見所控98      
98.11.4(水)大槻能楽堂 忠三郎狂言会 20周年記念公演

	狂言「栗焼」   太郎冠者   茂山忠三郎
             主      茂山千作

    狂言「仏師」   すっぱ    茂山千之丞
             田舎者    善竹幸四郎

    狂言「釣狐」   白蔵主・古狐 茂山良暢
             猟師     茂山七五三
             笛:赤井啓三

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僕が学生時代に、良暢君の伊呂波をこの忠三郎狂言会で見た憶えがあるから、この10年程の間で狐を演るような時間が経ったんですねぇ。忠三郎さんが弱気になったからだって言う方もいるし、まだ、ちょっと早い気がするんだけどね。
 で、初番の栗焼。これが今回の忠三郎狂言会で一番期待できる番組(^^;。ちょっと仕事を切り上げるの遅れて、僕が見所に入ったときには、もう栗を焼いてて「しゅーしゅー」言うとった。40コの栗を旨そうに喰うところは、しっかり見られたんでいいんですが。やっぱり、忠三郎さんは「ほ〜っ」とする長閑な舞台を、長閑に演じてみせてくれます。千作翁の舞台もほんわかとさせてくれますが、全く別次元のもの。途中からだったけど、よい舞台を見たわ。ただ、叱り留のこの曲、まだ2人とも舞台にいるときに、拍手してしまうのはなんだかなぁ。せめて、2の松までは待って欲しい....
 仏師。和泉流とホンが違うんだけど、どっちの流派も面白い曲。洗練さは和泉流だと思うけど。口達者なすっぱを千之丞さんが演るのは、それそのもの(^^;。
 釣狐。案の定、古狐には程遠い..... 披きとはいえ、ある程度の年齢に行かないと、見るに耐えない。ぴょんぴょん跳ねるのは、いいんだけど(猟師まで跳ねおったからね)、語りが重くないので、型までが上っ面を撫でている感じ。もしかしたら、僕が万作の狐ばかり見ているためなのかも知れない。気がつけば、披き以外では万作さんぐらいだもんな、狐を出すのは。まだ、彼はこれからなんだし、普通の曲でどれだけ味を出してくれるかですね。

98.10.28(水)国立能楽堂 万之介狂言の会 第十回公演

	狂言「六地蔵」  徒ら者  野村万之介
             田舎者  野村萬斎
             仲間の者 小川七作
             仲間の者 高野和憲
             仲間の者 深田博治

    狂言「柑子」   太郎冠者 野村万作
             主    野村萬斎

    狂言「彦市ばなし」彦市   石田幸雄
             殿様   野村万之介
             天狗の子 月崎晴夫
笛:一噌幸政 太鼓:吉谷潔

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多分、第1回の靱猿以来だと思います、先生の会を見に行ったのは。僕が大阪に赴任してから一度しか見に行っていない気がしますから。おそらく、万之介先生の彦市は二度とないのと、転職して時間の都合が宮仕え時代よりつけやすくなったんで、思い切って上京。舞台の出来は......(^^;

 六地蔵。萬斎(田舎者)の道行が、かなり雑なのが目に付く。無用な重々しい狂言の万蔵一門に反抗しているためなのか、運足は流しすぎ。セリフも強いというよりもがなっててる。スッパモノに出る田舎者は、天真爛漫さ・純粋さがウリなのに、そう言ったところがない。まぁ、この日のシテの徒ら者万之介先生も、声を聞いた途端、「今日は体調不良」を知らせてしまったからねぇ... 声の抑揚の音域は結構広い方の狂言師なのに、こりゃ千作翁みたいにダメでした。あああ。これ以上コメントしたくない。
 柑子は安心して見れると思ったけど、う〜ん、これも今一。万作太郎冠者の語りに、釣り合い取れないとね。主は萬斎みたいな若いモノに演らせるんじゃなくて、軽みのある年寄りにやらせるべきだった。万之介先生しかないな(^^;。
 主題の彦一ばなし。彦市は10年以上前に、万作=彦市、萬斎(当時、武司)=天狗の子、大名=万蔵(当時、万之丞)のパターンと茂山軍団のと、あきら=彦市、天狗=?、大名=万之丞(当時、耕介)で見ている。万作・萬斎のやったのは、まだ鯨の張り子は使ってなかった。彦市と天狗の子が泳ぐシーンは、シンクロナイズドスイミングの模写。あきら・万之丞のとき、初めて鯨の張り子を見た。かなり、ベタだったけど、耕介の下手な狂言でも、しっかりと見られる舞台だったのを覚えている。
 で、今日の。笛で、水戸黄門のテーマを吹いたり、他にもいろいろレベルの低い笑いで受け狙ってげんなり。ありゃ、誰がやっても同じレベルの舞台になるよ..... 狂言のパッケージですねぇ。演者によって、また見たいと思わせるのが舞台なのに、溜息ばかりの会でした。

