私が千葉県に越してから10年は借家住まいだった。2年の賃貸契約が切れると、そのたびに引っ越した。なにせ義理があるわけでもなく、どうせ契約更新で諸費用かかるなら、新たな街に住んだほうが面白いと思った。
もちろんそのたびに引っ越し代はかかったが、なにせ家財道具は田舎から出てくるときにほとんど処分したから、多くはない。まして移動距離も10キロとかそんなものだ。
とはいえ何度も引っ越すと家内が荷造りの手間が大変だと値を上げ、田舎の家を売りマンションを買った。
そんなわけで湾岸地域の市川市、船橋市、習志野市、千葉市にそれぞれ2年程度だが住んだことがある。浦安市は私にとっては 少しばかり 非常に家賃が高い。
ということで今回は過去に住んだ都市における家庭ごみについて考える。
■ 現状調査
各市とも家庭ごみの対応について計画を持っている。その概要は、
都市名 | 主たる方向 | ★出典★ |
市川市 | 発生抑制、再使用の推進 処理体制 処理施設の整備 施設整備にかかわる計画 | 注1 |
船橋市 | 2R(リデュース・リユース)を優先した社会を目指す★ 循環型社会を実現する 経済性を考慮した廃棄物処理のしくみを構築する | 注2 |
習志野市★ | ゴミ分別推進による再資源化拡大 排出ルートの徹底運用 ごみ処理施設の長寿命化 | 注3 |
どこでも見かけるようなテーマでパッとしないが、市レベルでできることはそんなところかもしれない。
家庭ごみの状況を知ろうと、それぞれの市役所のウェブサイトを漁った。
統計データの公開とその詳細さでは船橋市が一番良い。習志野市は令和元年までのデータしか公開されていない。市川市は家庭ごみの詳細データを公開していない。
はじめは3市の家庭ごみの内訳とか1人当たり発生量などを比較しようとしたが、3市を同じ基準では比較できる状況ではないので諦めた。
隣接した市でもこれほど情報公開もデータの精細も違うのに驚く。確かに船橋市は政令指定都市を除くと日本最大の都市である。しかし人口とか予算の問題とは思えない。ゴミに限らず市民に情報発信しようとする意志が違うのではないだろうか。
市長公用車を高級外車にしたり市長室にシャワーを作ったりして、やるべきことまで手が回らないのだろうか?
■ 主要指標
とりあえず見つかった千葉県のウェブサイトの「令和元年度清掃事業の現況と実績(一般廃棄物処理事業の概況)について」を基にして考えを進める
まず3市の概況は次の通り
都市名 | 面積(km2) | 人口(人) | 人口密度(人/km2) | 世帯数 | 世帯人数 | 平均年齢 |
市川市 | 57.5 | 490,000 | 8521 | 244,000 | 2.0 | 45.4 |
船橋市 | 85.6 | 642,000 | 7500 | 290,000 | 2.2 | 42.8 |
習志野市 | 21.0 | 174,000 | 8286 | 78,000 | 2.2 | 42.4 |
隣接する3市だが、上表から性格がだいぶ違うように見える。
世帯人数と平均年齢から、市川市は高齢化しており子が巣立った後で、船橋市と習志野市は子育て中と思える。
なお3歳の平均年齢の差は小さくない。2021年の日本の平均年齢は47.4歳であるが、44.4歳だったのは12年前の2009年だった。船橋市と習志野市が市川市に追いつくのはそうとう後になるだろう。追いつかないかもしれない。
市川市と習志野市は人口が超高密度である。船橋市も高密度ではあるが、梨や小松菜の産地でありふなっしーが生息しアンデルセン公園がある。船橋市は農業も漁業も盛んで3市の中では長閑に思える。
面積からみると、市川市と習志野市は家庭ごみの収集運搬は高効率と思える。そうなのか、見ていこう。
都市名 | 可燃ごみ | 不燃ごみ | 資源ごみ | その他 | 粗大ごみ | 合計 |
市川市 | 105,588 | 3,495 | 18,734 | 110 | 1,864 | 129,791 |
船橋市 | 160,122 | 3,352 | 10,343 | 76 | 3,700 | 177,593 |
習志野市 | 42,494 | 1,226 | 5,044 | 112 | 836 | 49,712 |
人口が大きく違うので、1人当たりの家庭ごみ発生量を計算する。
都市名 | 可燃ごみ | 不燃ごみ | 資源ごみ | その他 | 粗大ごみ | 合計 |
市川市 | 215.5 | 7.1 | 38.2 | 0.2 | 3.8 | 264.9 |
船橋市 | 249.4 | 5.2 | 16.1 | 0.1 | 5.8 | 276.6 |
習志野市 | 244.2 | 7.1 | 29.0 | 0.6 | 4.8 | 285.7 |
「1人1日当たり」だとそれぞれ726g、758g、783gである。
このデータと2019年の50万以上の都市の家庭ごみ発生量とはずいぶん違うが、出典が違うとこんなものなのだろうか? 信憑性は私もわからない。
ともあれ都市によって項目では凸凹があるが、この3市の764〜785g/1人1日発生量は決して悪くない。いや良い。
ではこの処理に投入している市の予算と費用対効果はどうか?
