BOOK BAR 4 > 手製本 > 平まどかのベルギー製本留学記01 

かつてアトリエで席を並べていた頃からすでに抜群の熱い想いが平さんを包んでいたけど、そもそも製本に興味を持ったいきさつはなんだったのか。そのあたりからうかがいました。(2001.9.4 4-kama記)
1)coup de foudre、雷の一撃     

初の出会いは栃折久美子さんの本だった。それも、「モロッコ革の本」ではなく、「手製本を楽しむ」。これは夫の写真家、平カズオがもともと持っていた本で、彼は黎明期からのパソコンユーザー。DTPにも早くから興味を持っていて、参考になるかもしれないと思って買ったものらしい。

を話していたのかはもう忘れたが、この「手製本を楽しむ」を私に見せてくれた。広い家ではないのに、こんな本があるとはそれまで知らなかった。ぱらぱらとめくって、最後の著者紹介のところを見たら、池袋のコミュニティーカレッジでアトリエが開かれているという。パンフレットを貰いにいったら、丁度「ルリユールの歴史」の公開講座があったので、まず出席してみることにした。

は若い頃から、フランス文学やフランス映画が好きで、そこから発展してヨーロッパの歴史に興味を持つようになっていた。大人になってから知り、好きになったものにミニアチュール、細密画があった。インドのミニアチュールも有名だが、私が好きなのはヨーロッパのもの。有名なのでは、

(下写真は本文のなかの一ページ) などがある。ミニアチュールといったら、もう中世の写本。ということで、ヨーロッパに昔から革で保護された手作りの本があることは知っていた。でも、それが現代でも職業として成り立っていることを知ったのは、実はこの栃折さんの公開講座だった。

講しようと決めたが、私は美術の教育は受けていない。どこまで出来るか自信がなかったので、まず出来て間もない「私家版作り」に参加してみることにした。長期の講座をとって挫折するのがいやだったからだ。「私家版作り」はワープロで自分の好きな本文を作り、自分で本に仕上げる。本格的なパッセ・カルトンとはずいぶん違うが、最初から「本を作る」ということに強く気持ちが傾いていった。半年ほど「私家版作り」に通って「入門コース」に入ったのだったと思うが、もうその頃には将来、製本を一生の仕事に出来ればいいなあ、と考えていた。

ルギーに行ってから覚えたフランス語で、「ひとめぼれ」をcoup de foudreという。直訳すると「雷の一撃」となる。雷が鳴って稲妻が走る、あの感じだろう。私にとっての製本の「発見」は、かなり短期間の出来事という意味で、まったくcoup de foudreだった。その時から約2年間の準備期間を経て、身の程知らずな留学が始まることになった。
参考
・栃折久美子のルリユール工房
・平カズオ写真集『香港』(モール出版:新聞折本第二号参照
・川戸正嗣氏による平夫婦面会記