98.9.23(水・祝)国立能楽堂 狂言の会公演

  「萩大名」
        大名:野村万蔵 太郎冠者:野村良介 亭主:野村万之丞
  「枕物狂」
	    祖父:茂山千作 孫:茂山 茂、茂山宗彦 乙御前:茂山童司
	    笛:内潟慶三 小鼓:宮増純三 大皷:柿原崇志 太鼓:助川 治
              地謡:茂山千之丞、茂山千三郎、松本 薫、岩崎狂雲
  「止動方角」  
		太郎冠者:山本則直 主:山本則俊 伯父:山本東次郎 馬:山本則重
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先週に続いて、衝動買いしてまた上京。また台風(-_-;。これで枕が滑ったら立ち直れないなと思っておりました。

 万蔵の萩大名。相変わらずネチっこいお大名だが、間のとり方はツボを得てて見所を掴んでたかな。亭主もネチっこいから辟易するけど仕方ない。もっと軽い(アホさ加減がいい)大名にしてもらえたらいいんだけど。久々に野村家の萩大名観て、太郎冠者が大名を庭に連れていく展開が強引だったんだと改めて気付いたわ(^^;。いままで聞き流してたんだな。

 千作翁の枕物狂。祖父(おおじ)の面を着けない直面の祖父。96年夏に大槻で観た蝋燭能で、やっぱり千作翁が直面で「福の神」やっているんで、面を掛けないで演じるのは茂山千五郎家では特別のことじゃないかもしれませんな。ただ、同じようなテーマで復曲能「護王」や新作狂言「こぶとり」を直面で演じているために、僕にとっては新鮮には感じなかった。この2作とも愛嬌のある老人・老女の役を千作翁が勤めるんだけど、可愛さも人間味も滋味のごと味わえた覚えがあります。だから、今更枕物狂で、恋に狂う老人の愛らしさをと言われてもなぁ。多分、千作翁は何演っても愛嬌が滲み出てしまうので、枕物狂のように物狂能のパロディ構成の狂言では、そこばかりが印象に残ってしまい味気ない。もし、この3作のうち、どれで観たいかと言われれば、「護王」「こぶとり」「枕物狂」の順で挙げますね。
 あと孫の宗彦君、あんなに下手だったか(^^;。雑な感じが鼻に付きました。

 則直の止動方角。これは収穫。先週の三番叟で、則直の痩せた姿をみてショックでしたが、この本狂言観て彼もお年を召しただけなんだと納得できました。則直の軽妙な笑いは10年ぶりに観ても健在だったし、三番叟の時は単に体調が優れなかったのかな。
 伯父に「揉み手」しながらまだ借りたいものがあるというセリフが絶品で、能楽界の悪役商会と仲間内で勝手に渾名つけていたことを思い出しました(^^;。則俊の主も、落馬の仕方が伏線張りながらの落馬!でなかなかでござった。3度とも同じように前のめり形で落馬する止動方角観た覚えがないんですよ。 と言うわけで、止動方角が良かったんで、全て許す(^^)。

98.9.15(火・祝)国立能楽堂開場15周年記念公演

  「翁」天の川風流
       翁:宝生英照 面箱:山本則孝 千歳:宝生和英 三番叟:山本則直
      牽牛:山本東次郎 織女:山本泰太郎
         笛:中谷 明 
         小鼓頭取:住駒昭弘 脇鼓:亀井俊一、住駒匡彦
		 大皷:安福建雄 太鼓:助川 治
            地謡:佐野 萌、高橋 勇ほか
        狂言地謡:山本則俊 ほか

