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『シモンのパパ』(モーパッサン) 教 案 

(1)はじめに


☆ 「シモンのパパ」は誰もが素直に感動を覚える作品である。シモンは「父なし子」を口実にいじめられる。シモンとブランショットはこの事情のために村の中で積極的な関係を築くことができず二人だけで暮らしていた。シモンはいじめられた事で父親がいないことを痛切に感じる。精一杯の対処をする過程でシモンの感情は大きく揺れ動く。このようなシモンの対処や気持ちをブランショットとフィリップが深く理解する。彼らはシモンへの真摯な対応の上に、フィリップとブランショットの新しい関係が形成されていく。彼らは諸関係を発展させる深い感情を持つ個性として感動的に描写されている。この作品はトルストイの『モーパッサン論』にも「美しい短編」として紹介されている。これまで何度か授業で取り上げた経験から見ても生徒の反響は大きい。

●作者について
  「首飾り」の作者についてを参照。

〔概要〕
 シモンが初めて学校に行った時に、村の子どもたちがシモンを取り囲む。彼らの母親たちはシモンの母ブランショットを、父親のない子を産んだことで軽蔑し同情していた。母親たちはブランショットと距離をおき、ブランショットも彼らとの付き合いを避けてきた。子どもたちには母親たちの抱いているブランショットへの感情が感染していた。子どもたちの間ではシモンが父なし子だという噂が広がっていた。
 村の子どもたちは父親がいないことでシモンをからかう。シモンは何とか言い返そうとして「うそだ。パパはいるんだ。」とでまかせに叫ぶ。このことがかえって子どもたちを勢いづかせる。後家の息子に目をつけて言い返すがシモンの言い分は通らず後家の息子の言うことは支持される。シモンは、彼らのほうが強くやり返すことが出来ない、自分にパパがいないのは本当だと悟った。シモンはこのことが悔しくて泣き始める。シモンが泣いたことで、他の子どもたちはますます勢いづく。
 シモンはたった一人で子どもたちに立ち向かう。子どもたちはシモンに恐れをなして散り散りなって逃げ出した。子どもたちがいじめる様子とシモンの立ち向かう様子が描かれているこの場面は、生徒に強い印象を与える。
 シモンは「川へ身投げしよう」と決心する。数日前乞食が身投げしたことから、彼は身投げを思いついた。シモンは川の美しさや魚や虫に心を奪われる。そして母親のことを思い出す。シモンは「周りの何ものも目に入らず、ただ泣くことに夢中」になる。
 偶然に通り掛かったフィリップがシモンに声をかける。シモンが激しく泣いている様子がフィリップの目に留まった。フィリップはシモンがブランショットの息子だということを認める。フィリップはシモンに「パパなんて……いくらでもできるさ」と言って慰める。フィリップはシモンにすぐに信頼される。
 フィリップはシモンを連れていくときに村で評判の美人のブランショットという女に会うことに悪い気はしなかった。しかしフィリップはブランショットと会って、冗談口を叩くことの出来る女ではないととっさに悟った。フィリップはブランショットのシモンへの深い愛情を知って感銘をうけている。シモンはフィリップにパパになってほしいと頼む。フィリップはブランショットの前で「いいとも、なってやるよ」と答える。この言葉はシモンを「すっかり安心」させる。フィリップの約束はシモンにとって大きな支えになる。
 シモンはフィリップを支えにして、いじめっ子たちの前で毅然とした態度を貫く。彼は三カ月のあいだ、精を出して学校に通い、フィリップの仕事が終わると一緒に散歩することが楽しみだった。
 一方で、フィリップがブランショットに話しかけるようになってから、ブランショットへのあらぬ噂が立つようになった。
 例の男の子は、再びシモンに、「完全なパパじゃない」という言葉を持ち出す。シモンはこの言葉を撥ねつけるが、シモンは完全なパパじゃないという言葉に思い悩んで仕事場のフィリップに相談に行く。鍛冶屋の職人たちは仕事を中断してシモンの話に聞く。
 フィリップ、ブランショット、シモンの関係は進展しており、フィリップの決断だけが残っている。鍛冶屋の職人たちはフィリップの決断を促し、フィリップはブランショットへのプロポーズを決める。
 フィリップは鍛冶場の仕事の様子から仲間の信頼の厚い優れた職人であることが伺える。一緒に鉄を打つ姿に、フィリップの力強い決意と職人たちの祝福の気持ちが描かれる。
 夕方フィリップはブランショットを訪問する。ブランショットは日が暮れてからのフィリップの訪問に戸惑う。フィリップはブランショットに「そんなことは何でもないさ。おれの女房になってくれる気さえあれば」とプロポーズする。
 シモンはその次の日に学校で、「ぼくのパパは、鍛冶屋のフィリップ・レミってんだ。ぼくをいじめるやつがあったらみんな耳をひっぱってやるって約束してくれたんだぞ。」と宣言する。

