海外愛犬事情

ミラノより

(5)

青木邦子 

ミラノヘ来て一年余りたち、この団地の中で、日本から犬を連れていらっしゃった方とお知り合いになりました。その犬の名前はクマ、名前は強そうだけど、小さなケアンテリア・グレーブリンドルです。年齢13歳の男の子で、短い尻尾をグルグル回して散歩しています。クマはウェールズ生まれ、イギリスから日本ヘ。 イギリスは犬の管理が大変厳しい国ですので、日本へ帰った時も検疫センターで止められる事なくそのまま出られたそうです。逆にイギリスに犬を連れて行こうとすると、一緒に暮らせるようになるまで、2ケ月はかかるそうですっでもイギリスの検疫センターは大変管理が行き届いており、ボランティアの人達が躾けもしてくれるとかで、見違えるように立派になって出て来るそうです。日本の検疫センターも是非イギリスのようになってほしいものてす。今の心配事はクマの家も我が家も、日本に帰る場合の検疫センターなのです。

 クマのママと散歩しながら、色々な話をするのですが、その中で、イギリスでは犬にも階級があるという話を聞きました。その犬の種類によって、どんな階級の人が持つか決まってしまうとか、さすが女王陛下の国とびっくりしてしまいました。でもこのイタリアてはそんな事は全くありません。今回はイタリアらしい話を皆様に紹介しようと思います。

 ミラノの街はドォーモ(大教会)を中心に放射状に広がっているのですが、そのドォーモ付近のお話です。

イタリアには他人から施しを受けて生活をしている人が沢山います。それは日本では考えられない程です。日本へ行った事のあるイタリア人は”日本ではお金を下さいと言って手を出して来る人に会った事がない”とびっくりするそうですが、私からすれば、街を歩いているとあちこちで、それこそ子供から大人まで”どうぞお恵みを”と手を出して来るほうが余程びっくりします。

 大きな犬を5頭連れたその種の人が、 ドオーモの前のアーケードの同じ場所にいつも座っています。他にも犬を連れて施しを受けている人が沢山いるようですが、何せその人は5頭の大きな犬、それも結構立派で毛づやもよく、人なつっこい犬を連れているのですから、大変目立ちます。その内の1頭が春に子供を生んだとか、その時には実入りが大変よかったとか、日本人なら考えがちな卑屈さなどは殆どなく、あっけらかんとしていますし、又通りががりの人達も犬の頭を撫でたり、日本人の私にはとても考えられない事です。”自分が食べていけないのに犬を飼うなんてとんでもない”と日本では多分そう言うでしょう。私もそう思いました。でもイタリア人と犬の関わり方は、飼うとか飼われるとかいう事ではないようなのです。だから施しを受けて生活をしている人が何頭犬を連れていようが、それはその人の自由であって、施しを受けて生活するという事とは全く別の話なのです。それの善し悪しは私にはわかりません。しかし、一緒にいる犬達は大変幸せそうに見えるのです。

 散歩をしていると、色々な事に出会います。この団地の中で、中国から来たという1歳半位の女の子を連れたお母さんと話をしたことがあります。その女の子は犬が大好きなんだそうで、我が家の2頭の犬を見て”どうしてもさわると言ってきかなくて”ということで近づいてこられ、私も“どうぞ”と言って2頭の犬を座らせ、女の子にさわらせてあげました。女の子はシリウスの耳をさわっては喜びの声をあげ、プロキオンの鼻をさわっては手をたたいて喜んでくれました。でもそのお母さんは”自分の国では犬を飼う事はとても難しい事なのです。犬の飼育に対する税金がとても高く、普通の人では、とても飼えません”と言って別れて行きました。こんなに犬を喜んでくれる子供がいるのに、と思うと何かとても悲しくなってしまいました。

 犬はいつでもどこでも人間の友達であるべきだと私は思います。

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優良家庭犬普及協会広報誌 「OHワンダフル」第四号(25.March.1997)に掲載
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