  能「枕慈童」 シテ:金剛永謹 

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風流見るのは正月の毘沙門に続いて二度目。その時見た風流があまり面白くなかったから、ほかのもやっぱり面白くないのか気になってね。東次郎家の三番叟は溌剌としてるはずだと踏んで、思い切って上京を決意。山本家は大阪に来てから全く見てないから、10年ぶりに見るのだ。東次郎家ファンとしてはウキウキ状態の上演前。
しかし、翁も風流もたるかった。翁の方は、家元だしこんなもんだと腹括っていたから諦められるけど(千歳も痛々しかったな)、三番叟ががっかり。則直に精気・覇気がない。三番叟と牽牛・織女が同時に舞う構成でないので、毘沙門より出来はイイと思うけど、やっぱり三番叟が俗っぽくなるように感じるから、風流は難しいね。翁にしても三番叟にしても、舞台に上がったときから神聖な空気を持っている存在なのに、それを上回る牽牛ら出てきてしまうと、こちら側へ引き戻されてしまうからね。 懸念していた、東次郎さんの声も噂よりは大丈夫そうだったので一安心した。 金剛のヘラクレス氏の舞台は、大島寛治さんだけ見て、寝ました(失礼)。寛治さん元気元気(^^)

98.5.24(日)第41回 やるまい会名古屋公演 「野村又三郎 喜寿公演」

        八幡前
                若者  :野村 萬斎、 有徳人 :佐藤 友彦、
                太郎冠者:佐藤 融、  何某  :石田 幸雄

        磁石
                人売り :茂山忠三郎、 見附ノ者:茂山千之丞
                宿ノ亭主:安東 伸元

        庵之梅
                庵主  :野村又三郎、 
                里ノ女 :野村小三郎、井上 靖浩、奥津健太郎、佐藤 融、野口 隆行
                地謡  :佐藤 友彦、井上 祐一、松田 高義、大野 弘之
                後見:萬斎、幸雄

        鐘の音
                太郎冠者:井上 祐一、 主   :井上礼之助

        六地蔵
                スッパ :野村小三郎、 田舎者 :松田 高義
                徒ら者 :奥津健太郎、野口 隆行

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1月の翁・風流以来の見所。結局何も観ずに四半年経ちました。まぁいいや。今回の目当ては当然「庵之梅」。又三郎師ももう77。又三郎家のこと考えれば、まだまだ老い朽ちるわけにはいきませんね。正面指定が6500円と狂言5番を考えると大変リーズナブル。シンドイけど(^^;。案の定、萬斎人気でチケット完売してましたねぇ。では順に感想を、と言いたいけど、庵之梅の前の2曲は舟漕ぎつつだったので......
「八幡前」。舞台馴れした萬斎・幸雄のペアとのギャップがちょっと目に付いたかな。聟演りすぎだしね。受け狙いすぎて、おや?これは千五郎家かと(^^;。
「磁石」。実は大阪に10年いますが、安東さんの舞台を観るの初めて。忠三郎と千之丞のこの組み合わせは魅力ある筈だったんだけど、眠気に負けてしまった(^^;。
「庵之梅」。これはばっちり起きてました(^^)。又三郎家でこの曲が上演されるのは戦前以来とのこと。大曲な筈なのに重々しくなく、納まりがよかった。庵主の老いた女の可愛らしさが、里女達の直線的で、弾力性のある若々しさによって更に滲み出てきてて堪りませんでした。演者の年齢構成も77対20代とこれしかない組み合わせであったことも大きいいですけど、又三郎さんの老庵主が絶品。この曲は小津なんですよねぇ。小津の方が後なんだから、こんなこといっては失礼なんだけど。
「鐘の音」。この曲は和泉流では三宅派ばかり観ていたのでとっても新鮮でした。今までは太郎冠者の独り相撲の凄く悲しい曲にしか思えなかったんです。太郎冠者の鎌倉各寺に鐘の音を聞いて廻る様は、愛嬌のあるものであったし、主の機嫌を直す最後の場面も祝言的だったのかと改めて気付かせてくれました。舞も三宅派とは違うんですねぇ..... 鐘の音で見所が湧くの初めて見ました。
「六地蔵」。小三郎はじめのんびりした徒ら者振りで、名古屋で観た甲斐ありましたね(^^)。こういう舞台の醸し出す雰囲気は、東京や京都・大阪じゃ出せない。彼らはもっと洗練されていくんだろうとは思うけど、この雰囲気を殺さないで欲しいですねぇ。

