ThinkPad Power Series 850 (6042-G6D)

時代の波に翻弄された PowerPC搭載機

ThinkPad Power Seriesは、モトローラのCPU「PowerPC」を搭載したシリーズです。
PowerPCは Macへの搭載で注目を浴びて一通りの成功を収めましたが、この ThinkPad Power Seriesについては、ソフト面での互換性の問題など乗り越えなければならない課題が多く、IBMの方針転換もあって「知られざる ThinkPad」への道を不幸にして辿ることになってしまいました。

 

なんとも不思議なデザインの 850。
755CX辺りがベースのようですが、新旧混在といった感じがします。

随分以前から興味のあるモデルでしたが、ようやく手に入れることが出来ました。
入手時には電源を入れると SCSIエラーで起動しなかったのですが、全て解体して調べたところ、システムボード上のSCSI系のヒューズが切れている個所があって、手持ちの部品取り750Csからパーツを移植し、壊れていた内蔵HDDも中古の PowerBookから転用してきて、ようやくちゃんと動くようになりました。
ちなみに、本機に関する資料は Web上でも僅少で、分解・修理・組み立ても手探りでやるハメになりました。
(よくぞ動いてくれました、って感じです)

 

850のキーボード。
キーの配列自体は、Fnキーが無い以外は特に変化は無いように見えます。

トラックポイントのボタンが三日月状の形になっているところがお茶目です。
僅かに見える三角マークから判るように、ロック可能になっています。

前面寄りには左右にスピーカー、中央にはCD-ROMドライブが装備されています。
如何にも「マルチメディアパソコン」といった雰囲気で、PowerPCを搭載した本機の位置付けが顕著に表れている箇所です。

 

前面中央のCD-ROMドライブ。
この部分は 755CDなんかと同じ様に、フロッピーディスクドライブと交換して使用することができるようですが、残念ながら手持ちの本機ではフロッピードライブが紛失していて詳細は不明です。

更にこの850は、CD-ROMドライブの調子が悪く、OSのセッティングで一苦労することになってしまいました。

 

正面から見た 850。

見づらい画像になってしまいましたが、ヘッドホン&マイクのジャックが左側にあります。
また、左には「PowerPC」右には「Power Series 850」の表記があります。
デビュー当時には誇らしげであったであろうこれらの表示も、なんだか寂しく見えてしまうのは気のせいでしょうか?

左側面にはオーディオ入出力、その下には用途不明のコネクタ(蓋がついています。多分拡張バス用だと思いますが・・・??)、そのすぐ前位には電源スイッチがあり、前面コーナー部分には音量ボリュームが配置されています。

液晶パネルの前縁がスピーカー部分の張り出しとの関係で斜めになっていますが、現行のThinkPadとは逆の角度になっているところが面白いですね。

 

右側面には、バッテリースロット、PCカードスロット、PS/2ポートとすぐ上に謎のジャックが配置されています。

前面にスピーカーが張り出すデザインは、最近のノートパソコンでよく見かける形状となってきましたが、本機は 4年近く前に設計されています。
機能面の理由だけでなく、設計上の理由(バラしましたが、かなりスペース的には苦労している感じです)もあるとは思いますが、なんだか時代を先取りしていたかのような印象を受けてしまいます。

 

背面のポート類。

普通の ThinkPadとは似ているようで全然様子が違います。
それでは詳しく見てみることにしましょう。

 

まず左側には電源ジャック(台形4pタイプ)、シリアルポート、パラレルポート、CRT出力が並んでいます。

この辺りは特に普通の ThinkPadと変わりないように見えますが、よーく見るとパラレルポート上のインジケータカバーのところに、ネームプレート用とおぼしき窪みがあるのも判ります。

 

一方の右側は、リセットスイッチ、FDDコネクタ、SCSIコネクタ、そして上段にはビデオ入出力のピンジャックが配置されています。

FDDコネクタの仕様は、ThinkPad760系と同じようで、外付けキット組込みのFDDや、PS/55note(初代)のFDDが認識できています。
また本機のストレージインターフェイスは標準で SCSIとなっていて、このためにこの様に背面にSCSIポートが出ている訳です。

ビデオ入出力については、適用可能なドライバやアプリケーションについて不明なため、活用することは困難そうです。

 

底面の状態。

非常に大きなゴム脚が特徴的で、チルトフットも装備されています。
また、CPUが格納されている部分には、ゴム(?)の保護シートが貼り付けられています。

 

