||||
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「なるほど、考えてみるとISOの信頼性が低下してきたというのも、あいまいというか意味不明に思えてきました」
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「ISOの信頼性が低下してきたのが真か偽かといっても、定義次第でどうとでもなると・・・」
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「ISO認証の信頼性が低下してきたと語っている人、ひとりひとりに誰が何に対する信頼なのかを問い合わせなければなりませんね」
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「人によって違うでしょうねえ」
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「となるとこれはISO認証の技術的なことではなく、ヒューマンリレーションズとかデマというカテゴリーになるのかな」
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「まだそう言えるほど信頼性そのものがはっきりしませんね」
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「いやいや、まずは今言われている信頼性低下とはこういう可能性が考えられると明らかにできれば第一歩でしょう」
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「そんなものですかね」
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「ちょっと今の話をまとめて図にしてみましょうか」
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![]() 増田は壁際にあったホワイトボードを自分が座っているテーブルまで転がしてきた。 そして考え考えマトリックスを描いた。 ![]()
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「主体と対象の組み合わせとしてはこんなものでしょうか? ○の組み合わせはありそうで、×の組み合わせはなさそうだと思ったところです。 主体となりえるのは第三者認証の依頼者だろうと考えます。形式上の依頼者は認証を受ける組織ですが、本質的な依頼者は認証組織の顧客である一般社会や購入者である企業でしょう。行政は顧客と言えるかどうかですが、監督官庁として法規制の遵守を求める立場ですから依頼者に含めてもいいように思います」 ![]() ![]() | |||||||||||||||||||||||||
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「依頼者以外のステークホルダーは主体になれないということでしょうか?」
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「うーん、どうでしょう。そうとは言い切れないでしょうけど、言葉から言って依頼者が審査を依頼するから審査が行われるのだから、依頼者が最優先の主体であることは間違いないでしょう」
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「なるほど。 では信頼の対象とは?」 |
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「本来信頼されるべきものは、ISO14001の本来の意図である遵法と汚染の予防でしょう。 根本的には認証を受けた企業の製品や活動が法を守り事故を起こさない、ただそこに認証制度とのかい離というか齟齬があります。第三者認証制度は遵法と汚染の予防のためのシステム、仕組みを保証しますが遵法と汚染の予防という結果を保証しない。そこが・・そこをどう説明するのか、つじつまが・・」 | |
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「ちょっと待って、なんだかごちゃごちゃしちゃたのですが、ISO認証と認証制度は違うのですか?」
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「認証の仕組みが認証制度でその制度が認めたものが認証ということですよね。結果としては同じかもしれませんが、 制度そのものが信頼されなければ、審査する認証機関によって信頼性が変わることになります。ということは第三者認証制度の否定です。 そうならないためには制度そのものがまず信頼されなければなりません」 |
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「現実にはそれに関しても議論はありますね。外資系認証機関のほうが信頼できるとか、ノンジャブは信頼できないとか。ISO認証しているといってもどの認証機関で審査を受けたのかも気にされるのが現実です」
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「要素が多いですねえ〜。しかし認証機関によって信頼性が異なるなら第三者認証じゃなくて第二者認証じゃないですか。あっ本来の意味じゃありませんが」
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「まあ、それが現実ですよ。それじゃマトリックスの検証に入りましょうか。 行政は認証制度に対して期待しているでしょうし、その結果として企業のマネジメントシステムとか製品や活動が有効なものであると期待するでしょうね。そしてその期待がかなえられると思えば信頼となるでしょう」 |
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「ちょっと待てよ、認証を受けた企業を信頼したり、認証を受けた企業の製品を信頼するというのは、認証制度が機能しているという前提があってのことですよね、 というと認証制度が信頼されているからこそ、認証を受けた企業のマネジメントシステムも製品も信頼されるわけだ。すると認証を受けた企業のマネジメントシステムとか製品への信頼は第一義ではなく、認証制度からもたらされる反射的信頼ではないのかな」 |
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「なるほど反射的利益に対応して反射的信頼ですか。先ほど増田先生がおっしゃったように、第三者認証制度そのものが信頼されるのが前提となると、それ以外はすべて反射的信頼性となりますね」 ![]() ![]() |
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「私もそうですが、認証制度と認証を分けることってできません。一般消費者は認証制度と言われても分かりませんよ。実際問題として家庭の主婦ならISO認証していると言われれば、製品が良いとか事故が起きないと思うでしょう。だって車の燃費だってどのような基準とかどんな意味があるかわからずに、単に数値が大きければハッピーと思うだけでしょう」
