1998/9/15
日本代表 VS アルゼンチン代表

フォト
日本代表
VS
アルゼンチン代表
44
26
前半
12
29
2
TRY
2
2
GOAL
1
3
PG
0
1
DG
0
18
後半
17
2
TRY
2
1
GOAL
2
1
PG
0
1
DG
1


中道(神戸製鋼)
FW
ボッカ(21)
薫田(東芝府中)
レデスマ(25)(ウ)
中村直人(サントリー)
ロンチェロ(21)
桜庭(新日鉄釜石)
アルブ(22)(カ・ア)
田沼(リコー)
ロベ(23)(カ・ア)
渡辺(東芝府中)
マルティン(29)(ウ)
スミス(豊田自動織機)
ルイス(23)(ア)
伊藤剛臣(神戸製鋼)
シルバ(21)
村田(東芝府中)
HB
ディアス(25)
岩淵(神戸製鋼)
フセーイ(23)
増保(神戸製鋼)
TB
ビエン(24)
元木(神戸製鋼)
ガルシア(25)(ウ)
マコーミック(東芝府中)
シモーネ(23)(カ・ウ)
大畑(神戸製鋼)
コルレト(20)
松田(東芝府中)
FB
ストオルトーニ(21)

*アルゼンチン代表の選手名の後の数字は年令。
その後のカタカナは8月のWC最終予選に先発出場したことを意味する。
(カ)はカナダ戦。(ア)はアメリカ戦。(ウ)はウルグアイ戦。


 

ジャパンよ、あれがウェールズの灯だ!
日本代表のWCアジア最終予選出場の門出を祝うべきこの試合でしたが、天気予報は雨。しかも午後には強くなるという事で、グラウンドコンディションが心配されましたが、全く当たらなかった天気予報のお陰で素晴らしいゲームになりました。 この試合を見た日本中のラグビーファンは安心してジャパンをシンガポールに送り出す気持ちになります。
第4回ワールドカップ。ウェールズ行きの切符はもう手の届くところまで来ました。

試合経過
前半2分、日本はアルゼンチン陣で中央20mのDGを岩淵が決める。 (3−0)
9分、日本はアルゼンチンノット10mの反則で得たゴール前のPGを村田が難なく決める。(6−0)
15分、日本陣に攻め込んだアルゼンチンはゴール前のスクラムからサイドを突いて、右隅にトライ。ゴール成功。(6−7)
20分、日本はアルゼンチン陣でのラインアウトからサインプレー。マコーミック、元木、大畑と渡り、大畑が素晴らしいスピードでアルゼンチンディフェンスを突破。ゴール左にトライ。ゴール成功。(13−7)
30分、アルゼンチンは日本陣22mで得たペナルティでタッチキック。ラインアウトからモール、サイド攻撃で左中間トライ。ゴール失敗。(13−12)
34分、スミスの突進から、渡辺、村田でアルゼンチンゴール前に迫り、再び渡辺がフォローしてゴール左にトライ。ゴール成功。(20−12)
37分、日本は自陣22m内からキックをキャッチした松田が抜けて中央付近へ。岩淵のキックを元木がチェイス。好タックルで相手を倒し、アルゼンチンはノットリリースの反則。右中間20mのPGを村田が決める。(23−12)
42分、左中間35mのPGを村田が決め、前半終了。(26−12)

後半1分、アルゼンチンが日本陣中央20mでDGを成功。(26−15)
4分、日本はアルゼンチン陣でのスクラムから左8−9。元木、増保と繋いで、最後はフォローした渡辺がトライ。ゴール成功。(33−15)
12分、日本は、アルゼンチン陣中央10mのPGを決める。(36−15)
19分、岩淵が中央30mのDGを成功。(39−15)
36分、アルゼンチンゴール前10m付近のスクラムから村田がサイドを突破。最後はマコーミックが右中間にとどめのトライ。ゴール失敗。(44−15)
42分アルゼンチンは自陣から回し、右ウイングの独走トライ。ゴール成功。(44−22)
44分、アルゼンチントライ。ゴール成功。(44−29)

感想
ジャパンが、若手主体(まあ今日のアルゼンチンは実際には日本でいうところのAチームみたいなものですが。アメリカゾーン最終予選に出場したのは半数に満たない7人ですから)とはいえ最新の世界ランキングでは7位という強豪アルゼンチンを相手に快勝した事実を素直に喜びたい。そんな試合でした。

