海外愛犬事情

ミラノより

(4)

青木邦子 

夏が過ぎるとアッと言う聞に秋が終わり、遠くに見える山々は白いベールを被った冬景色に変わり、夜空にはオリオン座が輝くようになってきました。
日本と比べ、星の位置はかなり違うようてすが、それでも大変美しく見ることができます。

 日が短くなってくると、このミラノでは4時から5時半頃がお散歩タイムのピークになるようで、家族揃って散歩に出てきます。イタリア人は大変散歩の好きな国民のようで、殆どの人が散歩をします。
奥様は毛皮のコートを羽織り、バッグを持ち、ヒールを履き、宝石もたくさんつけて、そのまま高級ホテルでお食事と言ってもいいような装いで、又、ご主人はきちんとネクタイをつけての散歩です。年を取ったご夫婦は手をつなぎ、皆一様にゆったりとした歩調でお喋りを楽しみながらの散歩です。勿論、犬も一緒で、飼い主達が話している間は、自分も好きな匂いを嗅いだり、仲のよい犬と走り回ったりしています。

バール(喫茶店のようなもの)に集まってお喋りをする若い人達と一緒の犬達は、前の芝生で遊んでいるといった光景が毎日のように繰り返されています。芝生の中で遊んでいる犬達を、ヒールを履いたり、皮靴を履いた人が芝生の中に入って追い回したり、取り押さえたりする事は決してありません。何かあると犬を自分の所に呼ぶのです。犬も呼ばれるとチャンと飼い主の所に帰ってくるのです。

日本ではよく犬を捕まえるのに、人が走って追いかけるという姿をよく見かけますが、こちらでは殆どそういうことはありません。帰ってこない犬は飼い主が無視をするのです。すると犬の方が“これはまずい”と思うのか、慌てて飼い主を追いかけてきます。

 私は、シリウスの場合は何かあると飛んで行ったのですが、プロキオンは全くイタリア式にと思い、育てています。そのためか、遠くにいてもシリウスの所在を頭に入れ、行動しているようです。好きな匂いを見つけ、呼んでも帰って来ない場合には、無視してシリウスと歩きだすと慌てて飛んできます。

 シリウスは6歳になり、私の言う事は殆ど理解できるようで、大変上手に散歩ができます。殆どリードをつける事もありません。それでも、小さな子供が危なっかしい足取りで近づいてきた時には、何かあってからではと思い、リードをつけますが、それ以外はいつもフリーです。こちらでは、小さな子供、まだおむつも取れないような子供が大きな犬に近づいて平気で遊んでいます。親の方も、あまり気にしないようです。ただ初めて会った時には、“貴方の犬は大丈夫か”と聞かれますが、大丈夫と分かると子供がしたいようにさせます。シリウスは小さな子供が来ると、ゴロッと横になり、尻尾を持たれようが、耳を引っ張られようが、子供にさせたいようにさせています。プロキオンは伏せをしてやはり何をされてもじっとしていますが、早くどこかへ行って欲しいというような困った顔を見せる事が多いようです。

 いずれにせよ、このようにして犬は人間の友達である事を子供の頃から経験的に覚えていくようです。こちらに来て間もない頃、2頭を連れて散歩していると、そのままモデルさんでも大丈夫といった素敵な女の子達が立ち話しをしている所へ、シリウスとプロキオンが行ってしまい、私は”洋服を汚しては”と思い、慌ててつなごうとすると、その中の一人が “この犬達は何か問題があるのか、かみつくのか”と私に聞き”別に問題はないが、洋服を汚すといけないから”と答えると、“それなら気にしないで。自由にさせておいて”と言われ、感激した事がありました。

 犬を取り巻く人達の考え方が日本とは大きく違うように私は思えます。テレビに出てくる犬は可愛いし大好き、でも実際に目の前に来るとやはり怖さが先に立ってしまう。これをイタリアのように全く気にしなくなるには、どのようにしていったらよいのか、非常に難しいことのように思われます。よい犬をたくさん育てていく、そして犬の事を多くの人に解ってもらう、それには犬を飼う人が自らの考え方を変えていくことがまず第一番目に必要でしょう。

 日本には、私の犬は血統がすごく良くて、高いんだと自慢するような飼い主がたくさんいますが、イタリアではコンクール会場でのブリーダー間の話は別にして、一般の人達の間でそのような話が出る事は全くと言っていい程ありません。

 この犬はフランスで生まれたから、フランスの作家の名前をつけたんだ、サガンというんだよ、などと自慢する観点が違うのです。もし私が、“私の犬はすごく高い犬なのよ”などと言ったら、私はきっととても恥ずかしい思いをしなければならないでしょう。そんな雰囲気なのです。

 よい犬をたくさん育て、本当の犬の姿を理解してもらうために、優良家庭犬普及協会の皆様、どうか頑張って下さい。

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優良家庭犬普及協会広報誌 「OHワンダフル」第三号(25.March.1996)に掲載
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