海外愛犬事情

ミラノより

(2)

青木邦子 

 緑と花に囲まれた、素晴らしい季節になりました。今、私たちはミラノの春を満喫しています。
芝生の中には、マルガリータという小さな花が咲き乱れ、今にもサウンド・オプ・ミュージックのドレミの唄が聞こえてきそうな中、二頭の犬たちと毎日散歩を楽しんでいます。 

この時期には子犬の数が大変多く、シェパード、ボクサー、ラブラドールなど、3ヶ月位の子犬が大きな犬の中て遊んでもらっている光景をよく見ます。小さなうちから犬社会の中に入れてやるようで、子犬を連れた人は、大きな犬を見ると近づいて来て、「遊ばせて」と言って子犬を離し、大きな犬に預けてしまいます。子犬が少しおびえたりしても、黙って見ているだけ、大きな犬たちも上手に遊んでやります。
大きなグレートデンやシェパード、コリーそして私のシリウス、プロキオンたちか、ゴールデンの子犬エリオット、シェパードの子犬オルワ、ボクサーの子犬エヴァたちと一緒に芝生の中を駆け回っている様子は本当に素晴らしく、子犬か転んだとか、尻尾にかじりついたとか、回りで見ている人たちも、その都度大笑いしたり、そんな時は言葉の違いなど忘れてしまう程てす。

 ところで、殆どの犬たちには、登録ナンバーか入れ墨がしてあります。それは耳の裏であったり、おなたであったりするのですが、ちょうど車のナンバーと同様なものです。シリウスもプロキオンもこちらに来ると同時に市役所に登録を済ませ、ナンパ−はもらっていたのですが、入れ墨をするのは何となく気が進まなくて、半年程、しないままでいました。が、入れ墨かないと、罰金(日本円で2万円位)と犬の没収というようなことも有り得ると聞いて、慌ててすることにしました。
病院によっては麻酔をして入れ墨をすることもあるらしいのですが、わか家の場合には、まあ大丈夫だろうということで、麻酔なしで始まりました。まずプロキオンから手術台に乗せ、内股の毛をハガキ大の大きさにパリカンて刈り、電器針でMI58-6692と入れるのてすが、やはり痛いのか、泣き叫ぶプロキオンを3人で押さえなから、15分くらいかかってようやく終わりました。その間シリウスは、プロキオンか泣き叫ぶ度に、唸って抗議をしていました。次はシリウス、プロキオンとは違い、大変我慢強く頑張って、10分ほどでM158−7022という入れ墨が入りました。それにしても、こんなに大きくしなくても、と思う程大きいものです。犬によっては耳の裏に小さく収まっているのもあるのですが、犬友達のエダ(コリー)のママなどはこれを見て、「とんでもない、私は絶対させない」と叫んでいました。

 ゴールデンのエリオットも日増しに大きくなり、と同時に私たちもエリオットの家族と親しく付き合うようになりました。先日、プロキオンが尻尾の先をケガした時にも、娘さんのエヴァか飛んて来て病院に連れて行ってくれ、本当に助かりました。そんな付き合いをしている中、エリオットのお父さんに誘われて、イタリア・リトリバー・クラブに入りました。4月9日には、ジェノバ近くの村で開催されたエキジビションにも参加し、エリオット、プロキオンがコンテストに出場しました。結果は出場しただけということに終わりましたが、それでも自分の犬は一番だと、お互い、意見は同じで、イヌパカはイタリアも日本も同じです。

 先日テレピでミラノで開催それた世界選手権というのを放映していました。色々な種類のチャンピオン犬が世界中から集められて競ったのですが、No.1になったのは何と秋田犬でした。イタリアで生れ、育った犬のようでしたが、なぜかとても嬉しく思われました。
こちらに来て間もない頃、「日本から来て、どうして秋田犬を連れて来ないのか」と聞かれた事があり、その時はあまりよく分からなかったのですが、イタリアでは秋田犬はあこがれの犬のようです。

 こちらでは、多くの人が山小屋を特っていて、金曜日の夕方から日曜日にかけて山小屋で過ごす訳てすが、もちろん犬も連れて行きます。何頭もの犬を持っている人は、犬専用のワゴンをけん引して連れて行きます。山小屋に行かない人たちは、犬を連れて公園に集まって来ます。
私たちも日曜日には公園に行くのですが、それはそれは壮観です。3頭のボルゾイが飼い主の回りを優雅に歩いていたり、イングリッシュ・シープ・ドッグがゆったりと飼い主の後ろを歩いていたり、若いプラック・グレートデンが気の合う仲間と走り回っていたり、私にとっては、まるで夢の世界のようてす。
そうした中に先日私のあこかれの犬、セント・バーナードを見つけました。犬を飼うならこの犬と決めていたのですが、成犬になると100kg近くになるため、日本の家では挟すぎると諦めた犬です。このセンド・バーナードはまだ若い犬でしたが、大変落ち着いており、私が近づいて「立派ですね、触ってもいいてすか」と聞くと「大丈夫」という返事が返ってきましたので、手の甲を鼻につけ、挨拶をしてから顔から耳とかあごを触らせてもらい、私はもう感激してしまいました。その犬の名前はゴルピーと言い、彼の前てはシリウスもプロキオンも小さく見えました。

 こちらには、大きな犬ばかりではなく、小さな犬も数多くいます。マルチ−ズ、トイ・プードル、バグ、ミニチュア・ダックスフンド、バセット、コーギーなどなど、たくさん見かけますが、小さな犬は飼い主がキチンとリードをつけ、あまり犬同士で遊ばせることはありません。ちょっとお澄ましをして通り過ぎて行きます。首輪なども、光る石が入ったものとか、柄ものとか、とてもお洒落です。冬には小さな犬たちは殆ど洋服を着ています。イタリアらしく大変カラフルで、ワンピースあり、ツーピースあり、スカートあり、パンツありといった中で、おもしろいと思ったのは、背中にハンドパックの手のようなものがついた洋服です。自分の犬が大きな犬を見て怖がったりすると、その手を持って、まるでハンドバックを持つようにぶら下げて歩いて行きます。初めて見た時は、笑ってしまいました。

 ここで、イタリア式挨拶の仕方を一つ、犬を連れている人に、「貴方の犬は立派ですね」と言うと、「すごくカッコイイだろう、それに頭もいいんだ」と返事が返って来ます。又、別の人に、「貴方の犬はどう言う種類犬ですか」と聞くと、「私のミックスよ、この尻尾は母親譲りで美しいでしょう」と言う返事が返って来ます」決して「私の犬はバカで」とか「たいした犬じゃないんだよ」などと言う返事が返ってくる事はありません。いつも自分の犬は他の誰の犬よりも素晴らしいという返事しかあり得ないのてす。そんな時、連れられている犬は、頭を上げ、目を輝かせて飼い主を見ています。犬もちゃんと言葉がわかります。私もこれは絶対に見習って、シリウスやプロキオンが、「お母さん、カッコイイことを言ってくれている」と胸を張って、目を輝かせるようにしなければと思っています。

 それでは、二頭の賢い犬たちと一緒に  “アリヴェデルチ”

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優良家庭犬普及協会広報誌 「OHワンダフル」第二号(20.September.1995)に掲載
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