20.01.30
うそ800始末とは
振り返れば、「うそ800」を書き始めたのはもう19年も前のこと、当時私はもちろん現役で、ISO審査員とチャンチャンバラバラしていました。
お相手はあまりにもアホというか非論理的で不勉強な審査員ばかり、現状逃避ではありませんが、そのうっぷん晴らしに書き始めたのがこのうそ800の始まり。おっと、うっぷん晴らしといっても批判、非難ではなく建設的な正論であったと確信しております。
さて19も年の間この「うそ800」に1500ものコンテンツも書いてきましたから、言いたいことは言い切ったと思います。しかしいくら是正を叫んでも当事者が是正もできないなら、反省を呼びかける言葉を発するのも馬鹿らしくなります。私にとってISO認証は四半世紀も付き合ってきた悪友(?)ですが、もう見切ってさよならすべきでしょう。
ということで古希となったのを記念して、ISO語りを卒業しようと思っております。まだ「決心した」といわないところが私の執着というか未練でしょうか〜?
ともかくヤーメタというだけで終わるのもチョットと思いました。今までさんざんISO認証制度の棚卸しをしてきましたが、最後はその総括をしようと考えております。
はたしてどうなりますことやら……
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環境側面及び著しい環境側面の決定方法というのはいろいろあるが、本日はこれが正しいというものを提示する。即採用とはいかないでしょうけど、ぜひ参考にしてほしい。
この方法で審査員からいちゃもんが付いたらご連絡いただきたい。私がその審査員と認証機関を教育することを約束する。もっとも説得できるかどうかは約束できない。審査員には頭が固い人が多い。頭が固くないと審査員になれないようだ。
そもそも環境側面とはなんでしたっけ?
- 環境側面の定義は「環境と相互に作用する,又は相互に作用する可能性のある,組織の活動又は製品又はサービスの要素(3.2.2)」である。
- そして著しい環境側面とは「著しい環境影響を与える又は与える可能性のある側面(3.2.2 注記2)」である。

とはいえこの定義では何ともつかみどころがない。第18族元素のように誰とも無関係を決めつけてヒキコモリならともかく、我々はお互いにも取り巻く環境とも影響を与え合っている。
彼からもらったピアスの金属イオンは人体に影響を与え
(注1)、ダイヤの指輪はアフリカの大地と貧困に影響を与えている。結婚は著しい環境側面に違いない。
だから組織の製品およびサービスそして事業活動はもちろん個人生活も、すべては環境側面である。
更に著しい環境側面とは、著しい環境影響を与えるっていうけど、著しいってなんなのよ?
ここは定義に頼らず、要求事項から逆引きして考えるしかない。
では環境側面には何が要求されているのかといえば、
- 6.1.2 著しい環境側面が何かを認識させる
- 6.1.3 環境側面にかかわる法規制を把握する
- 6.1.4 著しい環境側面について取り組む
取り組みには、環境目標にする、運用にするなどがある。
- 6.2.1 環境目標策定の際に考慮すること
- 7.2 教育訓練の際に反映する。
- 7.3 著しい環境側面に関係する人に著しい環境側面とその影響を認識させる
- 9.3 マネジメントレビューで著しい環境側面を考慮する
である。
逆説的に言えば、環境側面を決定するには上記7つの観点で該非判断をすれば良いことになる。論理学では逆ということになる。論理的に正しくは対偶でなければならないが、実用的には、逆を考えても大きな間違いはない。
- 6.1.2 会社として把握しておく必要のあること
- 6.1.3 保管や使用に法規制を受けるもの
- 6.1.4 管理とか改善が必要なこと
- 6.2.1 種々計画するとき考慮しなければならないこと
- 8.1 6.1/6.2を実施すること
- 8.2 緊急事態に対応すること
- 7.2 教育訓練が必要なこと
- 7.3 関係者が危険性や取り扱いを知らなければならないこと
- 9.3 経営者が危険性や重要性を知っておく必要があること

この順序ではわかりにくいから並べ替えなければならない。
- 6.1.3 法規制を受けるもの
- 6.1.4 管理とか改善が必要なこと
ここでの管理はマネジメントではなくコントロールである。
- 7.2・7.3 関係者が危険性や取り扱いを教育訓練すること
- 8.1 6.1/6.2を実施すること
- 8.2 緊急事態に対応すること

ということになろうかと思う。
なお、
6.1.2 会社として把握しておく必要のあること
9.3 経営者が危険性や重要性を知っておく必要があること
6.2.1 種々計画するとき考慮しなければならないこと

