お断り
このコーナーは「推薦する本」というタイトルであるが、推薦する本にこだわらず、推薦しない本についても駄文を書いている。そして書いているのは本のあらすじとか読書感想文ではなく、私がその本を読んだことによって、何を考えたかとか何をしたとかいうことである。読んだ本はそのきっかけにすぎない。だからとりあげた本の内容について知りたい方には不向きだ。
よってここで取り上げた本そのものについてのコメントはご遠慮する。
ぜひ私が感じたこと、私が考えたことについてコメントいただきたい。
書名 | 著者 | 出版社 | ISBN | 初版 | 価格 |
ISOマネジメントシステムが 一番わかる | 日本品質保証機構 | 技術評論社 | 9784297124236 | 2021.11.10 | 1800円 |
この本は2021年11月に出版された。昨今、ISO本は年に数冊しか出版されないから希少である。すぐに読みたいと思ったが、先立つものがない。市図書館が購入したのを確認して予約を申し込み、順番が来るのをひたすら待った。結構ISO本を読む人もいるらしく、なんと5か月も待ちました。
そして半年後の5月、やっと順番が回ってきましたので、すぐさま引き取りに行きまして、それからひたすら読みました。ISO情報に飢えておりますから。
正直言って中身には期待していませんでしたが、まさに予想通りというか内容がハチャメチャです。そしてこれは一言言わないとならないと思ったのです。
何が問題かと問われるだろう。いろいろ問題と思われることがある。規格解釈も
そもそも、この本を書いた人は会社の仕組みとか仕事を理解しているのかというのが最大の疑問である。審査員の多くは企業で働き管理職経験者だが、著者たちの経歴はどうなのだろう。いや別に企業で働かなくても管理職でなかったとしてもダメではないが、社会の仕組み、会社の仕組みを知らずばISO審査などできないだろう。なんせマネジメントシステムの審査なのだから。
オット、実際の審査の多くは、手順書に言葉があるとかないというのが多いようだ。
会社の仕組みとか仕事の理解といっても、そんな難しいことではない。理念を実現するために創業し、一人でできないから会社を作り、組織が円滑に動き長期間存続するためには、具備しなければならない様々な機能があること。そして世に存在する数多の企業はそれを備えているということだ。
そういう会社組織や業務手順というものは、ISO規格などと関わりなく、組織誕生時から継続的に整備され運用されてきている。さもなければ企業という組織は維持できない。
もちろん備えてはいるが完璧でないこともあり、運用が完璧でない場合もある。だが備えてはいるのである。
ISOMS規格の要求事項とは、冠した切り口(つまりQMSとかEMSとか)でみたシステム・プロセスが具備すべき機能や要件を示したものである。
そして忘れてならないのは、ISOMS規格は要求事項であり設計図ではないということだ。ISOMS規格を満たすような仕組みを作ることはできるが、ISOMS規格に基づき仕組みを作ることはできない。だって設計図じゃないんだから。
そんなこと当たり前だろうといわれるかもしれない。だが理解している人はめったにいない。
大勢の、審査員もコンサルも、ISOMS規格はシステムの枠組みを定めたものとか、ISOMS規格に基づいてマネジメントシステムを構築するとか語っている。自分が何を語っているのか理解していないのだろう。
この本はどうだろう……それはこれから書いていく。
ISO認証において、天動説と地動説という言い方がある
要するにおかしな考えを天動説といい、まっとうな考えを地動説といいます。どちらにおいても、天動説は間違っているが信じやすく、地動説は正しいが理解されにくい。
天動説とは誉め言葉ではなく貶し言葉、これ重要。
ISOの天動説がおかしい例を一つ上げよう。
過去ISOMS規格はたびたび改定された。ISO規格が改定されたら会社のマネジメントシステムを見直さなければならないのだろうか? これひとつで天動説は間違っているといえるだろう。
実際にはISOMS規格改定のたびに、社内の手順書を一生懸命改定していた同業者を知っている。具体的にはISO14001の1996年版では「環境マネジメントプログラム」と呼び、2004年になったら「環境実施計画」に改定し、2015年になったら「計画」になった。イヤハヤ
彼らが力量がなかったのは言うまでもない。
この本を読むと、問題点は多々あるが、重要性とか原因別など体系的にまとめようとすると大変だから、ページ順に列記していく。
なお紫色の文章は引用文である。
