まず、「銃声作って欲しいんだけど」と頼まれます。
「うん。いいよ」安請け合いします。
「で、どんなふうにすればいいの?」
「えーと。印象的な銃声、だって」
「印象的な銃声?」
たいへんです。
受注内容は、残響の少ない、印象的な銃声です。
「ぱん」
たしかに印象的ではありません。
のばせばいいのかな?
残響はダメだと言われても、伸ばすしかありません。伸ばすことにします。
まず、口で銃声の真似をしてみます。
「ばーん」
「ばーーん」
「ばあああん」
うん、これくらい。
「ばあああん」と口で言ってるのをコンピュータで録音して秒数を計ります。
自分で「ばあん」と言ってるのを聞くのは恥ずかしいです。
だいたい2.4秒(だったかな)。
銃声は1秒しかないので、
とりあえず240パーセント伸ばしてみます。
あれ。だめじゃん。
150パーセントくらいだと?
だめじゃん。
不自然です。
うーん。
コンプレスしたりイコライジングしたりいろいろします。
伸ばすのに失敗して朝を迎えます。
「ごめん、できなかった。明日までに作る」
さあ、気を引き締めてあと10時間!
しっかしどうするんだ。
伸ばすしかないってのが基本方針なのに。
伸びない。
とりあえず波形をもう少し詳しく解析してみることにします。
スペクトルも見ます。
やっぱ低音足したり圧縮したりは必要。
波形を拡大します。
むむ。
なんか段階に別れてます。
ふむ。
ひとつの要素をセレクトして聞いてみます。
1/1000秒刻みです。
はじめは激鉄の音!
ふたつ目は爆発する瞬間の音!
みっつ目は爆発が広がる音!
四つ目は空気が響く音!
なんてこった。
全部を伸ばしちゃダメなんだ!
ひとつめは鉄の音だからそのまま。
鉄の音は人間の感覚で敏感に捉えられてしまいそうだから。
ふたつめはちょっと迫力を付けてあげよう。
みっつめはがつんとのばしてこれも迫力を。コンプレスして冗長にならないように。
よっつめはこれも固い音でがつんと。
作業。
合成。
いちおう四パターン作って持っていくことにします。
残響がひとつひとつくせがあります。
決まりそうなのはあきらかにひとつ。
「できたよ」
「あんがと。これ採用」
「やっぱり」
おしまい。
今回分かったこと:銃声はいろんな要素に分かれているから気を付けよう。
台本に、「行軍の音」と書いてあります。
「なにこれ?」
「足音じゃない?」
「ふーん」
違うみたいです。
「違うみたいなんだけど」
「あの、映画見てみれば」
「うん」
太鼓の音でした。
「太鼓の音でいい?」
「いいよ」
(あのまま盗もう)
太鼓の音の途中から曲が重なってしまってそのままでは使えません。たいへんです。
まず、コンピュータに音を取り込みます。
ああ、ここからここまでが太鼓の音だけだから使えますね。
だんだかだんだん、だんだん、だだだ(ちゃーーーーん(曲))。
だんだかだんだん、だんだん、だだだだだ、だ、だんだん。
にしたいなあ。
ロールが足りない。
うーんどうしたらいいんだ。スネアロールなんてつなげないぞ。
スネアロールはちょっと嫌になるくらい大変な波形を描きます。
ただだだだだ言ってるだけじゃなくて、物理的な特性に従ってうなったりしてます。紙上の知識では。
とりあえずつなげてみます。
やっぱむりだよ。
トライ。
失敗。
(一日くらいくりかえし)
やけになってお酒を飲み始めます。
でやー。
失敗。
とりゃー。
突然うまく行きます。
わーい。
トリートメントして完成です。
と一言で終わらない。
太鼓の最後の音を自然に伸ばすために、手作業で複雑なディレイをかけまくります。
みっつできました。
こういうのは現場で音を出してみないとわかりません。
現地に赴き音出し。決定。
あーやれやれ。
今回分かったこと:つながらないはずのロールもお酒を飲めばあら不思議。