都市名 | 人件費 | 処理費 | 車両購入費 | 委託費 | 組合分担金 | 調査研究費 | 合計 |
市川市 | 1243999 | 356127 | 0 | 3972813 | 0 | 1298 | 5574237 |
船橋市 | 1756366 | 775393 | 48350 | 3752353 | 0 | 4378 | 6336840 |
習志野市 | 331533 | 350978 | 0 | 1628491 | 0 | 0 | 2311002 |
単位当たりを見よう
都市名 | 人件費 | 処理費 | 車両購入費 | 委託費 | 組合分担金 | 調査研究費 | 合計 | |
重量当たり費用 千円/トン |
市川市 | 9.58 | 2.74 | 0 | 30.61 | 0 | 0.01 | 42.95 |
船橋市 | 9.89 | 4.37 | 0.27 | 21.13 | 0 | 0.02 | 35.68 | |
習志野市 | 6.67 | 7.06 | 0 | 32.76 | 0 | 0 | 46.49 | |
人口当たり費用 千円/万人 |
市川市 | 2.54 | 0.73 | 0 | 8.11 | 0 | 0 | 11.38 |
船橋市 | 2.74 | 1.21 | 0.08 | 5.84 | 0 | 0.01 | 9.87 | |
習志野市 | 1.91 | 2.02 | 0 | 9.36 | 0 | 0 | 13.28 |
分析するには情報不足だ。船橋市は委託費が少ないが、その分自前の車両購入費が入っている。また下記の人員を見ても、船橋市は市川市と習志野市に比べ、面積が広く収集運搬の効率は悪くなる。
投入している人員ではどうか
都市名 | 従事者数 市職員+業者従業員数 | 従事者数/万トン | 従事者数/万人 | 従事者数/km2 | 従事者数/万人/km2 |
市川市 | 791 | 60.9 | 16.1 | 13.8 | 1.06 |
船橋市 | 751 | 42.3 | 11.7 | 8.80 | 0.49 |
習志野市 | 346 | 69.6 | 19.9 | 16.5 | 3.31 |
まず一目で気づくことだが、市川市は船橋市より人口が少ないが、船橋市より多い人数が廃棄物処理に従事している。また船橋市の人口の4分の1である習志野市の廃棄物処理従事者が船橋市の半分、ということは人口当たり倍だ。
ということは市川市と習志野市は、船橋市に比べ効率が悪く費用が余計に掛かっていることになる。
実際には船橋市の方が面積が広くかつ人口密度が低く、収集運搬の効率は落ちるはずだ。しかし家庭ごみ1万トンkm2当たりの数字も他市の数倍というパフォーマンスである。
もちろん規模の経済効果
いずれにしても船橋市のパフォーマンスは歴然としている。
■ 家庭ごみの分別基準
では身近なことについて考えを進める。分別基準に3市で違いがあるだろうか?