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「うーん、増田先生、このマトリックスは検討に値しますが、簡単に升目を埋めるわけにはいかないようですね」
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「おっしゃる通りですね。でもまあ、なにごともビジブルにすると矛盾も見えますし、さらなるアイデアが湧き出てきます。これもそのひとつということで」
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「いえいえ、素晴らしいアイデアだと思いました。私がイチャモンをつけても増田先生のアイデアを否定するのが目的じゃありませんよ」
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「分かります。批判、異議は大いに出し合いましょう。弁証法じゃありませんが叩かれれば叩かれるほど考えは進化します」
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「ちょっと話を変えますが、信頼と言っても一種類じゃありませんよね」
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「一種類じゃないというと?」
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「本当に信頼できるかということと、評判を聞いて信頼できそうだということもあると思います」
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「株でも馬でも自分の予想と、人の予想は違うということですか」
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「私の考えたのはそれとは違うのですが・・・ 信頼性というものの定義次第ですけど、先ほどのJISですか、その信頼性の定義にみあったような真の事故の発生状況がまずあると思います。それからマスコミや会社の広報によってその会社をどう思うかという信頼性もあるだろう、そして自分の購買行動にその情報を反映する段階の信頼性もあると思うのです」 |
![]() 陽子は立ち上がってホワイトボードの面を回して白い面を出し、そこに図を描いた。 ![]() ![]() ![]() | |
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「こんなふうかなと・・・」
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「ちょっとわからないな。具体的な例で説明してもらえますか」
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「まず現実の遵法と汚染に関する指標は存在するはずです。例えば一定期間内に認証企業で発生した違反の件数を認証している企業数で割ったものが考えられます。これを事実としての信頼性としましょう。もちろんこの数字は今私たちは知りませんが現実に算出は可能でそれは私たちの心理状態によって変わることはありません。 そしてマスコミ報道や自分自身の体験で得た印象を認識としての信頼性としましょう。信頼性ではなく信頼感というべきかもしれません。ISO制度関係者が信頼性が下がったといっているのはこの認識の信頼性のような気がします。この認識の信頼性は実態がない心理的なものですから、現実とはリンクせず変動しやすいでしょう。 そして事実としての信頼性であろうと、認識としての信頼性であろうと、その結果として企業がグリーン調達などにおいてISO認証を無視したり、一般消費者がISO認証を気にせずに購買活動を行えば行動としての信頼性が低下したとしましょう このみっつは当然関連はありますが、かなり緩い関連だと思います。事実としての信頼性がどれほど情報発信されているのか全く不明です。そして認識としての信頼性はマスコミ報道のスタンス、回数などによって変わるでしょう。認識としての信頼性が上下しても現実に購買しなければ行動としての信頼性にはつながりません」 |
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「いやあ、素晴らしい、感動しましたよ 信頼性といっても、事実としての信頼性、認識としての信頼性、行動としての信頼性が考えられるということか」 |
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「なるほど、そうすると今話題になっているのは認識としての信頼性で、事実としての信頼性ではないということか。誰か事実としての信頼性を知っている人はいないのだろうか? ともかくこの三種を調べないと今言われている信頼性低下は論じることができないと、」 |
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「そうそう、そんな風に考えました。 でもどれが正しいとかということではなく、今ISO認証の信頼性が低下していると言われているのがどれかを把握しなければなりません。 信頼性が低下していると言われているのが認識の信頼性であれば、事実を調査して認証企業の事故発生が増えていないといったところで信頼性が低下していないとは言えません。現実に多くの人が信頼性が低下したと言っているのですから、認識の信頼性は低下しているのは事実です」 |
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「なるほど、なるほど」
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「三木さんの言わんとするところはわかりますが、そうするともうこれは信頼性工学ではなく、コミュニケーションの問題になる」
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「いえいえ、先生、待ってください。まだなにもわかっていません。実際に調べたら事実の信頼性が低下しているかもしれません」
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「あっ、すみません、話を初めに戻してしまいますが・・・」
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「どうぞどうぞ、どちらにしても本日は思考実験、思いつきのおしゃべりですからね」
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「信頼性とは何かということを議論しているわけですが、信頼性とは本来の目的を達成したかどうかで計られるはずですよね」