は上記3つの従属関数と言えるので、わざわざ項目として取り上げることはないだろう。
じゃあ、いくつか事例を考えてみましょう。
えーっと、そんなふうにして著しい環境側面を決めるとどんどん数が増えるな。増えたら困るな、ということはこの決め方がおかしいんじゃないか?
そういう思いをされた方もいらっしゃるでしょう。
多くのコンサルや審査員は、著しい環境側面は一定点以上にしろとか、上位から20位までにしろとか、いいかげんなことしか言いません。実を言いまして私自身が審査員に、あまり多くすると大変だから10数個が望ましい、多くても20個で止めておきなさいと言われました。そのとき働いていた工場で管理するものが10数個だったとは絶対に思えません。
毒物を使い電気を使い多様な製品を送り出している会社では、著しい環境側面が20個ということはありますまい。それとも21番目以下は著しい環境側面ではないのでしょうか?
おっと点数付けですが、前回も書きましたが、廃棄物と電気と化学物質を比較できると考えるのがそもそも間違いです。身長と体重と知能指数を比較できますか?
ところで私のアイデアでいくととても著しい環境側面が多くなりそうです。
でも著しい環境側面が多いと何か困りますか?
- 著しい環境側面のリストが膨大になる?
私、ISO14001の初版から2015年版までひっくりかえしたのですが、環境側面のリストも著しい環境側面のリストも作成要求はないようですよ。あったら教えてください。
多くの認証機関は審査前に「著しい環境側面のリストを提出してください」と言っています。ということは少ない認証機関は「著しい環境側面のリストを出さなくてもいいです」と言っているわけです。
認証機関の中には「環境マニュアルもいりません」と言っているところもあります。ちゃんとプロセスアプローチ審査を行う認証機関なら、マニュアルなど不要、著しい環境側面のリストなど無用なのでしょう。
おっと、認証機関が独自ルールを定めるのはISO17021で認められていますが、そのときは「余計な手間がかかることを言うなら認証機関を変えるよ」とでも言っておきましょう。
- 著しい環境側面が多すぎると、教育も大変だし、覚えきれないよ!
私の語ったことは、元から教育していたものを著しい環境側面にしただけなんですが? それに著しい環境側面を覚えなくちゃならないという決まりはありません。関係する人だけが認識していればよいのです。
正確に言えば、それらを「著しい環境側面である」と知ることは必要なく、これは危険だ、管理しなくちゃならない、教育訓練を受けたように実施しなくちゃならないとわかっていればいいのです。
著しい環境側面、それおいしいのって覚えて言い返しましょう。ISOの用語とか規格を覚えなくてもよいってISO規格に書いてあります(ISO14001:2015 Annex A A.2)。
- 文書作成の手間、維持の手間がかかる
確かにISO14001では環境側面に関して文書を要求してます。