公開されている資料を基に一覧表を作った。
市川市 | 船橋市 | 習志野市 |
燃やすごみ | 可燃ごみ | 燃えるゴミ |
燃やさないゴミ | 不燃ごみ | 燃えないゴミ |
有害ごみ | 独立した区分なし | 有害ごみ |
プラスチック製容器包装類 | ペットボトル | ペットボトル |
新聞 | 新聞 | 新聞 |
雑誌 | 雑誌 | 雑誌 |
段ボール | 段ボール | 段ボール |
紙パック | 紙パック | 紙パック |
布類 | 古着 | 古着 |
毛布 | ||
ビン | ビン | ビン |
缶 | 缶 | 缶 |
選定枝 | ||
大型ごみ | 粗大ごみ | 粗大ごみ |
参考資料 注6 | 参考資料 注7 | 参考資料 注8 |
まず表を見て笑ってしまったのは分類名である。
市川市は「燃やすごみ/燃やさないゴミ」、船橋市は「可燃ごみ/不燃ごみ」、習志野市は「燃えるゴミ/燃えないゴミ」である。船橋市と習志野市は漢語と大和言葉の違いで意味は同じかもしれないが、市川市は意味が違う。「燃やす/燃やさない」はごみの性質ではなく、処理する人の意思である。燃えなくても燃やすのだという意思表明かもしれない。
他方、船橋市と習志野市は燃えるというごみの性質から区分しているわけだ。
どちらが正しいとか良いかは分からないが、隣接する市で分類名が異なるというのは面白い。この底には単なる表記上ではなく、根本的にはごみ処理について市の考えがあるのだろうと推察する。
おっと、燃えるゴミと燃やすごみは違う、例えば「パソコンのマウスは燃えないけど燃やすごみに入る」という意見があるかもしれない。
残念ながらマウスは船橋市では燃えるゴミに入る。
各市作成の分別ガイドブックの事例から見ると「燃やすごみ」と「燃えるゴミ」に相違はない。
■ ごみの袋
各市とも家庭ごみを出すとき市の指定袋に入れて出さなければならない。これもどうかと思う。というのは「ごみ処理は地方自治体の責務」となっている注9。
当然それは市税を原資とする。それだけでは足りないのか、あるいは排出量に比例して徴収するのが適切と考えた結果なのか。
とはいえ45リットルの燃えるゴミ用袋が20円くらいだ。一家庭で週に2回出すとして世帯当たり年間2000円となる。市民税の3%が清掃費になると仮定して、一世帯だいたい2万円。2000円ということはその10%になるが……それが大きいのか、形式上なのか…分からない。
市指定の袋でなくてもよいとなると、いろいろな品物を買った時の袋が使える。ごみを出すのにわざわざ新たにポリ袋を買うとは馬鹿みたいだ。お粗末な袋を使うと破けたりするのを嫌ったのだろうか?
ともかく市指定のごみの袋に入れるわけだが、その種類も異なる。
ごみの種類 | 市川市 | 船橋市 | 習志野市 |
燃やすごみ、 可燃ごみ | 燃やすごみ用袋 | 可燃ごみ用袋 | 燃えるゴミ袋 |
燃やさないゴミ、 燃えないゴミ | 不燃ごみ用袋 | ||
有害ごみ | 指定袋なし (透明な袋を利用) | 有害ごみという区分はないが、同等品については透明袋を指定 指定袋はない | 指定袋なし |
プラスチック製 容器包装類 | プラスチック製 容器包装用袋 | ステーションのネットに入れる | 指定袋なし |
新聞紙 | 指定なし ひもで縛る 新聞社の紙袋禁止 | 指定なし ひもで縛る | ひもで縛るか紙袋に入れて出す |
布類 | 有価物回収 透明袋 | 有価物回収 透明袋 | 有価物回収 透明袋 |
ビン缶 | 燃やさないごみ用袋 | 資源ごみ ステーションおいてある袋に入れる | 指定袋なし |
市川市は市指定ごみ袋が3種類、船橋市と習志野市は2種類である。更に市川市はこまごました注意事項とかあり、めんどくさいという印象が強い。
本日の判定
データの詳細さと信頼性では船橋市がベストである。
もちろんデータが整備されていても行政サービスが優れているとは限らない。しかし資料から見る限り、この3市の中では費用効率、工数効率共、船橋市が一番優れている。
船 橋 市 |
No.1 |
注1 | ||
注2 | ||
注3 | ||
注4 | ||
注5 |
「規模の経済」とは生産量や規模が大きくなると、単位当たりのコストが低減されることをいう。 理由として変動費が増えても固定費が一定だからという説明が多いが、それだけでなく習熟の効果、分業の効率あるいは設備投資による自動化なども大きい。 ![]() | |
注6 | ||
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注8 | ||
注9 |
廃棄物の処理及び清掃に関する法律 第6条/第6条の2 ![]() |
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