「ISO9001の特徴」のワークショップ@(p.111)や「ISO14001の特徴」のワークショップA(p.127)でも同じことを感じたが、背景や問題の設定とその説明などたとえ話としての出来が悪いのだ。
だいぶ古いが「中小企業のためのISO9000 何をなすべきか ISO/TC176からの助言
書籍や論文を書くときは先行研究の調査は必須だ。ISOMSの本を書く人なら、過去に出版された有名な本はご一読されていると思う。あれくらいリアルで感動を与えるものを書いてほしい。
第二点、認定を受けていない認証機関は認証を受けている認証機関と同じくらい存在する。日本ではJABの認定を受けていないことから、ノンジャブと呼ばれている。
この本では認証機関はすべからく認定を受けるように記述している。そこのところは説明不足だろう。
この本は「はじめに(p.3)」で認証している組織からいろいろと相談を受けていることに対しての回答であると記している。ならば認証機関の認定の有無について説明していないのは大きな瑕疵であろうと思う。
ISOMS規格番号 | 規格名称 | 2022.05.10時点 認証件数 | 2020.03.25時点 認証件数 |
ISO9001 | 品質マネジメントシステム | 23,232 | 27,372 |
ISO14001 | 環境マネジメントシステム | 12,846 | 14,894 |
ISO/IEC27001 | 情報セキュリティマネジメントシステム | 13 | 10 |
ISO5001 | エネルギーマネジメントシステム | 4 | 7 |
ISO13485 | 医療機器品質マネジメントシステム | 195 | 231 |
ISO22000 | 食品マネジメントシステム | 1,146 | 1,001 |
ISO55001 | アセットマネジメントシステム | 76 | 60 |
ISO45001 | 労働安全衛生マネジメントシステム | 227 | 12 |
どうやら…認証件数は伸びてないどころか減ってるものもあるようです(小さな声)
「要請に応えて」とは、自虐的な冗談なのでしょうか?
人間だけでなく動物でも、目標がありそれを目指した行動をとれば必然的にPDCAになるとしか思えない。まさか動物はPDCAを知らないだろうなんて言ってはいけない。
アリでも芋虫でも、A地点からB地点に移動しているとき、それを邪魔すれば二度三度は当初意図したルートを通ろうとするが、やがて諦めて別ルートを探るようになる。
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名称はともかく、環境への影響を考え、法規制を考えて、もちろん生産性とか費用を考慮した結果、年度計画とか中期計画が作られていると考えは及ばないのだろうか?
いや著者たちが勤めていた企業では、年度計画や中長期計画では環境側面や法規制の動向などを考慮しないで計画を立てていたのかもしれない。世の中は広いから。
ともかく語ることが一貫していないということは、信念があって書いているのではなく、思い付きで書いているのか? 過去の経験や知見をもとにしてではなく、想像で書いているのか?
現実の組織には、部門の長とされている人でなく、専門家とかトップの血縁者とか組織内で人望がある人などが決裁権を持っている場合がある。それは職制と現実の権限がずれていることであり正すべきだろうが、そうでないなら十分に職権は機能しているはずだ。
ふたつ、顧客満足の向上ならその指標と目標値を示さなければ計画ではない。
この本を読んだ人が、採用強化と新メニュー開発が顧客満足の手段とみなされると認識して、同様の計画を作成して提示した場合、この認証機関の審査員はOKするのだろうか?
それから本題だが、いろいろごちゃごちゃ語っているのをみな削除していまい、ISO14004:2016の「表A.2-活動・製品・サービス、これらに伴う環境側面、目標、実施計画、指揮、運用管理、並びに監視測定の例」をペタッと貼り付けておいたほうが役に立つだろう。聞くほうも一発で納得するだろう。
もっとも私が現役時代に審査を受けたとき……JQAではなかった……審査員があまりにもアホなので、この表(当時は2004年版)を見せて説明すると「規格票より私(審査員)のほうが正しい」と言ってこの表を払いのけた。JIS規格票を見たことがないのか! その輩には次回からご遠慮いただいた。
もちろん「9パフォーマンス評価」があり、その中に「9.1.1一般」がある。だけどあの文章を読んでなによりも日常管理が重要だって読めるだろうか?
