海外愛犬事情

ミラノより

(6)

青木邦子 

私が住んでいる団地の中には色々な商店が揃っています。
日常生活を営む分には、団地から一歩も出る必要はないと言ってもいい位です。お店を開けているのは、午前は朝9時頃から1時頃まで、午後は3時頃から7時頃までですが、その中のかなりのお店で犬を飼っており、そしてその殆どが店先で一日過ごしています。以前に紹介したランボー(ボクサー)はパンを買いに行くとレジの中に座っていたり、お店に来た犬に挨拶したりしています。又、お花屋さんのハスキーの女の子はお店の前でいつも寝ています。その子は人間は大好きなのてすが犬は嫌いとかで、シリウスが近づこうとすると、背中の毛を逆立てて怒ったりしています。洋品店のテリアの女の子はいつも頭にリボンをつけて、お客さんが来ると挨拶に飛んで来ます。その商店街のある棟の管理人さんの所には、大きな猫と小さな犬がいます。猫はいつもつながれていて、犬はいつも自由にしています。

 商店街の中にはいくつかのバール(喫茶店のようなもの)があり、お客さんが中にいる時には必ずといっていい程、足元に犬がいます。客の数と犬の数が同じ位という事もザラで、それでも犬同士喧嘩する事もなく、じっと待っています。私もこちらに来て、いつかは2頭を連れてバールでコーヒーでも飲んでみたいと思っておりましたので、先日、私にイタリア語を教えてくれている女性と一緒に、シリウスとプロキオンを連れて入ってみました。私達はコーヒーとサンドウィッチを注文し、シリウスとプロキオンは椅子にリードを掛けて伏せをさせて待たせておきました。中に1頭、シェパードの男の子がいましたが、お互いちょっと顔を見ただけで知らん顔、私達がサンドウィッチを食べ終わった頃には、2頭共スースー寝てしまい、我が家の犬達も立派にイタリアに馴染んだと、何かとても嬉しく、家に帰ってきました。

 その団地の商店街の中に、1頭ボスのような犬がいます。名前はボーボ、スポーツ用品店の犬です。シェパードで10歳位とか、身体は大変大きく、顔はシリウスの倍近くあります。ミラノに来て間もない頃、ボーボに会った時、私は2頭を連れて逃げ出した事があります。その時、一緒にいた老人が”大丈夫、大丈夫”と言ってくれたのですが、私にはとても大丈夫とは思えなかったのです。そのボーボがいつもお店の前で寝ているのですが、小さな犬が吠えようが、大きな犬が唸ろうが、全く無視して、いつも悠々としているのです。

お店がお昼休みになると、飼い主はかなりご高齢なご夫婦ですが、一緒に散歩に出掛けます。ボーボはご夫婦の周りから決して離れることなく散歩します。初め、私はもし犬が他の犬と喧嘩でも始めたら、この老人ではどうしようもないのではと思っていましたが、1年余りボーボと接して、どうも私の考えが間違っていたようだと気がつきました。先日もエリオットのママといつものように3頭を連れて散歩していると、ボーボとご夫婦が前から歩いて来ました。それは犬を散歩させるという姿ではなく、老夫婦の散歩をボーボがしっかりと守っているという様子にしか見えないのです。
ご主人が“今日は、皆元気かね”と言って通り過ぎて行きましたが、ボーボは3頭の方をチラッと見ただけ、あとは悠々とご夫婦の後ろを歩いて行きました。3頭の方はと言うと、シリウスは立ったまま動かず、プロキオンは伏せのまま、エリオットはシリウスにピッタリくっついて見送っていました。”私達の犬もああなるかしら”と私。”でも私達の犬はまだ若いから”とエリオットのママ。私達の犬がボーボのようになるのは、まだずっと先のことでしょう。

 今はまだ泥んこを見つけて、その中で転げ回り、公園の砂場では穴掘り競争、まだまだ遊びに夢中のエリオットとプロキオン、そしてママが怒り出すのではないかと心配気に見守るシリウスなのです。

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優良家庭犬普及協会広報誌 「OHワンダフル」第四号(25.March.1997)に掲載
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