開始早々の岩淵選手のDGに始まり、ジャパンは常に先手先手と攻め続け、常に日本のリズムで試合を進めました。平尾監督言うところの『スピードとテンポ(だったかな?)』は80分間(厳密には75分間ぐらい?(笑))途切れることがありませんでした。

試合前は、(アジアゾーン最終予選には)ゴードンは居住年数の制約のため参加資格がなく、パシリムの得点王に輝いたトンプソンもまたNECとの契約の問題などで出場不能。ACT戦。パシリムともFWの柱となった外人選手の相次ぐ戦線離脱でジャパンは一気に戦力ダウンしてしまうのでは?と心配しましたが、見事に杞憂に終わりました。
今日のような試合が出来れば、間違いなく香港には勝てるはず。ただ、シンガポールでも同じような試合が出来るかどうかはまだわかりません。

今日は兎に角キックが出来過ぎ。ミルン選手を欠いた為にキッカーの不安が指摘されていましたが、村田選手のほぼ100%に近い成功率のプレースキックに加え、岩淵選手の2本のDG成功、とジャパンとしては近年にないキックでの得点率(24点もある!)。そのお陰で、前半30分以降は、常に余裕のある点差で試合を有利に進めることが出来ました。

最終予選、或いは本大会でも常に今日のような余裕のある試合展開になればいいですが、まだ安心は出来ません(だってこんなにキックが決まったジャパンの試合を見るのなんてここ数年無かったことですからね)。とすれば、僅差の展開というプレッシャーの中でも今日のようなしっかりした戦い方が出来るかどうか?がWC出場のカギになるでしょう。

岩淵の成長
見事なDGを決めて観客席を沸かせてくれた岩淵選手。もともとセブンスで鍛えられたパスセンス、スピード、トリッキーな動きなどで巧みにラインをリードしていたのですが、キックを使うことが少なかったため、相手に読まれやすく、ここのところそのプレーがやや単調になっていました。

パシリムでリザーブに下げられたことも、彼にとってより良い方向に作用したようです。 今日のように時折キックを使えれば、ジャパンとしての攻撃に厚味が増します。そのキックも多彩で、ハイパント、相手の裏へのゴロパント、或いはタッチ際へのロングキックなど、非常に有効に作用していました。

特にジャパンにとって重要なのは、攻めてる場合のキックは決してイージーにタッチを切らないようにすること。ラインぎりぎりに、相手の方がタッチに逃げるような位置に蹴り込む。いくら大きく地域をゲインしても、相手ボールラインアウトになればそこから大きく切り返されるのは必至。時々ミスキックに見えたタッチを切らないキックはそれを意図してのものだったのではないでしょうか。

後はディフェンス面。もう少し力強さを増してくれれば(太れということではありませんよ)、他のバックスの負担が軽減されるでしょう。 WC本大会まではまだ1年以上もありますから何とかしてくれるものと思います。

兎に角キレなかった
前半から飛ばしたジャパンは後半中頃からはかなりバテバテになりながらも、集中力を最後まで良く持続させました。

象徴的だったのが後半20分、岩淵が一人で抜け出しながら、味方のフォローがなく、相手に捕まってターンオーバーされた場面。今までなら突然やってきた思いもかけぬピンチに対応できず、あっという間にトライに結び付けられたりしたものです。 今日はこの場面でも皆がしっかりとカバーして何とか凌ぎ切りました。ピンチになっても動じない強さが少しずつ備わってきたようです。今までのジャパンとは一味も二味も違っていました。

ロスタイムでの2トライはまあご愛敬でしょう。
あの時点では44−15と29点もリードがあり、どう転んでも負けない点差でしたから。今回のはそれほど問題視することは無いような気がします。(今まで日本が強豪チーム相手に大差で負けながらも何とかトライを一つ二つ取ったりしたのは、こんな場面が多かったはずです。私たちは「良くやった!」と喜びますが、実際のところ、勝敗の行方が完全に決まった後のトライなど、いくら取っても取られてもあまり意味がないのかもしれません。もちろん負けている場面であのような集中力のないプレーをすれば、観客の罵声を浴びることになるでしょうが)。

ただし、シンガポール予選や本大会でも前半から飛ばしていく為、疲労がかなり早めに来ることは十分に予想されます。徹底したスタミナ作りの為の練習は欠かせませんが、ここは一つばてることを前提にしたゲームプランを立てる、というのも一考ではないでしょうか。 後半35分頃に何人かの選手を交代させましたが、あれでは遅すぎます。サッカーと同じように、残り20分で必ず選手を3人くらい交替するような戦術を徹底するのも面白いと思うのですが。スーパーサブ的な選手を育てると言うか…(パシリムでは伊藤選手がそのような使われ方をしていましたが)。