〔発問例〕
◇シモンがブランショットと二人で暮らしているのはどのような事情があるからか。
・ブランショットは夫婦になると約束した男がいたが、子どもが出来て男がにげてしまった。ブランショットはシモンを女手一つで育てている。

◇いくらか軽蔑のまじった一種の同情の気持ちとはどういうことか。
・父親のない子を産んだというので軽蔑し、可愛そうな女だと同情している。ブランショットに優越感や偏見をもっている。

◇学校に姿をあらわしたシモンの姿はどのようだったか。
・「色がなま白く、こざっぱりした身なり、臆病そうな、ほとんどぎごちない様子」( 筑摩)
・「とても小ざっばりとした身なりの、ちょっと顔の青白い子で、内気らしい、と云うよりは、むしろ何かぎごちない様子をしていた。」( 第三書房)
・初めて学校へきて、不安や緊張があらわれている。
・臆病そうなぎこちない様子が、他の子どもたちにつけいる隙を与える結果となった。

◇子どもたちはシモンに好意をもっていなかったのはどうしてか。
・今まで一緒にあそんだことがなかった。だから好意をもっていない。

*子どもたちはシモンを知らず、一緒に遊ぶ事がなかったためにシモンに好意を持てなかった。子どもたちは「父なし子」を口実にしてシモンにちょっかいを出す。子どもたちがシモンに興味を持ちちょっかいをかけることが、子どもたち同士の関係の始まりである。
 *村の子どもたちとの最初の接触で、シモンがどういう対応をするのかが試されている。子どもたちはシモンに好奇心を持っている。
 *「ててなし子」についての子どもたちの認識は大人とは違う。しかし、子どもたちの間で「父なし子」の噂が広がっておりシモンを好奇の目で見ていた。子どもたちは、客観的にはシモンとブランショットが孤立的である事をからかっている。
 *母親たちはブランショットを直接非難したり侮辱したりすることはない。あくまで表向きは愛想がよく、距離をおき、遠巻きにしている。それに対して子どもたちは直接的に関係を持つことによって激しい対立や新しい感情が生まれる事になる。
  *母親たちの距離を置いた対応と比べて、子どもたちは直接シモンと関係を持つ。

◇「おいお前の名前は何てんだ」について
*子供たちはシモンの名前がないことをからかっている。当時のフランスの名前の制度についてはよくわからないが,おそらくシモンが父親の姓を名のっていないことをからかっているのであろうと思われる。

◇みんながしんとなったときの子どもたちの心理はどのようなものか。
・シモンの反応を見てシモンが父親のない子だということが特別なことだと思った。
・子どもたちは異常な事柄、おそろしい事柄、異常な現象、自然からはずれた存在のように感じた。
・自分たちとは違うことを極端な形でこう思い込んでいる。
◇子供たちはシモンに父親がいない事情を理解しているわけではない。それがこのような極端な思い込みを生み出している。

◇シモンは大勢に取り囲まれて嘲笑されたときにどういう態度をとったか。
・「倒れまいとして木によりかかっていた」
・相手に言い返す言葉を必死に探した。
・悪童たちに対抗しようとした。
・でまかせに「パパはいるんだ」と言ってしまう。

◇でまかせに言ってしまったことはどういう結果になったか。
・彼らを勢いづかせることになった。

◇子どもたちはどのように描写されているか。
・「子どもたちの残忍な欲望」
・「人間より動物に近いこの田園の子ら」
・「めんどりが傷ついた仲間を殺してしまおうとするような様子」
・子どもたちの気持ちがエスカレートしていく様子が描かれている。