でもよく考えてみると、元々なぜ著しい環境側面にしたかというのは、法規制を受けるか? 管理とか改善が必要か? 関係者に危険性や取り扱いの教育訓練が必要か? という観点でチェックしたわけでしょう、そのとき頭の中で考えただけでなく、メモでも議事録でもあるでしょう。それがズバリ著しい環境側面を決定するために用いた基準と環境影響っですよね。
実際にはISOのためでなく、IPAであれば採用するとき、危険性や法的な届け出などを調べたはずです。そんなことをしなくちゃならないって、消防法や労働安全衛生法で決まっています。していなければ法律違反です。ISO審査での不適合よりも怖いですよ!
そして著しい環境側面になったものについては手順や基準を決めているはずです。いやいや、私のもうした順序であれば、既に管理していたことを著しい環境側面したわけで、もともと文書があったはずです。
オフィスの省エネなんて文書がないなんて言わないで! 以前からビル管理会社の通知などを基にして運用していたなら、それがすなわち外部文書ではないですか。総務部長のハンコが押してあれば十分。
維持が大変ですと? おかしいな、環境に限らず以前から社内への通知やルールは文書管理されていなくちゃならないはず。
ところで著しい環境側面は細かく分けるべきか、大きくくくるべきかということも、要検討事項です。でもそれはどのように管理していくかということで組織が決めることでしょう。もちろん運用上問題とか矛盾があってもいけませんけど、
もし類似のもので同じ手順書で教育とか運用ができるならまとめてもよいでしょう。ウレタン塗料で色違いなんてのは分けることもないでしょう。でもホットメルトペイントと蒸発乾燥塗料はまとめたらいけない。乾燥機構も溶剤も関係法規制も違えば管理方法も有資格者も違うでしょう。
- 審査で大丈夫だろうか?
審査とはISO規格と現実との比較です。でも実際には審査員の想像と妄想と現実を比較する審査員が多いですね。きれいなマトリックスの縦軸に環境側面候補が並び、横軸に使用量/保管量、重大性などが並んでいる表がないと不機嫌になる審査員は多いようです。
きっとご自身が理解できないので不安なのでしょう。
でもまじめに考えたら、ISO認証のために著しい環境側面を決定しましたと言われたら、審査員は「それは重大問題だ!」といわなければなりません。だってそれは今まで法も調べず管理していなかったという、ISOどころじゃない重大問題です。
そう言わない審査員なら、審査能力がないと言っても間違いないでしょう。
なんだかISO14001認証のためにする仕事ってないように思いませんか?
そもそも著しい環境側面なんて調べるまでもなく、決定する必要もなかったのです。
じゃあ、どうして点数法なんてのが表れて、中国の新型肺炎のように大流行したのでしょうか?
私はISO認証機関が、お金儲けのために考えたんだろうと思っています。1997年頃、多くの認証機関は、審査だけでお金儲けをしていたわけではありません。当時は、審査、出版、講習会が3本柱と言われていました。講習を受けないとまず審査不適合でした。
なぜか?
だってその認証機関のお考えを知らないと、ISO規格に適合であってもその認証機関の審査では不適合になったのです。
一粒で三度おいしい、いや環境側面で三度おいしい思いをされたのでしょうね、本を売って、講習会で金をとって、審査すると……。
私がいい加減なことを語っていると思われますか?
案外そうでもありません。現役時代、私はつてを頼ってできるだけ多方面から情報を収集しました。そりゃ毎日ISO審査員とチャンチャンバラバラしていたわけで、武装しないとね、
イギリスの工場に駐在していた方に、イギリスのISO14001審査状況を問い合わせました。彼が言うには、著しい環境側面なんて企業が法規制や成分などからこれこれが該当するというだけだよと返事がきました。
外国が素晴らしいとか進んでいるとは言いませんが、イギリスはISOの発祥地で先進国ですから、そこでの理解は間違いないでしょう。少なくてもイギリスと同じことをしていれば不適合になるはずはありません。
似たような話を外資系認証機関のエライサンからも聞いたことがあります。それならなぜおかしな理屈をこねている認証機関を指導しないのかといいますと、アハハハハと笑っておられました。
こちらは少しも面白くありませんでしたね、
さて、私の述べた方法に重大な欠陥があると主張する方がいるだろう。それは正しい。
私の述べたことは、現状追認でしかない。だから今まで気づかなかった法規制に気づくことはないだろうし、見逃していた危険を見つけることもない。だから欠陥であるというのは正しい。
思い出したことがある。もう10年も前のことだ。ネットで点数方式の是非について討論したことがある。論敵は「点数方式で計算した結果、今まで重大でないと思っていたものが意外と点数が大きくなり著しい環境側面になった」という。ゆえに、点数方式は有効だという。
あなたはどう思うか?
冗談だろう、そんな論理は笑い話に過ぎない。点数方式であろうと、今まで気づかなかったことに気づくわけがない。点数を付けようと付けまいと、気づいていないものは気づかないままだ。
私の欠陥を防ぐというか補強するには、ISOコンサルとか審査員ではなく、安全とか防災とか公害防止などの専門家(s)に見てもらい、アドバイスをもらうしかない。己が専門家でなければ専門家の力を借りるしかない。
もちろん現実には危険物については定期的な消防署の点検とか指導受けているはずだし、公害関係であれば市の立ち入りとか定期的にあるし、廃棄物だって様々な外的な視察とか点検を受けているはずだ。だからISO認証するために頭をひねって点数をつけるような馬鹿なことをするまでもないのは明白だ。
ISO規格が専門分野で力を発揮するわけはない。もちろんそれはISO規格が悪いわけではなく守備範囲が違うのだ。
私がこの文で言わんとしたことは、ISO規格の著しい環境側面とは新しい概念とかではなく、今まで管理していることが必要充分であるかの再点検に過ぎないということだ。
本日の締め
まあ、ISO14001ができて既に四半世紀が過ぎて、今更真の○○は……などと語ってもしょうもない話。ただ私はまじめに思うのですが、過去認証機関がオリジナルなスバラシイでユニークな(全然素晴らしくない)方法を教えて日本のISOをダメにしたというのは間違いない事実でしょう。それは効用のないISO認証をしてきた無駄というだけでなく、認証ビジネスの芽を摘んでしまったこと、そして大きな社会的損失だったということです。
とはいえ当時の認証機関のエライサンたちは既に引退して、そんな己の罪を認識もせず悠々自適の暮らしをしていることでしょう。まさに上級国民です。
私も引退した今、どうでもいいことかもしれませんが、20年近い審査員と認証機関との抗争の恨みは忘れませんよ。忘れないためにもこうして書いているのです。
注1 | |
金やプラチナはアレルギーがないわけではない。また部品をロウ付けする場合は、24金ではなく18金や銀を含んだものを使う。これが影響することが多い。
その他、化粧品などと反応して体内に吸収されることもある。
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注2 | |
中間貯蔵・環境安全事業株式会社……PCB処理の国策会社
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注3 | | |
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