やはり若かったアルゼンチン
アルゼンチンは若い選手が多かったためか、序盤に日本に大きくリードされたことでかなり動揺してしまったようです。

いくら若手中心のメンバーとはいえ、まさか日本に敗れることなど誰も考えてもいなかったはず。アメリカゾーン最終予選ですべて50点以上取って圧勝してきた彼らにとって、日本などほんの調整相手くらいにしか考えていなかったと思います。それが前半終了してみると、12−26とまさかの大量ビハインド。初キャップの選手が過半数を占めていた(ちなみにスポーツ紙に書かれていた「アメリカ最終予選に出場した選手は3人だけ」というのは違っています。最後の試合のカナダ戦に出場したのは確かに3人ですが、アメリカ戦とウルグアイ戦に出場したのがあと4人いるはずです)だけに想像以上のプレッシャーが彼らを襲ったのでしょう。

だが一度狂った歯車を修正するのはなかなか容易ではありません。後半、攻め込んでからももったいないミスが度々目立ち、どんどん深みに嵌まっていきました。加えてレフェリングも彼らに不利な笛が多く、最終的にこのような結果に終わりました。第一回ワールドカップでニュージーランドを優勝に導いた名将アレックス・ワイリー氏もさぞやおかんむりだったことでしょう。

アタックとディフェンス
この試合、日本が常に安全圏で戦ったせいか、前後半通じてアルゼンチンのPGが一本もありません。これはジャパンが反則をしなかったということではありません。点差がついた為に、彼らはPGを狙わずにトライを取りに来たのです。

そしてこの日のジャパンは非常にディフェンスが堅牢でした。確実にディフェンス力は上がってきているようです。気になるのは、毎度おなじみのモールに対するディフェンス。現行のルールでは、ジャパンが自陣で反則を犯した場合、タッチキック、ラインアウト、モール、押し込みというお決まりのパターンで簡単にトライを取られてしまいます。結局、自陣での反則を如何に減らせるかどうかがWCでも非常に重要なポイントになってきそうです。

6月の香港戦で問題視された攻撃力の方はどうだったのでしょう?
奪ったトライは4つ。最初のトライはマコーミック、元木の裏から大畑が入ってくるバックスのサインプレー。2つ目と3つ目はアルゼンチン22mライン付近でのプレーの中で、フランカーの渡辺選手が良くフォローして奪ったトライ。4つ目は、ここ一番で見せた村田選手のスピードによるトライ。それぞれ違ったパターンで、なかなか味のあるトライでした。 今日のこれらのトライを見ると、香港戦は手の内を隠していたのでは?という推測が現実味を帯びてきました。やはり策士平尾監督というのは本当なのかもしれません。 まだまだオプションとしてはもの足りなさが残りますが、これからの一年に期待しましょう。

心配された第三列。渡辺選手の活躍が目を見張りましたが、スミス、伊藤との3人でのコンビネーションが予想以上に機能していました。渡辺、伊藤の二人はトンプソン、ゴードンとはまた違ったスピード感のある動きで攻守両面に活躍、勝利に貢献してくれました。

やや心配なのは元木選手のキック。 二度ほどアウトサイドに掛かり過ぎたためのミスキックがありましたが、同じようなミスが春のパシリムでもあったはずです。ゴルフで言われるところのスライスと原因は同じで、ややヘッドアップ気味でボールから目が早く離れ過ぎるのかもしれません(分解写真を見たわけではないので正確にはわかりませんけどね)。 まあ、練習を重ねれば、矯正はそれほど難しくない筈です。 折角だから、観戦に来ていた岡田監督にでも教わったら良かったのに、と思います(元木に限らずキックを必要とする全員で)。

あと恐いのは怪我だけです。全体的には層がそれほど厚くないだけに、一人でも戦線離脱するようなことがあれば大きく戦力に響いてきます。残り一ヶ月。社会人リーグも始まり、国内での厳しい戦いが繰り広げられるだけに、何とかスコッド全員が無事シンガポールの最終予選に望んで欲しいところです。

試合終盤、バックス、フォワード一体となってボールを繋ぎ、アルゼンチンゴール前に迫ったジャパン。途中出場した中村選手から伊藤選手へのラストパスが悪く、伊藤選手がノックオンした場面。伊藤選手が声を荒げて怒りを顕わにしていました。明らかに今までのジャパンとは違う一面を垣間見た気がしました。