目で話して!!

ペット問題研究家
山崎 恵子


 つい先日テレビを見ていたら「天才チビッコ」を扱った番組をやっていました。よくあるやつです。チャンネルをかえようと思ったその時大きなゴールデンを連れた小さな少年が画面に登場したのでそのまましばらく見ていました。「天才チビッコ訓練士」という触れ込みでした。直立不動で「スワレ」、「トベ!」と号令を出すその姿を見て何やらぎこちなさを感じていたのですが、しばらくするとどうも何かおかしいのです。

一体何なんだ、と自分でも思いながらさらに画面を見つづけたのてす。その時私はハツとしました。何と少年は犬の顔を見ていないのです。そうです。 no eye contact (ノーアイコンタクト)。
何かとまどいを感じると少年の目は、常にカメラの向こう側にいる 「誰か」に救いを求めるように、犬からますます離れてしまうのです。そうじゃない」うまく行かなかったら犬と目で話し合え!」と私はおもわず画面に向かってさけんでしまいました。

私自身はショ一にも競技会にも出たことはありません。きちんとしたリング・マナーをおぽえるためにはあまりデレデレと犬の方を見てはいけないのだ、と言われればそれまでです。しかし、競技会等に出ておられる協会の会員の方々の中で、私が特にいつも安定していて気持ちが良いと思うペア(犬と人間)は、何かの動きにはいる前にはかならず互いに目でつなぎ合っているのです。難しい訓練など何もやったことのない私ですが、相手の顔を見て相手の気持ちを察することはどのような動物を飼っている時でも私にとっての基本でした。(そうです緑ガメのガメラちゃんと毎日アイ・コンタクトをしているおバカは私です。)

天才少年の犬はダンベルを投げてもらう前に十分に目で投げるよと言ってもらえず、いつのまにか飛んでいってしまったダンベルのあつかいがわからなくなってしまい、スタジオをうろつきはじめてしまいました。ダンベルを探している、と言うよりは気が散っている、という様子でした。少年は必死になって犬の名を連発しているのですが、犬は少年の方に行きません。そこで少年はカラーをつかみ物理的に犬を思う方向に引いて行きました(犬の顔はあっちを向いたまま)。

 「オイオイ、いやがってるじゃないか!モーティベーション、モーティベーション!レバーでもおもちゃでも出せよ!」とまたまた下品な声を上げてしまいました。そうりングの中では「飛び道具」を使ってはいけません。でもりング・マナーの前に本当に教えるべきものがあるのでは私はこのテレビに出て緊張しているかわいそうな少年に少々きびしすぎるのかもしれません。おそらく家に戻ったら少年と犬は互いに見つめ合って楽しく遊んでいるのでしょう。ただたまたまその少年の年令がうちの次女とそうかわらぬと言うこともあって、画面に写し出されたペアとノーテンキな娘が祖母の犬と遊ぶ姿をくらべてしまったのでしょう。

生後8ヵ月頃まてホームレスをやっていたこの犬は私の友人に保護され、後に主人の実家に飼われるようになりました。8ヵ月分の恐い思いやつらい生活のおかげてこの子、“ルーク”は今だにたいへん臆病です。それでも義父母とのゆったりとした生活の中でだいぶ自信を付けてきたように思えます。とても頭の良い子なのてすが、私はなかなか彼に伏せを教えることができませんでした。彼の性格もあって、100パ一セントモーティベーションだけでおしえようと心に決め時間がかかるのは仕方がない、と考えてもいました。

ところがある日次女がじっとルークの顔を見つめ何やら話しかけているのです。「わかった、こうするのよ、いいわね」

そう言うと彼女はルークの前の地面にペタッと腹ばいになってしまったのです(ゲゲッ!白いブラウスが……)。それをじっと見ていたルークは次の瞬間何と伏せをしたのです。彼女が立ち上がるとルークも立ち上がってしまいました。

これはけっさく、リングの中でハンド・シグナルならぬボディー・シグナルは使用しても良いのだろうか……とはその時は考えませんでした。しかし、それから娘を  良く観察しているとレバーをあげる時も、何かをさせようとする時も、私に「ママ、これできるから見て」と言っている間でさえも、いつもルークと目で話しています。私はこの子が天才チビッコだとは決して思いません。ただとても自然に生物と真の兄弟関係をきずいてきた一人の人間だと思います。

 犬と生活をエンジョイするためには色々なやり方があるでしょう。アジリティをやるのもよし、フライボールをやるのもよし、ショー・リングに上がりたければそれもよし。でも忘れてならぬものは最も根本的なところは皆同じである、ということです。もちろんコンパニオン・ドックとして生活を一緒に楽しむだけであっても同じことです。じっと目を合わせてまず犬の「言い分」を聞いてやるところからはじめて下さい(攻撃性の問題をかかえている方はチョット待った…ですが)。

親が自分の言い分に耳をかたむけてくれる、という安心感があってこそ子供は外の世界にはばたくことができるのです。犬も猫も、ウサギも、モルモットも、カメも(?)皆同じではないでしょうか。まず親である飼い主が自分の子供の気持ちをだれよりも深く理解してやって下さい。そして親の見栄や理想を押しつけるのではなく、親子が互いに話し合いながらどこをどう歩いていくかを決めて下さい。自分とコンパニオン・アニマルとのあるべき姿は自分達で決めるものであって人に決めてもらうものではありません。ただし自分達の行動が周囲の人間を一人でも不幸にしてしまったら、自分達もまた幸せにはなれぬのだという認識だけはしっかりと持っていて下さい。

近所の猫に呼びとめられ「ナニシテルンダニャー」と目で聞かれてしまい思わず「お買物に行ってきたのよ]と声を出してしまう私はやはりおバカでしょうか。

優良家庭犬普及協会広報誌 「OHワンダフル」第3号(25.March.1996) に掲載
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