◇もう一人父親のいない子どもに対してシモンはなんと言ったか。
・「お前だってパパはいない」
・父親を亡くした子を味方にしようとする。
・シモンは取り囲まれ孤立した状況から必死で抜け出そうとしている。

◇シモンの主張が認められないのはどうしてか。
・いままでシモンは、村の子どもたちと一緒に遊んだ事がなく、誰も味方をしてくれない。
・後家の息子と子どもたちはいつも遊んでいる友達である。
・子どもたちにとって遊んでいるかどうかの違いは大きく、シモンが何を言っても受け入れられない。後家の息子が「得意になって相手を見下すような調子」をとることができる。
 
◇村の子どもたちの父親はどのように描かれているか。
・「性悪で酒くらいで泥棒で女房を手荒く扱う連中」
*他の子どもたちの家庭にもブランショットとは別の苦労がある。

◇「ふん、行ってパパに言いつけるといいや」と言われた後のシモンの心理の動きはどういうものか。
・彼らの方が自分よりは強いこと、自分は彼らにやり返すことができないこと、自分にパパがいないということはほんとだということを、はっきり感じた。
・シモンは村の子どもたちとの関係を端的に認識した。
・泣きはじめたシモンを見て、子どもたちは踊りはじめた。このことがシモンの捨て身の反撃を呼んだ。

◇シモンはどのような決心をしたか。
・「川へ身投げしよう」
・乞食の男のことを思い出して、身投げをした方が幸せだと感じた。

◇シモンの気持ちはどのように変化しているか。
・魚が泳いで、虫をとる動作に興味をひかれる。
・「パパがいないから身投げする」という考えがよみがえる。
・あたたかくていい気持ち。眠ってしまいたい。
・青蛙をつかまえた。おもしろい。
・兵隊のおもちゃを思い出す。
・母親のことを思い出す。
・急に悲しくなって泣きだす。
・泣くことに夢中になる。

◇このような変化からどのような心情が読み取れるか。
・川の様子に心を奪われて一時的に学校での出来事を忘れる。シモンの子どもらしい好奇心が描かれている。それでも彼の受けた傷は深く身投げの考えがよみがえってくる。
・青蛙に興味を引かれ、家にあるおもちゃのことを思い出したことから、さらに母親のことを思い出す。死んで母親にあえなくなることは悲しくてたまらない。自分を愛してくれている母親を悲しませることがつらい。
・死にたくないが、どうしていいかわからない。
・考えることをやめて泣くのに夢中になる。泣くことが心を慰めてくれることがある。

◇参考 授業展開例

(1)「シモンに身投げを思い止まらせたものは何か」という質問をノートに書かせる。
・魚が泳いで虫をとる動作に興味をひかれたこと。
・太陽が温かかったこと。
・母親を悲しませたくないこと。
・思いっきり泣いたからすっきりした。
・フィリップに「パパなんていくらでもいるさ」と父親がいないことが大したことではないといわれた。
(2)答えを紹介しながらこのときのシモンの気持ちの変化を板書する。
・この変化全体が身投げをする決心を忘れさせる結果となっていることを指摘する。

◇以下の文章に注目しながらこの場面でのフィリップ像について意見を求める。
「どっしりとした重い手、太い声、背の高い職人風の男、いかにも人の良さそうな様子」
「坊や、何がそんなに悲しいんだ」
「真剣な顔になった。」
「パパなんて・・・いくらでもできるさ」
*フィリップは落ち着いた態度でシモンを受け止めてくれた。このことでシモンは一目でフィリップを信頼し、安心して学校での出来事を打ち明けている。シモンの事情を聞くとフィリップは真剣になっている。彼はシモンを慰めて家まで連れて行くことにした。

◇フィリップが「急ににやにや笑うことをやめた」のはどうしてか。
・フィリップが予想していたのと違う雰囲気の女性だった。
・気軽に声をかけることもできないような緊張感のある女性だった。