だからどの会社も日常管理など重要でないと思っているのだ。いや規格作成者も日常管理など重要でないと考えたからこそ文字数も少ないのだろう。
前項の「運用」も重要だと思われてないんだろうね。
この本の著者も、内部監査についてはダラダラと……もとい、きめ細かく書いているが、日常管理については、書いているのか・いないのか分からない。
内部監査で見るようなことは、日常上長が確認しなければならないことだ。内部監査で見つけても手遅れだ。
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ラクダは楽じゃないよ |
みんなPDCAを語るのは大好きだけれど、PDCAのサイクルタイムとか監視のサンプリングレートなどを語る人に会ったことがない。
それは概念だけは知っていても、実践していないからではないかと思う。本を読んで「PDCAは大事ですよ」と語るだけなら楽だね、
内部監査は何のためにするのか? これをはっきり理解していないと、ISO規格対応の内部監査をするようになる。複数の規格で認証するとそれぞれの規格対応で内部監査をするようになり、指摘されると要求事項を合わせて行うように見直して、次回審査で褒められたりする。
考えるまでもなく内部監査は一つしかないだろう。それをISO審査で見せればよろしい。もっとも(優秀な)審査員は企業の手順書に基づいて内部監査をしていると、
ISO規格要求事項を網羅しているかどうかわからないから不適合とアウトのゼスチャーをしたりする。
そういう方はこちらをご覧ください。 ⇒ 「規格なんて知らんよ」
もしその私の論に異議・疑義があれば、喜んで討論させてもらいます。
私の考えは<ISO対応の内部監査などない>というものです。
あるのは会社の内部監査です。
次なる疑問だが、マネジメントシステムを構築することにより「売上増加」「製品品質向上」「組織の知名度向上」「納期短縮(p.14)」などが改善されるとしている。
著者はマネジメントシステムを導入すると、そういうことが可能だと考えているのか?
私は著者の考えがわからない。はっきりいってそんなことは不可能とは言わないが、誇大広告だろう。
後ろの「p.84審査を受けるメリット」でちょっと説明したが、そこで示した反射的利益
審査員は自分の審査が最重要でないとご不満らしい。
私の経験だがISO14001の審査で工場長が「最重要なものは環境だけではありません。品質も、安全も、損益も…最重要なのです」と語った。
すると審査員は「環境を最重要と認識してほしい」という。
もうバカか、アホかと2時間ばかり……こういうお考えが通用すると認識しているのでしょうねえ〜、
注:認証機関が独自に要求事項を追加することは可能である。ただしそのとき、追加される要求事項は書面にして公開することが求められていたはずだ。罪刑法定主義
旧版のISO17021にはあった。最新版では確認していない。
別の観点からも、この本の語る「マネジメントシステムの導入」とは間違ってもISO認証のことではないだろう。だってIAF/ISO共同コミュニケ(2010)ではISO9001に対する認定された認証が意味するものとして次のように書いている。
「適合製品を得るために、認定された認証プロセスは、組織がISO9001の適用される要求事項に適合した品質マネジメントシステムをもっている、という信頼を提供することを期待されている」
ISO認証とは、それ以上でもないしそれ以下でもない。マネジメントシステム導入しても「売上アップ」「品質向上」などの実現をするとはまったく語っていない。
JAB傘下の認証機関ならIAF/ISO共同コミュニケを尊重するはずだ。そしてJABに認定されている認証機関(JQAも含まれる)ならそれを理解しているはずであり、そこが出版しているこの本はそうであるはずだ。違うか?
認証しないでISO規格要求事項を満たすようにした場合は「売上アップ」「品質向上」などが実現するという論法は可能だ。だが、その場合でもそうなることを立証または実証しなければならない。
例えば認証企業は非認証企業よりも利益率が大きいとか品質クレームが少ないなどのデータを提示することもあるだろう。
注:マネジメントシステムがない組織が存在するのか言葉の意味から考えてみよう。
ちなみにorganizationとはロングマン英英辞典によると
a group such as a club or business that has formed for a particular purpose
planning and arranging something so that it is successful or effective
the way in which the different parts of a system are arranged and work together
特定の目的のために結成されたクラブや企業などのグループで、それが成功または効果的であるように何かを計画し、システムのさまざまな部分が配置され、連携する方法(おばQ訳)
これから考えると、マネジメントシステムを持たない集まりは組織(organization)ではないように見える。
私の考えだが、ここに例示された問題の原因は、会社の決まりを守らないということではないだろうか。
事務局が一生懸命に頼むとかまったく必要ない。会社のルールはこれだ、守れということが徹底できないとは異常である。
会社は民主的である必要はない。政治に対する国民の平等とは異なり、会社においては責任も権限も平等ではない。法に反しない限り規則遵守を従業員に命令できるし
会社が定めた手順を徹底できないなら、会社の評価が下がるだろうし取引先から信頼されない。
「図4-4-1形骸化の主な要因」として図解しているが、そんなもの要因ではない。要因は従業員のモラールの低さ、管理者の無能、経営者の責任放棄でしかない。
ISO審査員としては、会社規則を遵守させることのできない組織は認証に値しないと言わなければならない。もちろんそのような会社は、認証レベルに達していない。
「図4-4-2形骸化で見られる問題のすり替え(p.83)」という図が描かれているが、私から見ると形骸化の原因のすり替えとしか思えない。
それらはISO認証あるいはISOMS規格を満たしたマネジメントシステムが目的とする価値でないのはもちろん、その効果が発生することが保証されるわけでもない。
反射的価値ではなく、本質的な価値だというならそれを立証してほしい。
第6章以降は、各ISOMS規格についての簡単な解説があるが、私の現役時代にはなかったものや数年だけ関わったMS規格を除き、一番関りが深かったISO14001についてのみコメントする。
少し古いが「環境マネジメントシステムの構築と認証の手引き
言い換えれば、過去の本を超えるものでなければ出版する価値はない。
疑問ついでに……「厳しく求める」と「厳しくなく求める」の2種類あるのでしょうか?