本機のカタログ画像には CCDカメラを装着した状態が紹介されているものが結構ありますが、その装着部分が液晶パネルのブランクカバーを外すと現れます。
(手前に引くと簡単に外れます)

装着部分には、信号用と思われる接点があります。

 

キーボードの跳ね上げ構造は 755系とまったく同じですが、内部の配置はガラっと違います。

右側はバッテリーパックのスペース(本機では紛失しているので空っぽです)、真中が CD-ROMドライブ(FDDに差し替え可能)、左がハードディスクパック(SCSI)という順になっています。

 

ハードディスクパックと CD-ROMドライブの下にメモリーの増設スペースがあります。

メモリーはパリティ有り 88p D-RAMカードによる増設のみ対応で、CPUの仕様上、2枚1組にて増設することになります。
(この画像では 8MB 2枚。本体32MBなので合わせて 48MB)

修理のために分解したところ、オンボードのメモリは 72p DIMMが 2枚装着されていました。(ななんとシステムボード上に2階建ての DIMMソケットがあります)
ひょっとしたら32MB-DIMMを装着したら・・・?と思いましたが、BIOSで跳ねてしまうんじゃないかと思います。

ちなみに本機用として純正品で32MBのD-RAMカードがオプションとして存在するそうです。
(ひょっとして 755系でも使えるんでは?と踏んでいますが・・・)

 

取り出した CD-ROMドライブ。
SCSI-I/F・2倍速で、ドライブ自体は TEACの CD-20Sとの表記が裏面にあります。

先にも述べましたが、この手元の本機のドライブは非常に調子が悪いです。
幸いにして、本機はSCSIコネクタが外部にも出ているので、システムのセットアップの際に外付けSCSI CD-ROMドライブを接続して切り抜けました・・・。(^^;

交換修理も考えてみましたが、ノート用内蔵タイプでSCSIのCD-ROMドライブは僅少で、半ば諦めてしまいました、、、

 

取り外した HDDパック。
内蔵ドライブは SCSIですので、755系とは互換性はありません。
誤装着防止のためか、コネクターの形状が違っています。

手元のみの HDDパックは、コネクタ部分はオリジナルのようですが、ケースは ThinkPakのケースをそのまま流用してありました。(謎)
ひょっとしてSCSI系の故障は、IDEドライブを誤って組み込んで本体に装着したのが原因なのかもしれません。

 

本機の ACアダプター。

755系で同型のACアダプタが採用されていますが、よ〜く見ると AC側の接続口やケーブルや本体用のコネクタなど、なんとなくアンバランスに見えます。
それもそのはず、実は755系の同形状のものに比べて、一回り大きくなっているためです。

コネクタは台形4pですが、755系用ACアダプターの代用では、容量不足でトラブルが発生するかもしれません。

 

WindowsNT4.0が稼動している 850の勇姿。

もはや「特殊なアーキテクチャ」にされてしまった本機故に、稼動可能なOSは少なく、この NT4.0の他は、NT3.51、AIX位で、Linux も稼動させることができるそうです。

手元の本機は NT4.0が稼動していますが、この PowerPC版は現在はサポートが放棄されてしまっているようです。(サービスパックも現状では無い状態)

なお、本機は NT4.0のハードウエア互換リストに掲載されていますので、セットアップはそんなに難しくはありません。
US.IBMのサイトにて起動用のディスク(ARCと呼ばれるようです)を入手して、ハードディスクのセットアップをしてあげれば、あとは普通の x86系マシンと同様の感覚でセットアップできます。
(音源とディスプレイの設定を自力で行う必要があります)

とは言っても、インストールまでが限度で、これ以上何かに活用するというのは難しいところでしょう。
(骨までしゃぶるのであれば、Linuxをインストールするのが適切かもしれませんね)

 

本機の基本スペック (6042-G6D)

CPU    Motorola PowePC 603e 100MHz 
RAM    32MB Max. 96MB (D-RAM Card 2枚1組で増設)
HDD    800MB (SCSI)
CD-ROM    2x SCSI
LCD    10.4" TFT (SVGA 800x600)
VGA   WD90C24A V-RAM:1MB

セットアップやメンテナンスのポイント

事実上サポートは打ち切られ情報も殆ど無いので、レストアやセットアップは困難を極めます。
セットアップできたとしても、実用的に運用することも難しいです。
大変残念なことですが、歴史の証人として本機を大切に保管する以外に、適当な活用方法を思いつくことができません。

(2001/03/18 記)

 

 

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