最後に、名古屋能楽堂でのチケットのもぎり方に不満だなぁ。各扉ごとでスタッフ配するんじゃなくて、一カ所で仕切った方がいいですね。ありゃ、券なしでも自由に入れましたね。あと、僕は指定でしたからトラブルなかったけど、自由席の整理番号の配り方でも何人かスタッフに抗議する場面もありましたからね。次回公演では改善して欲しいです。

1.25(日)名古屋能楽堂定例公演 翁・毘沙門風流

  「翁」毘沙門風流
       翁:金春安明 三番叟:野村小三郎 千歳:井上靖浩
     毘沙門:野村又三郎 アリノ実の精:藤波 充 西王母:佐藤 融
         大:筧 鉱一 太鼓:助川龍夫 笛:大野 誠
         頭取:福井啓次郎 脇鼓:福井良治、柳原冨司忠
            地謡:本田光洋、高橋 汎ほか
        狂言地謡:井上祐一、佐藤友彦ほか

  半能「高砂」 シテ:金春安明 ワキ:高安勝久 ワキツレ:飯富雅介、杉江 元
         大:筧 鉱一 小:福井啓次郎
         太鼓:助川龍夫 笛:大野 誠

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なぜだか今まで金春流の翁も、又三郎家の三番叟も見たことありませんでしたので、 興味津々。しかも、翁の小書きは昨年十二月往来を大槻で見たけど、狂言風流はど この家のも見たことなかったしね。
しかしなぁ、全然楽しくなかったなぁ。「大過なく」という感じで、段取りだけの 2時間。狂言を習っていたこともあって、三番叟が一番の楽しみなんだけど、これ も...... 小三郎さんは何かシナ作った感じ。過去に見た他の演者のものと 比較するのは筋違いだけど、三番叟の面白さ楽しさは生命の息吹を感じさせる躍動 感なんだと思うんで、全く感じなかった今回のはがっかりです。風流もめったに演 らないものだけあって、舞台にしっくり来ないし、緊迫感なく.....おまけに、狂言地謡の一人は転けてたもんなぁ。
一つ風流を見ましたというカルト的な成果しかありませんでした。でも、これに懲 りて風流ものを見ないわけじゃないけど(^^;。九月の国立は絶必で見たいです。東 次郎さんだしね(今まで見たなかでの3本の指は東次郎、千五郎時代の千作翁、故 元秀)。ホント、風流ってつまんないもんなんですかね?

11.1(土)忠三郎狂言会@大阪・大槻能楽堂
狂言「佐渡狐」 佐渡百姓:千作
                越後百姓:幸四郎
                奏者:    忠三郎
狂言「太刀奪」 太郎冠者:良暢
                主      :千三郎
                道通り者:千五郎
狂言「月見座頭」座頭    :忠三郎
                上京の者:千之丞

座席は正面後方。
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例年通り東京・福岡・大阪・京都と同じ演目。土曜の夜の能狂言の公演って、関西 では珍しい。宮仕えする身にとっては、大変ありがたかった。
で、佐渡狐。幸四郎さんのセリフはちょっとテンポが違うのかもしれません。でもねぇ、幸四郎さんが酔ったおやじみたいで、狐問答の時の掛合いがおもしろい。呑み会とかコンパで演るゲーム(腕たたいて「これ何?」とか、いいでんでん虫・悪いでんでん虫とか)。タネを知っている人間が、知らない人間をからかう風な感じが、よく出てました。忠三郎さんと幸四郎さんのせめぎ合いも息がぴったりで、善かったですね。

太刀奪。良暢君、チラシの似顔絵とそっくり。将来はいい声出しそうな予感ですね。

本題の月見座頭。「ひきょうもの」の一点につきる気がしました。出の橋掛かりは あっさり始まり、段々と曲が展開していって、その座頭が発する「ひきょうもの」 が文字どおり「序破急」の急。漢字の「卑怯者」でなく、あえて平仮名にしたのは、 忠三郎さんのセリフが平仮名の音感なんですよ。お涙ボタンを押しましたねぇ。あ の場を見るだけでも、値打ちあります。あとは見所をきっちり掴んで、幕へ下がる ときも、二の松までは拍手させる隙がなかったですね。三の松、鏡の間までもう少 しだったんだけど..... 前の2曲が、追い込みに入ってすぐに拍手が鳴った のとは対照的。ああいう曲の時は、幕が閉じるまで黙って見守っててあげて欲しい。

ちなみに、月見座頭見るのは7、8回目だと思うんですが、東次郎さんシテの時が 未だに一番よかったです。