前述
良く見かけるが「この環境側面を決める方法はISO審査員に褒められてます」なんて消防署とか市環境課に講釈を語る人がいるが、🤣笑うしかない。
ISO審査員が行政の法解釈を上回る権威(影響力)があるのかどうか。
事故を予防するための管理が必要なものはすべて著しい環境側面となる方法でなければ意味がない。少なくても行政には通用しない。
えっ!著しい環境側面と管理項目は違うんですか? 著しい環境側面すなわち行政に届ける数字とか管理が義務の項目ですよね?
次にそもそも環境側面にプラスもマイナスもないということを著者は理解しているのだろうか? 理解していないなら解説本を書く資格がない。
私の見解に疑義があればこちらをどうぞ。異議あればいつでも討論したいと思います。
・有益な環境側面は不滅である
・有益な環境側面は有益である
・有益な環境側面ってなによ
本書では「ISOMS規格はグローバルスタンダードだ(p.22)」とある。
私はイギリスとタイの工場の環境担当の管理者に直接聞いたが、かの地では有益な環境側面という言葉が存在しないことは確認済だ。インターネットでも引っかからない。
日本限定ならグローバルスタンダードではないよね?
別点であるが、調理プログラムというより調理プロセスだと思うが、そこでおかしいと思うのは項目の順番だ。
「有機栽培した食材でおいしい高級カレーを提供する」なら、それを実現する環境側面の管理、環境影響の低減を図ることになり、「学生を対象に値段が手ごろでボリュームのあるカレーを提供するなら」それを達成するために環境側面の管理、環境影響の低減を図ることになる。
企業の理念やマネジメントシステムの関連というかプライオリティをしっかり認識していないとおかしなことになる。
お断り
文献を引用するときの条件は報道機関とか論文などにおいて定められています。
ここでは次の条件で引用しております。
本日の感想
なにごとも課題を与えられて回答するのは楽だ。自分で課題を見つけて新天地を拓くのはハードルが高い。
本日は課題書を与えられ、その真偽を考えるだけで楽だ。ついついキーボードを叩くのも弾んでしまい13,000字を軽く超えた。ちなみに、この本の文字数は約12万字であるから、本体の1割ものコメント・感想文を書いてしまったことになる。
とはいえ4章までくると事務局とかコンサルなど本質的でないことが続き、気力が喪失した。ということで各MS対応のパートはISO14001だけでおしまいだ。
最後に私はこの本を3回読み返したことを申し添えておく。
⇒ その2に続く!
注1 |
ISO認証における天動説・地動説とは企業で種々のISOMS認証の管理責任者を務めたぶらっくたいがぁ氏が「規格に会社を合わせるのを天動説、会社に規格を合わせるのを地動説」と唱えたことに発する表現である。 ![]() | |
注2 |
「中小企業のためのISO9001―何をなすべきか ISO/TC176からの助言」ISO編、日本規格協会、2005 なおパン屋の事例は悪くないが、本の内容としては2005年版より、初版である1997年版のほうが内容的に素晴らしく、ISOMS規格を理解するには最適なテキストだ。 ![]() | |
注3 | ||
注4 | ||
注5 |
反射的利益とは、何者かの行為によって、他の者が副次的・間接的に受ける利益を言う。 近くに公園ができて素晴らしい環境になって地価が上がるようなケースを言う。この場合、その後公園がなくなっても文句は言えない。 ISO認証によって顧客など利害関係者から「組織がISOMS規格の要求事項に適合した○○マネジメントシステムをもっている」と信頼されることが唯一の認証の効果であり、品質が上がることや上がると期待されることは認証が保証することではない。認証の結果そういう効果があっても、反射的な効果に過ぎない。 ![]() | |
注6 |
「環境マネジメントシステムの構築と認証の手引き」土屋通世、システム規格社、2004 ![]() | |
注7 |
罪刑法定主義とは、法律で定めてあることでなければ刑罰が科せられないという近代法の原則の一つ。 そこから法律は公開されなければならない(公開の原則)とか、事件が起きてから制定された法律では以前の犯行は罰せられない(訴求処罰禁止)などが演繹される。 ![]() |
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