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「もちろんそうです」
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「それなら第三者認証の本来の目的である、ええっと先日今猿さんがおっしゃった共同コミュニケの目的を達したかどうかを見るべきですよね」
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「確かに、共同コミュニケで語る認証の目的は『組織が適切な環境マネジメントシステムをもっていて、そのマネジメントシステムがISO14001の要求事項に適合していることの証明』だったはずです」
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「では事実の信頼性とは認証を受けた組織がISO14001の要求事項を満たしていたかどうかで決まるわけですよね」
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「それはそうなのですが、今まで環境法違反や環境事故を起こした認証企業はほとんどすべて審査の際に欠陥を隠していたとか、審査は抜き取りだから検出できなかったとかいう理由にされています。つまり元々要求事項を満たしていなかったから事故が起きたという理屈ですね」
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「ならば理由のいかんにかかわらず認証で要求事項の不充足を検出していなかったというならば、認証の事実の信頼性は低いということになる。ということは認証機関の能力不足であるということになります。よろしいですか?」
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「そこに大きな疑問があります。そもそも事故を起こした企業はシステムの欠陥があってそれを隠して認証していたという理屈です。しかし規格要求を満たせば遵法と汚染の予防は実現できるのかと言えば、そんなことは保証されていないし、ありえないでしょう。そもそも規格はトラブルがあったら是正を行っていくということも含めてシステムをだんだん良くしていくというスタンスです。 だから環境法違反や環境事故が起きても規格を充足していなかったという理屈はありませんし、そういう事態が起きたからと言って認証を取り消すという理屈もありません。まともに考えればですがね、 だから事故が起きたからと言ってシステムに欠陥があったとは言えない。欠陥がないなら審査で要求事項の不充足を検出していないのも当然で、ゆえに認証機関の能力不足であるわけではない」 |
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「じゃあまず事実の信頼性と言っても、事故や違反の発生件数を分子にするのか、システムが適正でないものを分子にするのかを決めなくてはならないね。 しかしそもそも人々、認証制度の人も含めて信頼性として思い描いているものが、ISO認証が本来目指していたものと違うということですか?」 |
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「共同コミュニケがいう認証の意味から考えると、そうとしか思えません。 そうするとさっき増田先生が言われてように、信頼性が低いというのは認証の問題というよりもコミュニケーションの問題となるのかもしれません。ただ行政も理屈よりも報道機関や主婦の団体の声に負けて迷走している感じもありますね。 いずれにしても認証制度での信頼性を認証を受けた企業に対して求めるのは筋違いと思います。先走ってはいけませんが、増田先生がおっしゃったように信頼性とは認証機関あるいは認証制度に対するもののように思えますね」 |
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「さっきの話に戻ると、反射的信頼性は所詮反射であって本質ではない。信頼の対象は認証制度しかないということには認識が一致したと言えますね」
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「理屈からそうなるでしょう。元々なにもないところで、認証機関がお金をとって希望者を審査して一定以上の会社にお墨付きを与えるという第三者認証制度を始めたわけです。もし認証を与えた企業に問題があったら、理由いかんにかかわらず第三者認証制度の責任といっておかしくなさそうです」
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![]() | ![]() それじゃあ、むちゃくちゃでしょう」 |
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「偽札を作ること自体が犯罪であり処罰されるのは当然です。しかしたやすく偽札が作られるようでは、その通貨発行者は責任を果たしていないと言われるでしょう。 ウイルスに弱いソフトウェアの製作者が、ウイルスが悪いと言い訳しても世間は納得しません」 |
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「それじゃ単純な話じゃないですか。今認証の信頼性が低下していると認証制度が騒ぐのはおかしいですよね。認証を受ける企業や一般消費者が認証の信頼性が低いと苦情をいうのはおかしくない。しかし認証制度は認証の信頼性が低いのは己の責任であるからして、それについて説明責任があるはずです。それをせずに認証を受けた企業が嘘をついていると騙るのは論理的におかしい。我々が信頼性とは何かとか主体と客体なんて考えることもなかったんじゃないか」
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「とはいえ、それも言葉だけじゃ意味を持ちません。実際に事実の信頼性と認識の信頼性を把握して、その関係がどうなのかを確認しなければなりません。そしてその二つにかい離があるのならコミュニケーションの問題なのか、ノイズなどが入っていないのかを調べないと論文になりませんよ」
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「わかりますよ、わかりますよ。事実の信頼性と言ってもシステムなのかパフォーマンスなのかということもありますね」
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「それが最大の論点でしょうね。木に縁って魚を求めて魚が手に入らなければ木を呪うと」
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「現実はちょっと違うでしょう。木に縁って魚が手に入るといっていた人が、魚が得られなかったと文句を言われると木が悪いと言っているようなものかと」
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