海外愛犬事情

ミラノより

(3)

青木邦子 

  バカンスも終わり、団地に人も犬も帰って来ました。エリオットも2ケ月のバカンスから帰って来ました。海へ行って泳いでいたとか。エリオットの家は、サルディニアという島に別荘を持っているので、大学生のエパがずっと連れて行っていたのですが、帰って来たエリオット君、2ケ月前とは見違える程大きくなり(チョッと太り過ぎと思うのですが)、立派になりました。
“立派になったね”と言うと、”たくさん泳いだから、胸も広くなって立派でしょう”と言う返事。それにひきかえ、我が家のプロキオンはエリオットの半分程の腹囲しかないように見え、“プロキオンは細すぎる”とエリオットのママ。プロキオンは痩せ過ぎと思われているようですが、大変元気ですし、食事の量もそれ程少なくはないし、私は全く心配はしていません。でも、エリオットのママに言わせると”これから冬に向かってプロキオンはかわいそう、エリオットはリゾと肉、パスタとチーズ、ヨーグルトを食べてこんなに立派になったのだから、プロキオンもそうなさい”、“チョッと待って、それじゃドッグフードは”と私、“そっちは全然食べなくなった”とエリオットのママ。等々大騒ぎしながら、彼女はイタリア語のあまりわからない私に一生懸命犬のためのリゾの作り方を教えてくれるのです。これには私も困ってしまいました。

 そんな事があってしばらくして、これも又ゴールデンなのですが、ちょうど1歳になるリザという子に会いました。その子も1ケ月前に比べると、見事に太ってコロコロなのです。
”何を食べさせているの”と聞くと、“リゾにパスタ、お肉に∃ーグルトとエリオットと同じ食事、でもさすかにリザのお姉さんぱ太り過ぎよね、ブタみたい”と笑ってはおりました。

 こんな事を書いてばかりいると、イタリアは皆そうなのかと誤解されても困りますので、大変立派な犬とその飼い主を紹介したいと思います。

 いつものように2頭をつれ、その頃はプロキオンも1歳2ケ月、元気な盛りで振り回されながらの散歩をしていたのてすが、前方から1頭のシェパードを連れた女性が歩いて来ました。そのシェパードはその女性の左側をそれはそれは見事に歩いているのです。

 一目見て、この犬は他の犬とは違うと判かる程、きれいに歩いて来るのです。で、私はその女性に“貴方の犬は何て素晴らしいのでしょう・・・どうしたらそんなになるのですか”と聞かすにはいられませんでした。
すると彼女ぱ素晴らしいでしょう、私が教えたの、私はドッグスクールの教師なの”と答えてくれました。そして彼女はその犬に色々な事を命令し、私の前でやって見せてくれました。
速く歩く事、遅く歩く事、伏せたままの前進、等々それはそれは素晴らしい身のこなしで、私にとってはこんなに美しく動く犬を見るのは初めての経験でした。
この犬はイタリアの大会に出場して一位になったばかりとの事だったのですが、それが2歳半になるシェパードの女の子、ホクシーだったのです。連れていた女性はリ夕という名前ですが、リタが“リープ口(自由)”と声をかけると、ホクシーはシリウス、プロキオンの所へ飛んで来て、3頭仲良く遊び始めました。
私は、もうその時、この人にプロキオンを見て貰おうと思い、さっそくお願いしていました。

 それからプロキオンのレッスンが始まりました。始まってみると、何と日本でシリウスが受けた方法と同じやり方でした。
一つの事ができるとご褒美に一口のチキンを与え、褒めたたえる。決して無理やり躾けるのではなく、飼い主も犬も楽しんで覚えていくというやり方です。
ただ時々リタに“邦子は喜び方が足りない"と注意を受けましたが、“これは日本人とイタリア人の表現の仕方の違いで、仕方ないのになあ"などと思ったものです。

 プロキオンもリタが綱を持つと、どうしてあんなにできるのかと思う程上手に動きます。やはりリタはプロフェッショナルです。
基礎的な事を覚えるまで、毎日、と言っても土日に休みですが、30分ずつ20日間、覚えて来たら時間を短くして、決してダラダラとはしないのです。
又、リタは、生徒ではないのですがいつも一緒にいるシリウスにも大変気を配り、まずシリウスに基礎的な事をやらせ、充分褒めたたえてからプロキオンに教え始めるか、又時には2頭一緒に相手をしてやる事もあって、2頭ともリタが大好きになりました。でも“私の犬ではなく、邦子の犬だから、邦子の言う事をチャンと守るようにしなければいけない"という事で、リタが10分位やった後、私が20分位やるという20日間でした。
 この20日間を終え、プロキオンも少しは上手に歩けるようになりましたが、何と言ってもリタ、そしてホクシーと知り合いになれた事、イタリアの訓練の仕方に触れられた事で、私にとっては本当に有意義な20日間でした。

 躾の仕方が日本の時と全く同じだったという事で、きっと日本でも今にイタリアにいるような犬がたくさん増えていくだろうと思うと、本当に嬉しくなりました。インストラクターの皆さん、どうぞ頑張って下さい。

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優良家庭犬普及協会広報誌 「OHワンダフル」第三号(25.March.1996)に掲載
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