◇ブランショットはどのような様子だったか。
・「厳然と門口に立ってい」た。
・厳しい表情、厳しい雰囲気をしていた。
・ 一度裏切られたことのあるブランショットは、男性を警戒している。
・男性と接触することによって、村の中で噂になることを警戒している。
[補足]*ブランショットは一人でシモンを産み育てている。このことがブランショットとシモンの厳しい運命を招いている。母親たちはブランショットの事情を知っており、村の狭い関係の中ではこの事情は知れ渡っている。ブランショットとシモンは村のどこにいても軽蔑や同情の対象になる。ブランショットは村人の態度や噂に心を傷つけられ、心を閉ざしている。彼女は村の人々とのつきあいを避けている。シモンはこれまで村の子供たちと遊んだことがなかったのは、ブランショットのこのような事情に基づいている。

◇「急に怖じ気づき…口ごもりながら『川のそばで迷子になっていたお宅の小さいのをつれて来てあげましたよ。』」にはフィリップのどういう心情があらわれているか。
・ブランショットの衝撃を思いはかってシモンの事情をストレートに話すことをためらっている。

◇「ちがうよ、かあさん、ぼく、身投げをしようと思ったんだよ。ほかのやつらがぼくをぶったんだもの……。ぼくをぶったんだよ……。ぼくにパパがないからって。」ここでのシモンの心情はどのようなものか。
・シモンはフィリップの気遣いを否定している。彼は学校での出来事と自分の行動をはっきりと説明している。

◇ 「ブランショットは屈辱のために・・」と描写されているが、この時のブランショットの感情はどのようだったのか。
・ブランショットはシモンを心配し、細心の注意を払って送り出したのに、それでもシモンが学校でパパがないからと言っていじめられたことに大きなショックを受けている。

◇「男は、帰って行くきっかけがつかず、感動してその場に立ちすくんでいた。」この時のフィリップの心情はどういうものか。
・ブランショットのシモンへの愛情の深さを目の当たりにして感動している。フィリップは、彼らの姿をみて、これまでブランショットが子どもを一人で育て、愛情をそそぎ、学校へ行ったシモンのことを心配していたことを理解した。

◇「おじさん、ぼくのパパになってね」ここにはシモンのどういう気持ちが表れているか。
・シモンはフィリップを信頼している。
・フィリップがパパになってくれれば子どもたちに対抗できると思っている。

◇「恥ずかしさ」とはどういうことか。
・フィリップがシモンのパパになることはブランショットの夫になることである。ブランショットはシモンへの愛情からシモンを制することができないでいたたまれない気持ちになる。

◇冗談に紛らせて答えるフィリップの心情はどういうものか。
・シモンの言動はフィリップにも意外だった。ブランショットの気持ちを配慮しまごつくが、シモンの願いを聞いてやるために「冗談にまぎらせて」引き受ける。ブランショットへの好意と、シモンの立場を真面目に考えてやる心の広さがある。

◇「ぼくのパパはフィリップてんだ」に見られるシモンの感情はどういうものか。
・逃げださないという気概があらわれている。

◇「シモンは何も答えなかった」に見られるシモンの感情はどういうものか。
・自分に自信をもっている。つまらないことに反応しない。
*これ以後、三カ月の間、「精を出して学校に通い、級友たちのあいだでは、なにを言われても口答えせず、けなげな威厳のある態度を保ち続けた」。このことが後にシモンが子どもたちに認められる決定的な要因である。

(注) 第三書房の訳文は「友だちたちの真中を悪びれもせず通りすぎ、彼らには返事一つしなかった」となっている。この訳も合わせて紹介するとより分かりやすいと思われる。

◇「あらぬ噂」とはどういう噂か。
・フィリップと付き合っているという噂。

◇「思い切って」声をかけるフィリップの心情はどのようなものか。
・フィリップの方からブランショットに声をかけている。フィリップは非常に用心深くブランショットの気持ちを配慮しながら接近している

◇「女の態度はいつも几帳面で決して中へは入れなかった」のはどういう気持ちからか。
・ブランショットはフィリップと親しくしようとしなかった。笑い声をたてるだけでもまた噂をたてられ、シモンに悪い影響を及ぼすことを危惧していた。ブランショットはフィリップに頼らず、今までの生き方を徹底することでシモンを守り抜こうとしている。

