欧米における愛犬の飼育環境

ペット問題研究家
山崎 恵子


 犬を飼育することに関して欧米と日本の最大の違いは何かと考えてみると、それはおそらく「飼育場所」、ということになるでしょう。つまり、マンガておなしみのスヌーピーの様に屋外の犬小屋に「住んでいる」犬は決して典型的な家庭犬ではないのです。

欧米においては多くの犬が、たとえ超大型犬種であろうとも室内で飼育されています。当然日本より家の面積も広く、かつ、土足で室内に入る習慣のある国々においてはそれはたやすいことかもしれません,。また最近では我が国でも大型犬を室内で飼育する人がだいぶ増えてきたようです。それでも 「一般論」としては、依然として「犬は外」が基本になっていると言わざるを得ぬと言えましょう。今回はこの点がいかに飼主と愛犬の関係にとって深い意味を持つものであるかをお話ししましょう。

情報化の時代においてはどの国にどのような制度が存在するかを語ることはあまり意味がありません。いかなる個人でも知りたいと思うことは比較的容易に調べることができる世の中においては、情報の解析こそがむしろ大切になってくるのです。そこで前述した日本と欧米の違いを愛犬のしつけと結びつけて考えてみましょう。

 以前、児童心理の専門家が子供に鍵忖の個室とはなげかわしい、と語っていましたが、それは個室という空間に入ってしまうと親が全くその子の行動を見ることができなくなってしまう訳であり、そのような状況は特に小学生等の若年層においては家族との信頼関係の確立のさまたげにもなることがある、と言うことでした。

犬の飼育も同じことなのです。私はしばしば人間と動物を同レベルで比較しすぎると批判されるのですが、子育てと「犬育て」の両方を経験した者としてはどうしても類似点が目についてしまうのです。さて話しを欧米型の室内飼育と日本ではまだまだ多すぎる屋外飼育の比較に戻しますが、一日のうちの大部分を飼主とは「別の空間」ですごしている犬に言うことを聞かせるのはたいへんむずかしいのでは、と私は思います。

また飼主が管理することのできぬ屋外環境の様々な因子が悪癖の原因にならぬとも限りません。「十分に運動をさせ、遊んでやっている」と「寝起きをともにする」ということは決してイコールでは結ばれないのです。たしかにどちらも大切であり、ただ家の中におく、というだけては十分ではありません。しかし、逆に言えばどんなに積極的にコミュニケーションを取っていると思っていても、触れ合っていない時間にも愛犬のささいな行動が飼主の視界の片隅に入っている室内飼いに屋外飼育はまけてしまうのです。

またしばしば話題になる「アルファー化」、犬に対して飼主がりーダーシップを発揮することも、犬が飼主と「同じ群」に属していなければたいへんやりにくくなってしまうでしょう。しかし、一日の大半を群れの他のメンバーから離れている犬にとって本当の群れとは―体何なのてしょうか。もしかしたら近所の他の「外飼い君達」? 自分の前を通過して行く 「お散歩組]、野良君達?

欧米では犬と寝起きをともに育ってきた人々がたくさんいます。それ故に盲導犬等の補助動物に対しても、動物を用いたセラピーや訪問活動等にも、一般人のみならず、公共施設の管理者達までもがたいへん深い理解を示す場合が多いのです。


優良家庭犬普及協会の会員の方々はどうか今後とも日本の状況の批判よりも、何が、どうして欧米と異なるのか、そしてそれをかえて行くためにはどのような理論武装をして周囲を説得して行けば良いのかを考え続けて下さい。

自分の愛犬をしつけることはむろん大切ですが、その愛犬のために住み良い社会をつくりあげて行くのも皆様の飼主としての責任の一端であると思います。

赤ちゃんを子供部屋のベビーベッドにねかせて育てる欧米の習慣が犯罪の多い暴力的な社会の根本的な原因の一つである、とも考えられるのであれば、屋外飼いは我が国の「ワンワン無法地帯」の根本的な原因の一つである、と言えるのではないでしょうか。

優良家庭犬普及協会広報誌「OHワンダフル」創刊号(20.March.1995)に掲載

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