BOOK BAR 4 > 本 > 製本工場をみてみよう  

一冊ずつ手間暇かける手製本とはまた別に、まとまった数、均質で不備なく限られた予算と時間で仕上げる商業製本の現場には、わたしたちには想像もつかない工夫がたくさんあります。最近の雑誌やサイトを参考に、ちょっとのぞいてみてみましょう。(文中敬称略 2004.3記)
BOOK DESIGN vol.2 2004.4 ワークスコーポレーション
「製本・加工ここまでできる!」
すごいぞ!この製本・加工/凝った製本・加工本図鑑/製本の基礎を知ろう
取材協力:図書製本、大口製本、凸版印刷、match and company hity編集部、美篶堂

『二万千百九十一俺』『姑獲鳥の夏』『魍魎の匣』『愛だからいいのよ』の四冊の製本装丁を一部再現しているのがいい。装丁家のアイデアと製本スタッフの技術力。両者が全く違う視点からやりとりすることで、さまざまな制約をのりこえられる。たとえば『二万千百九十一俺』。装丁はマッチアンドカンパニーの町口覚。これはすでに5、6年あたためていた「弾があたっても途中でとまるような本」という、装丁単独でのアイデアがかたちになったもの。著者である三代目魚武濱田成夫と意気投合して、実現のためにいっきに動き出したらしい。金属をもちいるので、実際の製本作業をするひとや読者の安全も考慮して、6種類の束見本をつくったといいます。そのあたりをインタビューで詳しく読むことができる。



わたしが購入したのは491番。そう、シリアルナンバー入りなのだ。作業記録のムービーをみせてもらいながら町口に聞いた話はじつに楽しかった。(写真左)本体が重いのでするっと出ると危ない、そこで函はいくぶんきつめにつくっている。製函は岡山紙器所。(中二枚)表紙をとじると「グローブにボールを打ちつけたような(魚武)」バン!という音。気持ちいいんだ、これが。(右上)2ミリ厚のステンレスをボール紙をくりぬいたなかに入れ込み、うえからもう一枚ボール紙を貼る。この状態で表紙台紙に。作業するひとの安全を考慮して、ステンレスの角は丸く仕上げた。板金やさんのアドバイスだという。(右下)函入れ作業にもコツがいる。職人は腰をいれてすとん、とすべりこませていた。一冊ずつクラフト紙でキャラメル包みされ、さらに手書きでナンバリング。記録ムービーには番号を書き込むアルバイト君の姿も。
町口の本づくりはそこにかかわる全てのひとへの敬意からはじまる。そしてその全てのひとの仕事っぷりを伝え残したい思いも強い。作業記録ムービーは公開準備中
なおこの雑誌の特集の後半では、図書製本(株)の上製本工程を写真で追っている。スピン挿入機だけ図解付き。かわいらしい動きをするのです、この機械。ただ雑誌全体としては二号目にしていっぱいいっぱいな感じは否めません。
考える人 2004冬号 新潮社
函入りクロス装の本をたずねて 
文:金田理恵 撮影:菅野健児 協力:大口製本、岡山紙器所

大口製本で丸背上製本の手製本工程、続いて岡山紙器所で函づくりを、写真と文章で追っている。わざわざ「クロス装」としているわりには、クロス装へのつっこみが足りませんけど。
機械ではつくれないもの(技術的、部数的などの理由で)や、束見本をつくるために、こうして手製本する職人がいる製本会社がいくつもあります。職人の手作業のコツやカンにばかり感心してしまいがちですが、たとえば束見本づくりというのは、本番の材料試算や機械での制作工程予測などのためのものであるから、コツやカンはあってあたりまえ、もっと別のところに真骨頂はあるのですね。とはいえわたしもその仕種にみとれてしまうのだけれど。

デザインの現場 1999.4 BSS
特集 どこまでできる?!印刷・製本・加工
祖父江慎さん、製本の現場を見に行く
取材・文:仙頭邦枝/撮影:桜井ただひさ/協力:凸版印刷、凸版製本

祖父江慎が凸版製本の上製本ラインを見学しながらなげかける質問に、現場のかたがていねいに応えています。写真付き。なにより、読んで楽しい。それぞれの美意識の枷を互いに一度うちやぶってみると、これまで思っていた「限界」がすぅーっとひいていく。その感じを、製本の域にぐいともたらしたのはやっぱり祖父江慎でありましょう。装丁をてがけるデザイナーのみなさまは、最低でも祖父江さん以上に現場をみなくちゃね。というか、そこのところに関心が向かないなら、装丁はやらないほうがいい。
季刊・本とコンピュータ 2004.3 トランスアート
造本に恋して(7) 紙を抄くー巨大製紙工場見学記(下)
文:松田哲夫/イラストレーション:内澤旬子/協力:王子製紙

『印刷に恋して』でコンビを組んでいた二人が次にむかったのは「製本」でした。
「季刊・本とコンピュータ」最新号で、連載も七回目を迎えました。筑摩書房で多くの書籍、雑誌を世におくりだしてきた松田哲夫(同社専務、「王様のブランチ」のてっちゃん、パブリッシングリンクの社長でもある)が、わかりやすく書いています。編集者としてずっと感じてきた疑問を、しつこく聞き出したんだろーなーと思うようなことがらや、現場のひとたちが日常すぎて認識していないようなことをズバッと言い当てるあたりは、毎回読んでいて楽しい。内澤旬子のイラストも抜群。とくに、しくみの図解。写真や文章だけでは無理なんですね、こういうのは。描く本人がそのしくみをわかっていないと。折り機や抄紙機のしくみは、プロがみてもわかりやすいと評判らしいです。
この連載のもうひとつの大きな読みどころは、「機械製本(大量製本)」の見地から、製紙や印刷、もちろん出版業界との関係までみていこうとしていること。最新号では出版業界と製紙業界の微妙なやりとりが示されています。「嵩高な紙」を出版社がもとめるわけ、それに応える製紙会社の苦労と自己矛盾、新しい用紙のあとを追いかける最適な接着剤の開発、その時差の狭間で苦心する製本会社……。
(これまでの連載タイトル)
1 自分が作った本を解体してみる
2 束見本を自分の手でつくってみた 協力:大日本製本
3 中本作りの大切さを痛感した 協力:大日本製本
4 「均し」と「寝かし」でいい本を作る 協力:大日本製本
5 紙の反りを活かす函作りの知恵 協力:岡山紙器所
6 紙を抄くー巨大製紙工場見学記(1) 協力:王子製紙

SANAI.JP  
『鉄火』 
写真:佐内正史/装幀:町口覚/編集:畑中章宏

写真家・佐内正史のサイトでは、写真集の印刷製本過程を日記のかたちでたびたび公開してきました。現在も2004.3.10発売の写真集『鉄火』(青幻舎)について日記で公開。この生々しさ。記録しようという意志がなければできません決して。