◇シモンとフィリップがほとんど毎日一緒に散歩する場面について。
*シモンは三カ月の間けなげに振る舞うことができたにしても色々な苦労もある。フィリップはそのようなシモンを大きく包み込む存在である。シモンはブランショットとは違う愛情をフィリップに感じている。今まではブランショットと二人だけの生活であったが、村の子どもたちとの対応、フィリップ・ブランショットとの関係が、シモンの精神を形成しシモンを成長させている。

◇「完全なパパじゃない」とはどういう意味か。
・フィリップがブランショットの夫でないということ。

◇「ブランショットのこせがれは頭をたれ」に見られるシモンの心情はどういうものか。
・シモンはけなげに振る舞ってきたものの、ミショードの子どもの言葉を契機に父がいないことを思い出している。

◇「じっと物思いにふけっている」のはフィリップのどういう感情を示しているか。
・シモンの言葉をきっかけに、自分とブランショットの関係を考えている。

◇職人仲間のフィリップへの言葉はどのようなものであったか。
・ブランショットはきちんとしたけなげな女だ
・彼女が悪いのではなく、男が悪かったのだ
・一人で子どもを育てて苦労してきた立派な女性だ

◇仲間たちの言葉はどういうことを示しているか。
・鍛冶屋の仲間たちは、フィリップのシモンへの真摯な対応を見ている。彼らはフィリップの感情とブランショットの苦労もよく理解しており、フィリップの決断を促している。

◇「彼は仕事の方に引き返してきた・・・鉄を打つ仕事に熱中した」の描写からフィリップはどのような人物であることがわかるか。
・仕事場で仲間から信頼されるたくましい男。
*フィリップの槌を打つ姿に、ブランショットとの新しい生活に入る決意が力強く描かれている。フィリップの槌の音は高く響き、周囲の職人たちもフィリップとブランショットの新しい関係を祝福している。

◇フィリップの訪問に対するブランショットの対応はどうだったか。
・ブランショットは、ふたたび噂を立てられることを懸念し当惑している。

◇翌日学校でシモンは「ぼくのパパはフィリップてんだ。ぼくをいじめる奴は耳をひっぱってやるって約束してくれたんだぞ。」と宣言した。みんながシモンを受け入れる理由は何か。
・シモンが真剣に子どもたちに立ち向かった。シモンは三カ月の間、精を出して学校に通い、いじめられても堂々としていた。シモンが気概のある子どもだということが他の子どもたちにも理解された。
・自慢したくなるようなパパができた。フィリップは子どもたちもよく知っていた。

〔補足〕
*シモンが他の子どもたちに認められたのはどうしてか、という質問に対して、「シモンにパパができたから」という答えがでる場合がある。この答えの意味を考えさせる必要がある。
*シモンの子どもたちへの態度、学校へ通い続けたこと、フィリップに働きかけたことなどの結果としてシモンは気概のある子どもとして認められている。パパが出来たことはこのような流れでとらえる必要がある。
*シモンを支えたのは、大人たちである。人間関係を求めるシモンの真剣さを受けとめてやる大人がいたことが、シモンが困難を乗り越えることを助けている。フィリップとブランショット、そして鍛冶屋の職人たちの間で信頼関係が築かれていることが、子どもたちの間の問題が解決する背景となっている。
☆ 「シモンのパパ」は誰もが素直に感動を覚える作品である。シモンは「父なし子」を口実にいじめられる。シモンとブランショットはこの事情のために村の中で積極的な関係を築くことができず二人だけで暮らしていた。シモンはいじめられた事で父親がいないことを痛切に感じる。精一杯の対処をする過程でシモンの感情は大きく揺れ動く。このようなシモンの対処や気持ちをブランショットとフィリップが深く理解する。彼らはシモンへの真摯な対応の上に、フィリップとブランショットの新しい関係が形成されていく。彼らは諸関係を発展させる深い感情を持つ個性として感動的に描写されている。この作品はトルストイの『モーパッサン論』にも「美しい短編」として紹介されている。これまで何度か授業で取り上げた経験から見ても生徒の反響は大きい。

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